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第四章「ディープな関係!?」

7 デートの約束

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「好きな子には色々してあげたくなるものだろう?」
「い、いや……それは昨日も聞いたけど……本気なの?」

 俺は何とかミカンを胃に追いやって尋ねる。するとアシュカはハッキリと答えた。

「勿論、冗談じゃない。キトリーのことが好きだよ」

 あんまりにさらりと告白するので思わず赤面するが、俺はお爺に聞いた話を思い出し、咳払いする。

「こ、コホン。アシュカ……その気持ちが本気なら嬉しいが。本当は神聖国内でごたついてるからそう言っているだけじゃないのか?」

 俺が告げるとアシュカは少しだけ目を見開く。でも誤魔化すことはしなかった。

「さすがポブラット家、話が早いね。どこまで知ってるの?」
「どこまでって。二十四年前の皇女様失踪事件で次の皇王選びで一悶着起きてるって話と、その件で聖人であるアシュカも巻き込まれてるって」
「それ全部じゃん」
「いいや。俺が聞いたのは掻い摘まんだ話だ、詳細は知らない」
「で、キトリーは僕がそれから逃れるためにここに来てると思っているの?」
「そーじゃないのか?」

 俺はミルク寒天をパクっと食べて聞く。するとアシュカは首を横に振った。

「どこかに逃げたいと思っていたのは本当だよ。でも僕がここに来たのはキトリーに好きだって伝えたくて」

 アシュカが真面目な顔で言うから俺はまたもミルク寒天が喉に詰まりそうになる。なのでごっくんと飲み込んでからアシュカに尋ねた。

「す、好きって……俺のどこが?」
「全部だよ」
「全部って」

 ……んな、曖昧な。いや、でもレノよりはマシか? あいつ、俺の事を馬鹿でからかいがいがあるから、とか言いやがったからな。イラッ。

 でも俺がレノに対して苛立ちを感じていると、アシュカは照れた顔を見せた。

「キトリーだけなんだ。こんなに一緒にいて楽しいって思えるの。こんなに……胸がドキドキするの」

 アシュカはそう言うとおもむろに俺の手を取って自分の胸に当てた。するとドキドキと高鳴る鼓動が伝わってくる。けれど恋の手管に慣れてない俺は、ヒャッホォゥ! と手を離した。

 ……めちゃめちゃドキドキしてた! そして俺もドキドキ(驚き)させられた!! これが胸キュンシチュエーションと言うものか!?

 恋愛初心者な俺は別の意味でドキドキしながらアシュカを見る。

「ね、わかってくれた?」

 アシュカはニコッと笑いながら俺に言う。

「わ、わかったけど。でもアシュカなら選り取り見取りだろ。俺じゃなくても」
「それは僕が聖人だから。でも聖人じゃない僕を見てくれる人がどれほどいるだろう。もしも力を失ったら、それでも人は僕を求めてくれるかな? きっと多くの人は僕の事を忘れてしまうんじゃないかな。でも、キトリーはそうじゃないと思える」

 アシュカは俺を真っ直ぐと見て言った。

「そ、それはそうだけど。でもそう思ってるのは俺だけじゃないだろっ」
「それでも僕はキトリーがいいんだ。ね、僕じゃダメ?」

 アシュカは伺うように尋ねてきた。

 ……爽やかイケメンの上目遣いは卑怯だぞ! なんか断りにくいじゃん!!

「い、いや、俺はレノと付き合ってるから~」

 俺は目をそぞろにして答える。でもその俺の手をぎゅっとアシュカは握った。

「キトリー。それは本気で?」
「ホ、ホンキダヨ?」

 俺は思いっきり明後日の方向を向いて言う。だからか、アシュカの瞳がすっと細まって俺をじぃっと疑うように見る。なので非常に気まずい。
 けれど、アシュカは俺にそれ以上追及しなかった。

「まあ、キトリーがそう言うなら信じるよ。でもレノと付き合い始めたのって最近なんだろう? なら気持ちが変わってもおかしくないよね?」
「え、なんでその事!」
「フェルナンドさんに聞いたんだ」

 アシュカは人の好い顔で俺に言った。

 ……そういや、午前中はフェルナンドに庭を案内されてるって言ってたな。くそー、口止めしとくの忘れてた!

