残虐王

神谷レイン

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花の名を君に

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「ロベルト……僕と?」

 森の動物達を思い出し、僕が尋ねると、ロベルトはぴしりっと動きを止めて僕を見た。熱を持った視線に僕はどきりとする。

「……したいと言ったら、どうする?」

 ロベルトは真面目な顔で僕に尋ね、僕の胸は今までないくらいに早鐘を打っている。自分で聞いておいて、僕はなんだか恥ずかしくなった。こんなにもロベルトにまっすぐに求められるとは思ってなかったから。

「え……あ、僕の体、雄寄りだけど、いいの? 子供もできない、よ?」

 僕はちらりとロベルトを見て、尋ねた。
 僕は人ならざる者だけど、体の形は人間の雄寄りを取っている。雌の体は色々出ているし、力が弱い。一方で、雄寄りのこの形の方がいろいろと便利で、動きやすかったから。それに、そもそも生まれた時からこの形だった。

 でもそうなると僕もロベルトとも同じ性別。交尾は大抵異性で行われる。それは動物も人間も。ロベルトの番だって雌だし。
 僕にとって体を変える事は少し難しいけどできない事じゃない。だが体を変えても子供はできない。僕は人ならざる者で、ロベルトは人間だ。

 けれど、雌よりの体の方がいいんじゃないだろうか? と思って僕は尋ねたけれど、ロベルトには関係ないようだった。

「お前の体が男だろうが女だろうが関係ない。俺はずっとお前だけが、レスカだけが欲しかった」

 はっきりと言われて、僕は顔が熱くなってくる。そんな僕にロベルトは近づいて、吸い上げるように僕に口づけをした。
 そして唇を離すと、飢えた瞳で僕を見つめた。

「レスカ……してもいいか? お前をこの胸に抱きたい」

 僕はどう答えたらいいのかわからなくて、おろおろしながらもただこくりと頷いた。するとロベルトは優しく微笑んだ。

「レスカチア……愛している」

 ロベルトの双黒の瞳が僕を見つめ、告げられた言葉に僕の体は波打つ。
 “愛している”という言葉は知っている。でもこんなにも胸がドキドキと熱くなる言葉だったなんて、僕は知らなかった。

「……ロベルト」

 僕は頬に熱を感じながらもロベルトの首に腕を回し、引き寄せた。

「僕も……あいしてる」

 僕が言うと、ロベルトは本当に嬉しそうに笑った。
 そしてそっと僕の唇に口づけを落とした。最初は啄むように、でもその内、そのロベルトの唇は僕の唇を食むようになり、ロベルトの舌が僕の中に入ってきた。
 ロベルトの舌は僕の舌を撫ぜ、絡めて、翻弄する。

「ん、んんぅ」

 僕はロベルトの舌に合わせる事に精いっぱいで、息をもつれさせた。そんな中、ロベルトは手際よく僕の上衣の服を脱がした。
 空気に晒される上半身。まったいらな僕の胸にロベルトの冷たい指先が這う。

「んっ」

 ひやっとした感触に僕は小さく声を上げた。ロベルトは僕から唇を離して、ふっと笑った。

「悪い、手が冷たかったな」

 ロベルトはそう言って手を引っ込めたけど、僕はロベルトのその手を両手で掴んだ。僕の大好きな大きな手。優しい手の平。

「僕が温めるよ」

 僕が思わず言うと、ロベルトは堪らずって感じで僕の頬に口づけをした。そして僕の瞳を見つめた。

「ああ、温めてくれ」

 ロベルトはそう言うと、僕の手の指と指の間にロベルトの指を絡ませた。後で知ったけど恋人つなぎっていうやつ。
 ロベルトはぎゅっと手を繋ぐと僕をパタンっとベッドに押し倒した。一本の蝋燭が揺らめいて天井に映るロベルトの大きな影も揺らめく。そして、その影は動いた。

 ちゅっちゅっと僕の唇、僕の首筋、僕の胸、そして薄く色づいている胸の尖りにロベルトは唇を寄せた。それから優しく唇で挟んで、やわやわと食むと舌で舐め始めた。それはまるで赤子が乳を飲むようで。

