上 下
79 / 176
第四章「ディープな関係!?」

9 WHAT????

しおりを挟む
 それから夕食も過ぎて夜、レノは廊下を歩いていた。
 しかし、ある部屋を通り過ぎようとした時、ドアが突然開いてレノは中に引き込まれた。

「レノ、違うからな!? デートじゃないから!!」

 開口一番、俺が告げるとレノは呆れた顔を見せた。

「いきなりなんです?」
「アシュカと明日行く湖の件だよ」
「それはわかっていますが、急になんですか」

 レノは呆れてはいるが怒ってはいなかった。だから俺はおや? と思う。

 ……ザックとヒューゴはレノが怒ってるって言ってたけど、違ったのかな?

「俺は、お前が勘違いしてるかと思って」
「別に勘違いしていませんよ。明日はアシュカ様とデートですものね?」

 レノはにこにこと笑いながら俺に言った。なので俺はピンっと来る。

 ……あ、これ、怒ってるやーつぅー。

「だーかーら、違うって言ってんだろ? ただのピクニックだって!」

 俺はまるで浮気を弁解する夫みたいだ。いや、俺は浮気してませんけど! 浮気、ダメ、絶対!!

「キトリー様はそう思っていても、向こうはそうは思っていなかったようですが? それに二人っきりで行くんですよね? それはデートなのでは?」
「二人っきりでデートっていうなら、俺はお前とどんだけデートしてんだ! ともかく、明日は湖を案内するだけだからな! デートじゃないから!!」

 俺が意見を押し通すとレノは小さく息を吐いた。

「はいはい、わかりました。デートじゃない、これでいいんでしょ?」

 適当な返事に俺はちょっとムッとするが、とりあえず今夜は寝られるだろう。

「わかってくれたならいいんだ。じゃあ、戻っていいよ。俺は明日の為にもう寝るから」

 安心した俺はそれだけ言ってベッドに向かおうとした。けれどそんな俺の腕をレノがガシッと握る。

「ひょ?! な、ナニ?」
「坊ちゃん、明日アシュカ様と湖に行くことは止めません。ですが気分は最悪です。なので補填してもらえますか?」

 レノは真面目な顔をして言う。だが俺は何のことかわからず聞き返した。

「は? 補填ってなんだよ?」
「キスしてください」

 ……WHAT(ワッ)????

 俺が首を傾げると、レノはすぐさま俺の腰をぐっと抱き寄せ、顔を近づけてきた。おかげでレノのバッサバサに長いまつ毛がよく見える。

「聞こえませんでしたか? キスして下さいと言ったんですよ」
「キキキキキッ、キッスぅ!?」
「一度したんですから、二度目は何てことないでしょう?」
「いや、あれは寝ぼけていたからであってだなっ!」

 俺は声を上げるが、レノは顔をじりじりと近づけてくる。なので俺はレノから顔を背けて、声を上げた。

「ちょっとタイム、ターイム!」
「何ですか。腹を括りなさい」
「何を括らせる気だ!」
「それとも今夜は寝ないコースをご所望ですか? まあ、私はそれでもいいですが」

 レノはにっこりと笑って言う。そして俺の腰を支える手にぐっと力が込められ、俺の尻が危険を感じてプルッと震える。

 ……キスしないと、食べられちゃう!!

「わかった! キスするから、ちょっと心の準備をさせろ!」
「わかりました。では、心の準備が整ったらいつでもどうぞ?」

 レノはそう言うと目を閉じた。

 ……うぐぐっ、これはキスしないと放してくれないやつだな。でも素面で、今からキスしなきゃなんないの?! レノの唇、艶プルなんですけど!

 俺の心臓はドキドキと煩く鳴る。

  ……落ち着け、俺の心臓。大丈夫、ちょっと軽くタッチするだけだ。それが唇なだけであって、なんてことないさ。手だってレノと合わせられるだろ? そう、だから。

「坊ちゃん、まだですか?」

 レノに催促され、俺は「ヒャッ! ちょ、ちょっと待て!」と慌てて返事をする。

 ……もう、心を落ち着かせてたのに!

 そう思うが、レノは目を瞑ったまま待っている。

 ……ぐっ、ここは漢を見せろキトリー! こーゆのは勢いだ!!

 俺は心の中で気合を入れる。そして俺からのキスを待つレノを見て、レノの顔を両手でぺちっと包んだ。

「す、するからな!?」
「はい、どうぞ」

 俺はドキドキしてるのにレノは動揺一つない。なんか、ムカつくな。
 そう思いつつも俺はレノの艶プルな唇を見る。リップクリームのCMにでも出れそうな唇。

 ……この唇に俺がキス。うぐぐっ……いや、やるんだキトリー!

 俺は自分を奮い立たせ、ええいっ!と顔を寄せる。でも唇が触れる一歩手前で、俺の羞恥心が心のドアを破壊して叫んだ。

『唇にチュウは、やっぱ無理ィィィッ!!』

 俺は恥ずかしさで唇にはできず、進路変更してレノの顎にちゅっとキスをした。

「あのー、坊ちゃん。そこは顎なんですが」

 レノは目を開け、呆れた声で言う。だが真っ赤な顔して、プシュップシュッと沸騰したやかんのように熱気を出す俺を見て、レノはそれ以上咎めなかった。

「全く……しょうがない人ですね。今回はこれで許しておきましょう」

 レノはくすっと笑うと、俺の腰を掴んでいた手を離した。そしてレノは俺の顎に手を当てて、顔を上げさせるとにっこりと笑った。

「次回はきちんと唇にキスしてくださいね? 坊ちゃん」

 レノはそう言うと、俺のおでこにちょんっとキスをして「おやすみなさい」と、一言言って爽やかに部屋を出て行った。

 しかし残された俺は、ヨロロッとベッドに辿り着くとぽふんっと倒れた。

 ……は、は、ハッズかしぃぃぃぃぃっ! しかも、おでこにまたチューされたぁぁ!

 俺は心の中で大絶叫し、ゴロンゴロンっとしばらくベッドの上を転げるのだった。



 むっきゃ―ッ!
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...