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最終章「プロポーズは指輪と共に!」

12 チュウしろや!

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 ――その日の夜。夕食も風呂を終えた俺はベッドの上で悶々としていた。

『けど、坊ちゃんだってレノの事が好きならレノに触りたい。キスの一つや二つ、したいって思う事もあるでしょ?』

 昼間に言われたヒューゴの言葉が俺の中で渦巻く。

 ……俺がレノにチュウ。うむむっ。

 以前、寝起きに勘違いしてレノに自分からキスした事はあっても、未だに自分からキスした事はない。でも最近はされて嫌じゃないし、むしろちょっと嬉しさを感じている。それに恥ずかしさの方が上回るけれど、レノにキスしてもいいと思っている自分がいたり。

 ……うわぁ。俺、やっぱりレノが好きなんだなぁ。だから、誰かと親しくしてるレノを見て嫉妬したのか? 俺って、結構独占欲強いのかな、前までは別に何とも思わなかったのに。ノエルとくっつけようとした時もあったけど、今はもう誰もレノの傍にいさせたくない。レノの傍は俺の……って、俺の思考は乙女か!? 恥ずい―!!

 じわじわと今更ながらに自分の気持ちを自覚して、俺は頬が熱くなる。なので俺は大きな枕に顔を埋めて、ぼふぼふっと枕の余白を叩いて悶えた。だってそうしていないと、恥ずかしさにはち切れそうになるんだ。
 しかし、そんな時に限って奴は来る。

「坊ちゃん、私です。失礼しますよ?」

 コンコンッとノックの後、レノが部屋の中へと入ってきた。いつもだったら顔を上げて『どうしたんだ?』と言えるけど、今はレノの顔を見るのが恥ずかしい。

 ……それに考えてたこと読まれそう。そんなの困る!

 という訳で俺は枕に顔を埋めたまま、くぐもった声で返事をした。

「なんだ?」
「明日の予定を伺いに。……ところで枕に顔を埋めて、何をしてらっしゃるんですか?」
「んー、ちょっとな」

 俺は適当に濁す。だが、そんな俺の体をレノはひょいっと持ち上げてベッドに座らせた。

「お、おい!」
「キトリー様が変な行動を起こす時は何かあった時です。何かありましたか?」

 レノはベッドに座られた俺に真正面から問いかけた。しかし、改めてレノの顔を見た俺はなんだか胸がムズムズして、ドキドキと煩く鳴り始める。

『坊ちゃんだってレノに触りたい。キスの一つや二つしたいって』

 ……えーい! 俺の頭の中で何度も言わんでいい!!

 俺は脳内に現れるヒューゴを頭を振って打ち消す。しかし、そんな俺の両頬をレノは両手で包むと、おもむろに顔を近づけてきた。

「ひぇ?!」
「顔が赤いですね。季節の変わり目は体調を崩しやすいですから……風邪でも引きましたか?」

 レノはそう言うと、俺のおでこにおでこをこつんっとくっつけた。そうすれば、レノの顔がすぐ傍に!!

『坊ちゃんだってレノにキスしたいって思わないんですか?』

 またも俺の脳内ヒューゴが囁く。そして目の前にはレノの艶プルの唇が見えて。

「熱はないようですが……キトリー様、大丈夫ですか?」
「ダイジョばない、デス」

 俺は自分の心の声に、恥ずかしさを感じて両手で顔を隠す。でも、その手をレノはいとも簡単に剥がした。隠してるのに、剥がすんじゃない!

「キトリー様、一体どうし」

 レノはそこまで言うと、俺をじっと見た。だって俺がレノを見てるから。

 ……きっと俺の顔は真っ赤だ。俺、本当にいつの間にレノの事、こんなに好きになったんだ?

 そう思いながら見つめれば、レノは俺をベッドに押し倒した。

「へ?」
「坊ちゃん、そんな顔で見つめないでください。我慢できなくなる」

 レノは俺の顔の横に手を付き、覆いかぶさって言う。でも、そんな顔ってどんな顔よ? 俺にはわからない、ただただ心臓が煩い。

「な、なんだよ、そんな顔って。俺は別にっ」
「私にキスして欲しいって顔してます」

 レノに言われて俺はドキッとする。だって、心の奥でレノにキスしてみたいって思ってたから。

「キスして欲しいなんて、別に。……で、でも、レノがしたいならしても」

 俺は顔を背けながら告げた。そうすればレノはそっと顔を近づけ、俺はドキドキしながらも目を閉じる。

 ……レノにキスされる!

 恥ずかしいけど嬉しさを感じながら、レノの唇が触れる時を待つ。でも、レノの息遣いが感じられる距離まで近づいた時。

「……やっぱりダメです」

 レノは突然そう言うと俺から離れた。

「へ?」

 俺は驚いて目をパチリと開ける。そしてレノを見れば、もうすでにベッドから下りていた。

「え、レノ?」

 ……なんで、ダメ? いつものお前なら、絶対チューするとこだろ!?

 俺は心の中で呟く。けれど、今日に限ってレノに俺の心の声は届かなくて。

「具合が悪いようですから、私は失礼します。早くお休みください」
「いや、俺は具合が悪いわけじゃ」

 そう言ったのにレノは俺をちらりと見た後「では、私は失礼します」とさっさと部屋を出て行った。そして取り残された俺と言えば、レノの態度に不満を覚え。

「なんなんだよ!」

 ……こっちはもうする気でいたんだぞ!? なのに、ダメってなんだよ!  チューしろやッ!!

 俺はムカッとして枕を思わずぼふっと叩き、ぷぅっと両頬を膨らませた。






 ――――だが、部屋を出て行ったレノと言えば。

「はぁーっ」

 誰もいない廊下で立ち止まって大きな息を吐き、顔に手を当てていた。

 ……急にあんな顔を見せるなんて。ズルいですよ、坊ちゃん。

 レノは先程のキトリーを思い出して、耳先を赤くする。でも同時にキトリーの父親・エヴァンスから送られてきた手紙の内容を再度思い出して、レノは大きなため息を吐いた。

 ……私の我慢がいつまで持つか。

 レノは心の中で呟き、もう一度大きなため息を吐いたのだった。




 けれど二人は互いの事を見過ぎて、気がついていなかった。二人を覗く目があった事を……。

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