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殿下、結婚式ですよ!
1 イニエスト公国へ
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お久しぶりです。
色々と閑話を挟みましたが、ようやく完結後の“結婚編”のお話を書き上げることが出来ました。
今回ルナとエドワードが出てきますが、例のあの人も出てきます。お楽しみに('ω')ノ
****************
――――セスとレオナルドは色々とあった冬を超え、夫夫仲を深めた二人は春を迎えていた。
だが、そんな二人の元に一通の手紙が届く。
それは隣国イニエスト公国からのもので、ルナ王女とエドワードとの結婚式の招待状だった。
なのでセスとレオナルドは結婚式に出席することになり、数日掛けて馬車で行くことに。
しかし、そこで二人を待っていたのは……?
◇◇◇◇
「うわぁ、ここがイニエスト公国のお城!」
春爛漫。陽気な太陽の元、馬車を降りると目の前にはバーセル王国とは違う王城が聳え立ち、俺は思わず感嘆した。
自国の城は古くて本当にお城と言う形だが、イニエスト公国は城と言うより館のような造りだ。しかし、館と言えども白亜の壁に紺色の屋根。金の装飾があますことなく使われていて、絢爛豪華な建物には違わない。
「セス、疲れてない?」
レオナルド殿下は俺の腰に手を当てて、伺うように尋ねてきた。
イニエスト公国に来るまで長い馬車の旅をしてきたので心配してくれているのだろう。でもこんなにすごい建物を前に、驚きを隠せるはずもなかった。
「ちょっと疲れてますけど、お城がすごくて!」
「そうだね。でも中はもっと豪華なんだよ」
レオナルド殿下はにっこりと笑って、そう俺に教えてくれた。去年の冬、レオナルド殿下はイニエスト公国に来ていたから、内部をよく知っているのだろう。
「そうなんですね」
「部屋について少し休んだら、私が案内しよう」
レオナルド殿下のお誘いに俺は「はい、お願いします」と頼んだ。
そしてそんな会話の後、館の玄関先で俺達を出迎えてくれたメイド長さんが深々と頭を下げた。
「レオナルド様、セス様、遠路はるばるようこそおいでくださいました。お疲れでしょう、お部屋にご案内いたしますね」
恰幅の良いメイド長さんは笑顔を見せ、俺達は案内してくれる彼女の後をついていく。
……わぁ、中も凄い! うちのお城も綺麗だけど、イニエストのお城の中も綺麗だなぁ。
俺はキョロキョロと辺りを見回しがら思う。塵一つ落ちていない絨毯の廊下に、ピカピカに磨かれた窓ガラス。その上通路の途中には、絵画や高そうな調度品、彫刻が置かれている。まるでちょっとした美術館のようだ。
……でもここがディアナ様の故郷かぁ。
俺はアレクサンダー殿下の奥さんであり、王太子妃のディアナ様に想いを馳せる。ディアナ様は元イニエスト公国のお姫様だったが、レオナルド殿下の兄であるアレクサンダー殿下と結婚して国を離れた。なので、今では妹姫であるルナ様が王位を継ぐことになっている。そして今回、そのルナ様が結婚するのだ。
……もしアレク殿下と結婚してなかったら、ディアナ様がこの国の女王様だったのかな? それはそれですごいなぁ。
俺は優しくて、おっとりとしながらも凛とした雰囲気を持つ義姉を思い出す。最近は『お姉ちゃんって呼んでね?』と催促されて困惑気味だけど。
……ディアナ様をお姉ちゃん。確かにお姉ちゃんになるけど、なんだか恥ずかしいんだよなぁ。それに俺が呼んでいいのかなって思うし。うーん。
しかし考えている内に、いつの間にか部屋の前に辿り着いた。
「どうぞ、こちらの部屋をお使いください」
メイド長さんはドアを開けて言った。
なので中を覗いて見ると、そこはまた豪華な客室だった。あんまり豪華なものだから、一般庶民な俺はちょっと気が引ける。こんないい部屋に自分が入っていいのかって。
でもレオナルド殿下は気にならないのか、さっさと部屋の中に入った。さすがレオナルド殿下。
しかも豪華な部屋に佇むレオナルド殿下は実に絵になる。全然部屋に存在が負けてない。
「セス?」
「いえ、なんでも」
俺はレオナルド殿下に返事をしつつ、そっと部屋の中に入った。広い部屋には天蓋付きのベッドに、凝らした意匠の棚やクローゼットが置かれ、テラスにはテーブルと椅子。出入り口とは別のドアを開ければ、そこには洗面所とお風呂場まで設けられていた。
……ここで暮らせそう。
俺はお風呂場を見て思う。でも説明を終えたメイド長さんが出て行くと、レオナルド殿下は俺の後ろからぎゅっと抱き着いてきた。
「セス、やっぱり疲れてるんじゃない? お風呂に入って、ゆっくりする?」
「いえ、大丈夫です。ただ豪華な部屋だなぁと思って」
俺が告げるとレオナルド殿下は少し考える顔を見せ、そして。
「帰ったら部屋を改装するか」
ぽつりと呟き、俺は慌ててそれを止める。
……この人、俺達の部屋をここみたいに豪華にするつもりだ!
