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最終章「プロポーズは指輪と共に!」

6 サラおばちゃんの謎

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 ――風呂の一件から、数日後の午後。
 俺は馬に乗ってヒューゴと共にニーレ村に訪れていた。

「こんにちは~!」

 家の外で薪割りをしていたザック、そしてその手伝いをしているノエルに俺は声をかける。

「「キトリー様にヒューゴさん!」」

 二人は俺達を見るなりすぐに声をあげた。そしてザックは斧を下して、ノエルと共に俺の元へとやってきた。

「こんにちは、キトリー様、ヒューゴさん」
「こんにちは」

 ザックの挨拶の後、ノエルもぺこりと頭を下げて挨拶をする。

「うん、こんにちは。冬に向けて薪づくりか? 精が出るねぇ」

 俺が尋ねればザックは頷いた。

「ええ。冬は夏の倍、必要ですからね。今の内に準備しておかないと」
「そうだな。最近、すっかり寒くなってきたからなぁ」

 俺は秋空を見上げて呟く。けれどそんな俺にノエルが声をかけた。

「それよりキトリー様、ヒューゴさんと村へお散歩ですか?」
「いや、今日ここに来たのはお届け物があってね。ヒューゴは俺のお目付け役」
「坊ちゃんを一人にはできませんからね」

 護衛のヒューゴは俺の後ろで腰に手を当てて言った。

 ……俺一人でも大丈夫なんだけどなぁ。何かがあってもいざとなったら、加護の力を使うし。ま、ヒューゴにも力の事は秘密にしてるから、言えないんだけど。

 でもその答えを聞いて、ザックが不思議そうな顔を見せた。

「ヒューゴさんが、ですか? レノの奴はどうしたんです?」
「レノはお爺の頼みごとでいないんだ。最近、ニーレ村に引っ越してきた人がいるだろう? お爺の知り合いらしくて、レノに手伝いを頼んでいるみたいなんだ」

 俺が告げるとザックもノエルも、すぐにどの人物かわかったようだ。

「ああ、シアさんの事ですね」

 俺はザックの呟きで、初めて名前を知る。お爺には知り合い、とだけ教えられていたから。

 ……シアさんって言うのか。でもお爺の知り合いって、どんな人なんだろ? 帰り際に寄ってってみよーかな。

 俺はそう思うが、ノエルに声をかけられて本来の目的を思い出す。

「あの、ところでキトリー様。お届け物って?」
「ああ、そうだった。実は今朝、神聖国からあるものが届いてな。エンキ様からノエルと親父さんにって。親父さんは今、いないのか?」
「お父さんは今、村のおじさん達と一緒に森に狩りに行ってます」
「そっか。じゃあノエルに渡しておくな」

 俺は鞄から紐でくくられた紙袋をノエルに差し出した。それは一冊分の本ぐらいの大きさのものだった。

「これが神聖国からのお届け物?」

 ノエルは俺から受け取り、不思議な顔を見せる。そして俺は、エンキ様から一緒に送られた俺宛ての手紙で中身がなんなのか知っていたので、ノエルに開封する様に促した。

「中を見たら、すぐにわかるよ」

 俺が告げればノエルは不思議そうな顔をしたまま、紐を解き、紙袋を外していく。そしてその中には一冊のスケッチブックと手紙が包まれていた。

「スケッチブックと手紙?」

 ノエルは呟き、すぐにスケッチブックを捲った。そして、そこに描かれていたのは……。

「これ、お母さん!?」

 ノエルは描かれていた絵を見るなり声を上げた。
 実はスケッチブックに描かれていたのは、皇女時代のノエルの母・ノエラの姿だった。

「ああ。エンキ様の話では、ノエラさんの絵を描く時に絵師が試し書きでそのスケッチブックに描いたそうだよ。きっと同封されている手紙に同じような事が書かれていると思う」

 俺はエンキ様から貰った手紙に書かれていたことを告げ、同封された手紙を指差した。

「エンキ様が……。あ、これってもしかしてエンキ様ですか?!」

 ノエルは若い日の母・ノエラとその横に立つ少年を指差し、俺に尋ねた。そこに描かれていたのはまさしく若いエンキ様だった。

「うん、そうだよ。ノエルのおじさんだ」
「……この人が、僕のおじさん」

 ノエルはまじまじと絵を眺めて呟く。初めて見る叔父の姿に感動しているようだ。

「絵じゃなくても、近いうちに会えるさ。きっとそういう事も手紙に書いてあるんじゃないかな?」

 俺が告げるとノエルは嬉しそうに「はい、後でお父さんと読んでみます!」と答えた。けれど、あるページを見てザックが声を上げる。

「あれ? これって」
「ん? ザックどうした?」

 俺が尋ねるとザックは「あ、いえ」と歯切れの悪い言葉を返す。でもそんな風に言われたら気になるじゃーん。

「どーしたんだよ? 何か気になる事でもあったか?」
「あー、いえ。その……この絵の人がレノのおばさんに似てるなって思って」

 ザックはあるページに描かれた絵を見て言った。
 そこには色鉛筆で色が付けられたノエラと共に若い娘が絵が描かれている。その絵は、なんだかサラおばちゃんによく似ていた。

「ホントだ。サラおばちゃんっぽいな」

 ……若くしたら、サラおばちゃんってこんな感じだったんだーって絵だな。似てる人がいたんだろうか? まさか、サラおばちゃん本人ってわけじゃないよな?

 俺は眉間に皺を寄せるが、絵の隅には“ノエラとサラ”と書かれていた。その上、ノエルが思い出して俺に告げる。

「そういえば、お母さんに聞いたことがあります。いつも一緒にいた侍女の女の子がいたって。その子とすごく仲が良くって、その子の名前はサラって言ってました」
「え、サラ?」
「はい。確か同い年で、髪も瞳も同じ色だったって。子供の頃から姉妹みたいに育ったって話でした」

 ……ノエルのお母さんのノエラさんと一緒に育った? 茶髪も琥珀色の瞳も同じ? もしかして、これってやっぱりサラおばちゃんなんじゃ。

 確証はないけれど、絵に描かれたサラという少女とサラおばちゃんが同一人物のような気がしてならない。そしてそれは俺の傍で話を聞いていたヒューゴとザックもだった。

「坊ちゃん、これってもしかして」
「キトリー様」

 ヒューゴとザックは真面目な顔で俺に声をかける。ヒューゴもザックも公爵家本邸で働いていたので、サラおばちゃんとも勿論面識がある。だからこそ、妙な既視感を覚えたのだろう、俺と同じように。

「ああ。でも確証はないから、この話は一旦保留な」

 俺がそう言うと二人は頷いた。

 ……サラおばちゃん、レノの話では元々神聖国に住んでいたって話だし。あの悪徳貴族の前の事は知らない。もし神聖国が故郷だったのなら、バルト帝国へ来るほどの事でもあったのかな?

 俺はそう思いつつ、その後はザックとノエルと他愛ない話をして別れた。

 でもヒューゴと一緒に馬に乗って別邸へと帰る前に、俺は寄り道をすることに――――。

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