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閑話
殿下、現実世界ですよ!ー夏編・4ー
しおりを挟む「フェニ君、帰ろうか」
俺が声をかけるとフェニ君はこちらを振り返った。そしてとてとてっと歩いてくると俺の足元にぺちょりとくっつく。
「フェニ君、どうしたの?」
俺がしゃがんで尋ねれば、なんだか寂し気な顔をしている。……どうして?
「フェニ君? どうしたの?」
「えちゅ……。ジーク、だいじょうぶかなぁ」
「ジークさん?」
「ふぇに、じーくにあいたいっ……うっうっうわあぁぁん!」
フェニ君は急に泣き出してしまった。
……もしかして急にジークさんが恋しくなったのかな? 今まで大丈夫だったのに。
俺は大号泣のフェニ君にちょっとオロオロする。
「だ、大丈夫だよ、フェニ君。今から帰るから、ジークさんきっとよくなってるよ」
俺はフェニ君を抱き締めて、ぽんぽんっと背中を撫でる。でも、悲しくなった気持ちは落ち着かないのか、フェニ君の涙が止まらない。
……ど、どうしよう~っ。
そう思った時だった。
「何泣いてるんだ、お前は」
呆れた声はよく聞き慣れたもので。俺とフェニ君がハッと振り返れば、そこにはジークさんが立っていた!
「ジークさん!?」
「じーくぅっ!!」
フェニ君は俺の懐から出て行くと、ジークさんの足元に縋りついた。
「セス達に迷惑をかけるんじゃない」
ジークさんが言うと、さっきまで泣いていたフェニ君はニコッと笑って「あい!」と答えた。
「全く、返事だけはいいんだからな」
ジークさんはそう言いつつも、フェニ君をひょいっと抱き上げた。
「セス、レオナルド、今日は助かった。礼を言う」
「いえ、俺は……それより体調はいいんですか?」
俺はジークさんをじっと見る。昨日より随分と体調がよさそうだ。
「ああ、おかげさまでな。ゆっくり眠って、この通りだ」
「ジーク、ほんと?」
「嘘はつかない。今日は悪かったな、連れてこれなくて」
フェニ君が尋ねるとジークさんは謝った。でもフェニ君は首を横に振ると、俺とレオナルドさんを指差した。
「ううん、えちゅとれおがいっぱい遊んでくれたからだいじょーぶ!」
「そうか、良かったな。今度からは体調管理には気を付けるよ」
ジークさんの言葉にフェニ君は終始ニコニコ笑顔だ。どうやらすっかり機嫌が直ってしまったようだ。
……うーん、ジークさんの存在ってすごい。
「じゃ、こいつは俺が連れて帰るから。今日は本当にありがとう、礼は後日させてもらう。フェニ、礼は言ったか?」
「ううん、まだ。えちゅ、れお、今日はありがと!」
フェニ君はジークさんに抱っこされたまま、ぺこりと頭を下げた。
「気にしないで、俺も楽しんだし。ね、レオナルドさん」
俺が声をかければレオナルドさんは「ああ」と頷いた。
「こちらも楽しんだから気にするな、ジーク。帰りは気をつけてな」
「ああ。じゃあ二人とも、またマンションでな」
「またね~」
ジークさんが言うとフェニ君も俺達に手を振った。
……フェニ君の機嫌が直って良かったな。でもジークさん、フェニ君をわざわざ迎えに来るなんて、やっぱり心配だったのかな? 一緒のマンションに帰るのに。
俺はそこだけが不思議だった。しかし、その謎は帰り道でわかることになる。
それは、レオナルドさんの運転で帰る途中――――。
……あれ? 来た道と違う道? こっちの方が帰りは早いのかなぁ?
俺は行きと違う道に首を傾げる。でもレオナルドさんを見れば、道を間違えてる風でもない。
……じゃあ、やっぱり違う道で帰るのかな。
俺は能天気にそう思っていた。しかし車が森の奥に聳える高級旅館に到達した時、やっぱり目的地が違ったのだと理解した。
「あ、あの、レオナルドさん……この、旅館は」
「今日泊まる宿だよ」
レオナルドさんは悪気ない顔で俺を見つめる。そして女将の案内で部屋に連れてってもらえば、そこは貸切風呂付の和室だった。
……ここ、絶対高い!! というか、なんで旅館!?
「では、後程夕食をお持ちいたしますので、それまでごゆるりとお過ごしくださいませ」
女将はぺこりと頭を下げると部屋から出て行った。
「レオナルドさん、なんで宿!?」
「折角だから」
レオナルドさんはにこりと笑って俺に言う。そして近づくとスンッと匂いを嗅いだ。
「まだ潮の香りがするね。後で私が体の隅々まで洗ってあげるからね、セス」
フフッと笑われて俺は言葉も出ない。
……もしかしてジークさんが迎えに来たのは、この宿に俺達が泊まる予定だって知っていたから!?
「それとも、もう一緒にお風呂に入るかい? セス」
レオナルドさんは俺を抱き締め、服の下に手を忍ばせて言う。
「あ、ちょっ、ダメですよ! 夕食が来ちゃうか、らっ!」
「ちょっとだけだから」
「んむっ!」
レオナルドさんの厚い唇にキスされて、俺は何も言えなくなる。舌が俺の中に入ってきて、口の中を舐めてくる。その上、上顎を擦られて、背筋を撫でられたら。
「んんっ!」
びくびくっと体が震えてしまう。でも、レオナルドさんはそっと唇を離してくれた。
「はぁ、可愛いね。セス」
「んはぁ、レオ、ナルドさん。も、だめ」
「ん、わかった。その代わり、夕食を済ませたら一杯触れさせてね」
レオナルドさんはぎゅーっと俺を抱き締めて言った。
……もしかして、今日はフェニ君に構ってばかりいたから寂しかったのかな? それなら。
俺はそっと抱き締め返す。
「ほどほどで、お願いします」
俺が答えるとレオナルドさんは「ああ」と笑って返した。
でもその夜、レオナルドがほどほどで終わるわけがなかったのだった――。
◇◇
一方、マンションに帰り着き、海の汚れを落とす為、一緒に入浴していたジークとフェニは……。
「おいフェニ、風呂で寝るな」
「にゅ~」
フェニはジークと一緒の湯船につかっていたが、その頭はすでにゆらゆらと揺れている。疲れ切って、もう眠いのだ。
……全く、仕方ない奴だな。
ジークはそう思いつつもフェニを支える。しかし、そうしながらもジークは浜辺で別れたセスを思い出していた。
……セスの奴、大丈夫だろうか。レオナルドが元気なったら迎えに来いって言っていたから、迎えに行ったが……。迎えに行かない方が良かったんじゃ。隣、まだ帰ってきていないようだし。もしかして、どっか泊ってるのか?
ジークはそんなことを思い出しながら、昨日の事を思い出す。
『明日フェニを預かる、だが元気になったら迎えに来て欲しい。その時は連絡する。……それとこれは見舞いの品だ』
そう言って渡されたのは、高い栄養ドリンクやパウチのゼリー、冷却シートとスポーツドリンクだった。まるで治せと言わんばかり。
……まあ、ゆっくり休めたおかげで治ったがな。
「ま、明日には帰ってくるだろう」
ジークは深く考えないことにしたのだった。
「おい、フェニ上がるぞ」
「にゅ~」
おわり
*************
夏と言えば海!……という安直な考えで書いたお話でした(笑)
でも夏らしさを感じていただければ嬉しいです。
8月も半ばですが、暑い日々が続きますので、みなさま気を付けてお過ごしください。
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