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最終章「プロポーズは指輪と共に!」
8 眠れん!
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――――その日の夜。
「キトリー様、ただいま戻りました」
すっかり夜になってレノは俺の部屋にやって来た。
そして俺は夕飯も風呂も済ませ、ベッドの上で本を読んでいた。
「んー、おかえり」
俺は本に目を通しながら適当に返事をする。でも心の中はまだモヤモヤムカムカしていて、心の声がレノに文句を呟いた。
……今日、レノに会いに行ったんだぞ? シアさんって美人だったな。レノ、随分と親しそうにしてたじゃん。シアさんって人と仲良くなったのか? というか、こんな時間まで何してたんだよ。お前は俺の従者だろ。
不貞腐れたような声が心の中に響く。でも、この心の声を口にはできなかった。言ってしまえば、なんだか負けたような気がして。
……でも負けたって、何に対してだよ。俺、どうしてこんな事、考えてんだ。レノはお爺に頼まれて手伝いに行ってるだけなのに。うぅーっ。
俺はスッキリしない自分の気持ちに苛立ち、思わず眉間に皺を寄せる。そして俺の機微に鋭いレノはすぐに尋ねてきた。
「キトリー様、何かありましたか?」
……何かあったのはレノの方だろ。
レノに尋ねられて、俺の心が意地悪く言う。けど、この心の声を言えない俺は目を合わせずに返事をした。
「別に何もないぞ。今日はザックとノエルに会ったぐらいだ、渡し物をしに」
「ああ、今朝届いたエンキ様からの贈り物ですね」
「そっ。それを渡しに行って、後は事務仕事してた」
「そうですか」
レノはすんなりと答えた。でも、その答えにも俺はなぜかムカムカしてしまう。
……レノの方こそ、何かあっただろ。俺に何か話すことはないのか?
「キトリー様?」
俺がじっと見つめるとレノは不思議そうな顔で俺を見た。だから、本当は聞きたくないはずなのに口が勝手に動く。
「そう言えば、ザックが言ってたけど新しく入ってきた人ってシアさんって言うんだな。美人さんなんだろ?」
「いえ、普通の方ですよ」
レノの返答に俺は目を見張る。だってレノが嘘を吐いたから。
……どう見たってシアさんは美人さんだろ! どうして嘘つくんだよ。
俺は心の文句が喉の奥まで出かかる。けれど、それをぐっと飲み込んだ。
「そーか。お爺の知り合いなんだから、ちゃんと世話してあげろよ。……俺はもう寝るから」
俺は本をサイドテーブルに置いて、もぞりとベッドの中に入る。
「そうですか。では、私は失礼しますね」
レノはいつも通りに答えると俺の代わりにランプの光を消す。そうすれば部屋の中は真っ暗だ。
「キトリー様、おやすみなさい」
「ん、おやすみ」
俺が返事をすると、レノは確かな足取りでドアまで歩くとそのまま部屋を出て行った。
静かな部屋の中、いつもの俺だったらすぐに眠りに落ちるけど、レノのさっきの答えにムカムカして眠れない。
……レノの奴、嘘ついたままあっさり出て行きやがって。あー、なんかむかつくぅ。この前まで出て行けって言っても、人のベッドを占領して添い寝してたくせに。
俺はそう思いつつ、いつもレノが寝ていた場所に手を置く。そこはひんやりとしていて、なんだか寂しい。心がしゅんっとしょげてしまう。
「むぅ」
俺は口を尖らせる。でもそうしてたって、ムカムカが消える訳じゃないから俺はもぞっと毛布に包まった。
……あー、もう。さっさと寝よう。きっと寝たら明日には気分が変わってるだろ。
俺はムカムカする気持ちを抑え、明日に期待してぐっと目を瞑る。そして夢の世界に飛び立とうとする。……だが。
――三十分後。
――一時間後。
――にじか。
「全然眠れん!」
目がぱっちりと開いて、眠れなかった。
……寝たいのに全然眠れない。もう羊は数え飽きたよぅぅぅっ。
俺は嘆きながら、ゴロゴロとベッドの上を転がる。頭の中はメェメェと鳴く、可愛いモコモコの羊で一杯だ。
そして、早く眠りたい俺は半分眠っている頭で突飛な事を考え付いた。
……そうだ! レノの隣で寝れば寝れるはず! 今までもレノがいた時に寝れないことなんてなかったし!!
そう思ったら、その後の俺の行動は早かった。部屋を出て、真夜中のすっかり静まった屋敷の中を寝巻のまま歩いてレノの部屋へと向かう。そしてレノの部屋の前に辿り着けば、俺は躊躇いなくドアノブを回した。
そうすれば、カチャリッとドアが開く。不用心にも鍵をしていなかったようだ。
……しめた!