「いや、必要ないです。今の部屋で十分ですよ! それに俺達には街に二人だけの家があるでしょ!?」
「そう? でも」
「今の部屋で十分ですから! 改装は必要ありません!」
「セスがそう言うなら、止めておくよ」
俺がハッキリ拒否すると、レオナルド殿下はにっこりと笑って答えた。
……ちょっと油断すると、なにかと俺の為にしちゃうんだから。気を付けなきゃ。
俺はふぅっと息を吐く。
「それよりセス。荷物は後で使用人たちが運び入れてくれるそうだ。夕食は十九時頃に部屋に運んでくれて、それまでは庭園散策や史書室を自由に使っていいと。あとルナ様が顔を出しに来るらしい、ただ忙しいからいつになるかはわからないそうだ。まあ結婚式までに二日あるから、忙しくとも少しぐらいは顔を合わせられるだろう」
レオナルド殿下の説明を聞いて、俺は「わかりました」と頷く。
……ルナ様は結婚式の準備で忙しいんだろうなぁ。王族の結婚だもんなぁ。俺達の結婚式も色々と忙しかったし。でも思えば俺もレオナルド殿下と結婚して、もうすぐ一年かぁ。早いな~。
俺はレオナルド殿下と結婚した時のことを思い出す。そしてもう一年も経ったのだと感慨深い気持ちになった。だっていろんなことがありすぎたから。
……一年で色んな事があったよなぁ。まあ、まずはレオナルド殿下と結婚するって思ってなかったし。セシル様に会ったり、父さんが帰ってきて一悶着あったり、フェニが生まれたり、レオナルド殿下が出て行っちゃったり。……あの時は悲しかったな。でもレオナルド殿下もここイニエストにいて同じ気持ちだったのかな?
