29 / 181
第二章「デートはお手柔らかに!」
2 出発!
しおりを挟む
――――それから出発の日。
俺の願い通り天候は晴れ、早朝の屋敷の玄関先にはお爺を筆頭にフェルナンドとヒューゴ、屋敷で働いてくれている使用人。そして、なんとノエルとザックも見送りに来てくれた。
「ザックとノエルも見送りに来てくれたんだ~、朝早くにありがとな」
「キトリー様が帝都に行かれると聞いたんでね。公爵家のみんなによろしく言っておいてください」
そうザックは俺に言った。
実はザックはあの事件後、公爵家の騎士を辞めて出身の村に戻っていた。
今までザックはノエルの好意に気がつきながらも、まだ若いノエルの気持ちを受けていいものかと悩んでいたらしい。でも俺と一緒に誘拐されたことによってノエルがいかに自分にとって大事かわかったようで、これからは傍にいて守りたいと公爵家の騎士をすっぱりと辞めたのだ。
……んんーーっ、愛だねッ! すんばらしい!
そしてザックは騎士を辞めた後、今はノエル達親子の家に身を寄せて一緒に暮らしている。つまりザックとノエルはそういう関係になったという事なのだ。
という訳で。今では親父さんではなく、ザックとノエルの二人が屋敷に色々と配達に来てくれている。
……いやー、またもカップルをくっつけてしまった~。もー、俺ってば偉いっ!
自画自賛しつつニマニマしてしまう顔を何とか必死に抑え、二人を見て俺は返事をした。
「ああ、元気にしてるって伝えておくよ。ついでに可愛い恋人と仲良くしてるって事も伝えた方がいいかな?」
「き、キトリー様っ!」
俺が言うとザックは照れた様子を見せ、犬獣人の特徴である耳をぴくっと動かし、尻尾を忙しなくパタパタッと動かした。一方、その隣でノエルは少し恥ずかしそうにしている。その上……。
「恋人……へへっ」
ノエルは恥ずかしがりながらも嬉しそうにはにかみ、小さく呟いた。その可愛さと言ったら!
……キャーッ、もう何この子! 女の子みたいに可愛いんですけど!
心の中にいるチビ俺が思わずおばちゃんのようになって悲鳴を上げる。いや、ホント言うと中身はオジサンなんですけどネ。
「キトリー様、お帰りを待ってますね」
ノエルはニコッと笑って言い、可愛い弟分のようなノエルに俺は「うんうん」と頷いた。
……勿論、帰ってくるよぅ~! 二人を見守るという仕事が俺にはあるからネ☆
俺はちょっと鼻息荒く、そんなことを思う。だがそんな俺を正常に戻してくれる奴がやってきた。
「何をやってるんですか。キトリー様、そろそろ行きますよ」
声をかけられ、振り返れば呆れ顔のレノがいた。
「あ、レノ」
「ザック。私がいない間、何かあればよろしくお願いしますよ。まあ、執事長がいますから大丈夫でしょうけど」
レノが言うと聞いていたお爺が「ほっほっほ」と笑った。うん、きっとお爺に任せておけば大丈夫だろう。しかしそんなレノにザックも笑って言い返した。
「おう、こっちの事は任せておけ。お前も、キトリー様と二人っきりだからって羽目を外すなよ?」
……おいぃぃっ! ザック、レノに余計な事を言うんじゃねぇぇぇっ!
「まあほどほどにしておきます」
……ほどほどってなんだっ!?
俺は咄嗟にお尻を隠す。だが、そんな俺を見てレノはにこりと笑った。
「キトリー様、ほどほどにしておきますから」
「何がだッ!」
……俺に近づくなっ! このケダモノめっ! 面が良いからって騙されないぞ!
