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最終章「プロポーズは指輪と共に!」
25 お邪魔様
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――――その後。
みんなで話し合い、色々とあったけれど、俺とレノはバレンシア様に送られて帰る事が無事に決まった。
「キトリー、今回は巻き込んでごめんなさいね」
リャーナ様は申し訳なさそうに謝った。でも、もうすでにリャーナ様は俺の中では乙女なので、謝られるとこっちが悪い気分になる。まるで、女の子に謝られているみたいで。
「いや、いいですよ。でも、もう鏡から手を出してくるのはナシですよ?」
「ええ、勿論よ。もう鏡から手を出したり、覗いたりしないわ」
「ん? 覗いたり??」
俺は何の事かわからず、首を傾げるがすぐに思い当たる。
……あ、もしかして最近感じた視線の正体はリャーナ様?! 幽霊じゃなかったのかー!
俺は今更ながらに幽霊の正体がリャーナ様だったのだと気がつき、ホッとする。やっぱ、幽霊って怖いもん。いやまあ、神様が覗いてても怖いけど。
「でも僕達は人々を見守っていないといけないからねぇ」
俺の心の声に返事をするようにクト様が笑いながら言う。
「見守るのはいいですけど、覗きはダメですよ」
「おや、キトリーは人のこと言えるのかな? 子供の頃から、事あるごとにカップルを覗いていたようだけど?」
「うぐっ、それは!」
「覗きもほどほどにね?」
クト様に言われ、俺は「はぁい」と小さく答えた。そんな俺にお爺が声をかける。
「坊ちゃん、私は少しリャーナ様の元で過ごしてから屋敷に戻りますね」
「うん、わかった。でも少しと言わず、しばらくリャーナ様の元にいたら? 折角なんだし」
……ずっと想い合っていた二人がくっついたんだし、しばらくは一緒にいた方がいいんじゃ。
俺はそう思って提案したが、お爺は首を横に振った。
「いいえ。残してきた諸々がありますから、少ししたら戻ります。ですが戻るまでの間はレノ、任せますね」
「はい、わかりました」
お爺は俺の隣にいるレノに頼み、レノはしっかりと頷いた。
だがその会話の後、バレンシア様が俺達に告げる。
「二人とも、そろそろ送ろうか」
俺とレノは顔を見合わせ、しっかりと頷く。
「二人とも、手を繋いで」
バレンシア様に言われて俺はレノと手を繋ぐ。すると、バレンシア様は俺達にそれぞれ手を差し伸べた。
「私の手の上に手を置いて」
バレンシア様に言われた通り、俺達はそれぞれ空いている手をバレンシア様が差し出した手の平の上に乗せる。
「これから二人を屋敷の、キトリー君の部屋に送る。……だが、その前にキトリー君。改めてお礼を言うよ、ありがとう。そして同時にすまない、突然君の刻(とき)を止めて」
バレンシア様はお礼と共に謝罪を口にし、謝罪が前世の事を指しているのだとすぐにわかった。
「あの時は時間がなかったとはいえ、君を無理やり連れてきて申し訳なかった」
バレンシア様は当時の事を思い出すかのように呟いた。だから、俺はずぅっと気になっていたことを聞いてみる。
「あの、バレンシア様。あっちでの俺の最期って一体?」
……やっぱり異世界転生ものによくあるトラックで轢かれちゃうとか? いや、でも道路は良く見て歩いてるしなぁ。それにあれはマジでトラックの運ちゃんに迷惑だし、道路の後処理が大変だから。じゃあ、病気で死んだとか? いやー、俺ってば健康優良児だったから病気で死んだわけじゃないと思うし。なんなら定期健診はいつも良好だった。うーん、考えても俺の最期がどうだったのか。
「最期? そんなものはまだないが?」
バレンシア様に思わぬことを言われて俺は「へ?」と間抜けな返事をしてしまう。けれどバレンシア様は構わず話を進めた。
「こちらの世界に連れて来た時、あちらでの君の刻を止めただけだ。だから、今の命が終わる時、君を元に戻すつもりだよ」
「えーっと、つまりぃ?」
……Aのラジカセ(前世の本体)からカセットテープ(魂)を抜いて、Bのラジカセ(今の体)に入れて曲を流してたけど、Bのラジカセの電池(今の体の寿命)が切れたらAのラジカセ(元の体)にまたカセットテープ(魂)を入れ直すって感じか?
