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第三章「キスは不意打ちに!」

5 お城で!

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 ――そうして馬車は城の玄関前に停車し、俺はレノと共に馬車を降りた。
 そうすれば先に馬車から下りていたジェレミーとディエリゴが迎えてくれる。だが二人とも妙に服が乱れているし、顔が少し赤い。

『チミたちぃ~、一体何をしていたのかなぁ?』とちょっかい……ゴホンッ、伺いたいところだが今の俺は可憐なレディ、ぐっと口を噤む。

 ……あーでも、言いたい。めちゃくちゃちょっかいだしたいぃぃッ!

「駄目ですよ」

 後ろからレノに言われて俺は泣く泣く唇を噛みしめた。しかしそんな俺に気がつかずジェレミーは俺達を案内する。

「じゃあ、とりあえず応接間に移動しようか」

 ジェレミーはそう言い、俺とレノは後ろをくっついて歩く。そして王子とその婚約者が帰ってきて事で城内は少しばかり慌ただしくなってきた。

 ……俺、本当にばれてないかな? バレた時、超恥ずいんですけど。

 そう思いながらも頭を下げる使用人たちの間を抜けていく。だが、誰も俺に気がつかない。

 ……俺って変装の才能があったのかも? 今度から赤いジャケットと黄色のネクタイが必要だな。むふふ。

「また余計な事を考えているでしょう」

 後ろから注意が入り、俺はチッと心の中で舌打ちをする。しかし、そんなやり取り(?)をしている内に応接間に着き、ドアがしっかりと閉まったのを見て俺は「ふぅ」と一息ついた。

「バレなくてよかった~」
「変な事を考えてはいたようですがね」
「だまらっしゃい。それに別に変な事じゃないもん!」
「どうですかね」

 ……こいつぅ、本当に俺の従者かね?! 主人を信じなさいな! まあ、何も考えてないってわけじゃなかったけど!

 俺は腕を組んでレノを睨む。しかしそんな俺達を見ていたディエリゴが何気ない顔して尋ねた。

「そういえばキトリー。アントニオから聞いたけど、レノさんと付き合い始めたんだって?」
「あ、そうそう」

 ジェレミーも聞いていたのか、ディエリゴの言葉に頷いている。だが俺は驚きだ。

 ……アントニオの奴! 何を言ってくれちゃってんだ!!

「ち、ちが」

 俺が否定しようとすると、レノは俺の肩をがっちり掴んで抱き寄せ、にっこり笑顔で答えた。

「はい、そうです。ディエリゴ様、ジェレミー様」
「ちょ、レノ!」

 ……オメーも何言ってくれちゃってんだ!

 俺はキッとレノを睨むが、レノはこちらを見なかった。そしてディエリゴとジェレミーは無邪気に喜んでいる。

「とうとうキトリーとレノさん、くっついたんだ! おめでとう!」

 ディエリゴは笑顔で言い、その隣でジェレミーは「おおー」と言いながらパチパチと両手を叩いている。というか、拍手するんじゃありません!

「い、いや、だからっ、ぎゃっ!」

 否定しようとすると俺の肩を掴んでいるレノの手に力が籠った。

「どうかしましたか? 坊ちゃん」

 レノは涼しげな顔をして言い、俺を見る。

 ……こいつ、俺に否定させないようにする気だな!? にゃろーっ!

 俺はまた睨むがレノはどこ吹く風。そして、そんな俺達を見つめ合う二人と思ったのかディエリゴがえぐい質問を繰り出してきた。

「で、二人はどこまでいったの?」

 ディエリゴはふふっと笑いながら聞いてきた。

 ……いや、『ふふっ』じゃねーよ!

「どこまでもいってない! いく予定もありません!」
「あれ、そうなの?」

 俺が否定すればディエリゴは残念そうに答えた。しかし、そんな俺の隣でレノが。

「まだ付き合い始めたばかりなので、これからのお楽しみです」

 なんていうものだから俺は顔を引きつらせる。

 ……何がお楽しみだ! 俺は恐怖しかねーんだけど!? 行くとこ行ったら……俺の、俺のおちりがッ! レノのアナコンダに!!

「楽しみですね? 坊ちゃん」
「楽しみなのはお前だけだッ!」
「なんだかんだで仲良しだね」

 ディエリゴはニコニコしながら俺に言った。なので『仲良しじゃないッ!』と言いたかったが、コンコンッとドアがノックされた。

「ジェレミー様、失礼します」

 聞き慣れた声と共に、返事も待たずにドアが開かれる。そしてそこに現れたのは良く見知った人物だった。

「なっ!」

 その人物は俺の姿を見て驚くと、ツカツカツカと歩いてきて俺の前に立った。そしてじっと見つめる熱烈な視線に、俺はヤァと片手を挙げる。

「あ、朝ぶり。にいだまぁああ゛っ?!」

 言ってる最中に俺はロディオンにぎゅぅっと抱き締められた。ヤバい、圧死させられる!

「キトリー、なんて可愛いんだっ!!」
「うぎゅぅぅっっ」

 ……ギブギブッ! 俺が潰れちゃう! 俺の背骨が軋んでるってば!! そりゃパイパイに押しつぶされるのは俺の夢だけど、こんな硬いおムネは嫌だ―ッ!

 そう言いたいがロディオンの厚い胸板のせいで声が出ない。なので俺を助けてくれたのは。

「ロディオン様、キトリー様が死にかけてます」

 ロディオンはレノの言葉を聞くと、パッと俺を解放してくれた。

「あ! すまない、キトリー。お前があんまりにも可愛くて」
「げほっ、はーはーっ。兄様、しばらく抱き着くの禁止」

 俺が息を整えながら言うと、ショックを受けた顔をした。だが今回ばかりは無視させてもらおう、圧死が死亡原因なんて嫌だからな。

「それより、どうして兄様がここに」

 俺が呟くとロディオンの後ろから声が飛んできた。
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