俺はじろっとレノを睨むが、レノは何のその。
「ほら、行きますよ」
レノは俺の手を取って馬車へと向かった。しかしその俺とレノをヒューゴが呼び止めた。
「あ、坊ちゃん。これを!」
ヒューゴは藤の籠を俺に渡してくれた。籠の上には柑橘系の香りがするハーブの束が乗っけられている。
「これは?」
「サンドイッチや飲み物、軽いお菓子などを詰めておきました。お腹が空いた時にでも食べてください」
「うわ、ありがと! 小休止に食べるよ! あと、こっちのハーブはフェルナンドから?」
俺が尋ねるとヒューゴの隣にいたフェルナンドはにっこりと微笑んだ。
「いらないかと思ったのですが。もしも馬車酔いをした時はこのハーブの香りを嗅いでください。気持ちが落ち着きますから」
「うわー、わざわざありがとう! んー、いい匂い!」
俺は早速フェルナンドが用意してくれたハーブをちょっと嗅いでみる。すると柑橘系のスーッとする、何となくオレンジっぽい匂いがした。俺好みの匂いだ。
「二人ともありがとう。一週間、留守にするけど屋敷のこと頼むよ。お爺もよろしくお願いします」
俺が二人とお爺に頼むと、三人はしっかりと頷き返してくれた。
「ええ、任せてください!」
「帰りを待ってますね。坊ちゃん」
「ほっほっほ」
ヒューゴとフェルナンド、お爺の返事を聞き、馬車にもう乗っているレノが俺を呼んだ。
「キトリー様、行きますよ」
「ん! じゃあ、みんな行ってくるね!」
俺が手を振って言うと、みんな「いってらっしゃませ」と手を振り返してくれた。それを見届けて、俺はレノの手を取り馬車の中に入る。
そして俺が座った後、レノはドアをしっかりと閉めると小窓から雇った御者に声をかけた。
「出発してください」
その一言で、馬車がゆっくりと動き出す。ごとごとっと揺れ始めた馬車の中、俺は窓から見送ってくれるみんなに手を振り返し、見えなくなったところで「ふぅ」とクッションに背もたれた。
……これからながーい馬車旅の始まりかぁ。休憩を挟みつつ夕方まで乗り続けて、途中大きな町で一泊、翌日馬車を乗り換えて帝都へ。……日本だったら新幹線とか飛行機でばびゅーんっと行けたんだけど、まあこれも仕方ないよな。馬車旅もゆっくりで楽しいっちゃ楽しいし。ただ……問題は。
「なんですか?」
「……二人だからって俺に手を出すんじゃないぞ」
俺はじろっとレノを見て、先に釘を打っておく。しかしレノは向かいに座っていたのに、わざわざ隣に移動してきやがった。
「ふぎゃっ?! なんで隣に来るんだよ!」
「手を出すな、と言われたので」
「だからって体ごと移動してくるやつがあるか! お前、そういうのは屁理屈って言うんだぞ!?」
「まあまあ、いいじゃないですか。手は出しませんので」
レノはにっこりと笑って俺に言った。でもこういう時のレノの笑みは怪しいったらない。
「本当かよ?」
「キトリー様が信じないのであれば、手を出しますが?」
「いや、信じます。はい、今信じました」
今日の夜、俺はレノと宿の同室で一泊する予定なのだ。そこで手を出されて、俺のお尻があられもない事になったらとんでもない。
……一応けん制しておいたが、いつも以上に気を引き締めていかねばッ! むんっ!
俺は心の中で意気込む、でもその隣でレノは。
「なら、私も手を出さないでおきます。それより、朝早かったので眠いんじゃありませんか? 私の肩で良ければお貸ししますよ」
レノに言われて、俺は少し返答に困る。今日は朝早くに起きたので、もうすでにちょっと眠たかった。だからレノの肩を貸してくれるのは正直助かる。
……もしかして隣に座ったのは俺に肩を貸してくれる為?
俺は気遣ってくれたレノをちらっと見た……けれど。
「なんですか? 手を出して欲しくなりましたか?」
にっこりと笑って言うレノに雰囲気が台無しだ。
……折角、ちょっと見直したのに!