俺はドアを開けて、そっと中を覗いてみる。部屋の中は暗くて、レノも就寝中みたい。
……起こすのも悪いから、そっと忍び込もう。
俺は変なところで気を使いつつ、忍び足でレノが眠るベッドに足音を立てずに近寄る。そしてベッドに寝転がるレノを見れば、きっちりと服を着込んでいた。肌寒い季節になってきたから、寝巻を着るようになったのだろう。
……蛇は変温動物っていうからな、蛇獣人も同じなんだろうな。ま、それはいいとして……お邪魔しまーす。
俺はそっとベッドに忍び込もうと毛布を捲り、片足をベッドに乗せようとした……けど、その時。
「真夜中に何してるんです」
「キトリー様、ただいま戻りました」
すっかり夜になってレノは俺の部屋にやって来た。
そして俺は夕飯も風呂も済ませ、ベッドの上で本を読んでいた。
「んー、おかえり」
俺は本に目を通しながら適当に返事をする。でも心の中はまだモヤモヤムカムカしていて、心の声がレノに文句を呟いた。
……今日、レノに会いに行ったんだぞ? シアさんって美人だったな。レノ、随分と親しそうにしてたじゃん。シアさんって人と仲良くなったのか? というか、こんな時間まで何してたんだよ。お前は俺の従者だろ。
不貞腐れたような声が心の中に響く。でも、この心の声を口にはできなかった。言ってしまえば、なんだか負けたような気がして。
……でも負けたって、何に対してだよ。俺、どうしてこんな事、考えてんだ。レノはお爺に頼まれて手伝いに行ってるだけなのに。うぅーっ。
俺はスッキリしない自分の気持ちに苛立ち、思わず眉間に皺を寄せる。そして俺の機微に鋭いレノはすぐに尋ねてきた。
「キトリー様、何かありましたか?」
……何かあったのはレノの方だろ。
レノに尋ねられて、俺の心が意地悪く言う。けど、この心の声を言えない俺は目を合わせずに返事をした。
「別に何もないぞ。今日はザックとノエルに会ったぐらいだ、渡し物をしに」
「ああ、今朝届いたエンキ様からの贈り物ですね」
「そっ。それを渡しに行って、後は事務仕事してた」
「そうですか」
レノはすんなりと答えた。でも、その答えにも俺はなぜかムカムカしてしまう。
……レノの方こそ、何かあっただろ。俺に何か話すことはないのか?
「キトリー様?」
俺がじっと見つめるとレノは不思議そうな顔で俺を見た。だから、本当は聞きたくないはずなのに口が勝手に動く。
「そう言えば、ザックが言ってたけど新しく入ってきた人ってシアさんって言うんだな。美人さんなんだろ?」
「いえ、普通の方ですよ」
レノの返答に俺は目を見張る。だってレノが嘘を吐いたから。
……どう見たってシアさんは美人さんだろ! どうして嘘つくんだよ。
俺は心の文句が喉の奥まで出かかる。けれど、それをぐっと飲み込んだ。
「そーか。お爺の知り合いなんだから、ちゃんと世話してあげろよ。……俺はもう寝るから」
俺は本をサイドテーブルに置いて、もぞりとベッドの中に入る。
「そうですか。では、私は失礼しますね」
レノはいつも通りに答えると俺の代わりにランプの光を消す。そうすれば部屋の中は真っ暗だ。
「キトリー様、おやすみなさい」
「ん、おやすみ」
俺が返事をすると、レノは確かな足取りでドアまで歩くとそのまま部屋を出て行った。
静かな部屋の中、いつもの俺だったらすぐに眠りに落ちるけど、レノのさっきの答えにムカムカして眠れない。
……レノの奴、嘘ついたままあっさり出て行きやがって。あー、なんかむかつくぅ。この前まで出て行けって言っても、人のベッドを占領して添い寝してたくせに。
俺はそう思いつつ、いつもレノが寝ていた場所に手を置く。そこはひんやりとしていて、なんだか寂しい。心がしゅんっとしょげてしまう。
「むぅ」
俺は口を尖らせる。でもそうしてたって、ムカムカが消える訳じゃないから俺はもぞっと毛布に包まった。
……あー、もう。さっさと寝よう。きっと寝たら明日には気分が変わってるだろ。
俺はムカムカする気持ちを抑え、明日に期待してぐっと目を瞑る。そして夢の世界に飛び立とうとする。……だが。
――三十分後。
――一時間後。
――にじか。
「全然眠れん!」
目がぱっちりと開いて、眠れなかった。
……寝たいのに全然眠れない。もう羊は数え飽きたよぅぅぅっ。
俺は嘆きながら、ゴロゴロとベッドの上を転がる。頭の中はメェメェと鳴く、可愛いモコモコの羊で一杯だ。
そして、早く眠りたい俺は半分眠っている頭で突飛な事を考え付いた。
……そうだ! レノの隣で寝れば寝れるはず! 今までもレノがいた時に寝れないことなんてなかったし!!
そう思ったら、その後の俺の行動は早かった。部屋を出て、真夜中のすっかり静まった屋敷の中を寝巻のまま歩いてレノの部屋へと向かう。そしてレノの部屋の前に辿り着けば、俺は躊躇いなくドアノブを回した。
そうすれば、カチャリッとドアが開く。不用心にも鍵をしていなかったようだ。
……しめた!
俺はドアを開けて、そっと中を覗いてみる。部屋の中は暗くて、レノも就寝中みたい。
……起こすのも悪いから、そっと忍び込もう。
俺は変なところで気を使いつつ、忍び足でレノが眠るベッドに足音を立てずに近寄る。そしてベッドに寝転がるレノを見れば、きっちりと服を着込んでいた。肌寒い季節になってきたから、寝巻を着るようになったのだろう。
……蛇は変温動物っていうからな、蛇獣人も同じなんだろうな。ま、それはいいとして……お邪魔しまーす。
俺はそっとベッドに忍び込もうと毛布を捲り、片足をベッドに乗せようとした……けど、その時。
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