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第五章「告白は二人っきりで!」

28 昔話

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 ―――とある国にエンキと言う少年がいた。
 エンキにはノエラという姉がいて、二人は仲良しの姉弟だった。

 しかし二人の両親が突然亡くなり、姉は皇王になることに。
 けれどそうなれば姉には庭師の恋人と別れなくてはいけない。だから、それを知った少年は姉にこう告げた。

『私が姉さんの代わりに皇王代理をするよ。だから心配しないで』と。

 その言葉を聞いた姉はその申し出を断ったが、エンキの強い後押しを受け、心苦しく思いつつも友人の手を借りて、愛する恋人と共に国を出て行くことに。

 そして残ったエンキは姉が失踪したことにし、若くして王の代理を務めるようなった。
 幸い、少年は幼い頃から政務を手伝っていた為に難しいことはさほどなく、おかげでしばらくは平穏な日々が続いたが……。

 エンキ少年が青年と成長し、王様代理業も板についてきた頃。
 エンキはある年上の青年と出会い、恋に落ちてしまう。

 それはアンリと言う名の、鮮やかな赤髪を持った青年で。エンキはすっかり彼に一目惚れしてしまい、猛アタック。最初の内は袖に振られていたが、エンキの粘り勝ちで二人はしばらくして恋人に。

 しかしながら付き合っていく内に、実はアンリはクト神の眷属で人ならざる者だと知り、その体は不老不死にも近く、代わりに子供は望めないと教えられる。けれどエンキはそれでも良かった、二人で生きていけるなら。

 だがアンリの方が納得せず、クト神に願い、短い寿命の代わりに人の体を手に入れた。なぜならアンリはエンキとの間に子供を望んだからだ。そしてその望みは叶い、一人の子供を得ることになる。

 それがアントニオだ。

 だが、代理と言えども王様をしているエンキが出自不明のアンリと結婚することは厳しく。反発を受けるのは火を見るよりも明らか。なによりアンリも、それを望まなかった。
 そして姉の一件もあった為、エンキは皇族の世襲制の限界を感じて廃止しようと考えていた。それなのにエンキはクト神の眷属との間に子供ができた。

『もしも、この事を誰かに知られては確実に大事な我が子の自由を奪われてしまう』

 そう考えたエンキは辛くとも、アンリとアントニオに隠れて会う日々を送る事を決意した。そしてその暮らしはアントニオが九歳まで続いた。
 だがアンリが亡くなり、神聖国の片隅で慎ましく暮らす二人に会いに行く生活は終止符を迎えてしまう。

 そして一人残った息子をエンキは当然手元で面倒をみる事はできず。
 悩んだ末エンキはバルト帝国にいる友人の手を借り、父方の親戚にアントニオを預けることを選んだ。それが息子の幸せの為だと信じて。
 そしてエンキは遠い地にいる息子の成長を手紙で知る日々を過ごしていた―――――今日までは。



 ◇◇



 ……って、めちゃめちゃ純愛ロマンス系のお話じゃん!!

「もぉぉぉ、いい話過ぎるぅぅ~っ、うぐっうぐぅぅっ」

 俺はエンキ様の話を聞いて涙をダバーッと滝のように流す。そうすればアントニオが「拭け」とハンカチを俺に貸してくれた。
 なので俺は遠慮なく涙を拭く。ついでに鼻水も。チーンッ!!

「ずびっ、ありがと」
「いらん、くれてやる」

 アントニオにハンカチを返せば、嫌な顔をされた。とてもクト様の眷属の子供とは思えない顔で。

 ……返すって言ってんのにぃ。……でもクト様が言っていた”あの子”がまさかアントニオの事だとはなぁ。眷属の子だから、孫みたいな存在、か。

 俺はちらりとアントニオを見る。そうすれば『あん?』と睨み返された。

 ……本当にクト様の眷属の息子か?

 俺はそう思うが、その横でレノが呟いた。

「なるほど。アントニオ君の過去にはそう言った事が」
「こんな事、誰にも言えないですからね。まさか、この人の息子だなんて」

 アントニオは隣の席に座るエンキ様を見て言った。

「でも、エンキ様がそこまでしていたのにどうして神聖国へ?」
「そうだ! どうして神聖国へ来たんだ?」

 俺はレノの言葉の後に続くよう尋ねる。そうすればアントニオは正直に答えてくれた。

「俺だって戻る気はなかったよ。でも神聖国の内情を聞いて、腹が立ったんだよ。俺をバルト帝国に送ってまで王様やってたのに、周りからないがしろにされてて。その上、後継の為に若い女の子をあてがわれようとしてるなんて聞いたら、俺がやってやるって思ってな」

 アントニオはむすっとした顔で言った。でもきっと本当は父親であるエンキ様が心配だったのだろう。本意ではないことをさせられそうになっていた父親が。

 ……もぉー、素直じゃないわね~っ。ツンデレさんなんだからぁ~っ!