「なんでもない。肩、借りるからな!」
俺はむすっとしてレノの肩に寄りかかった。そしてしばらくすると、馬車の揺れと睡眠不足で俺はすぐに眠りに落ちる。
だから俺はレノの呟いた言葉を聞いていなかった。
「全く、警戒心が強いのか無防備なのか。困った人ですね。……でも次のステップには進めさせてもらいますよ、坊ちゃん」
そう笑って言った言葉を――――。
俺の願い通り天候は晴れ、早朝の屋敷の玄関先にはお爺を筆頭にフェルナンドとヒューゴ、屋敷で働いてくれている使用人。そして、なんとノエルとザックも見送りに来てくれた。
「ザックとノエルも見送りに来てくれたんだ~、朝早くにありがとな」
「キトリー様が帝都に行かれると聞いたんでね。公爵家のみんなによろしく言っておいてください」
そうザックは俺に言った。
実はザックはあの事件後、公爵家の騎士を辞めて出身の村に戻っていた。
今までザックはノエルの好意に気がつきながらも、まだ若いノエルの気持ちを受けていいものかと悩んでいたらしい。でも俺と一緒に誘拐されたことによってノエルがいかに自分にとって大事かわかったようで、これからは傍にいて守りたいと公爵家の騎士をすっぱりと辞めたのだ。
……んんーーっ、愛だねッ! すんばらしい!
そしてザックは騎士を辞めた後、今はノエル達親子の家に身を寄せて一緒に暮らしている。つまりザックとノエルはそういう関係になったという事なのだ。
という訳で。今では親父さんではなく、ザックとノエルの二人が屋敷に色々と配達に来てくれている。
……いやー、またもカップルをくっつけてしまった~。もー、俺ってば偉いっ!
自画自賛しつつニマニマしてしまう顔を何とか必死に抑え、二人を見て俺は返事をした。
「ああ、元気にしてるって伝えておくよ。ついでに可愛い恋人と仲良くしてるって事も伝えた方がいいかな?」
「き、キトリー様っ!」
俺が言うとザックは照れた様子を見せ、犬獣人の特徴である耳をぴくっと動かし、尻尾を忙しなくパタパタッと動かした。一方、その隣でノエルは少し恥ずかしそうにしている。その上……。
「恋人……へへっ」
ノエルは恥ずかしがりながらも嬉しそうにはにかみ、小さく呟いた。その可愛さと言ったら!
……キャーッ、もう何この子! 女の子みたいに可愛いんですけど!
心の中にいるチビ俺が思わずおばちゃんのようになって悲鳴を上げる。いや、ホント言うと中身はオジサンなんですけどネ。
「キトリー様、お帰りを待ってますね」
ノエルはニコッと笑って言い、可愛い弟分のようなノエルに俺は「うんうん」と頷いた。
……勿論、帰ってくるよぅ~! 二人を見守るという仕事が俺にはあるからネ☆
俺はちょっと鼻息荒く、そんなことを思う。だがそんな俺を正常に戻してくれる奴がやってきた。
「何をやってるんですか。キトリー様、そろそろ行きますよ」
声をかけられ、振り返れば呆れ顔のレノがいた。
「あ、レノ」
「ザック。私がいない間、何かあればよろしくお願いしますよ。まあ、執事長がいますから大丈夫でしょうけど」
レノが言うと聞いていたお爺が「ほっほっほ」と笑った。うん、きっとお爺に任せておけば大丈夫だろう。しかしそんなレノにザックも笑って言い返した。
「おう、こっちの事は任せておけ。お前も、キトリー様と二人っきりだからって羽目を外すなよ?」
……おいぃぃっ! ザック、レノに余計な事を言うんじゃねぇぇぇっ!
「まあほどほどにしておきます」
……ほどほどってなんだっ!?
俺は咄嗟にお尻を隠す。だが、そんな俺を見てレノはにこりと笑った。
「キトリー様、ほどほどにしておきますから」
「何がだッ!」
……俺に近づくなっ! このケダモノめっ! 面が良いからって騙されないぞ!
