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第四章「ディープな関係!?」

17 子供達とお家探検

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 それから俺はアシュカにあるお願い事をして、時間を見つけては常に一緒にいるようになった。
 でもレノはそれについては何も言わず、いつも通り。その冷静な態度に俺は嵐の前の静けさなんじゃないかと恐ろしさを感じつつも、アシュカがここに来て七日目。

 昼も過ぎた頃にザックが食料を配送しに来てくれた。あの三人の子狐達を連れて――。


 ◇◇


「ザック、今日もありがとなー」

 俺が厨房に顔を出すと、ザックはヒューゴと発注の確認をしていた。そしてその周りにはジャック、ケルビン、コリンと仲良し三人組(トリオ)が揃っている。

「「「キトリー!」」」

 俺が声をかけると、三人は揃って声を上げた。

「おー、お前達も来たんだな」
「今日はザックと一緒だよ!」
「よしよし、偉いぞ」

 コリンが主張する様に言い、俺はぽんぽんっと撫でる。するとジェイクとケルビンも耳をへたっと下ろして撫でられ待ち。可愛いじゃないの~。
 なので、俺は二人の頭もぽんぽんっと撫でる。

「折角来たんだ。屋敷の中を探検でもするか?」

 俺が尋ねれば三人は嬉しそうに真綿のような白い尻尾をフリフリさせた。

 ……か、かわええのぉ~! もうオジちゃん、後でおやつもあげちゃうぞっ!

 俺は気持ちが完全にオジちゃん化する。いやまぁ、精神年齢は前世現世合わせて五十の立派なおっさんですからネ。

「なぁザック、三人を連れて屋敷を回ってくるけど時間はいいか?」
「ああ、いいですよ。俺はヒューゴさんと話してますから」

 付添人であるザックに尋ねると快く頷いた。

「オッケー。……ところで今日もノエルは家でお留守番か?」

 辺りを見渡してもノエルがいない。今ままではずっと一緒に来てたのに。

 ……まさか、まだ体調が悪いという訳じゃないよな? もう一週間近くだぞ?

「あー、ノエルは用事があって家にいるんですよ。また近々来ますから」
「そーかー? それならいいけど」

 俺はその返事にホッとするが、ザックは何やら勘違いをしたらしい。

「それとも何ですか、キトリー様。俺のノエルに何かよこしまな気持ちでも?」

 ザックは俺に詰め寄るとじとっと俺を見つめた。全く、嫉妬深い男はこれだから。

「んなわけあるかい! 年下は俺の範疇外だ!」

 ……ただでさえ精神年齢は五十のおっさんなのに、あんなかわいこちゃんの、しかも十六歳の子に手を出せるかッ。てか、そもそも可愛くてもノエルは男だろ! 俺は女の子の方が好きなの!!

 俺はそう思うが視線を感じてハッと後ろを振り向けばレノが!

「ヒェッ! レノ!! ……ち、違うからな!? 冤罪だぞ!」

 ザックとのやり取りを聞かれたと思った俺がすぐに声を上げると、レノは呆れた顔をした。

「キトリー様がノエル君に興味がないことはわかってますよ。……それよりザック、少々話しが」

 レノは俺をスルーしてザックに話しかけた。その塩対応に俺はちょっとイラっとする。

 ……何だよ、一応弁解したのに! ……てか、こないだから俺ってばレノに弁解してばっかだな? 浮気してないのに。

 そう思うが、不意に俺の脳裏にアシュカとのキスが過る。別に俺がしたわけじゃないし、勝手にされた事なんだけど。レノを見ると胸がつきりと痛い。

 ……うう、胸の奥に刺さる罪悪感。……けどなぁ、レノに言ったらどんなお仕置きをされるか。嘘ついたら覚悟しとけって言われたし。うーむ、言いたくない。罪悪感より俺のおちりの方が大事。

 俺は腕を組んで、口を固く閉じる。でもそんな俺の服を三つの手がくいくいっと引っ張った。

「キトリー、探検は~?」
「行かないのー?」
「ねぇねぇ~」

 子狐達に言われて俺は我に返る。なので「ごめんごめん。行こうか」と俺は子供達を連れて厨房をそそくさと出て行くことにした。




 
 ――そしてキトリーを見送った三人と言えば。

「おいレノ、さっきの言い方はないんじゃないのか? 俺が聞いたのが悪かったけど」

 ザックはキトリーが去ってからレノに言った。しかしレノはザックに冷ややかな視線を向けた。

「お前には関係ないだろう?」

 スパッとした切れ味のいい返事にザックはムッと眉間に皺を寄せる。ザックは元公爵家の騎士だったので、本邸に勤め、同い年のレノとはそれなりに仲が良い。こんな軽口を言い合う程度には。

「はいはい、そーかよ。キトリー坊ちゃんに愛想つかされても知らないからな?」
「ザックは死に急ぎたいようだな? ノエルに何か言い残しておくことがあるなら聞いておくが?」

 レノはニコッと笑って、白い歯を見せて言った。レノの八重歯は鋭く、そこには蛇獣人らしく猛毒が仕込まれている。一噛みされれば命はない。なのでザックは両手を上げて謝った。

「わ、悪かったよ。もうなんも言わないから」

 ザックが言えばレノは口を閉じ、その事にホッとするザック。

「それより俺に話って?」
「この前の護衛の賃金だ」

 レノはそう言うと銀貨が数枚入っている小さな袋をポケットから取り出した。

「あー、いいよ。護衛と言うより、遊びに付き合ったようなもんだし」
「それは困る。お前が受け取らなかったら私がキトリー様に怒られる。そういう所はキッチリしてる人だからな」

 断るザックにレノは袋を差し出した。なので渋々とザックは受け取る。

「別にいいのに。けど本当キッチリしてるよな、キトリー坊ちゃん。普段はああなのに」

 ザックは呟き、その場に居たレノとヒューゴもののほほんっと笑うキトリーの顔を浮かべる。そこには威厳も気品もない。

「ま、そーじゃなきゃご当主のエヴァンス様が領主代理を任したりしないだろ」

 ヒューゴは笑いながら言い「確かに」とザックは納得するように呟いた。

「ああ見えて、キトリー坊ちゃんって妙にどこか大人びたところもあるもんなー。レノもそう思うだろ?」

 ザックに聞かれ「まあ」とレノは短く答えた。

「まあ、って味気ない返事だな。これじゃ、キトリー様もアシュカ様に鞍替えかもな」

 ザックが告げるとレノはザックの肩にぽんっと手を置いた。

「やはり、死に急ぎたいようだな?」

 レノは再び白い歯を見せながらにっこりと笑い、ザックは顔を青ざめさせた。

「じょ、冗談だろ!? 本気にすんなって!!」
「怖がらなくても私の毒は猛毒だ。知らぬ間にあの世に行けるぞ」
「悪かったって! 謝るからー!」

 ザックは逃れようとするが肩を掴むレノの手が離れない。
 そして、じゃれ合う二人を見つめつつヒューゴは呆れながら思った。

 ……二人は本邸時代から変わらずだな、全く。けど……坊ちゃん、早く白黒つけてやらないとレノが可哀想ですよ。

 そうヒューゴは心の中で呟いたのだった。

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