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第四章「ディープな関係!?」

9 WHAT????

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 それから夕食も過ぎて夜、レノは廊下を歩いていた。
 しかし、ある部屋を通り過ぎようとした時、ドアが突然開いてレノは中に引き込まれた。

「レノ、違うからな!? デートじゃないから!!」

 開口一番、俺が告げるとレノは呆れた顔を見せた。

「いきなりなんです?」
「アシュカと明日行く湖の件だよ」
「それはわかっていますが、急になんですか」

 レノは呆れてはいるが怒ってはいなかった。だから俺はおや? と思う。

 ……ザックとヒューゴはレノが怒ってるって言ってたけど、違ったのかな?

「俺は、お前が勘違いしてるかと思って」
「別に勘違いしていませんよ。明日はアシュカ様とデートですものね?」

 レノはにこにこと笑いながら俺に言った。なので俺はピンっと来る。

 ……あ、これ、怒ってるやーつぅー。

「だーかーら、違うって言ってんだろ? ただのピクニックだって!」

 俺はまるで浮気を弁解する夫みたいだ。いや、俺は浮気してませんけど! 浮気、ダメ、絶対!!

「キトリー様はそう思っていても、向こうはそうは思っていなかったようですが? それに二人っきりで行くんですよね? それはデートなのでは?」
「二人っきりでデートっていうなら、俺はお前とどんだけデートしてんだ! ともかく、明日は湖を案内するだけだからな! デートじゃないから!!」

 俺が意見を押し通すとレノは小さく息を吐いた。

「はいはい、わかりました。デートじゃない、これでいいんでしょ?」

 適当な返事に俺はちょっとムッとするが、とりあえず今夜は寝られるだろう。

「わかってくれたならいいんだ。じゃあ、戻っていいよ。俺は明日の為にもう寝るから」

 安心した俺はそれだけ言ってベッドに向かおうとした。けれどそんな俺の腕をレノがガシッと握る。

「ひょ?! な、ナニ?」
「坊ちゃん、明日アシュカ様と湖に行くことは止めません。ですが気分は最悪です。なので補填してもらえますか?」

 レノは真面目な顔をして言う。だが俺は何のことかわからず聞き返した。

「は? 補填ってなんだよ?」
「キスしてください」

 ……WHAT(ワッ)????

 俺が首を傾げると、レノはすぐさま俺の腰をぐっと抱き寄せ、顔を近づけてきた。おかげでレノのバッサバサに長いまつ毛がよく見える。

「聞こえませんでしたか? キスして下さいと言ったんですよ」
「キキキキキッ、キッスぅ!?」
「一度したんですから、二度目は何てことないでしょう?」
「いや、あれは寝ぼけていたからであってだなっ!」

 俺は声を上げるが、レノは顔をじりじりと近づけてくる。なので俺はレノから顔を背けて、声を上げた。

「ちょっとタイム、ターイム!」
「何ですか。腹を括りなさい」
「何を括らせる気だ!」
「それとも今夜は寝ないコースをご所望ですか? まあ、私はそれでもいいですが」

 レノはにっこりと笑って言う。そして俺の腰を支える手にぐっと力が込められ、俺の尻が危険を感じてプルッと震える。

 ……キスしないと、食べられちゃう!!

「わかった! キスするから、ちょっと心の準備をさせろ!」
「わかりました。では、心の準備が整ったらいつでもどうぞ?」

 レノはそう言うと目を閉じた。

 ……うぐぐっ、これはキスしないと放してくれないやつだな。でも素面で、今からキスしなきゃなんないの?! レノの唇、艶プルなんですけど!

 俺の心臓はドキドキと煩く鳴る。

  ……落ち着け、俺の心臓。大丈夫、ちょっと軽くタッチするだけだ。それが唇なだけであって、なんてことないさ。手だってレノと合わせられるだろ? そう、だから。

「坊ちゃん、まだですか?」

 レノに催促され、俺は「ヒャッ! ちょ、ちょっと待て!」と慌てて返事をする。

 ……もう、心を落ち着かせてたのに!

 そう思うが、レノは目を瞑ったまま待っている。

 ……ぐっ、ここは漢を見せろキトリー! こーゆのは勢いだ!!

 俺は心の中で気合を入れる。そして俺からのキスを待つレノを見て、レノの顔を両手でぺちっと包んだ。

「す、するからな!?」
「はい、どうぞ」

 俺はドキドキしてるのにレノは動揺一つない。なんか、ムカつくな。
 そう思いつつも俺はレノの艶プルな唇を見る。リップクリームのCMにでも出れそうな唇。

 ……この唇に俺がキス。うぐぐっ……いや、やるんだキトリー!

 俺は自分を奮い立たせ、ええいっ!と顔を寄せる。でも唇が触れる一歩手前で、俺の羞恥心が心のドアを破壊して叫んだ。

『唇にチュウは、やっぱ無理ィィィッ!!』

 俺は恥ずかしさで唇にはできず、進路変更してレノの顎にちゅっとキスをした。

「あのー、坊ちゃん。そこは顎なんですが」

 レノは目を開け、呆れた声で言う。だが真っ赤な顔して、プシュップシュッと沸騰したやかんのように熱気を出す俺を見て、レノはそれ以上咎めなかった。

「全く……しょうがない人ですね。今回はこれで許しておきましょう」

 レノはくすっと笑うと、俺の腰を掴んでいた手を離した。そしてレノは俺の顎に手を当てて、顔を上げさせるとにっこりと笑った。

「次回はきちんと唇にキスしてくださいね? 坊ちゃん」

 レノはそう言うと、俺のおでこにちょんっとキスをして「おやすみなさい」と、一言言って爽やかに部屋を出て行った。

 しかし残された俺は、ヨロロッとベッドに辿り着くとぽふんっと倒れた。

 ……は、は、ハッズかしぃぃぃぃぃっ! しかも、おでこにまたチューされたぁぁ!

 俺は心の中で大絶叫し、ゴロンゴロンっとしばらくベッドの上を転げるのだった。



 むっきゃ―ッ!
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