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最終章「プロポーズは指輪と共に!」

13 レノパパ

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 ――翌日の昼過ぎ。

「坊ちゃん、失礼しますね」

 お爺はノックと共に執務室にやって来た。手にはお盆があり、俺の為にお茶を持ってきてくれたのだとわかる。

「お仕事は進んでますかな?」
「うーん、ぼちぼち」

 俺は正直に答える。そうすればお爺はにこっと笑った。

「では、少し休憩にしましょうか」
「うん、ありがとう」

 俺はお爺の気遣いにじーんと感動する。レノだったら、舌打ちしてるところだからだ。でも最近はそれさえ恋しい。そしてレノじゃなくてお爺が来たという事は。

「レノはまだ村の方に行って戻ってきてないの?」

 俺が尋ねるとお爺は「ええ」と答えた。なので俺は「そっか」と呟くが、昨日の事を思い出してムカッとする。

 ……あいつ、昨日のはなんだったんだよ。珍しく、俺はチューしてもいい気分だったのに。昨日のはチューする雰囲気だっただろ! いつも突然するくせに、なんで、あーいう時にはしないんだよ。それにレノが付けたキスマークだって、もう消えかけで。もっとえっちなことするって言ってたくせに。あー、考えてたらムカムカしてきたッ!

 俺は心の中でレノに悪態をつく。
 だが、そんな俺にお爺は突然謝った。

「坊ちゃん、申し訳ありません」
「え、何が?」

 お爺に謝られて、俺は何のことかわからず小首を傾げる。そうすればお爺は謝った理由を俺に告げた。

「実は村に引っ越してこられたシアさんというのはレノの父親と親しい方でしてね。レノは父親の事をあまり知らないですから、いい機会だと思い、今回はレノに任せたのです」

 お爺の思わぬ説明に俺は驚きの声を上げる。

「え、シアさんってレノのお父さんの事を知ってる人なの?!」

 ……確かレノのお父さんって、バレンって名前の人だったよな? 蛇獣人でレノが生まれる前に亡くなったって言う。

 お爺に言われて俺は思い出す。話に聞くだけのレノのパパの話を。

「ええ。ですのでレノに任させたわけですが、代わりに坊ちゃんには寂しい想いをさせていますね。申し訳ありません」

 お爺はもう一度俺に謝った。でも、お爺が謝る必要なんてどこにもない。

「い、いやいや、そういう事情ならしかたないよ。それに俺は別にレノがいなくても大丈夫だしぃ」

 俺がそう言うとお爺はじっと俺の顔を見た。

「そうですかな? あまり大丈夫には見えませんが?」

 お爺の鋭い瞳に、俺は「うっ」と正直な気持ちが顔に出てしまう。

「やっぱり、坊ちゃんにはレノが必要なようですな。ほっほっほっ」
「そんなことっ」
「本音は、違うでしょう?」

 俺はむきになって言ったけどお爺に見透かされて、結局は口を尖らせながらも正直に答えた。

「……めちゃ必要」
「レノにも、そう正直に言ってあげてください。きっと喜びます」

 お爺はそう言うと、甘めの紅茶を淹れて俺に差し出してくれる。

「そうかなぁ?」
「勿論ですよ。好きな相手に求められることほど、喜ばしいことはございません」

 ……好きな相手に? 昨日、チューを拒否されたんだけど。

 俺はそう思いつつも、さすがにそれは口にできない。だって恥ずかしいし。なので、俺は代わりにお爺が淹れてくれた紅茶を口にする。うむ、やっぱりうまい。

 ……でもシアさんはレノのパパの事を知ってるのか。でもレノと同じくらいの年齢に見えたけどな~。言っても、ちょっと年上ぐらいな気が。

 俺はシアさんの姿を思い出して、少し不思議に思う。
 だが同時にザックとノエルと一緒に見たスケッチブックの事を思い出す。あのスケッチブックに描かれていたのは、サラおばちゃんなのか?

「どうかしましたかな?」

 俺がじっと見詰めるとお爺から尋ねてきた。なので、俺は聞いてみる。

「あのさ、お爺。サラおばちゃんって神聖国に住んでたの?」
「ええ、そうですよ。サラさんは以前、神聖国に住み、皇女様のお付きの侍女をされていました」

 俺がおずおずと尋ねれば、お爺はあっさりと答えた。だから俺はちょっと驚いてしまう。答えを濁されるかと思っていたからだ。

「おや? この事が聞きたかったのでは?」

 俺が黙っているとお爺は不思議そうに尋ねた。

「いや、まあそうなんだけど、そうあっさりと答えてくれるとは思わなくて」
「ノエラさんの事が明るみになりましたし、坊ちゃんは神聖国に行きましたから、いずれ気づくことになると思いましてな」

 お爺はニコッと笑って言った。

 ……やっぱりお爺は知ってたんだ。んじゃ、他の事も聞いたら答えてくれるかな?

「じゃ、じゃあ、サラおばちゃんはどうして神聖国からバルト帝国にやってきたの? レノのお父さんがバルト帝国人だったとか?」
「いえ、そう言うわけではありません。ですが、事情がありましてな」
「事情? それって」

 俺が尋ねるとお爺はまたもニコッと笑った。

「それは私の口からは言えません」

 こうなったらお爺は絶対に教えてくれない。

 ……え~? この後が気になるのにぃ。……でも、サラおばちゃんが神聖国で皇女様(ノエルのお母さん)の侍女をしてたのは新しい発見だ。けど、サラおばちゃんがバルト帝国にやってきたのってなんでだろう? 皇女様を追いかけて来たってわけじゃなさそうだし。うーむ……それに。

「お爺って何者?」
「ほっほっほっ、ただのジジイですぞ」

 流れで尋ねてみたが、お爺はやっぱり答えてくれなかった。

 ……一番の謎はお爺が何者なのかって感じなんだけど。

 俺はお爺をじぃっと見つめるけど、お爺はニコニコするばかり。

 ……いつかお爺が何者なのかってわかる日がくるのかなぁ。

 俺は紅茶をちょぴっと飲みながら、そう思う。






 ―――しかし、その時は意外に早く来るのだった。
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