「だからキトリー。僕の事、ちゃんと考えてよ」

 アシュカは俺の手を握ったまま親指で俺の手の甲をさすさすと擦り、瞳には甘さが宿る。

「い、いや、それは……っ」

 ……やばい、なんかすごい甘い雰囲気に! これは話を変えねば!!

 俺はアシュカから手を離して話を変えることにした。

「と、ところで、なんで今更二十四年前の皇女失踪事件で一悶着起きてんだ?」

 俺が尋ねるとアシュカは素直に教えてくれた。

「ああ、それはね。キトリーも知ってるかな? 皇女様がいなくなってこの二十四年、皇女様の弟であるエンキ様が神聖国を皇王代理として治めてきたことは」

 俺の質問にアシュカは答え、俺は甘い雰囲気がなくなってホッとする。

「ああ、知ってる。皇女様がいつか戻ってくるかもしれないって、ずっと代理で通してるんだよな?」
「そう。皇王になれるのは昔から女性だけ、その事もあってエンキ様は代理としてずっと過ごしてきたんだ。でももう二十四年……。神官達が跡継ぎ問題を口にし始めてね、エンキ様を結婚させて生まれた女児を次の皇王にって話なんだ」
「それでなんでアシュカは巻き込まれてるんだ?」
「うーん、それがねぇ。エンキ様の嫁候補が二人いて、それが枢機卿の娘たちなんだ。で、どちらを嫁にするかって二極化しててね」
「それで聖人の後ろ盾を取ろうってとこか?」
「そーいう事。本当、参ったよ。権力闘争みたいなのは嫌いなのに」

 アシュカはため息交じりに言った。でもため息を吐きたい気持ちもわかる。

「それでエンキ様はなんて言ってんだ? エンキ様って、確か生涯国に尽くすとかで独身を貫くって宣言されてなかったか?」
「うん。エンキ様は相変わらずのらりくらりかわしてる」
「それはエンキ様も困った事態だな。なんかいい方法があればいいけどなぁ」

 ……どこも跡継ぎ事情は大変だな。

 俺はそう思いながら、自分には優秀な兄がいてくれてよかったとしみじみ思う。ブラコン過ぎるところが玉にきずだが。

「全くね。……でも、この話はもうおしまい。折角二人なんだから、もっと違う、楽しい話をしよう?」

 アシュカは気を取り直して言った。

「違う話?」
「そうそう! ヒューゴさんから聞いたけど、ここから少し離れたところに湖があるんだって?」

 アシュカに尋ねられて俺はここから馬を歩かせて、一時間ほどしたところに湖があることを思い出した。

「ああ、あるけど」
「なら、明日は湖に一緒にいかない? ピクニックしよー」
「一緒に? そりゃいいけど」
「じゃあ、明日は二人っきりでデートね!」
「ぅえっ!? ちょ、デートって」

 俺は声を上げるが、アシュカは聞いちゃいない。

「楽しみだなぁ、キトリーとデート」

 ……いや、二人でピクニックするだけだろ? でも、それってデートなの?!

 恋愛初心者の俺はわからず困惑するが、そこへレノがタイミング悪くドアをノックして入ってきた。

「失礼します。キトリー様、ザックがきましたのでお知らせに」

 レノはそう言ったが、俺がアシュカと並んで座っている所を見るなり冷ややかな目線を俺に送った。まさにブリザード級の冷たさだ。

 ……なんだよ! 俺がまるで浮気をしているみたいじゃん!!

 俺はそう思うが、冷たい視線を向けるレノにアシュカはさらに余計な事を言う。

「レノ。明日、僕とキトリーは二人っきりで湖までデートしようと思うんだけど、いいよね?」
「あ、アシュカ!」

 ……で、デートじゃないぞ! ピクニックだぞ!!

 俺はアイコンタクトでレノに想いを伝える。しかしレノの冷ややかな視線は変わらない。

「そうですか。では、そのように手配しておきましょう」

 レノはそう言うとにっこりと笑って、早々に部屋を出て行ってしまった。

「あ、ちょ、レノきゅーん」

 呼び止めるが、時すでに遅し。レノに俺の声は届かない。

「明日が楽しみだね? キトリー」

 アシュカは笑って言うが、その顔は完全な確信犯だった。

「あのなぁ、アシュカ!」

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