俺はちょっと古い例えを使って、頭の中でイメージする。そうすればバレンシア様は頷いた。
「その通りだ。だから今が終わったら、君はあちらでまた始まる」
「え、神様、やることしゅごい」
……そんな荒唐無稽な。でも、そーいうことなら俺ってば、前の生活にもどるってこと!? スマホ、使えるかなぁ。
俺はもうどう使っていたかも覚えていない便利道具を思い出す。しかし、俺はそんな事を考えながら、もう一つの疑問を思い出した。
「でも、姉ちゃんもこっちに来てたんですけど?」
「ああ、きっと君に引っ張られてしまったのだろう。君と彼女はソウルメイトだから」
……ソウルメイト!? なんか、カッコいい響き。でも、確かに姉ちゃんとは気が合うもんなぁ。BLの趣味はちょい違うけど。
そう思った時、俺はある事に気がつく。
「ん? でも、待てよ……元に戻れるってことは、予約していた新刊が読める?」
俺がハッとして呟くとバレンシア様は「ああ、そうだよ」と何気なく答えた。なので、俺は心の中で大絶叫だ。
……ひゃあああっほぉぉぉぉぉぉっ!! 読めないと思っていた新刊が読めるなんて!!
「バレンシア様、アリガトウ!!」
俺は涙目になりながらバレンシア様を見つめる。だって、めちゃくちゃ嬉しんだもん。まぁ、バレンシア様は俺の異常な喜びぶりに「お、おぅ」とちょっと引いてたけど。
だがそんな中、今まで黙っていたレノが心底呆れた口ぶりで告げた。
「バレンシア様、もういいですからさっさと送ってください」
「そうだな。いつまでも引き留めては悪いな。コホン」
バレンシア様は返事をした後、咳ばらいをして改めてレノを見た。
「レノ、また会おう」
バレンシア様は微笑んで、再会を誓うようにレノに言った。しかしレノが返した言葉は。
「いいえ。私はもう大人ですから大丈夫です、それに坊ちゃんがいますから。だから母さんに会いに行ってあげてください」
レノが頼むと、バレンシア様は目元を柔らかくした。
「ああ、そうだな。お前にもう私は必要ないな。……親はいつまでも子を見守っていなければならないと思いがちだが、いつの間にか子は巣立っているものだな」
バレンシア様が優しい視線を向けると、レノはその視線を受け止めるように真っ直ぐと見つめ返した。言葉がなくても、二人にはそれだけで十分だったようだ。
「では、今からお前達を送るよ。目を瞑っておいで。次に目が覚めた時、そこはベッドの上だ」
バレンシア様はぎゅっと俺達の手を握り、俺は目を瞑る前に神様達とお爺に視線を配る。そして別れの挨拶の代わりに、俺はこう告げた。
「んじゃ、お邪魔しました!」
俺が大きな声で言うと三神とお爺は笑みを零し、隣の奴は呆れた声で俺に言った。
「坊ちゃん、友達の家に遊びに来たんじゃないんですから」
「でも、お邪魔したんだから言うべきだろ?」
「あー、もう、はいはい。目を瞑って下さい」
「なんだよぅ」
呆れるレノに俺は口を尖らしながらも、言う通りに目を瞑った。そうすれば、不思議と体の力が抜けていく。
そして意識がなくなる前に、バレンシア様の声が耳に残った。
「キトリー君、レノを頼むよ」
そう、優しく呟いたのが―――――。
みんなで話し合い、色々とあったけれど、俺とレノはバレンシア様に送られて帰る事が無事に決まった。
「キトリー、今回は巻き込んでごめんなさいね」
リャーナ様は申し訳なさそうに謝った。でも、もうすでにリャーナ様は俺の中では乙女なので、謝られるとこっちが悪い気分になる。まるで、女の子に謝られているみたいで。
「いや、いいですよ。でも、もう鏡から手を出してくるのはナシですよ?」
「ええ、勿論よ。もう鏡から手を出したり、覗いたりしないわ」
「ん? 覗いたり??」
俺は何の事かわからず、首を傾げるがすぐに思い当たる。
……あ、もしかして最近感じた視線の正体はリャーナ様?! 幽霊じゃなかったのかー!