「おい、そのニヤニヤ顔を止めろ」

 アントニオは苛立った顔で俺に言った。

「別にニヤニヤなんてしてないしぃー。俺は元からこんな顔だしぃー」
「ちっ、余計に腹立つ奴だな」

 アントニオは舌打ちをして呟いた。この悪態の悪さ、本当にエンキ様の息子かね。

「でも、話を聞いたと言うのは誰に? もしかして、ですが」

 レノはアントニオに窺うように尋ねた。そしてレノと俺はある人物を頭に思い浮かべる。良く知ってるあの人を……それは。

「ああ、聞いたのはキトリーのおばさんにですよ」

 アントニオの答えに俺は「やっぱり」と呟く。

 ……ついでにエンキ様が言ってたバルト帝国にいる友人って母様の事だろうなぁ。てか、もしかして皇女様を逃がすのを手伝ったのも、まさか母様じゃ。

 俺はエンキ様が母様と子供の頃から懇意にしていたと言っていたことを思い出して、エンキ様に視線を向ける。そうすればエンキ様は教えてくれた。

「アントニオの事を手紙に書いて私に教えてくれていたのもローラさんだよ。そして姉の失踪を手伝ったのもね」
「やっぱり」

 ……あの人、何してんの。……でも。てことは、当然父様もこの事は知ってたんだろうなぁ。ん? もしかして神聖国内がゴタゴタしてるって言ってたのは母様伝いの情報だったのか。

 俺は父様に言われた事を思い出す。しかし俺は同時にある事に気がついた。

 ……でも、あれ? 皇女様の名前がノエラって、サラおばちゃんとは違うな。偽名を使ってるのかな? んーっ、でもノエラってどっかで聞いたようなぁ? 

 俺は記憶の片隅を突いてみるが、思い出せない。その内にエンキ様が俺に声をかけた。

「けれど、アントニオとローラさんの息子であるキトリー君が友達同士になったと聞いた時は本当に驚いたものだよ」

 エンキ様は俺とアントニオを見る。まあ、驚くのも無理はないだろう。俺がアントニオと友達になったのは本当に偶然だった訳だし。母様は俺にアントニオの事情を何も言わなかったし。
 それになにより俺もアントニオに両親の事、深く聞いた事なかったしな。

「それはこいつが俺に何も聞かなかったからだよ。普通は親の事を聞いてくるのに、こいつだけは詮索しなかった」
「え? だってアントニオ、言いたくなさそうにしてたし。俺はお前と友達になりたかったわけで……そこに親って関係ある?」

 俺が何気なく言えば、アントニオはくすっと笑ってエンキ様に告げた。

「こいつはこーいう奴なんだよ。だから友達でいられんの」
「なるほど。わかる気がするよ」

 エンキ様は俺を見て笑った。

 ……え、なんかおかしなこと言いましたかね?

 俺は一人首を傾げるが、俺以外の三人は訳知り顔で俺を見る。ちょっとー、教えてよ!

「ですが後継問題は落ち着いたわけですし、今後はどうされるのですか。エンキ様」

 俺が不思議に思っている横で、レノはエンキ様に尋ねた。

「今はまだ王代理を続けるさ、ナギが次代の王になれるまで」
「ナギさんが次代の王に……」

 俺は呟き、ちょっと心配に思う。だが、その心配をエンキ様は読んだように答えた。

「なに、今までと違って終生を王で閉じることはないだろう。きっとクト様がいいように計らって下さる。……これからはこの国にいい風が吹く」

 エンキ様はにこりと笑って言った。そこには皇族と言う重しから放たれ、そして未来を期待する明るさがあった。

 ……きっとエンキ様の言う通り、神聖国はこれから変わっていくだろう。もっと良いふうに。

「でもアントニオ。お前、ここに一人で来たのか? 大変だっただろー」

 俺が何気なく尋ねれば、アントニオは片眉を上げた。

「は? 俺、一人じゃないけど?」
「え? じゃあ、誰と来たんだよ」

 そう尋ねれば、どこからともなく声が聞こえてきた。



「キトリ―――――ッ!!」
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