そう思いながら顔を上げてレオナルド殿下の顔をじっと見つめる。すると、レオナルド殿下はおもむろに顔を近づけてチュッとキスしてきた。
「んむ!」
「あんまり可愛い顔で見つめると食べちゃうよ?」
レオナルド殿下は甘い雰囲気を醸し出しながら笑って言い、俺は慌てて口を押える。
「だ、ダメですよ。着いたばっかりなんですから! それに昨日だって」
「昨日、何かしたかな?」
レオナルド殿下はニコニコしながら俺に尋ねる。本当は俺が何を言おうとしてるかわかってるのに。
……昨日の夜だって、泊まった宿屋でシたのに。
俺は心の中で呟きながら、昨晩の事を思い出す。
『あっ、レオッ。も、俺……イっちゃうぅっ』
『いいよ、セス。我慢しないで』
甘く耳元で囁かれた声が頭の中で鮮明に蘇って、恥ずかしくなる。
「顔をそんなに赤くして、可愛いね。セスは」
「も、もう、意地悪言わないでくださいっ」
顔を赤くしながら言うと、レオナルド殿下はフフッと笑った。
……なんだか冬の一件から、やっぱりちょっと変わったようなぁ。柔らかくなったというか。
俺は何となくそう思う。でも、どこが? と聞かれたら答えにくい。
「セス、どうしたの?」
考え込む俺にレオナルド殿下は尋ねた。
「ううん、なんでもないです。それよりレオナルド殿下は疲れてませんか?」
「私は全然。城にいた方がノーベンにこき使われるからね」
レオナルド殿下は肩をすくめて言い、俺は有能な従者を思い浮かべる。ちなみにノーベンさんは城でお留守番だ。
「それより、レオ、だろう? 普段でも愛称で呼ぶって約束したはずだけど?」
「あ、う、はぃ。レオ」
俺は素直に返事をする。今までベッドの中だけレオと呼んでいたけど、これからは普段も愛称で呼ぶようにこの前約束を取り付けられてしまったのだ。
……夜、呼ぶのは慣れたけど、普段呼ぶのはなんだか恥ずかしいんだよなぁ。なんどなく夜の事を思い出しちゃうし。
でも俺がそんなことを思い返していると「セス?」と呼ばれ、「はい!」と俺は背筋を伸ばして返事をする。そんな俺にレオナルド殿下はやれやれという表情を見せて、ある提案をしてくれた。
「セスが疲れていないのなら、庭園に行ってみるかい? ここにしかない固有種の植物もあるという話だから、どうだろう?」
「固有種の植物ッ! 見に行きたいです!」
俺は少し食い気味に返事をした。するとレオナルド殿下は興味津々な俺を見て笑う。
……う、ちょっと正直すぎたかな?
そう思ったけれどレオナルド殿下は俺の手を優しく握った。
「いいよ。行こうか」
にっこりと笑うレオナルド殿下に俺はこくりと頷いて、ぎゅっとその手を握り返した。
◇◇
――それからレオナルド殿下に手を引かれ、城の裏に広がる庭園に連れて行ってもらった。そこは庭師の手が入り、綺麗に整えられた花園が広がっている。
そしてお目当ての植物たちも多く植えられていた。
「うわーっ、すごいすごい!」
俺は植えられている植物を前に目を輝かせる。だって目の前にある植物は今まで乾燥させたものしか見た事がなかったから。
……この光景、父さんにも見せてあげたいな~! こっちの花なんか母さんが好きそう!
俺は未だ旅を続ける父さんと母さんを思い出す。でもそんな俺の後ろからレオナルド殿下が声をかけてきた。
「セスは本当に植物が好きだね」
ちょっと呆れ気味の声に俺はレオナルド殿下をそっちのけで植物に見入っていたことに気がつく。
「あ、ごめんなさい。ついつい」
俺は庭園に連れてきてくれたレオナルド殿下に謝る。でもレオナルド殿下は怒ったりしなかった。
「いいよ。セスが楽しそうにしてる方が私も楽しい」
優しい言葉に俺は嬉しくなる。だから俺は『ありがとう、レオ』と声をかけようとした。しかしその時。
「見つけたぞぉッ!」
どこからかそんな声が急に聞こえてきて、俺はビクッと肩を揺らした。
「へ? 今の声は」
辺りを見回すと、ガサガサっと茂みが揺れる。
「セス、こちらに!」
レオナルド殿下はすぐさま俺を抱き寄せ、茂みを注視した。
けれど、揺れる茂みから出てきたのは懐かしい顔だった。
「久しぶりだな、僕だぞ!」
色々と閑話を挟みましたが、ようやく完結後の“結婚編”のお話を書き上げることが出来ました。
今回ルナとエドワードが出てきますが、例のあの人も出てきます。お楽しみに('ω')ノ
****************
――――セスとレオナルドは色々とあった冬を超え、夫夫仲を深めた二人は春を迎えていた。
だが、そんな二人の元に一通の手紙が届く。
それは隣国イニエスト公国からのもので、ルナ王女とエドワードとの結婚式の招待状だった。
なのでセスとレオナルドは結婚式に出席することになり、数日掛けて馬車で行くことに。
しかし、そこで二人を待っていたのは……?
