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最終章「プロポーズは指輪と共に!」

7 モヤモヤムカムカ

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「確かこの辺りだったよなぁ?」

 俺は辺りを見回して呟く。そうすればヒューゴが俺の横で指差した。

「あそこに見えてますよ」

 ヒューゴの指さす先を見れば、村の少し離れたところにぽつんっと小さな家が建っていた。少しオンボロだが、人が住める雰囲気のある小さな家。
 まるでおとぎ話に出てくる魔女の住む家のようだ。まあ実際にちょっと前までお婆さんが住んでたんだけど。

 ……でも、娘夫婦と一緒に暮らすってことになって出て行って、空き家になってたんだよなー。家は人が住まなくなるとダメになるから、新しく住んでくれる人が決まって良かったけど……レノはどこにいんのかな?

 俺は少し遠い場所から目を細めて見つめる。
 実はこの小さな家に、例のお爺の知り合いが引っ越してきたのだ。そしてレノは家の補修などの手伝いに派遣されているのだが。

 ……ついでだから見に来たけど、新しく来た人ってどんな人だろ? シアさんって名前らしいけど。それにザックが言うには、結構な美人って話だっけ?

「しかし、驚かせたいって……後でレノに怒られても知りませんよ?」

 ヒューゴは呆れた顔で俺に言った。なぜならレノを驚かせようと思って、俺は乗ってきた馬をザック達に任せ、こっそりと物陰から家へと向かっていたからだ。

「たまにはいいだろ、サプライズも」
「レノはサプライズ、好きな方じゃないと思いますが」

 ヒューゴは俺の後ろで呟くが、俺は聞いちゃいなかった。だって小さな家からレノ本人が出て来たから。

 ……噂をすればなんとやらだな。レノの奴、驚くかなー?

 俺は悪戯心にそんなことを思う。けれど驚くと同時に俺の顔を見た途端、喜ぶだろうレノの顔が簡単に思い浮かんで、俺はなんだか一人で顔が熱くなってくる。それだけレノに好かれてるってわかっているから。

 ……毎日、会ってんのに俺に会って喜ぶも何もないだろ。何考えてんだ、俺は。

 俺は熱を冷ますよう自分に言い聞かせる。だが背後からヒューゴに声をかけられ、俺はぴくっと肩を揺らした。

「坊ちゃん、どうしたんですか? レノに声をかけるの、やっぱやめます?」
「い、いや、今からやるところだ!」

 ……そうだ、今はサプライズの真っ最中。レノを驚かすことだけ考えよう!

 俺は一人意気込み、ぐっと両手を握る。
 しかし、そんな時だった。

「レノ!」

 親し気な声でレノを呼ぶ声に視線を向ければ、小さな家から女の人が出て来た。その人は二十代半ばで、レノと同じ銀髪にラベンダー色の瞳を持ち、目鼻立ちのハッキリとした美しい人。スラリとした体形はまるで女優さんのようで、レノと並ぶとまるでお似合いのカップルに見える。

 ……もしかして、あの人がシアさん? ザックの言った通り、綺麗な人だな。

 俺は素直にそう思う。でも俺がシアさんに目を奪われたのは数秒だけの事だった。なぜなら、呼びかけられたレノがシアさんと何かを話せば、今まで見た事ないほどの砕けた表情を見せていたから。

 ……なんだよ、その顔。

 俺は戸惑い、つい心の中で思う。
 だってレノは普段からあまり表情を変えない、特に女の子の前では。だから学生の頃、レノは『氷の王子』と陰で呼ばれてたぐらいだ。まあ、女の子達にはそれはそれで人気があったけど。
 それなのに、あんな表情を見せるなんて……。

 ――――モヤモヤモヤモヤッ。

 俺の胸の内で何かが生まれる。おかげでサプライズをしようとしていた気持ちがしゅんっとすっかり萎えてしまった。

「坊ちゃん、どうしました?」

 一向に動かない俺を見て、ヒューゴが後ろから声をかけてきた。でも、なんだかいつもの俺を取り繕えなくて。

「ヒューゴ、ここまで付き合ってくれたのにごめん。やっぱりサプライズはナシにして帰ろう」

 俺は振り返って答えた。そうすればヒューゴは当然驚く。

「え、いいんですか? ここまで来たんですから、声をかけるぐらい」
「ううん。いいの、いいの。やっぱ邪魔しちゃ悪いかなって……だから今日のところは帰ろう」

 俺がせっついて言えば、ヒューゴは不思議そうな顔をしながも「坊ちゃんが言うなら」と答えてくれた。
 そして俺はヒューゴと村へと戻る道を歩く。でも俺はもう一度だけ、レノの方を振り返った。しかしやっぱり妙に親し気な二人が見えて、俺は早々に前を向いた。

 ――モヤモヤムカムカ。

 なんだか居心地が悪い気分で俺の心の中は満たされる。でも、恋愛経験値のない俺はこの気持ちの名前をまだ知らなくて……俺はもちゃついた気持ちを抱えながら森の中を歩き、ヒューゴと共に別邸へと帰ったのだった。


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