 僕の体はビリビリとその刺激を受けて、勝手に震えた。

「あ、あっ、ロベルト、そこ、舐めてもっ、僕っ、お乳、でないよぉっ?」

 僕は変な感覚に思わず逃げるように体を捻ったけれど、ロベルトが覆いかぶさっていて逃げられない。手を動かしたくてもロベルトの手がしっかりと握っていて、身動きが取れなかった。
 そして戸惑って言った言葉にロベルトは色っぽい顔を見せた。

「乳は出なくても、ここに触れたい」

 そう言ってロベルトはちゅうちゅうっと強く僕の胸の尖りを吸った。途端、体の中の熱が一気に上がる。

「ああぁぁっ! や、やぁっ! 吸っちゃやだぁっ!」

 僕は声を上げて言ったけれど、ロベルトはそれでも僕の胸の尖りを吸い、舌先で僕の胸の尖りを押しつぶしたかと思ったら、今度は転がすように舐めた。

「あっあっ、やぁ! んんぅぅぅっ!」

 僕はぎゅうっとロベルトの手を握り、びくびくっと体を震わせた。体がいう事を利かない。こんな風に勝手に震えるなんて。
 息を上げながら驚く僕に、ロベルトは唇をようやく離してくれた。でも僕を見つめる瞳にはすっかり熱が灯っていた。

「気持ち良くないか?」
「ぅえ? ……気持ちいぃ? うんっと……なんか変な感じ」
「嫌か?」
「え?」

 嫌か嫌じゃないかと問いかければ、嫌じゃない。

「嫌じゃないけど……なんだか、苦しい? ううん、違うな。……恥ずかしい、かなぁ?」

 僕はこの感情に当てはまる言葉を探してぽつりと呟くと、ロベルトは口の端を片方だけ上げて「恥ずかしいか」と小さく笑った。

「でも、悪いがこれからもっと恥ずかしいことをさせてもらうぞ」
「へ?」

 驚く僕を他所にロベルトは、体を起こすと僕の下穿きごと僕の服を脱がせた。そして、ロベルト自身も服を脱いで裸になった。

 昔は一緒に湖で泳いだりしたけれど最近はとんっとなく、ロベルトの裸を見るのは数年ぶりだ。
 ロベルトの体は引き締まっていて美しい。だけど、その美しい上半身から視線をおろし、黒の下生えから存在を主張する一物に僕は目を見張った。

「え? おっきぃ……」

 ロベルトの性器は少し勃ち上がっていて、膨らんでいた。僕のものと比べると、大きさは歴然だ。まあ僕のはただのお飾りなんだけど。

 でも、どうしてロベルトの性器が大きくなっているのか考えて僕は急に恥ずかしくなった。だって、僕は知っていたから。動物の雄が相手に興奮し、欲情した時になるものだと。

 そしてそれは人間でも変わらない。つまりロベルトは僕に興奮して、欲情しているってことで……。

「っ……」

 僕は恥ずかしくなって、ロベルトを見ていられなくなり、目を彷徨わせた。そして明らかに動揺する僕をロベルトは微かに笑った。

「お前でもそんな顔をするんだな」

 ロベルトは僕の顔を撫ぜて言い、それから怪しい手つきで僕の唇を指先でなぞった。

「ろ、ロベルトッ」
「言っただろう。これからもっと恥ずかしいことをすると」
「そ、そうだけどぉ」

 こんなに胸がドキドキして、苦しくなるなんて僕は知らない。ロベルトの瞳が熱を孕んでいて、黒い瞳が僕を射るように見つめる。その瞳に見つめられて僕は動きを封じられたように動けなくなった。
 それをいいことにロベルトの手が僕の体の表面をさわさわと撫でていき、ぞわぞわっと体が疼いて、自然と腰が上がってしまう。

 ロベルトはそんな僕の動きを見て、僕のお飾りの性器に手を伸ばした。僕は下生えがなくてつるつるしている。

「自慰をしたことはあるか?」
「ぇ? じぃってなに?」

 僕はきょとんっとしてロベルトに尋ねた。するとロベルトは困ったように笑った。

「そこからか。ここを触って気持ち良くなったことは?」
「……これを触って? ないよ」

 そもそも僕の体は人の形を取っているけれど、僕は人間じゃない。だから排泄もしない。時々ロベルトが持って来てくれる食べ物を食べるけれど、取り込んだら体の中で消えちゃうんだ。つまり、僕の体は普通の人間とは違うって事。

