殿下、俺でいいんですか!?

神谷レイン

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殿下、結婚式ですよ!

2 僕だぞ!

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「久しぶりだな、僕だぞ!」

 偉そうな少年の声が聞こえたと思ったら、茂みからひょいっと一人の少年が出てきた。巻き毛の黒髪に琥珀色の瞳。そしてモフモフな耳と尻尾をもつ黒豹の獣人。それはノース王国のセシル王子だった。

「セシル様ッ!」
「久しぶりだな、セス!」

 セシル様はフスンッと鼻息を撒き散らし、にんまりと笑った。そして俺も久しぶりの再会に思わず笑みを零す。

「お久しぶりです、セシル様! なんだか大きくなりました?!」

 久しぶりに会うセシル様は以前より少し大きくなっているように見えた。でも俺の問いかけは正しかったようで。

「せいちょーきだからな! 身長も3㎝伸びたんだぞ!」

 セシル様は鼻高々に腰に手を当てると、エッヘンと嬉しそうに答えた。

「やっぱり! ますますかっこよくなりましたね」

 俺は言った後、セシル様が美男子に変わっていた時の姿を思い出す。きっともっと成長したら、あんな風に格好よくなるんだろう。

 ……女の子達が黙っていないだろうなぁ。

 俺はそう思うけれど、セシル様を見ればなんだか顔を赤くしている。

「と、当然だろ?! 僕はもっとかっこよくなるんだから!」

 そう言うとセシル様はプイっと顔を横に背けてしまった。はて、俺は何か怒らせるようなことを言っただろうか?
 そう思うけれど、その横でレオナルド殿下がセシル様に挨拶をした。

「セシル様、お久しぶりですね。お元気そうで何よりです」

 レオナルド殿下が声をかけるとセシル様は以前と同じようにキラキラした目でレオナルド殿下に視線を向けた。

「はい、レオナルド様も!」
「セシル様もルナ様の結婚式に参列するのですね」
「はい。ノース王国を代表してノルン兄上と一緒に来ました!」
「ノルン様と」

 レオナルド殿下は呟き、俺は隣からこそっと尋ねる。

「ノルン様?」
「ノース王国の第二王子だよ」

 レオナルド殿下に教えてもらって俺はノース王国の王族を思い出す。ノース王国の現国王夫妻は仲睦まじく、子沢山で六人の跡継ぎがいると聞く。セシル様はその六番目で、上には確か兄が二人、姉が三人だったはず。

 ……ノルン様か。どんなお人なんだろう。

 そう思っていると、どこからともなく声が聞こえてきた。

「セシル~! おーい、どこに行ったんだー?」

 柔らかい声が聞こえ、その声にセシル様は返事をした。

「ノルン兄様っ、こっちだよー!」

 セシル様が返事をするとガサガサと茂みがまた揺れ、ひょこっと人が現れた。
 年齢は十六歳ぐらいだろうか、セシル様と同じ巻き毛の黒髪を腰まで伸ばし、琥珀の瞳はくりっとして愛らしい。そしてほっそりした体格はどこか保護欲を掻き立てられ、まるでどこかのお姫様のようだった。

 ……うわー、可愛い子だなぁ。結婚式に参加するどこかのご令嬢かお姫様かな?

 そう俺は思った。けれどレオナルド殿下の言葉で俺は驚く。

「お久しぶりです。ノルン様」
「あ、レオナルド様!」

 お姫様のような人はレオナルド殿下がいる事に驚いた顔をしたが、俺は内心もっと驚く。

 ……え、え、ええー!? この人がノルン様!?

 目の前に現れた人物を俺は思わず見入ってしまう。だって、どこからどうみてもお姫様のようで、とても王子様には見えなかったから。まあ、俺の周りにいる王子様達が男前・色男・美丈夫と揃いも揃って男らしいからかもしれないけど。

「ノルン兄様、レオナルド殿下に挨拶してたんだ」
「なるほど。でもだからって、急にいなくなったら駄目だろう? セシル」
「ごめーん」

 ノルン様は怒ったがセシル様は末っ子らしい愛嬌で軽く謝った。そんなセシル様にノルン様はちょっと呆れた顔をしたが、すぐにこちらに向き直し改めて挨拶をした。

「すみません、レオナルド殿下。弟が失礼をしませんでしたか?」
「いえ。セシル様はいつも礼儀正しいですよ」
「そうですか、良かった。それにしてもお久しぶりですね、レオナルド様。……あの、もしかしてそちらの方が」

 ノルン様は俺を見て尋ね、レオナルド殿下は俺の腰を抱いて答えた。

「ええ、私の伴侶のセスです。セス、こちらはノース王国の第二王子であるノルン様だよ。セシル様の兄上だ」

 レオナルド殿下は俺をノルン様に紹介し、俺はすぐに挨拶をする。

「初めまして、セスと言います」

 俺はぺこりと頭を下げて名乗る。するとノルン様は朗らかに笑って応えてくれた。

「セス様、初めまして。僕はノルンと申します。あの有名なセス様にお目にかかれて光栄です」

 ノルン様はそう言い、俺は首を傾げる。

「有名?」

 ……レオナルド殿下が有名なのはわかる気がするけど、俺が有名とは一体どういう事だろう? 有名になった事なんてないんだけどぉ。

 俺はわからなくて尋ねると、ノルン様はふふっと笑った。

「あのレオナルド殿下を射止めた方と、我が国ではセス様は有名なんですよ」
「い、射止めた?!」
「ええ、雑誌で特集を組まれるほどでしてね。お二人のお話は劇にされたりするほどです。一国の麗しき王子をべた惚れさせた魅惑の青年という事で」

 ……み、魅惑の青年!? 誰ですか、それ!!

「いや、俺はそんなんじゃっ」

 俺は否定しようとするが、それをレオナルド殿下が遮る。

「麗しきなんて柄じゃないですが、私がセスに心底惚れているのは間違いないですね」
「あ、いや」
「セシルから話は聞いてはいましたが、仲が本当に良いのですね」
「ええ、セスは私にとって唯一無二の存在なんです」
「あの、えっと」
「フフッ、お熱いですね。でも今年の冬にあったお二人の騒動については我が国でも皆、心配していたのですよ? まさか、ルナ様と従者であるエドワード様をくっつける為だと思いもよりませんでしたから」
「お騒がせして申し訳ない」
「ちょっ」
「けれどお二人を見れて、国にいる姉たちに自慢できます。姉たちもお二人のファンですから。セス様も話に聞いていた通り、なかなかに可愛らしいお方のようですし」

 ノルン様はにっこりと俺を見て言う。だけど俺にも一言言わせて!

 ……魅惑の青年って誰!? 俺よりノルン様の方がずぅーーっと可愛いです!!

 でも俺にその事を言う隙はなく、レオナルド殿下とノルン様は朗らかに会話を続ける。

 ……それにしても俺とレオナルド殿下の話が雑誌に特集って、ノース王国でそんなことになってるとは。特集するなら俺なんかじゃなくてレオナルド殿下だけか、うちの国の麗しき王子様達だけにして欲しいよ。俺なんか、特集されるほどの事なんかないし。……絶対俺の事、誇張して書かれてそう。ううぅっ。

 俺は肩を落としてそう思った。

 だが、俺は知らなかった。俺の目に触れないところで、自国でも雑誌に大々的に特集され、俺達の話がこっそりと巷の劇場で演じられているとは。

 でもそんな俺の服をくいくいっとセシル様が引っ張った。



*******************
早速出てきました、例のあの人”セシル様”
第二章っきり出番がなかったのですが、久しぶりのお目見えです(笑)
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