殿下、俺でいいんですか!?

神谷レイン

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殿下、結婚式ですよ!

8 また!

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 ――ルナ様の結婚式の翌日。
 昼も過ぎた頃に俺達は自国バーセル王国へと帰る事となった。

「セス様、また遊びに来てください。セス様ならいつでも歓迎いたしますわ。レオナルド様を置いて、お一人で来られても構いませんからね?」
「いえいえ、私も遊びに来ますよ。セスと二人でね」

 レオナルド殿下は”俺と一緒”という事を強調して言い、ルナ様は「あらそうですか?」とつまらなさそうに返した。そのやり取りは、やっぱり旧知の友人のよう。

 ……俺、本当になんでこの二人が好き合ってるって思ったんだろ。

 二人のやり取りを見て、俺は心の底からそう思う。でもそんな俺にエドワードさんは声をかけた。

「セス様、今回は式に参列して頂き、ありがとうございました。相談にも乗ってもらって……。このお礼は必ずどこかで」
「いや、お礼なんて。俺はただ話を聞いただけですから」
「いいえ、そういう訳にはいきません。そうですね、次回また遊びに来られた時にでもお礼をさせてください」

 エドワードさんににっこり笑顔で言われ、俺は断るタイミングを失った。

「あ、えっと。じゃあ、その時に」
「ええ。だからまた必ず遊びに来てください。レオナルド様と一緒に」

 エドワードさんは俺の隣に立つレオナルド殿下にも視線を向けて言った。

「勿論、また来るよ。君達もいつでもバーセル王国へ来てくれ。歓迎するよ」

 レオナルド殿下が返事をするとエドワードさんは「ありがとうございます」と答えて頷いた。
 しかしそんな折、俺達の見送りに来ていたアレク殿下が。

「だが、セスは私達と帰ってもいいのだぞ?」

 なんて言うから、とんでもない事態に。

「あら、それはいい案ね!」
「せす、一緒にかえろ?」
「せすぅ、いっしょ!」

 ディアナ様を始め、二人の王女様達も賛同する。子供達の期待に満ちた目が眩しい。

「あ、いや俺も仕事がありますから」

 ……イニエストに残って色々見たりしたいけど、薬草園の事とか気になるし、仕事を休んできてるから。なにより、今回はレオナルド殿下を一人で帰したくない。

 俺は隣に立つレオナルド殿下をちらりと見る。去年の冬、転移魔法を無理やり使って帰ってきたことを思い出しながら。

 ……今回は一緒に帰ってあげたい。

 そう俺は思う。するとレオナルド殿下は俺の腰をぎゅっと抱き寄せた。

「ふぇ?!」
「駄目ですよ、セスは私と帰るんですから」

 レオナルド殿下は独占欲を見せてハッキリ断った。まるで、誰にも渡さない、と言っているみたいに聞こえる。だからか、その返事にアレク殿下はくすっと笑った。

「すまない、冗談だよ。しかしレオナルドはセスの事になると素直だな。セス、レオナルドの事を頼むよ」

 アレク殿下に言われ、俺は「はい」と答える。

 ……レオナルド殿下はアレク殿下の前だと素直じゃないのかな?

 なんて思うが、王女様達を見れば不服そうだ。

「えー、せす、帰るの?」
「いっしょ、じゃない?」

 ジュリアナ様はぷくっと頬を膨らませ、アンジェリカ様は首を傾げている。でもそんな二人を父親であるアレク殿下は優しく宥めた。

「セスにはレオナルドを連れて帰って貰わなきゃならないからな。バーセルに帰ってから、セスに遊んでもらいなさい」
「はぁーい」
「あい」

 二人は素直に返事をする。

 ……良かった、これ以上引き留められなくて。

 俺はほっと息を吐く。小さな王女様達のお願いに俺はめっぽう弱いから。
 でも、そこへある人たちが慌てた様子でやってきた。

「ああ、よかった。間に合って」

 早足で歩いてきたのはノルン様だった。そしてその後ろにはセシル様がついている。

「ノルン様にセシル様!」
「先ほど、出て行かれると聞きましてお見送りに来ました。もう出たかと思って、焦りました」
「わざわざ、ありがとうございます」

 俺が声をかけるとノルン様はにこっと笑った。

「セス様、今回お会い出来て良かったです。またいずれお会いしましょう。その時は、じっくりお話でも。レオナルド様も」

 ノルン様は俺とレオナルド殿下を見て言った。そして後ろにいるセシル様に声をかける。

「セシル、お別れの挨拶を」

 ノルン様が言うとセシル様は俺達をじっと見た。その視線がなんだかいつもと違うように見える。

「セシル様?」

 俺が声をかけると、なんだか余計恥ずかしそうにする。なんでだろう?