俺は今更ながらに幽霊の正体がリャーナ様だったのだと気がつき、ホッとする。やっぱ、幽霊って怖いもん。いやまあ、神様が覗いてても怖いけど。
「でも僕達は人々を見守っていないといけないからねぇ」
俺の心の声に返事をするようにクト様が笑いながら言う。
「見守るのはいいですけど、覗きはダメですよ」
「おや、キトリーは人のこと言えるのかな? 子供の頃から、事あるごとにカップルを覗いていたようだけど?」
「うぐっ、それは!」
「覗きもほどほどにね?」
クト様に言われ、俺は「はぁい」と小さく答えた。そんな俺にお爺が声をかける。
「坊ちゃん、私は少しリャーナ様の元で過ごしてから屋敷に戻りますね」
「うん、わかった。でも少しと言わず、しばらくリャーナ様の元にいたら? 折角なんだし」
……ずっと想い合っていた二人がくっついたんだし、しばらくは一緒にいた方がいいんじゃ。
俺はそう思って提案したが、お爺は首を横に振った。
「いいえ。残してきた諸々がありますから、少ししたら戻ります。ですが戻るまでの間はレノ、任せますね」
「はい、わかりました」
お爺は俺の隣にいるレノに頼み、レノはしっかりと頷いた。
だがその会話の後、バレンシア様が俺達に告げる。
「二人とも、そろそろ送ろうか」
俺とレノは顔を見合わせ、しっかりと頷く。
「二人とも、手を繋いで」
バレンシア様に言われて俺はレノと手を繋ぐ。すると、バレンシア様は俺達にそれぞれ手を差し伸べた。
「私の手の上に手を置いて」
バレンシア様に言われた通り、俺達はそれぞれ空いている手をバレンシア様が差し出した手の平の上に乗せる。
「これから二人を屋敷の、キトリー君の部屋に送る。……だが、その前にキトリー君。改めてお礼を言うよ、ありがとう。そして同時にすまない、突然君の刻(とき)を止めて」
バレンシア様はお礼と共に謝罪を口にし、謝罪が前世の事を指しているのだとすぐにわかった。
「あの時は時間がなかったとはいえ、君を無理やり連れてきて申し訳なかった」
バレンシア様は当時の事を思い出すかのように呟いた。だから、俺はずぅっと気になっていたことを聞いてみる。
「あの、バレンシア様。あっちでの俺の最期って一体?」
……やっぱり異世界転生ものによくあるトラックで轢かれちゃうとか? いや、でも道路は良く見て歩いてるしなぁ。それにあれはマジでトラックの運ちゃんに迷惑だし、道路の後処理が大変だから。じゃあ、病気で死んだとか? いやー、俺ってば健康優良児だったから病気で死んだわけじゃないと思うし。なんなら定期健診はいつも良好だった。うーん、考えても俺の最期がどうだったのか。
「最期? そんなものはまだないが?」
バレンシア様に思わぬことを言われて俺は「へ?」と間抜けな返事をしてしまう。けれどバレンシア様は構わず話を進めた。
「こちらの世界に連れて来た時、あちらでの君の刻を止めただけだ。だから、今の命が終わる時、君を元に戻すつもりだよ」
「えーっと、つまりぃ?」
……Aのラジカセ(前世の本体)からカセットテープ(魂)を抜いて、Bのラジカセ(今の体)に入れて曲を流してたけど、Bのラジカセの電池(今の体の寿命)が切れたらAのラジカセ(元の体)にまたカセットテープ(魂)を入れ直すって感じか?
