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第五章「告白は二人っきりで!」
19 目覚めて
しおりを挟む「……んー、パンケーキには生クリームたっぷりでぇ」
「どんな夢を見てるんですか」
寝言に突っ込まれて俺はパチッと目を覚ます。そうすれば横になっている俺を椅子に座ったレノが心配そうな顔で見ていた。
「ん? レノ??」
「体は大丈夫ですか?」
「あ、カラダ?」
なんでそんなことを聞くんだろう? とまだぼんやりとしている俺は思う。だがそんな俺の考えを読んだレノは小さなため息を吐いた。
「倒れたんですよ、アナタ」
「へ、倒れた?」
「そうです。昼間、魔獣を倒すのに加護の力を使い過ぎてね」
レノに言われて、俺はようやく思い出す。昼に何があったのかを。
「あー、そう言えばそうだったな」
俺は天井を見上げながら呟く。そして部屋がランプで照らされ、窓の外がすっかり暗くなっていることに気がついた。
「俺ってば結構寝てた?」
「いえ、あれから六時間ほど経ったぐらいです」
「そっかー。今回は回復が早いなー」
「倒れた後、すぐにランネット様が治癒の力をキトリー様に使ってくださったからですよ。いつもなら丸三日は寝ているところです」
「ランネット様が?」
……姉ちゃんが治癒の力を使ってくれたから回復が早いのか~。なるほど。
俺は能天気にそう思う。しかしそんな俺にレノは尋ねた。
「で、体は大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫、大丈夫。この通り、ぴんぴんしてるぞ。むしろ元気でお腹が空いてるぐらいだ」
俺は体を起こして元気アピールをして見せた。するとレノは安堵するより呆れたため息を吐く。
「なんだよ? 元気だって言ってるだろ?」
「……あまり力を使い過ぎないでください。キトリー様が目覚めるまで、こちらは気が気でないのですから」
「そうは言ってもよぉ、魔獣相手に中途半端な事できるかよ~」
「それでも、です。いつか目覚めない時が来るんじゃないかと心配なんですよ」
レノはそう言うと俺の手をぎゅっと握った。その手は縋るようで、俺はなんだかちょっとばかし申し訳ない気分になる。
「わかったよ。善処する」
「そうしてください。それよりお腹が空いているのですよね? 何か食べるものを頂いてきます」
レノはそう言って席を立とうとした。でも俺は飯よりも前に話がしたかったのでレノをすぐに引き留めた。
「レノ、ちょっと待って。確かに腹は減ってるけど先に話を聞かせて。あれから、どうなったんだ?」
俺が尋ねれば、レノは一度あげた腰を再び下ろし、説明してくれた。
「キトリー様が倒られた後、ランネット様がすぐに治癒の力を使って下って、アシュカ様が乗ってこられた馬車でそのまま大神殿まで送ってもらいました。その後、デンゼルさんから聞いた話ではジルド枢機卿とエルダー枢機卿は今回の話をなかったことにし、自称皇女様の娘と名乗っていた少女は弟と保護されることになりました」
「あのおっちゃん達、辞退したってことか」
「はい。そしてその少女に皇女様の娘役をするよう借金取りを介して命令した枢機卿の一人が捕まりました。どうやら二人のジルド、エルダー枢機卿の事をよく思っておらず、二人のどちらかに権力が集まることを危惧した為に今回の事を起こしたようです」
「そうか。全部アシュカが調べてきたのか?」
「はい。リトロール王国に行くと言ったのも、黒幕を欺き、少女の弟を借金取りから保護する為だったと」
「なるほどね。で、魔獣のことについては調べがついたか?」
「ええ。魔獣の出所ですが、騎士が町を探索したところ近くで複数名の男の遺体が見つかったそうです」
「遺体が? やっぱり誰かが禁術を使って魔獣を呼び出しを?」
俺が尋ねればレノはしっかりと頷いた。
実は魔獣はそうそう町の中に現れたりしない。普通は自然の中に発生して、その内に町へとやってきて人に危害を加え始めるのだ。そして大抵が狼クラスの大きさだ。なので今回の事は全てがイレギュラー過ぎた。
つまり何かが干渉している、と魔獣が現れた時点で俺は察していた。
「そのようです。辛うじて生き残った者の話では、北の小国だったホランで手に入れた禁書により、魔獣を呼び出したようです」
「ホラン……魔獣研究に手を出して、その魔獣に国を滅ぼされた例の国か」
俺は歴史を思い出しながら呟く。そのホランはすでにバルト帝国の一部となっているが、一世紀ほど前まで北の小国だった。だが当時の王が愚かにも魔獣研究に手を出し、その魔獣によって国は滅ぼされた。
後にその魔獣は当時の聖人様達とバルト帝国の騎士団によって討伐されたが、壊滅状態だったホランをバルト帝国が面倒を見る形で吸収。今では平和を取り戻し、良質な小麦やじゃがいもが売りの名産地になっている。
だが、その時の魔獣の研究書が外部に漏れ出てしまったのだろう。
「魔獣を操れるとでも思ったのか。全く……」
「彼らは聖人であるランネット様を皇王として据え置きたかったようです。その為、魔獣を操ってエンキ様や枢機卿達を亡き者にしようとしていたと」
……姉ちゃんが言っていた外部の組織か。
「でもあの場所にはランネット様もいたのに?」
「生き残った者の話によれば、ランネット様もいたとは知らなかったようです」
「なんともお粗末だな。で、その禁書は?」
「アシュカ様が問答無用で燃やされました」
……あー、なんか想像つくわー。まぁ、魔獣がどれだけの被害をもたらすか、魔獣と対峙する機会が多い聖人のアシュカはよくわかっているもんな。
俺は怒りの炎で本を焼くアシュカを思い浮かべる。
「でもま、とりあえず全部まるっと収まった感じだな」
「そうですね。一応、エンキ様の後はナギさんに任せる、という形をとるかと。……ですが」
言い淀むレノに俺は思わず尋ねる。
「うまくいくか心配か?」
そう聞けば、レノは正直に頷いた。
……まあ、また聖人様を王に! とか。やっぱり聖女様の一族が継ぐべき! とか、そういう声が上がってきたりするだろう。それこそ神様が決めたりしない限り。けど……。
「ま、大丈夫だろ。なんとかなるだろ」
「楽観的ですね」
「そーでもないさ。今後、俺自身の身の振りをどーしよーかなぁ? とか思ってるし」
俺が告げればレノは顔を険しくした。
……俺の正体、みんなにバレちまったからなぁ~。”雷を操る聖人”だって。
聖人と認知された以上、俺はこの大神殿に駐留しなければならないだろう。
本来であれば、聖人の力が発現した時点で神殿に報告し、聖人の身を守る為、力の扱い方を先輩聖人から学ぶ為に大神殿の保護下に置かれなけらばならない。でも俺は、今までそれを無視してきた。しかし正体がバレた以上、無視することは叶わないだろう。
……バルト帝国に戻ったところで、公爵家に面倒をかけるだろうし、別邸にも戻れない。聖人ってだけで、信者が押し寄せてくるだろうからなぁ。
だからこそ俺は三歳の頃に力に目覚めても、ずっと黙っていた。
まぁ、レノだけには見つかってしまったけれど――――。
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