「……なら試してみるか」

 ロベルトはそう言うと僕の性器をやわやわと触り始めた。

 なんでそんなところを触るの? と思ったけれど、触られて、すぐに僕の体に変化が起きた。ロベルトの手の動きに、体が疼き始めたから。

「んっ、あっ……ロベルト、そんなに強く握らないでっ」

 ロベルトは僕の性器を大きな手で握り、擦るように触る。そうされるだけで腰に甘い痺れが響く。

「気持ち良くないか?」

 ロベルトは僕を擦り続けながら、僕の頬にキスをした。でも僕は答えられなくて。

「あ、あ、んんっ」

 そう喘ぐしかできなかった。そんな僕を見て、ロベルトは男らしい笑みを浮かべると体を下へずらした。

「もっと気持ち良くしてやる」

 ロベルトはそう言うと僕の性器をぱくりと食べてしまった。
 生暖かいロベルトの口の中。舌が僕の性器を這いずり、僕は今までにない感覚に目を見開いた。

「あーっ! やっ、これ、やだぁ! ロベルトッ、んんーっ!」

 僕はそう言ったのにロベルトは止めないで、僕の性器を舐め、吸って、舌で突いた。そんな事をされれば、僕の腰は揺らめき、何かの熱が体の奥から噴き出そうとした。

「ろ、ロベルト! 口、離して! やっ、出ちゃうーー!!」

 僕はロベルトに叫んだけれど、ロベルトは口を外さないで、むしろぢゅうっと僕の性器を吸った。おかげで僕はその強い刺激に耐えられずにロベルトの口の中に、何かを吐き出した。
 その時、今までに感じた事ない強烈な快感が僕の中に走る。

