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第五章「告白は二人っきりで!」

3 ぽよよん

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「ら、ランネット様??」

 ……なぜに鍵をかけられたのでッ!?

 俺は目でランネット様に投げかける。だが、ランネット様は答えずにそっと俺の顔を両手で包む。

「あ、あの! ランネットサマぁ!?」

 ……聞いてますッ!?

 俺はわたわたとしながらランネット様に声をかける。だが、ランネット様は俺の顔をまじまじと見ると、突然俺をぎゅっと抱き寄せた。なので、俺の体にぽよよんっと柔らかいパイパイが当たる。

 ……ギャアアアッ! やっぱり『お詫びは私のカラダ』ルートなの!?

「ちょ、ランネット様、は、離してっ! お、俺にはッ、レノって恋人がッ!!」

 俺はウギギギッとランネット様から離れようとするが、ランネット様は意外に力強く、俺をぎゅぅーっと抱き締める。そうすれば、ぽよんぽよんっと余計に柔らかい弾力が俺の体に!
 本当なら男として喜ぶところなのかもしれないけど、チェリーな俺には恥ずかしさしかない。だって女の子の体に触る機会なんてないんだもん!

 ……ひゃああぁっ、お、お胸が当たってますってぇッ!!

「ランネット様、はなしっ」

 俺はわたわたとしながら言う。でも慌てる俺にランネット様は囁いた。

「会いたかったわ、りっちゃん」

 その言葉を聞いて俺の体も心も硬直する。
 だってそれは誰にも知られていない、レノだって知らない遠い昔の、俺のあだ名だから。

 ……でもこの人は今、確かに言った。

 だから俺は離れることを止めて顔を向ける。

「今、なんと?」

 俺が尋ねればランネット様は笑って俺を見た。海のような青い瞳が色は違うのに、懐かしい眼差しを呼び起こさせる。そしてランネット様は問いかけた俺にもう一度言った。

「会いたかったわ、りっちゃん。と言ったのよ」
「……どう、して……その、名を」

 俺が声を震わせながら尋ねれば、ランネット様はフフッと笑った。その笑い方に俺はある人物が重なる。とても良く知っているあの人に。

「まさか、アナタは……!」

 ……さっきからずっと感じている違和感の正体って!!

 そう思えばランネット様はパチンっと俺にウインクをした。

「久しぶりね、りっちゃん! 前世以来だけど、元気にしてるみたいで良かったわ~っ」

 ランネット様はさっきまでとは打って変わって、まるで別人のように俺に話しかけた。けれど、その喋り方で俺は完全にあの人を思い出す。

 俺をBLの世界に引き込み、時々傍若無人だけど優秀で、誰よりも俺に優しかった俺の前世の家族。我が姉(マイシスター)蘭子(らんこ)を!!

「も、もしかして、姉ちゃんッッ?!」

 俺が呆然としつつも尋ねれば、ランネットこと蘭子姉ちゃんはにぱっと笑った。

「あったりー♪」

 姉ちゃんはブイッとピースサインを見せる。その姿、外側は変わっても中身は姉そのままである。なので、俺は思わず大きな声を張り上げてしまった。

「どぅえええええぇぇぇっっ!?!?!」
「ちょ、ちょっとちょっとぉー、声が大きい!」

 姉ちゃんは俺の口をすぐに塞ぐ。

「ふごっ」
「もー、大きな声を出しちゃったら」

 姉ちゃんが呟くと早速俺の声に反応したレノがドアを強く叩いた。

「坊ちゃんッ! どうしましたッ!?」
「ほぅら、レノ君が驚いちゃったじゃない」
「うっ、ごめん。……レノ! 俺は大丈夫だから待ってて。ちょっと驚いただけだからッ」

 俺はすぐにレノに大きな声で告げる。そうすれば、ほっとしたような声が返ってきた。

「本当に大丈夫ですか?」
「ああ、すまない。待っててくれ」
「……わかりました」

 レノは少し間を置いてから答えた。なんだか顔は見えていないのに、不服そうな表情がありありと思いつく。

 ……あとで誤魔化さないとなぁ。

 俺がドアを見つめながらそんな事を思えば、姉ちゃんは俺の頬を人差し指でツンツンと突っついた。どこぞの料理人と同じように。

「ウフッ。りっちゃんってば、やっぱりあのレノ君といい仲なのぉ? あんなに心配してくれちゃって、愛されてるわねぇ」

 にやついた顔で言われ、血も繋がってないし顔も全く似てないのに、こういう所はなぜか強い血の繋がりを感じる。というか俺を見ているみたい、さすが前世での我が姉(マイシスター)。

