殿下、俺でいいんですか!?

神谷レイン

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殿下、結婚式ですよ!

5 結婚式当日

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 ――それから、セシル様との交流もありつつ二日間はあっと言う間に過ぎ、ルナ様達の結婚式当日。

 遅れて到着したアレク殿下とディアナ様、二人の子供であるジュリアナ様とアンジェリカ様とも合流し、俺達は正装で二人の結婚式に参列した。
 美しく着飾ったルナ様は本当に綺麗で、緊張した面持ちのエドワードさんと一緒に並んで歩く姿は実に仲睦まじい。そして結婚式の後に豪華な馬車で市内を回った二人は、多くの国民から祝福された。
 その後。街がお祭り騒ぎの中、段々と日は暮れ、城の中では豪華な夜会が開かれていた。


 ◇◇


「うーん、すごい」

 広間は煌びやかに飾り付けられ、テーブルには高級食材が使われた料理に飲み物が並び、音楽家たちの生演奏が流れている。

 ……俺とレオナルド殿下との結婚式もこんな感じだったなぁ。懐かしい。でも、あの時は大変だったという思い出と、レオナルド殿下に初めて抱かれた時のことしか覚えてないな。確か夜会も終盤になった頃、部屋に戻った後、お風呂に連れ込まれて……うん、考えるのはよそう。

 椅子に座って見ていた俺は一年前の結婚式を思い出したが、頬が熱くなってくるのを感じて思考するのを止めた。しかしそんな俺の元へ、飲み物を取りに行っていたレオナルド殿下が戻ってくる。

「セス、お待たせ」
「レオ、ありがとうございます」

 俺は差し出されたグラスを受け取ってお礼を言う。中はぶどうジュースのようだ。一口飲むと、甘くておいしい。

「お腹は空いてない? 料理もあったけど」

 レオナルド殿下は俺の隣の席に腰を下ろしながら、尋ねた。

「大丈夫です。お昼過ぎに出された料理を食べすぎちゃったから」

 俺はお腹を押さえて言った。結婚式が終わった後、俺達は一旦部屋に戻ったのだが、部屋に運ばれた昼食は祝いの料理で、とても量が多かった。おかげで未だにお腹は減らない。

 ……まあ、レオナルド殿下はぺろっと食べていたけれど。やっぱり体格の問題なのかな?

 隣に座るレオナルド殿下を俺はちらりと見る。服を着ていても、鍛えられた体をしているのがわかる。俺とは大違いだ。

 ……男として、レオナルド殿下の体格は憧れるよなぁ。でもやっぱりこういうのって遺伝なのかな? 王様もムキムキだし、アレク殿下もどっちかっていうと筋肉質だもんなぁ。

 俺は広間の向こうで、ルナ様と歓談しているディアナ様に付き添うアレク殿下を眺めた。ディアナ様は妹の結婚に終始笑顔だ。
 でもそこへセシル様がとててっと歩いてきた。今日会うのは初めてで、セシル様も夜会用の服を着ていた。

「セス!」
「セシル様、今日は一段とかっこいいですね」

 俺が褒めるとセシル様はフフンと得意げな顔を見せた。尻尾が嬉しそうにフリフリと動いている。可愛いなぁ。

「セスもかっこいいぞ」

 セシル様は俺を見て、フスンっと鼻息を出して褒めた。

「そうですか?」

 俺は呟いて、自分の姿を見直す。結婚式で着た正装とは別の服で、レオナルド殿下と対になるように作られた夜会用の服を着ている。

 ……こういう服って着なれないから服だけ浮いてるんじゃないかって思ってたけど、着れてるなら良かった。

 俺はちょっとほっと安堵する。だって、隣にいるレオナルド殿下はバッチリ着こなしているから。

「レオナルド様もすっごく似合ってます!」

 セシル様はフンフンッとちょっと興奮気味に言った。瞳がキラキラと輝く。

「ありがとう。セシル様もよくお似合いですよ、やっぱり去年からするとずっとお兄さんになられましたね」

 レオナルド殿下が褒めると、セシル様はぽっと顔を赤くした。好きな人に褒められて嬉しいのだろう。でも、俺はちょっと面白くない。

 ……なんだかちょっと妬いちゃうなぁ。去年はこんな気持ち、抱かなかったのに。やっぱりそれだけ俺もレオナルド殿下の事、好きになっちゃったんだなぁ。

 俺は改めて自分の気持ちに気がつく。

「それよりセシル様、ノルン様はどちらに?」
「ノルン兄様は今、お話し中です!」
「そうですか。でもあんまり一人でウロウロしているとノルン様が心配されますよ?」

 レオナルド殿下が言った矢先、ノルン様が慌てた様子で俺達の元にやって来た。ノルン様は長い髪を結い上げて、かっちりとした夜会服を着ていたが、元々の顔立ちが美しいのでまるで男装しているお姫様のようだ。