「ほら、セシル」

 ノルン様が急かすとセシル様はようやく口を開いた。

「セス、また会いに行く」
「はい。俺も機会があればノース王国に会いに行きますね」

 俺が返事をすればセシル様の尻尾がびびびっと震えた。だから、なんで??

 ……セシル様、一体どうしたんだろう。恥ずかしそうにして。俺、また何かやっちゃったかな?

 そんな風に思うが、俺の隣でレオナルド殿下が屈むとセシル様の耳元で何かを囁いた。するとセシル様は瞳を大きく開けてレオナルド殿下を見つめた。

 ……一体、何を言ったんだろう?

「レオナルド殿下?」

 声をかけるとレオナルド殿下は笑うだけで俺には何も言わなかった。

「では、ノルン様、セシル様、またいずれお会いしましょう」
「はい、レオナルド様」

 レオナルド殿下が言うとノルン様は笑顔で答え、セシル様は頷くだけだった。

 ……本当に何を言ったんだろう?

「ほら、セスも挨拶を」

 レオナルド殿下に言われ、ぽけっとしていた俺は慌てて挨拶をする。

「あ、ノルン様、セシル様、ではまた」
「はい。次に会う時までお元気で、セス様」

 ノルン様は言葉を返し、セシル様は俺を見るだけで何も言わなかった。
 しかし、そこで話す時間はもうなかった。

「セス、そろそろ行こうか」

 レオナルド殿下に言われ、俺は素直に頷く。
 そして最後にルナ様が俺達の前へ立ち、手を差し出した。

「セス様、また会いましょう」

 ルナ様の言葉は別れというよりも、再会の約束のようだった。だから俺はその手を握り返す。意外に小さなルナ様の手に俺はちょっと驚くけど、その手はなんだか力強かった。

「はい、必ず」

 俺が答えるとルナ様は美しく微笑んだ。でもその視線はすぐにレオナルド殿下に向かう。

「レオナルド様も」
「ああ」

 二人は短いやり取りを交わす。でもそれだけで十分だったようだ。

「じゃあセス、行こうか」

 レオナルド殿下に言われて俺達は見送られながら馬車へと乗り込もうとする。
 しかしその時。

「セス!」

 呼びかけられて振り向けば、ノルン様の後ろに隠れていたセシル様がひょこっと前に出ていた。

「セシル様」
「また……またなっ!」

 元気よく言うその姿はセシル様本来の姿でほっと安心した俺は笑って答えた。

「ええ、また!」

 俺が答えるとセシル様はブンブンッと手を振った。
 俺はその手に振り返しながら、馬車にレオナルド殿下と共に乗り込む。そして馬車の窓から外を見れば、なかなかに壮観な景色だ。
 バーセル王国の次期国王夫妻とその王女様達に、イニエスト公国の次期女王夫妻、その隣にはノース王国の将来有望な王子達。

 ……うーん、なかなかにすごい面子だ。

 俺は窓から手を振りながら、改めてそんなことを思う。しかし俺の隣に座る人がすごいのだから、自然と集まる人もそうなってくるのだろう。

「出してくれ」

 レオナルド殿下が告げると、馬車が静かに動き出した。
 すると段々とみんなの姿が遠くなっていき、最後には角を曲がって見えなくなってしまった。だから、なんだかちょっぴり寂しい気持ちになる。

 ……バーセル王国に帰るのは嬉しいけど、やっぱりもう少し話したりしたかったなぁ。

「セス、どうしたの?」
「ん? ああ、ちょっと寂しいなって」
「ああ、この数日でノルン様とも仲良くなったからね。でも、また会いに行けばいいさ。今度はゆったりとした日程で」