「べべ、別にいい仲ってわけじゃ!」
「さっきぃ、レノって恋人がいるって言ってなかったぁ?」
「あ、あれは!!」
「というか隠しても、りっちゃんが侍従のレノ君とお付き合いしてるのは知ってるのよねぇ」
「なぜ、それを!!」

 俺が一歩のけ反って言うと姉ちゃんはウフフッと笑った。

「んー、秘密の情報網ってやつ?」

 ……こわっ! でも思えばこの人、前世でもなんかすげー人脈もってたんだよな。

 俺は前世から姉が広い人脈を持っていたことを思い出す。それこそ学生の時、俺が落とした財布を携帯一つの声掛けで数時間後に見つけ出したり(姉の友人が見つけてくれた)、姉が大人になって旅行に行ったと聞いて尋ねれば、どこかの先住民族と会っていたり、ハリウッド俳優と写真を撮ってたり、はたまたどっかの国の王様とアフタヌーンティーしていたかと思えば、ホームレスのおっちゃん達と仲良く公園で酒を飲んでいたり。

 ……そうだったわ。この人のコミ力、チート級に半端なかったんだわ。

 俺は姉を見て思い出す。そしてその力は今現在もお持ちのようだ。

「でぇ~? りっちゃん、さっきの彼といい仲なんでしょぉー? ほらほらぁ、お姉ちゃんに白状しちゃいなさいよぉー」

 姉ちゃんは俺に体を寄せて、頬をツンツンしてくる。
 これは絶対楽しんでいる顔だ。だって、俺だってそうするもん!!

「う、うぐぅっ」
「うふふっ、恥ずかしくって言えないって感じぃ? もしかして……いくとこまでいっちゃった?」

 姉ちゃんに聞かれて俺は声を上げる。

「お、俺とレノは健全なお付き合いしかしてません!」
「あらー、そうなのぉ? 残念」

 ……何が残念か! 残念な事あるかい!

 そう思うが俺は不意にレノにディープなキスをされた事を思い出す。あれは健全とは言えないだろう。なので、ぷしゅぅ~と顔が熱くなってくる。

「あんらぁー? 顔が赤くなってきちゃったけどォ。何か思い出しちゃった?」
「もぉぉぉー、姉ちゃんッ!!」

 俺は恥ずかしさでプンッと怒る。そうすれば姉ちゃんはケラケラと笑った。

「ごめん、ごめん。からかい過ぎたわね。でもこれくらい許してよね、りっちゃんってばお姉ちゃんの事、全然思い出してくれないんだもん。私はりっちゃんがこっちの世界にきてるってわかってたのにさぁー」

 姉ちゃんは口を尖らせながら言った。でも俺は驚く。

「え、俺が来てるってわかったの!?」

 俺は尋ねれば姉ちゃんは部屋に置いてある棚に向かい、一番上の引き出しから一冊の本を取り出した。
 そこには『転生したらそこは異世界でした! 著・フォレスト・リバー』と書かれた本があった。俺の本だ!

「この著者の名前と内容を見て、りっちゃんだと推測しました。りっちゃん、こーゆうピュアピュアなお話好きだもんねぇ。それに著者名もりっちゃんの好きなせいゆ」
「もー、わかったから!」

 俺は本を奪い取って姉ちゃんの言葉を止めた。身内に自分の趣味を詰め込んだ小説を読まれることほど恥ずかしいことはない。

「ふふっ、恥ずかしがっちゃってかぁーわい。でもお姉ちゃんとしてはもうちょっと激しめのプレイがあってもいいのにって思っちゃった」
「俺にそんなの求めないで」

 ……そういや、この人。えちえち、ドッキングありの監禁・凌辱ものが一番好きだったっけ。

 俺は前世での姉の本棚コレクションを思い出して顔を引きつらせる。確か肌色一色だった気がする。いや、人の趣味はそれぞれだからいいけどネ?
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