俺はじろっとレノを睨むが、レノは何のその。
「ほら、行きますよ」
レノは俺の手を取って馬車へと向かった。しかしその俺とレノをヒューゴが呼び止めた。
「あ、坊ちゃん。これを!」
ヒューゴは藤の籠を俺に渡してくれた。籠の上には柑橘系の香りがするハーブの束が乗っけられている。
「これは?」
「サンドイッチや飲み物、軽いお菓子などを詰めておきました。お腹が空いた時にでも食べてください」
「うわ、ありがと! 小休止に食べるよ! あと、こっちのハーブはフェルナンドから?」
俺が尋ねるとヒューゴの隣にいたフェルナンドはにっこりと微笑んだ。
「いらないかと思ったのですが。もしも馬車酔いをした時はこのハーブの香りを嗅いでください。気持ちが落ち着きますから」
「うわー、わざわざありがとう! んー、いい匂い!」
俺は早速フェルナンドが用意してくれたハーブをちょっと嗅いでみる。すると柑橘系のスーッとする、何となくオレンジっぽい匂いがした。俺好みの匂いだ。
「二人ともありがとう。一週間、留守にするけど屋敷のこと頼むよ。お爺もよろしくお願いします」
俺が二人とお爺に頼むと、三人はしっかりと頷き返してくれた。
「ええ、任せてください!」
「帰りを待ってますね。坊ちゃん」
「ほっほっほ」
ヒューゴとフェルナンド、お爺の返事を聞き、馬車にもう乗っているレノが俺を呼んだ。
「キトリー様、行きますよ」
「ん! じゃあ、みんな行ってくるね!」
俺が手を振って言うと、みんな「いってらっしゃませ」と手を振り返してくれた。それを見届けて、俺はレノの手を取り馬車の中に入る。
そして俺が座った後、レノはドアをしっかりと閉めると小窓から雇った御者に声をかけた。
「出発してください」
その一言で、馬車がゆっくりと動き出す。ごとごとっと揺れ始めた馬車の中、俺は窓から見送ってくれるみんなに手を振り返し、見えなくなったところで「ふぅ」とクッションに背もたれた。
……これからながーい馬車旅の始まりかぁ。休憩を挟みつつ夕方まで乗り続けて、途中大きな町で一泊、翌日馬車を乗り換えて帝都へ。……日本だったら新幹線とか飛行機でばびゅーんっと行けたんだけど、まあこれも仕方ないよな。馬車旅もゆっくりで楽しいっちゃ楽しいし。ただ……問題は。
「なんですか?」
「……二人だからって俺に手を出すんじゃないぞ」
俺はじろっとレノを見て、先に釘を打っておく。しかしレノは向かいに座っていたのに、わざわざ隣に移動してきやがった。
「ふぎゃっ?! なんで隣に来るんだよ!」
「手を出すな、と言われたので」
「だからって体ごと移動してくるやつがあるか! お前、そういうのは屁理屈って言うんだぞ!?」
「まあまあ、いいじゃないですか。手は出しませんので」
レノはにっこりと笑って俺に言った。でもこういう時のレノの笑みは怪しいったらない。
「本当かよ?」
「キトリー様が信じないのであれば、手を出しますが?」
「いや、信じます。はい、今信じました」
今日の夜、俺はレノと宿の同室で一泊する予定なのだ。そこで手を出されて、俺のお尻があられもない事になったらとんでもない。
……一応けん制しておいたが、いつも以上に気を引き締めていかねばッ! むんっ!
俺は心の中で意気込む、でもその隣でレノは。
「なら、私も手を出さないでおきます。それより、朝早かったので眠いんじゃありませんか? 私の肩で良ければお貸ししますよ」
レノに言われて、俺は少し返答に困る。今日は朝早くに起きたので、もうすでにちょっと眠たかった。だからレノの肩を貸してくれるのは正直助かる。
……もしかして隣に座ったのは俺に肩を貸してくれる為?
俺は気遣ってくれたレノをちらっと見た……けれど。
「なんですか? 手を出して欲しくなりましたか?」
にっこりと笑って言うレノに雰囲気が台無しだ。
……折角、ちょっと見直したのに!
「なんでもない。肩、借りるからな!」
俺はむすっとしてレノの肩に寄りかかった。そしてしばらくすると、馬車の揺れと睡眠不足で俺はすぐに眠りに落ちる。
だから俺はレノの呟いた言葉を聞いていなかった。
「全く、警戒心が強いのか無防備なのか。困った人ですね。……でも次のステップには進めさせてもらいますよ、坊ちゃん」
そう笑って言った言葉を――――。
応援ありがとうございます!
11
お気に入りに追加
1,131
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる