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殿下、どうしましょう?
1 春の朝
しおりを挟む――――それはレオナルド殿下とイニエスト公国の結婚式に出席し、俺とレオナルド殿下が結婚して一年がもうそろそろ経とうかという頃。
まだ春爛漫の季節、それは突然やって来た。
◇◇◇◇
――――早朝、また日が昇ったばかりの時刻。
……ん? もう朝かぁ。
朝のまだ冷えた空気に目が覚めて、俺はパチパチッと瞬きをする。窓の外を見れば、カーテンの隙間から朝日が零れていた。
……でも今日はお休みだから、まだ寝ていよう。
なので、温かい毛布の中で俺はぬくぬくともう一度眠ろうとする。でも、もぞもぞっと動けば、背後から大きな手が俺の体を抱き締めた。
「ん、セス」
レオナルド殿下に耳元で名前を呼ばれ、俺はドキッとする。
……レオ、寝言かな? 起こしちゃったかな?
俺はそう思って、じっとする。そうすれば大きな両手が温かさを求めるように俺の服の下に入ってきた。
……ひゃっ! て、手がっ。
そう思うけど、寝ぼけてるのかな? と思えば、声を出せない。けれど、その手は確実に意思を持ち、俺の乳首を両方の指先でクニクニとこねくり始めた。
……これ、起きてるッ!!
「ちょ、レオっ」
「んー、おはよう。セス、今日も可愛いね」
色っぽい声で囁かれ、俺はぴょんぴょんっと胸が弾む。
「レオ、さ、触っちゃダメ」
俺はレオナルド殿下の両手を剥がそうとするけれど、全然びくともしない。おかげで段々と乳首がじんじんしてきて、朝からやらしい気持ちになってきた。
「レ、オッ。も、だめっってぇ」
「どうして? 気持ちいいだろう? それともこっちも触って欲しい?」
甘い声で囁きながら言われ、レオナルド殿下の片手がするすると移動し、ズボンの上から俺の股間を触った。
「少し勃ってるね。胸を触られて感じた?」
やらしく言われて俺は腰をぴくっと動かしてしまう。
「レオが、さわる、からぁっ。も、朝、だから、だめっ」
「いいじゃないか。今日は私達二人とも休みなんだから、朝から愛し合おう?」
……そんなこと言って! 抱き合ったら昼過ぎまで俺は動けなくなるッ!!
甘い言葉を聞きながら俺は冷静に思う。でも体の方はレオナルド殿下の手に陥落し始めていた。
「セス」
甘く囁き、乳首を弄られながらズボンの上から股間を擦られて、背後からうなじにちゅっちゅっとキスをされたら、もう体はいう事を聞いてくれない。
その上、お尻にレオナルド殿下の少し硬くなったモノを押しつけられたら。
「ん、レオッ」
「セス、愛してるよ」
俺が振り向いて名前を呼べば、レオナルド殿下は優しい眼差しで言い、そっと俺にキスをしようとした。
……ああ、もう。そんな風に言われたら拒否できないよ。レオってばずるいんだから。
そう思いながら俺はレオナルド殿下の唇を受け入れようとした。
だが、そんな時―――――。
「ぴぴぃーーーーーっ!!」
その鳴き声と共に閉まっていたはずの窓がパァーンっと開き、閉めていたカーテンの間から何かが入ってきた。
俺はビックリしてビクッと肩を揺らし、窓辺に目を向けると赤い羽根に金色の瞳を持つ小鳥が部屋の中を飛んでいた。
「ま、まさか、フェニ!?」
俺が声を上げて名前を呼ぶと、その小鳥はポンッと二歳児の姿に変わって俺達のいるベッドの上に飛び降りた。
そこにいたのは正真正銘、不死鳥のフェニだった。
「フェニ!」
「えちゅっ、レオッ!」
俺が名前を呼ぶとフェニはベッドの上をよたよたしながら歩いてきて、俺の胸の中に飛び込んできた。なので俺は小さな体をぎゅっと抱き止める。
「フェニ、おかえり!」
「んっ」
フェニは小さく挨拶をした。そしてフェニは、ジークさんに与えられた魔法の服を身にまとっていたが、それでも朝の冷たい風に当たっていたからか、やや冷えていた。だから俺は温めようとぎゅっと抱き締める。
……フェニの体、少し冷えてる。あっためてあげなきゃ。……でも、レオといたす前でよかったぁ。
俺はフェニを抱き締めながら、ちょっとホッとする。さすがに二人でイチャイチャしている所を見られるのは恥ずかしいから。それがフェニでも。
けれど隣を見ればレオナルド殿下は少し残念そうだ。でもフェニが帰ってきたことはやっぱり嬉しいのか、そっと小さな頭を撫でた。
「フェニ、おかえり。こんな朝早くに帰ってくるなんて驚いたよ、今回もジークは別行動なのか?」
レオナルド殿下が尋ねれば、フェニはむぅっと口を尖らせ、そして悲し気な顔をすると次第に目にいっぱいの涙を溜め始めた。なので、俺とレオナルド殿下は二人してギョッとする。
「ふぇ、フェニ!? どうしたの!?」
俺が驚いて言えば、フェニは溜めていた涙をとうとうぽろりと零して泣き始めてしまった。
「ふぇに、ジークのっ、ことなんか、知らないもんっ! ジークなんかっ、ジークなんかぁぁっ、う……うわぁぁんっ!!」
フェニは俺に抱き着いて、わんわんっと泣き出した。
……一体、ジークさんと何があったんだ??
俺とレオナルド殿下は困惑顔を見合わせて、泣き出したフェニをただ宥めるしかなかった。
◇◇
――――それから十分後。
「うっ、ひっく……」
「フェニ、落ち着いた?」
背中をポンポンッと撫でてあげ、顔をタオルで拭けば、フェニはようやく泣き止み、ずびっと鼻水を啜った。そして「ん」と俺に小さく返事をした。
……本当に一体、何があったんだろう? こんなに泣くなんて。
「ほら、フェニ。温かいお茶だ、飲みなさい」
レオナルド殿下は手ずから淹れた少しぬるめのお茶が入っているカップを渡した。それをフェニは小さな両手で受け取ると素直にちびちびと飲んだ。
そして、飲み終わると「ほぅ」と一息ついた。ようやく落ち着いたようだ。なので俺は問いかけてみる。
「フェニ、一体どうしたの?」
俺はフェニに問いかけてみる。でもフェニは言いたくなさそうに口をむぐっと閉じた。
……どうしたんだろう?
俺はレオナルド殿下をちらりと見て視線を交わすけど、レオナルド殿下もわからないみたい。
しかし、フェニがこんな早朝にやってきた理由はすぐにわかることになった。
なぜなら、どこからともなく「ピィーッ!」と鳥の鳴き声が聞こえてくると部屋の窓が開き、今度は大きな赤い鳥が俺達の元へとやって来たからだ。そして俺もレオナルド殿下もその赤い鳥を知っていた。
「あ、貴方は!」
俺が思わず呟くとその鳥はフェニと同じようにポンッと人の姿に変わった。そして俺達に声をかけた。
「久方ぶりだな、二人とも」
「ジークさん!」
その鳥、いや人を見て、俺は名前を呼んだ。フェニと同じ不死鳥で、魔鳥としての生き方を教えているジークさん。その姿は相変わらず俺の上司であるウィギー薬長とそっくりだ。髪と目の色は違うけど。
そして、ジークさんとも会うのはフェニが年末に遊びに来た以来だった。
「ジークさん……あ、もしかしてフェニを迎えに?」
そう思ってフェニを見れば、フェニは俺の服をぎゅっと掴むと頬を膨らましてむっすぅーと怒っていた。
「フェニ? どうし」
「フェニ、急に飛び出すから驚いたぞ。全くお前は」
俺が声をかけると同時にジークさんは困ったようにフェニに言った。しかし、フェニのご機嫌は直らず、むしろ悪化した。
「ジーク、あっちいって!! ジークなんてっ、ジークなんちぇキライッ!」
フェニは叫ぶように言い、ううっと小さく呻きながら俺に顔を埋めた。だから俺は心配で、問いかけてしまう。
「フェニ、どうしたの?」
でもフェニは何も答えようとしない。ただ怒っている事だけはわかる。
……一体、何があったんだろう。
「ジーク、ちょっと」
そう言ったのは黙って様子を見ていたレオナルド殿下だった。レオナルド殿下はジークさんとこそこそっと何かを話した後「セス、私はジークと話してくる。だからフェニを見ていて」と言うと、二人は部屋を出て行った。
……ジークさんから話を聞くのかな。まあ、フェニはこんな感じだしなぁ。
俺は懐にいるフェニを見る。その頬は怒りで赤く染まり、目にはまた涙が溜まりそうだ。
だから俺は宥めるように、怒りが落ち着くように、ぽんぽんっと撫でる。
……それにしてもフェニがこんなに怒るなんて。今さっきの会話と雰囲気からみるにジークさんと喧嘩したっぽいけど、一体どうして喧嘩したんだろう? ジークさんが謝ってたけど、フェニに何かしちゃったのかな?
俺は心配になりながら、フェニの背を撫で続けた。
◇◇
一方、レオナルドに別室へと連れていかれたジークと言えば。
「はぁ……全く」
大きなため息を吐き、困り果てていた。
「一体何があったのか聞いても?」
レオナルドが尋ねるとジークはちらりと視線を向けた。
「俺を責めないのか? あいつを泣かせたのに」
「確かにフェニは泣いていたが、状況だけ見て決めつけるのは好きではない。双方の話を聞いてからだ」
レオナルドがハッキリと告げると、ジークは少し驚いた表情を見せた。
「へぇ、意外に公平なんだな」
「意外、は余計だ。で? 一体何があったんだ?」
レオナルドが尋ねるとジークはもう一度ため息を吐いて頭をガシガシと掻いた。
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