《BL》転生令息は悪役よりも壁志望、もしくは天井でも可!

神谷レイン

文字の大きさ
上 下
54 / 176
第三章「キスは不意打ちに!」

12 ジェレミー

しおりを挟む
「あの子、どうしたんだろ? まだ授業中なのに」
「薔薇棟の子のようですね」

 レノは少年の上履きの色を見て呟いた。制服などはみんな一緒だが、上履きの色だけは棟で分けられている。薔薇棟は赤、菫棟は紫なんて風に。
 ちなみに学年は襟章の色で分けられていて、レノは青色、俺は緑色だ。そして困った風の少年も緑の襟章だった。

 ……同学年の子か。でも、あんな子いたっけ? 隣のクラスかな?

 俺はそんな風に思いつつ、レノの手を離す。渡り廊下を抜ければ、もう薔薇棟だったから。

「レノ、あとは一人で戻るよ。ちゃんと授業にでるんだぞ?」
「キトリー様だけには言われたくありません。もう菫棟に来てはいけませんよ。……ではまた夕方にお迎えにあがります」
「ん、また後でな~」

 俺はそう言ってレノから離れ、少年に向かう。そしてその少年も近づいてきた俺に気がついた。

「ねーねー、一人でどしたの?」

 俺が尋ねれば、少年は俺をじっと見た。金髪碧眼、可愛い顔立ちをしている美少年だ。

 ……ほほぉーっ! 近くで見ると、これはすんごいかわい子ちゃんだ。こりゃ将来が楽しみだな。

 俺の中のおじさんが思わず呟く。だが、逆にその少年は俺を見ると途端ウルウルと泣きそうな顔になった。

「うっ、ううーっ」
「え、ちょ!? どしたの!?」

 俺はうろたえながら少年に尋ねる。これ、話しかけちゃダメなやつか!? と思うが、理由は簡単だった。

「お、おしっこぉ」
「あ、もしかして場所がわかんなかったのか!?」

 俺が尋ねてみると少年は泣きそうな顔のまま、こくりと頷いた。学園は広いのでトイレが見つからなかったのだろう。

「そっか。トイレね、こっちだよ」

 俺は手招き、先を歩いて案内する。そうすれば少年は素直にヒヨコよろしくピヨピヨと俺に付いてくる。

 ……でも学校始まって一週間なのに、トイレわからなかったのかな?

 そんな事を思いつつ、少年を近場のトイレまで誘導する。そしてトイレに辿り着き「ここだよ」と教えれば少年は慌てて中に入って行った。

 よっぽど切羽詰まっていたようだ。漏らさなくて一安心、と思いながら俺は手持無沙汰に待つ。教室がわからないって、帰りも迷子になったら困るからな。
 手を出したら最後まで面倒見るのが俺のポリシーです。
 そしてしばらく待っていると少年は安堵顔で出てきた。

「あ、あの、ありがとう」

 少年はすっきりした顔で、少々照れながらもじもじと俺に言った。

「いいよ。トイレに案内しただけだし。んじゃ、とりあえず教室に戻ろう。B組だろ?」

 俺が尋ねれば少年はプイプイと首を横に振った。

「ううん、A組だよ」

 ……えーっと、A組? それなら俺と同じクラスだけど。こんな子、いなかったよな? でも待てよ? 確か、王子様が風邪を引いて一週間休んでいたな。まさかとは思うけど……まさか??

「あのね。ボク、ジェレミーって言うの。き、君はなんていう名前なの?」

 ……ジェレミー王子確定ですやん。

「あ、えっと、自分はキトリーと言いますぅ」

 俺は慌てて敬語を使う。長いものには巻かれるタイプなのだ。だがジェレミーは子供らしい屈託ない笑顔を俺に見せた。

「キトリーくん? えっと、よろしくね。えへへ」


 それからジェレミーは俺をいい人認定したのか、一緒にいるようになり、ちょっと気弱な王子様を放っておけない俺はジェレミーの面倒をみるように。
 だってジェレミーってば目を離したら、すぐにほかのガキんちょ達に絡まれるんだもん。こけたらすぐ泣いちゃうし……いや、まあこけたら泣くか。痛いしな。

 でもその事が陛下の耳に入って、俺はジェレミーとめでたく婚約。

 ……いやー、あれはちょー驚いたよな。まあおかげで城には出入り自由になって、うまいもんとか食べさせてもらったけど。でも思い返せば、出会った頃のジェレミーとおっちゃんって意外とギクシャクしてたよなー。

 俺はそんなことを思いながら、初めて城に来た時の事も思い返す。



 ◇◇◇◇



 ――学園に入学してから二カ月後。

 俺はジェレミーの誘いを受けて、初めて城へと訪れていた。
 俺が行った事がある城と言えば、夢の国のお城ぐらいだ。なので本物の城に若干興奮気味。でもそれ以上に俺を興奮させたのは、飾られた一枚の絵だった。

「こ、これ、これってぇ! もしかしてぇぇっ!!」

 その絵には金髪ロング青い瞳の麗しい美男子が描かれていて、俺は絵を前にプルプルと震えた。そして、隣に立つジェレミーが描かれているのが誰なのか教えてくれる。

「これはボクの父様の絵だよ」

 そうなにを隠そう、ジェレミーは二人の父親がいるのだ。一人は国王であるおっちゃん、もう一人は王妃であるミカリー様だ。二人は同性だが婚姻を結び、妊娠薬を飲んでミカリー様がジェレミーを産んだ。

 つまりジェレミーは第二シーズンの人!

「はわわわぁっ、これがミカリー様!!」

 俺は話に聞いていたミカリー様の肖像画を見て感動する。

 ……国王夫妻は同性婚だって知っていたけど、ミカリー様ってこんなお人だったんだー! う、麗しぃ~! こう見るとジェレミーってば完全ミカリー様の遺伝子受け継いでんなー。でも、できれば絵じゃなくてご本人に会いたかったなぁ。そしてあわよくば色々とお話という名のキュン(恋)話をっ!

 俺は肖像画を眺めてしみじみと思う。実はミカリー様、元々病弱な体質だったらしく、ジェレミーが四歳の頃に亡くなってしまったのだ。そしてミカリー様の存在は知っていたものの臥せっていられたので俺は会えなかった。

 ……まあ、ミカリー様に会いたいのは俺よりもジェレミーの方だろうけど。

 俺はちらりと隣に立つジェレミーを見る。

「ん? キトリー、どうしたの?」
「いや、なんでもない」
「ぼんやりはいつもの事ですから、お気になさらず。ジェレミー様」

 俺に付いてきたレノが後ろから失礼な事を言う。なのでジロッと睨むが、レノはなんのその。タイミングよく俺から目を逸らした……この美少年め。
 だが今日はレノに気を取られている場合ではない。

「な、ジェレミー。俺、お城探検したい! いいか!?」
「お城? うん、いいよ。ボクが案内してあげる」

 ジェレミーににっこりと笑って言った。やっぱりいい子だ。
 そうして俺はジェレミーに案内され、色々と見て回った。城は広いから子供の探検には打ってつけだ。ま、俺の中身はオトナですけど?

 だがジェレミーとレノとわきゃわきゃと騒ぎながら廊下を歩いていると、不意にある人物に声をかけられた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺おとば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...