 ……これはこれで、間違って声をかける人もいるかも。

 俺はノルン様を見て、そう思う。

「こら、セシル。勝手に離れたらダメだと言っただろう?」
「だってー、暇だったんだもん」

 ノルン様に怒られたセシル様はぷくっと頬を膨らませた。

「離れる時はせめて一言言いなさい。すみません、レオナルド様、セス様」

 ノルン様は俺達を見て謝った。だからか、なんだかお兄さんというより、段々お母さんに見えてきた。

「いえ、少し話をしていただけですよ。ノルン様」
「そうですか。まだまだやんちゃ盛りで困ったものです。本当は部屋で待たせておくつもりだったんですが、どうしても夜会に参加したいと言いましてね」

 レオナルド殿下の言葉にノルン様は返事をすると、ちらりとセシル様を見た。すると途端にセシル様が慌てる。

「あー! ノルン兄様、言っちゃダメ!」

 ぴょんぴょんと跳ねて、セシル様は抗議する。一体どうしたんだろう?

「はいはい、わかってるよ」

 ノルン様は笑って言うと、なぜか俺を見た。なんだろう?
 けれど不思議に思っている内に、広間に流れていた音楽が急に止まった。広間にいた人たちがざわつき始め、俺もレオナルド殿下に尋ねる。

「一体、どうしたんでしょう?」
「どうやらダンスが始まるみたいだ」

 俺の問いかけにレオナルド殿下はすぐに答えた。

「ダンス」
「ええ、ルナ様とエドワード様のダンスが始まるようですね」

 俺の呟きにノルン様が答え、広間の中央、少し開かれた場所に視線を向けた。なので俺も同じように視線を向ける。すると広間の中央にルナ様とエドワードさんが手を取り合って立ち、互いの体を寄せ合うと音楽が流れ出した。そして二人は踊り始めたのだが。

 ……うわぁ、二人ともすごい!

 俺は思わず二人の姿に目が奪われる。だって、二人ともまるで羽が生えたかのように軽やかに踊るんだもの。しかも息もピッタリ!
 だから俺だけじゃなく、広間にいた人たちの視線も集めている。

 ……あんな風に踊れたら楽しそうだなぁ。俺はぎりぎり踊れるって感じだもん。

 俺は二人のダンスを見ながら羨ましく思う。俺も王族の嗜みという事で、レオナルド殿下と結婚した後にダンスを学んだが、軽やかという言葉は程遠い。どうやら俺には踊るというセンスはないようなのだ。

 ……まあ、踊るような機会が少ないから踊れなくても問題ないけど。

 そんなことを思いつつ眺めていると、あっという間に一曲が終わり、多くの拍手と共にルナ様達のダンスは終わった。
 そしてメインの二人が終わった今、二曲目は他の人も参加可能だ。なので広間には手と手を取り合うカップル達が集まる。
 でもそんな中、セシル様が俺に声をかけてきた。

「せ、セス!」
「はい?」
「セスは踊らないのか?」

 セシル様に尋ねられ、俺は頬を掻く。

「あー、俺、ダンスがへたっぴなんです。だからダンスは」

 そう言いかけた時だった。人のざわめきと共にルナ様が俺達の元へと歩いてくる。そして足を止める、俺の目の前で。

「ルナ、様?」

 俺が声をかけると、ルナ様は俺に手を差し伸べた。

「セス様、私と踊って下さるかしら?」

 思いがけないお誘いに俺は「えッ!?」と驚きの声を上げる。踊るつもりもなかったし、まさかルナ様に誘われるとも思っていなかったから。そして、女性の誘いを断るのはマナー違反。つまり俺に残された道は。

「踊っておいで、セス」

 レオナルド殿下は笑顔で俺を送り出す。

「で、でも俺じゃなくてレオナルド殿下の方が」
「誘われてるのはセスの方だよ」
「うっ」

 何も言い返せない。そしてルナ様はにっこりと俺に笑いかけた。

「心配しなくても、ダンスに不安がありましたら私がリードしますわ」

 そこまで言われたなら断る術はなし。俺は「はい」と答えて、席を立つ。そんな俺をレオナルド殿下は笑顔で見送り、セシル様はぽかんっとした顔で見ていた。

 ……ルナ様と踊るなんて。絶対レオナルド殿下と踊った方が様になるのにぃ~!

 俺はそう思いつつ、笑顔で見送るレオナルド殿下を恨めしく見つめる。でも広間に連れられて、結局俺はルナ様と手を取り合うことに。

 ……はぁ、大丈夫だろうか。

「あの、俺、本当にダンスが下手なので、最初に謝っておきます。すみません」
「フフ、気にしないで。……さあ、曲が始まりますわ。楽しみましょう?」

 ルナ様は美しく微笑み、俺はただただ、ルナ様の足を踏みませんように~!、と心の中で祈る。
 そして曲が流れ、俺達はテンポよく踊り始めた――。
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