 レオナルド殿下に言われて、俺は確かにそうだなと思い、ちょっと気持ちが浮上する。でもレオナルド殿下を見れば、なんだか嬉しそうだ。

「レオは嬉しそうですね?」
「ああ。こうして他国に来るのもいいが、やっぱり家が一番だと思ってね。帰ったら数日、セスの家でまったりしたいよ」

 レオナルド殿下は俺の肩に頭を寄せて言った。まるで甘える大型獣(大きなネコ)だ。

「でもきっと帰ったら仕事が待ってるんじゃ」
「今はそれを言わないで、セス」

 レオナルド殿下にしては珍しく現実逃避してるようだ。だから慰めてあげたくなる。

「なら、仕事が終わったら二人だけで街中の家でゆっくりしましょう? 俺がご飯を作りますよ」

 俺が答えるとレオナルド殿下はすぐに元気になった。

「本当!?」
「簡単な料理なら俺も作れるから。それでもいい?」
「勿論だよ。……でもセスに私の作った料理を食べさせてあげたい気もしたいが。いや、セスのご飯を食べさせて」

 レオナルド殿下は少し考えた後、そう答えた。

 ……俺、レオナルド殿下みたいに作れないけど、たまには俺もしてあげたいし。ちょっと頑張って作ってみよう!

 俺は少し意気込む。

「私は幸せ者だな」
「大袈裟ですよ」
「いや、本当のことだよ」

 レオナルド殿下はそう言いながら俺のこめかみにキスをするから、なんだか俺は照れ臭くなってしまう。

 ……本当にこの人は俺に甘いなぁ。

 そう思うほど。でも、俺は不意に先程の事を思い出す。

「けど。そういえば、さっきセシル様に何を言ったんです?」

 俺はレオナルド殿下がセシル様に何か耳打ちしていたことを思い出して尋ねる。

「ああ、さっきの事? ちょっとね。またバーセルにも来てくださいと言っただけだよ」

 レオナルド殿下はそう言ったけれど、セシル様の驚き顔はそれだけじゃないような。でもレオナルド殿下を見れば、それ以上は答えてはくれそうになかった。

 ……本当は何を言ったんだろう? セシル様はあんなに驚いてたし。

 俺は内心首を傾げながら考えるけど、レオナルド殿下はそんな俺の肩を抱き寄せた。

「セス、眠りたかったら眠っていいからね? 帰るまでも長いし、昨日も無理させてしまったから」

 レオナルド殿下は低い声で俺に囁いた。そんなことをされれば、俺は昨夜の営みを思い出してしまう。この人に体の奥まで愛されたことを。

「あ、う、うん」

 俺は少し頬が熱くなるのを感じながら、体をレオナルド殿下に寄せた。筋肉の付いた体は俺が寄りかかってもびくともしない。
 そして、しばらくすれば馬車の揺れとレオナルド殿下の温かさで俺はうっかりすぐに眠りに入ってしまった。



 ◇◇



 ……私の言った言葉でセシル様の気持ちが落ち着くといいが。

 レオナルドはすぐにスヤスヤと寝入ったセスの顔を眺めながら、セシルの事を思う。恋を自覚してしまったセシルを。

『セシル様、セスは私のものですから。そこ、忘れないでくださいネ?』

 そうレオナルドはセシルに囁き、釘を刺しておいた。だが最後、セスに声をかけたセシルの事を思えば、言うだけでは足りなかったかもしれないとレオナルドは思う。
 なぜならもし自分がセシルの立場であったら、言われたぐらいでセスを諦める気には到底ならないから。

 ……ノーベンの忠告を聞いておくべきだったか。アレク兄上にも言われてしまったしな。……本当、セスは困った人たらしだ。

 レオナルドは大きなため息を吐きながら、スヤスヤと眠るセスを見つめるのだった。




 ――そしてまだ誰も。
 大人になったセシルが最強魔術師として、セスに求婚する未来が来ることを知らなかったのだった。


おわり



*****************

ルナとエドワードの結婚式に参加した二人のお話はいかがでしたか?
相変わらずイチャイチャしてましたが、二章に出てきたセシルをまた出せて筆者はちょっと嬉しいです(笑)


みんな、読んでくれてありがとう(*'ω'*)/
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