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第三章「キスは不意打ちに!」
7 ディエリゴとの出会い
しおりを挟む……皆さん、キトリーの部屋へようこそ。本日のお客様は兎獣人のディエリゴ・エイフローさん。ジェレミー王子と婚約し、王太子妃として過ごされているようですが。今日は何をお話して下さるんでしょうか。非常に楽しみですっ。
「あのキトリー?」
テーブル席に座り、一人、心の中でモノマネをしているとディエリゴに怪訝な顔をされた。
……やべ、昼時だからついつい真似しちゃったよ。
「あ、ごめん、なんでもないよ。ところで話ってどーした?」
俺は気を取り直して、紅茶を飲みつつディエリゴに尋ねる。目の前にはさきほどマリアが用意してくれたお茶セットと軽食のサンドイッチやスコーン、クッキーが置かれている。
……どれを食べようかなー?
目移りしつつもサンドイッチに手を伸ばし、パクっとかぶりつく。ふわふわなパンにチーズとハムのコラボがおいしい!
……意外にこういうシンプルなのが一番うまいんだよなー。前世の時は徳用クロワッサンを沢山買って、冷凍したのを半分に切ってはスライスチーズとハムを挟んで、トースターで温めてよく食べたもんだ。ま、ちょいカロリー高めだけど。
俺はもぐもぐと食べる。だが、食べている俺をディエリゴは微笑ましそうな顔で見た。
「ん、フゴフゴ?(食べないのか?)」
口いっぱいに頬張っていたせいで上手く喋れない。でもディエリゴは俺が言った言葉を理解した。
「食べるよ。でも、先にキトリーにお礼を言いたくて。ありがとう」
……なぜにお礼??
ディエリゴに突然お礼を言われ、俺は首を傾げる。なので紅茶を流し込んでから聞き返した。
「お前とジェレミーの仲直りを取り持ったことか? それなら」
「ううん、違うよ。サウザー伯爵の件だよ」
ディエリゴに言われて俺はピンっと来る。
「サウザーか。俺は俺のすべきことをやっただけだ」
「そうかもしれないけど、キトリーは俺との約束を守ってくれた。だからありがとう……それにキトリーが三年前のあの時、助けてくれなかったら今の俺はなかった」
ディエリゴは言いながら思い出していた。
今から三年前、この王宮で初めてキトリーと会った時のことを――。
◇◇◇◇
――三年前。
王宮でジェレミーの十五歳の誕生日を祝うパーティーが行われた日。ディエリゴは女性の給仕係に扮装してパーティーに潜り込んでいた。
そして視線の先には他の貴族と談笑するサウザー伯爵。
……あの男がッ!
ディエリゴはぐっと奥歯を噛みしめ、服の下にナイフを忍ばせて近寄ろうとした。しかし一歩を踏み出した時、トントンッと肩を叩かれる。振り返ればそこには着飾った貴族の少年が立っていた。
……殺そうとしたのがバレた!?
そう思ったが、その少年の顔色は悪かった。
「すまないが、僕を控室に連れて行ってはくれまいか?」
「え、あの」
「道案内するから」
頼まれれば具合が悪い人をディエリゴは放っておけなかった。仕方なく頷き、少年を連れてパーティー会場を出る。
……あともうちょっとだったのに。早く、この人を控室に連れて戻ろう。
ディエリゴはそう思う。そしてパーティー会場近くの控室に入り、少年を長椅子に座らせる。
「大丈夫ですか? 気分が悪いなら医官を呼んできますが」
ディエリゴは見捨てられずに尋ねた。しかしその時、少年の瞳がきらりと光る。
「レノ、捕獲だ」
「はい」
少年がそう言うと、どこからともなく銀髪の青年が現れてディエリゴを後ろから捕獲した。
「なっ! 一体、なんなんですか!?」
「はいはい、ちょっと失礼するぞー」
驚くディエリゴに遠慮なく、少年は椅子から立ち上がるとディエリゴの腰回りを触って隠していたナイフを見つけた。
「やっぱりなぁ。これを使ってどうするつもりだったのかな?」
……バレた!? どうして!
ディエリゴは困惑しながらも、少年を見た。
「具合が悪いんじゃ?! それにどうして俺がナイフを持っていると」
「俺のサーチアイは誤魔化せない! あと具合が悪いのは俺の華麗なる演技だ☆」
「さ、サーチアイ?! 演技!?」
「そ、ところでこれで何をしようとしていたのカナ?」
黒髪の少年に再度聞かれ、ディエリゴは口を噤む。だが、あっさりと当てられた。
「これでサウザー伯爵を殺そうとしていた。そんなところかな?」
「なっ!」
「やっぱりそうか」
……どうしてわかった!? そもそもこの人は一体……。
ディエリゴはじっと少年を見つめる。すると少年はナイフをテーブルに置いて、ふぅっと息を吐いた。
「さて。どうしてそんなことをしようとしたのか聞いても? 捨て身の覚悟でしようとしたんだろう? それならそれなりの理由があるはずだ」
少年は真面目な顔をして言った。だからディエリゴは眉間に皺を寄せる。
「俺を突き出さないの?」
「突き出すのは簡単だ。でも理由を聞いてからでも遅くはない。そうだろう?」
黒髪の少年の妙な貫禄にディエリゴは不思議な感覚を覚える。まるで年上と話しているような、そんな思いになるから。
「レノ、手を離してあげて。そんな恰好では話もできないだろう」
「しかし」
「もう武器は持ってない。大丈夫だよ」
少年はそう言うと長椅子に座り、青年に指示した。そうすれば渋々と言った様子で青年は手を離し、解放されたディエリゴはますます困惑する。
「君は一体何者なんだ」
ディエリゴが尋ねれば少年はニコッと笑った。
「君が教えてくれたら、俺も教えるよ」
なんとも食えない少年にディエリゴは面食らう。だが迷った末に、ディエリゴは少年の向かいに腰を下ろした。
「俺はディエリゴ。君の言う通り、サウザーを殺そうとした」
ディエリゴは覚悟を決め、ハッキリと答えた。
「ディエリゴか、俺はキトリーだ。で、どうしてサウザー伯爵を狙って?」
「……あいつは獣人を目の敵にしていて。獣人を騙しては、低賃金で働かせているんだ。その上、親を亡くした子供を闇オークションで売っている! だからっ」
「サウザー伯爵を殺して終わらせたかった、と言う事か。その情報は確かなのか?」
「確かだ! 俺はこの目で見たんだからッ!!」
ディエリゴは拳を握って訴えた。
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