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第五章「告白は二人っきりで!」

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 皆さん、こんにちは。いかがお過ごしですか?

 俺ことキトリー・ベル・ポブラットは馬車に揺られて、神聖国へ輸送されてます。誘拐犯と言う犯罪者として――。


 ……オーマイガッ!! アイアム、ノット、ギルティィィっ!


 ――――それは遡る事、三日前の出来事だった。
 神聖国の神官がやってくるなり、俺をアシュカの誘拐犯だと言って身柄を確保したのだ。当然俺は無実であると主張し、アシュカはすでに帰ったと告げたが『聖人であるランネット様の指示』らしく、神官達では覆せないらしい。

 という事で、俺は身の潔白を証明する為に神官達の手厚い護送により、神聖国へと向かう事になった。付添人をひとりだけ付けて。



 ◇◇



「はぁー、まだつかねーのかなぁ~」

 昼も過ぎた頃。俺は馬車の中、ごろんっと寝転がってだらしない格好で呟いた。走る馬車は揺れるが、持ってきたクッションのおかげで多少マシになっている。
 そしてそんなだらしない俺を見て、向かいに座る奴は。

「馬車の中だからってお行儀が悪いですよ」

 付添人として一緒に来たレノが呆れた顔で俺に言った。

「だってよー、もう三日目よ? 馬車旅も飽きたぁー!」

 俺は小さな子供の様にブーブーと駄々をこねる。なので、そんな俺にレノは小さなため息を吐いた。

「気持ちはわかりますが、我慢してください」

 そうレノは俺に言った。
 二回も俺にディープなキッスを見舞ったのに、いつもと態度が変わらない。あんなキスをしたのだから、もうちょっと恥じらってくれてもいいのに。
 と思いつつ、俺の方が恥ずかしくて、ちょっと頬が熱くなる。

 ……でも、二回目された時も別に嫌じゃなかったんだよな。それってもしかして?

 俺はチラッとレノを見る。

「どうかしましたか?」
「……いや」

 レノに尋ねられて俺はすぐさま目を逸らす。

 ……うーん、俺自身の気持ちがわからん。でも俺ってば、自分がなるより壁か天井になって見守ってたいんだけど。ふぅっ。

「キトリー様」
「ん?」
「町が見えてきましたよ」

 レノは窓の外を見て言い、俺はすぐさま体を起こして同じように窓の外を見る。
 そこには神聖国の街並みが広がり、少し離れた小高い丘には白亜の大神殿が町を見下ろすように建っていた。

 ……おー、いかにも宗教国家って感じ! 神聖国って来た事ないから、ちょっとテンション上がるなー!

 俺は窓の外を見て、少しうきうきする。けれどレノは違った。

「早くアシュカ様に会って、誤解を解いてもらわなければ」

 珍しく少しピリピリしているレノ。
 だから俺はそんなレノを横目で見ながら、その緊張をほぐすように「そうだなー」と軽く返事をしておいた。



 だが、この時の俺はまだ知らなかった。
 神聖国で巻き起こる事件に関わることになろうとは――。



 ◇◇◇◇



 ――――それから俺達は大神殿に到着し、馬車を下りた。そして部屋に案内されて、待つこと数十分後。

「キトリーッ、こんなに早く出会えるなんて!」

 アシュカは駆け寄ってくるなり、俺に抱き着こうとした。しかしその首根っこをデンゼルさんがしっかりと捕まえる。グッジョブ、デンゼルさん!

「何しようとしているんですか。アナタは!」
「ちょっとデンちゃーん。今のは感動の再会シーンでしょ」

 アシュカはぷくっと頬を膨らませた。けれどデンゼルさんは俺達を見て、頭を深々と下げる。

「重ね重ね、キトリー様にはご迷惑をおかけして申し訳ございません。まさか連絡の行き違いがあったとは。こちらまでご足労おかけし、謝罪の言葉もありません」

 デンゼルさんはきっと俺が誘拐犯として連行されたことを先程聞いたのだろう。申し訳なさそうに、眉が見事なまで八の字に下がっていた。別にデンゼルさんのせいじゃないのに。

「いや、間違いとわかって良かったです。まさか誘拐犯と言われるとは思いませんでしたけど」
「僕はキトリーが誘拐してくれるなら、どこでも付いていくよ?」

 アシュカが呑気に言うものだからデンゼルさんはキッとアシュカを睨んだ。

「アナタ様は黙っていてください!」

 デンゼルさんが怒りの雷を落とすと、さすがのアシュカも「はいはい」と大人しく口を閉じる。けれどお怒りのデンゼルさんにレノが尋ねた。

「では、誤解も解けたようですし、我々は帰っていいという事ですね?」

 レノが言うとデンゼルさんはすぐに少し気まずそうな表情を見せた。

「それが……」
「何か問題でも?」
「実は……ランネット様がキトリー様にお会いしたいと」
「俺に?」

 おずおずと答えるデンゼルさんに俺は尋ねた。

 ランネット様と言うのはアシュカと同じ聖人様の一人である。
 ランネット様には治癒能力があり、彼女が祈りを唱えると軽い怪我なら傷が治ったり、大怪我や病気でも治りが良くなるそうだ。まあ、勿論死んだ人間を蘇らせたり、失くした腕を元通りに戻すなんて事は出来ないみたいだが。
 
 ……ま、そんな事ができたら、もうそれは神様の領域だよね。

 でもそう言った理由でランネット様は"癒しのランネット"とも呼ばれている。
 そしてそして、噂ではランネット様はすんごい美女らしく、年齢は三十代手前の色っぽいお姉さんという話だ。

 ……すんごい美女なんて、これは一度お目通り願いたいでしょッ! 美女が嫌いな男なんていないもんね!!

「坊ちゃん?」
「ひょ!?」

 ……心を読まれた?! 違う、これは好奇心なだけであってだな!!

 レノに呼びかけられ、俺は慌てて心の中で言い訳をする。しかしレノが俺を呼んだのは別の用だった。

「何を一人で慌てているんですか。……ランネット様にお会いしましたら、すぐに屋敷に戻りますよ。いいですね?」
「え、あ、うん」

 責められると思っていた俺はレノの言葉にちょっと拍子抜けする。

「デンゼル様、我々はランネット様にご面会頂いた後はすぐに帰国いたしますので、そのように手配をしていただいても?」
「勿論です。こちらの不手際でお呼びしてしまったのですから、すぐに手配いたしましょう。けれど長旅でお疲れなのでは? 折角ですから、こちらで数日ゆっくりされていかれては……」
「いいえ。家の者も心配しているでしょうし、キトリー様にも仕事がございますので」

 レノはハッキリと断った。俺としては折角来たのだから、二日ぐらい、ゆっくりしたい。……だが。

 ……まぁみんな、心配してたもんなぁ。確かに早く帰った方がいいかも。

 俺は屋敷で待つ家人達を思い浮かべる。

「デンゼルさん、申し訳ないけど帰る手配をお願いします」

 俺が頼めば、眉を八の字に下げたままのデンゼルさんは「畏まりました」と了承した。

 そして、それから俺達はデンゼルさんが呼んだ別の神官に連れられて、ランネット様の元へ向かう事となった。
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