俺はちょっと古い例えを使って、頭の中でイメージする。そうすればバレンシア様は頷いた。
「その通りだ。だから今が終わったら、君はあちらでまた始まる」
「え、神様、やることしゅごい」
……そんな荒唐無稽な。でも、そーいうことなら俺ってば、前の生活にもどるってこと!? スマホ、使えるかなぁ。
俺はもうどう使っていたかも覚えていない便利道具を思い出す。しかし、俺はそんな事を考えながら、もう一つの疑問を思い出した。
「でも、姉ちゃんもこっちに来てたんですけど?」
「ああ、きっと君に引っ張られてしまったのだろう。君と彼女はソウルメイトだから」
……ソウルメイト!? なんか、カッコいい響き。でも、確かに姉ちゃんとは気が合うもんなぁ。BLの趣味はちょい違うけど。
そう思った時、俺はある事に気がつく。
「ん? でも、待てよ……元に戻れるってことは、予約していた新刊が読める?」
俺がハッとして呟くとバレンシア様は「ああ、そうだよ」と何気なく答えた。なので、俺は心の中で大絶叫だ。
……ひゃあああっほぉぉぉぉぉぉっ!! 読めないと思っていた新刊が読めるなんて!!
「バレンシア様、アリガトウ!!」
俺は涙目になりながらバレンシア様を見つめる。だって、めちゃくちゃ嬉しんだもん。まぁ、バレンシア様は俺の異常な喜びぶりに「お、おぅ」とちょっと引いてたけど。
だがそんな中、今まで黙っていたレノが心底呆れた口ぶりで告げた。
「バレンシア様、もういいですからさっさと送ってください」
「そうだな。いつまでも引き留めては悪いな。コホン」
バレンシア様は返事をした後、咳ばらいをして改めてレノを見た。
「レノ、また会おう」
バレンシア様は微笑んで、再会を誓うようにレノに言った。しかしレノが返した言葉は。
「いいえ。私はもう大人ですから大丈夫です、それに坊ちゃんがいますから。だから母さんに会いに行ってあげてください」
レノが頼むと、バレンシア様は目元を柔らかくした。
「ああ、そうだな。お前にもう私は必要ないな。……親はいつまでも子を見守っていなければならないと思いがちだが、いつの間にか子は巣立っているものだな」
バレンシア様が優しい視線を向けると、レノはその視線を受け止めるように真っ直ぐと見つめ返した。言葉がなくても、二人にはそれだけで十分だったようだ。
「では、今からお前達を送るよ。目を瞑っておいで。次に目が覚めた時、そこはベッドの上だ」
バレンシア様はぎゅっと俺達の手を握り、俺は目を瞑る前に神様達とお爺に視線を配る。そして別れの挨拶の代わりに、俺はこう告げた。
「んじゃ、お邪魔しました!」
俺が大きな声で言うと三神とお爺は笑みを零し、隣の奴は呆れた声で俺に言った。
「坊ちゃん、友達の家に遊びに来たんじゃないんですから」
「でも、お邪魔したんだから言うべきだろ?」
「あー、もう、はいはい。目を瞑って下さい」
「なんだよぅ」
呆れるレノに俺は口を尖らしながらも、言う通りに目を瞑った。そうすれば、不思議と体の力が抜けていく。
そして意識がなくなる前に、バレンシア様の声が耳に残った。
「キトリー君、レノを頼むよ」
そう、優しく呟いたのが―――――。
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