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第三章「キスは不意打ちに!」

3 お着替え

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「では、まずこれを着てください」
「何これ?」

 渡されたのは白のサテン生地で作られたズボンとワンピースだった。ひらひらスケスケおパンツじゃなくて良かったことに俺はとりあえずホッと安堵の息をつく。

 ……しかし、これって母様がドレスの下に着てるやつだよな。インナー的なもんかな?

「シュミーズとドロワーズですよ」
「趣味はドワーフ?」

 俺の頭の中でとんがり帽子を被った、仕事好きな小さいオッサン達がぐるぐると回る。

「シュミーズとドロワーズです。肌着のようなものですよ」
「へぇ、なるほど」

 ……そんなもんがあるのか。

 俺はそんなことを思いつつ、趣味はドワーフを着る。

「着たけど」
「では次はコルセットを」
「こ、コルセットぉ!?」

 そんなものを付ける日がこようとはッ!!

「てか母様も他の女性陣も、そんなの付けてるの今日(きょうび)見た事ないけど!?」

 そんなもん、この世にあったんかい!

「矯正で使われることがほとんどですからね。ですがキトリー様は男性ですので、女性のようなくびれを出すには必要でしょう」
「げーっ!」
「さ、腰につけますよ」

 レノはそう言って俺のコルセットを巻き付けてきた。

 ――そして冒頭(一話)に戻る。

「はぁ、んーっ! も、苦しぃってばっ」
「我慢して、坊ちゃん」
「もう、むりぃぃっ」

 俺は身を捩らせて、涙を滲ませた。

「もう、俺の内臓が出るっちゅーのッ! ぐえぇっ!」

 ぎゅうぎゅうっとコルセットを締め付けられて俺は叫んだ。

「こんなもんですかね」

 レノは涼しい顔して俺のコルセットの紐を縛る。

「ぐぅ、なんの拷問だ。たくっ」

 ……どうして俺がこんなことに。公爵家令息がコルセットをつけるなんてふつーねぇぞ?

「さ、次はドレスですよ」

 俺の気持ちを素知らぬレノはドレスを渡してきた。

「あー、はいはい。着ますヨ」

 ちょっと投げやりな気持ちになってきた俺はレノからドレスを受け取り、いそいそと着替える。セリーナが用意してくれたドレスはゴテゴテした飾りがなく、シンプルでいて上品。露出が少なく首元まで隠れているのは幸いだ。
 それにすでに胸にパットが付けられていて、本当に胸があるように見える。

 ……うーん、これって何カップなんだろ? BかCぐらいか? わからんけど。しかし十八歳(+前世年齢三十二歳)でドレスを着ることになろうとは。人生、どれだけ生きても初めてがあるんだな~。こんな初めては望んでなかったけど(悲)

「後ろは私が留めますよ」
「ん、頼む」

 俺は後ろのホックを大人しくレノに留めてもらう。

 ……これ、一人で着る時はどうするんだろう? 脱ぐ時も誰かの手を借りなきゃいけないって事か? うーん、女の子ってたいへん。

 なんて考えていると、うなじに柔らかい感触を感じた。

「へ?」

 驚いている内に、ぢゅぅっと吸われて俺はやっと気がつく。レノに吸い付かれてることに!

「ぎゃっ! 何してんだ!?」

 ……吸血鬼かお前は! 

 俺は慌ててレノから離れる。するとレノは爽やかな笑顔を俺に向け、しれっと言い放ちやがった。

「キスマークをつけていただけですよ。なので、他の誰かに服を脱がされないよう気を付けてください」
「ななな、キスマーク!? なんで!」
「例えばセリーナさんがキトリー様の着替えを手伝った時、そのキスマークを見たらどう思うでしょうかね?」
「は? セリーナが?」

 俺は脳内で想像してみる。

 ①セリーナにドレスを脱ぐの手伝ってもらう→②後ろのホックを外す→③キスマーク見つける→④俺とレノがそういう関係だと思われる!!

「ノォォォォォーーッ!」

 きっと否定してもセリーナは微笑ましい笑顔で俺を見てくることだろう。

「とまあ、そういう訳ですので、服を脱ぐ時は私におっしゃってください」
「ぐ、この変態め!」

 俺はそう呟いて睨むがレノは何のその。涼しい顔をしてドレスのホックを全て留めた。

「では、カツラは自分でつけてくださいね。私はセリーナさんを呼んできます」
「なんでだよ?」
「そのままで行く気ですか? お化粧も必要でしょう。それに私も服を着替えないといけませんから」
「ちっ、レノも女装すればいいのに」

 俺は舌打ちをして悪態をつく。

「キトリー様がお望みならば、着ても構いませんよ? 城ですぐにばれてもいいなら、ですがね」
「ぐぅっ、さっさと着替えてきなさい!」 

 俺はそんな風にしか言えず、レノは「はい」と言って部屋を出て行った。

 ……あんにゃろー。絶対楽しんでやがる。俺のキュートでラブリーなうなじにキスマークなんぞ拵えおってぇ!

 そう思うが、うなじに触れたレノの唇の柔らかさを思い出して顔が熱くなってくる。

 ……デコチューに、うなじにキスマーク。ぅぅっ、俺に触れ過ぎだっ! 

 俺は心の中でぶつくさ言いながらうなじに手を当てた、しかしそこへ。

「キトリー様、お着替えは済みましたか?」

 セリーナが入ってきて俺はビクッと肩を揺らす。

「ピャッ!」
「キトリー様?」
「あ、セリーナ! 待ってたよ」

 俺はわざと明るい声を出してセリーナを迎え入れた。

「ドレス、ぴったりだったみたいですね。父がくれたサイズ表が合ってて良かったです」

 セリーナはにっこり笑って言ったが、俺の脳裏にまたも笑うお爺の姿が浮かぶ。

 ……サイズ表っていつの間に俺のスリーサイズ測ったのよ。やっぱお爺って超能力者なのでは。

「さ、キトリー様。お化粧をしましょうね。誰にもわからないぐらい可愛くしてあげますから」

 セリーナは持ってきた化粧箱を見せて言い、俺は顔を引きつらせる。

「ほ、ほどほどでお願いします」




 一方、部屋を出たレノと言えば、一人顔に手を当てて息を吐いていた。

 ……はぁ、全く無防備すぎですよ。坊ちゃん。

 レノはそう思いながらキトリーの真っ新なうなじを思い返す。本当のことを言えば、レノはキスマークなんてつける気はなかった。
 でもあまりにも無防備なうなじを見て、思わず口づけてしまったのだ。

「今まで我慢してきたからか……。気を付けないといけませんね」

 レノは少し顔を赤くして呟き、その後セリーナが用意してくれた服に着替えたのだった。
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