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花の名を君に
エピローグ
しおりを挟む夏の晴れた日。
黒い髪に黒い肌、黒い瞳を持つ少年の姿をした光の精霊が建物の屋根の上に座り、広場に建てられた銅像をじぃーっと眺めていた。
「何見てるんだ?」
「影!」
光の精霊に声をかけたのは、大人の姿に成長した影の精霊だった。
「銅像か?」
「うん、銅像の周りに咲いているあのお花……。ずっと枯れないなぁって」
少年は指を指して言った。
広場にはある人間の銅像が建てられ、その周りには黄色の花が咲き誇っていた。それは冬の寒い日でさえ、時を知らないかのように咲き続けている。
「ああ、あれか」
「影、何か知ってるの?」
光の精霊が聞くと影の精霊は笑い「まあな」と答えた。でもそれ以上の事は教えてくれそうにない。
「ねー、教えてよ」
「どうしようかなぁ?」
影の精霊は意地悪く言い、光の精霊はぷくーっと頬を膨らました。
「影のいじわるぅ」
むすっとした光の精霊に影の精霊はぽんぽんっと頭を撫でた。
「悪い悪い」
影の精霊は謝ると、優しい目をして黄色の花に視線を向けた。
「あれは彼に向けられた愛だよ」
「愛?」
「そうさ」
影の精霊はそう答えて思い出す、まだこの新しい光の精霊が生まれる前にいた別の光の精霊と彼を愛した古き精霊王を。
「愛ってナニ?」
「お前も次第にわかるさ」
「えぇー?」
ハッキリしない答えに光の精霊は眉間に皺を寄せたが、そこに声が飛んできた。
「二人で何をしてるんだっ」
そこに現れたのは、別の精霊だった、でも彼はただの精霊ではない。
「ああ、精霊王」
「精霊王様」
影と光の精霊は、突然現れた精霊王に声をかけた。
精霊王は抜ける様な白の肌に銀色の髪、青の瞳を持った、光の精霊と変わらない年頃の少年だった。
「なんで影がここにいるんだ」
精霊王はむすっとした顔で影の精霊に言い、光の精霊の傍に近寄った。
「たまたまですよ、精霊王」
答えた影の精霊に精霊王は本当か? という目で見詰めたが、精霊は嘘を吐けない。
「たまたまか。だが町に来るのは珍しいな」
「人の食べ物を少しだけ頂きにね」
古き精霊王と光の精霊に教えられた悪い事。
でも、新しい精霊王は顔を顰めた。
「人間の食べ物は我らに良くないのに、よく食べるものだ」
「毒は時に甘美なものですよ、精霊王」
影はふふっと笑って、まだ自分より若い精霊王に告げた。
精霊王は見た目に相応しく、子供扱いされた事にむっとした顔をしたけれど影の精霊は笑って躱した。
「では僕は失礼します、精霊王、光」
影の精霊はそう言うと、姿を消した。
「せわしない奴だ」
精霊王はそう呟くと、座っていた光の精霊は立ち上がった。
「待ったか?」
「ううん、大丈夫だよ」
光の精霊はにっこり笑って言った。その笑顔に精霊王も笑顔で返す。
今日は二人で町に遊びに行こうと約束していたのだ。
「なら、遊びに行くか」
精霊王は手を差し伸べて言った。光の精霊は「うん!」と答えて、差し出された手を躊躇いなくぎゅと握った。
そうするだけで二人共、胸がいっぱいになって嬉しくなる。
そうして精霊王と光の精霊は手を繋いで、その場から姿を消した。
広場の中心に建てられた残虐王の銅像は真っすぐと前を向いており、その周りには前の精霊王と同じ名の花がいつまでもいつまでも咲き続けたのだったーーーー。
完結
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