「あぁぁぁっっ!!!」

 僕は身体をびくびくと震わせ、その後は息を上げて、くったりと横になるしかできなかった。なのにロベルトはごくりと僕が吐き出した熱を飲み込んで、驚いた顔をした。

「甘い……」
「ふぇ?」
「……人じゃないからか?」

 ロベルトは不思議そうな顔をしてそう言ったけれど、僕には何のことかわからなくて。でもそれよりも僕は、何かをロベルトに飲まれて羞恥心が心の中に渦巻いた。

「や、やだって言ったのに。僕、やだって」

 ぐずっと少し涙目になりながら僕が呟くと、ロベルトはハッとした顔をしてすぐに謝った。

「悪い、レスカ。泣くな」

 ロベルトは僕の頬を撫でて、そして機嫌を取るように尋ねた。

「でも、気持ち良かっただろ? それとも気持ち悪かったか?」

 ロベルトに聞かれて、僕は正直に答えた。

「……気持ち良かった」

 僕が答えるとロベルトはほっとした顔を見せた。

「なら、よかった」

 でもすぐにロベルトはじっと僕を見つめて、希うように僕に尋ねた。

「……なぁ、レスカ。今度は俺が気持ち良くなってもいいか?」
「え? ……ロベルト、僕に舐めて欲しいの?」

 僕は気持ち良かったから、ロベルトと同じことをするんだと思った。でも、違ったみたい。

「それもいいけど……俺はこっちでお前と繋がりたい」

 ロベルトはそう言うと、僕のお尻に手を伸ばした。そして後孔に指先を這わせた。するとロベルトはまた少し驚いた顔を見せた。

「濡れてる」

 ロベルトは僕のぬるぬるとした後孔を指先で弄った。敏感になっている僕の体はそれだけで刺激を受けてしまう。

「んぅ! ロベルトぉ?」
「……お前の体は不思議だな、レスカ」

 ロベルトはそう言うとぷつっと僕の中に指先を入れた。

「あんぅ!」
「濡れてて、柔らかい……」

 ロベルトは呟きながら遠慮なく僕の中に指を進めて、確かめるように中を探る。

「あっ、ひゃっ! こ、これ! なんか、変な感じ!」
「そうか? それにしては気持ちよさそうに中はひくひくしてるぞ?」

 ロベルトにいやらしく言われて、僕は顔が真っ赤になる。そんな事ないもん! って言いたいけど、僕の孔はロベルトの指を離さないと言わんばかりに咥えている。

「これなら、解さなくても大丈夫そうだな」

 ロベルトはちゅるんっと僕の後孔から指を抜いた。僕はほっとしたけれど、すぐに二本の指が入ってきて僕は声を上げた。

「ああっ! やぁ、なんでっ!?」
「解さなくてもよさそうだが、一応な」

 ロベルトはそう言うと、指を僕の中にずくずくと出し入れした。でもそうされると僕の体は勝手に震えて、ロベルトの指を感じた。

「んんぅっ! ロベルトぉ! あっ、あぅっ!」

 ただロベルトの指に翻弄されて、僕はシーツをぎゅっと握るだけしかできなくなった。ロベルトは僕の膝に口付けを落として、それからゆっくりと指を抜いた。
 僕の体液に濡れた指。それがぼんやりとする頭の中ではっきりと見えて恥ずかしくなる。
 でもそんな僕の足の間にロベルトは腰を進めた。

「はぁーはぁーっ、ロベルト……」
「レスカチア……挿れるぞ」

 ロベルトはそう言うと指を抜いた後孔にロベルトの性器の先っぽをぴたりとくっつけた。

「あ、やっ、待って!」

 僕は小さく呻いたけれど、ロベルトは我慢できないって顔で僕の中に押し入ってきて、全部を僕の中に収めた。お尻の穴がいっぱいに広がって、中がロベルトので埋め尽くされる。
 途端、僕の体はびりびりっと震え、さっきの指以上の刺激が体を這った。

「あああぁぁっ!」
「くっっ……レスカ」

 ロベルトは苦し気に呟き、僕を見た。熱い瞳が僕を見つめる。そして僕はその熱に当てられ、どうしようもなくロベルトが愛おしくなって手を伸ばした。

「ロベルトぉ」

 僕の願いに気が付いたロベルトは身体を曲げ、僕を抱き締めてくれた。でも、その動きで僕の中にいるロベルトが擦れる。

「あっんぅっ!」
「はっ、レスカチア……」

 ロベルトは堪らないって感じで呟いて、僕の首筋をべろりと舐めた。まるで食べるみたいに。

「レスカチア、愛している。……お前が何者でも」

 ロベルトはそう言うと、僕を抱き締めたままゆっくりと腰を動かし始めた。ロベルトの甘い言葉と甘い痺れが僕の体を支配する。ロベルトが腰を動かすたびに、頭が朦朧としてくる。
 もう、ロベルトの熱と匂いしか感じられない。

「あっあっ、ろ、べる、とっ! ああっ」
「レスカッ」

 まるでロベルトを受け入れるかのように僕の後孔からは体液が溢れ出てくる。くちゅぐちゅっとロベルトが動く度にいやらしい水音が響く。
 そして、その音は早くなりロベルトは僕の奥の奥まで突き進むと、そこで熱を吐き出した。その熱を受けて僕は身体がざわりとざわつく。
 でも僕はそれが何なのか考える元気もなくて、息を乱し、横たわるだけしかできなかった。

「は、はっ、はぁー、はぁーっ」

 僕は息を吸うだけで精一杯で、ぼんやりとロベルトを見つめた。するとロベルトも乱れた息を整えながら僕を見つめた。ロベルトの汗の匂いが強く香る。

 男の、雄の匂い。

「レスカ……」

 ロベルトは小さく呟くとはむはむっと口付けをしてきた。まるで僕を食べる様な口付け。
 でも、それも気持ち良くて、フワフワして、僕はいつの間にかうとうとと瞼を落とした。何も知らなかった僕には全て刺激が強すぎた。

「ロ……ベル、ト」

 僕は名前を呼びながら、眠りについた。そんな僕の髪を梳き、額にロベルトの唇が落とされたのがわかった。

「おやすみ、レスカ」

 そう囁く声と、熱いロベルトの肌を感じながら僕は眠り、そして僕はロベルトと初めての交わりを終えたのだった。



 もう……雨は降らなかった。



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