◇◇◇◇
「うわぁ、ここがイニエスト公国のお城!」
春爛漫。陽気な太陽の元、馬車を降りると目の前にはバーセル王国とは違う王城が聳え立ち、俺は思わず感嘆した。
自国の城は古くて本当にお城と言う形だが、イニエスト公国は城と言うより館のような造りだ。しかし、館と言えども白亜の壁に紺色の屋根。金の装飾があますことなく使われていて、絢爛豪華な建物には違わない。
「セス、疲れてない?」
レオナルド殿下は俺の腰に手を当てて、伺うように尋ねてきた。
イニエスト公国に来るまで長い馬車の旅をしてきたので心配してくれているのだろう。でもこんなにすごい建物を前に、驚きを隠せるはずもなかった。
「ちょっと疲れてますけど、お城がすごくて!」
「そうだね。でも中はもっと豪華なんだよ」
レオナルド殿下はにっこりと笑って、そう俺に教えてくれた。去年の冬、レオナルド殿下はイニエスト公国に来ていたから、内部をよく知っているのだろう。
「そうなんですね」
「部屋について少し休んだら、私が案内しよう」
レオナルド殿下のお誘いに俺は「はい、お願いします」と頼んだ。
そしてそんな会話の後、館の玄関先で俺達を出迎えてくれたメイド長さんが深々と頭を下げた。
「レオナルド様、セス様、遠路はるばるようこそおいでくださいました。お疲れでしょう、お部屋にご案内いたしますね」
恰幅の良いメイド長さんは笑顔を見せ、俺達は案内してくれる彼女の後をついていく。
……わぁ、中も凄い! うちのお城も綺麗だけど、イニエストのお城の中も綺麗だなぁ。
俺はキョロキョロと辺りを見回しがら思う。塵一つ落ちていない絨毯の廊下に、ピカピカに磨かれた窓ガラス。その上通路の途中には、絵画や高そうな調度品、彫刻が置かれている。まるでちょっとした美術館のようだ。
……でもここがディアナ様の故郷かぁ。
俺はアレクサンダー殿下の奥さんであり、王太子妃のディアナ様に想いを馳せる。ディアナ様は元イニエスト公国のお姫様だったが、レオナルド殿下の兄であるアレクサンダー殿下と結婚して国を離れた。なので、今では妹姫であるルナ様が王位を継ぐことになっている。そして今回、そのルナ様が結婚するのだ。
……もしアレク殿下と結婚してなかったら、ディアナ様がこの国の女王様だったのかな? それはそれですごいなぁ。
俺は優しくて、おっとりとしながらも凛とした雰囲気を持つ義姉を思い出す。最近は『お姉ちゃんって呼んでね?』と催促されて困惑気味だけど。
……ディアナ様をお姉ちゃん。確かにお姉ちゃんになるけど、なんだか恥ずかしいんだよなぁ。それに俺が呼んでいいのかなって思うし。うーん。
しかし考えている内に、いつの間にか部屋の前に辿り着いた。
「どうぞ、こちらの部屋をお使いください」
メイド長さんはドアを開けて言った。
なので中を覗いて見ると、そこはまた豪華な客室だった。あんまり豪華なものだから、一般庶民な俺はちょっと気が引ける。こんないい部屋に自分が入っていいのかって。
でもレオナルド殿下は気にならないのか、さっさと部屋の中に入った。さすがレオナルド殿下。
しかも豪華な部屋に佇むレオナルド殿下は実に絵になる。全然部屋に存在が負けてない。
「セス?」
「いえ、なんでも」
俺はレオナルド殿下に返事をしつつ、そっと部屋の中に入った。広い部屋には天蓋付きのベッドに、凝らした意匠の棚やクローゼットが置かれ、テラスにはテーブルと椅子。出入り口とは別のドアを開ければ、そこには洗面所とお風呂場まで設けられていた。
……ここで暮らせそう。
俺はお風呂場を見て思う。でも説明を終えたメイド長さんが出て行くと、レオナルド殿下は俺の後ろからぎゅっと抱き着いてきた。
「セス、やっぱり疲れてるんじゃない? お風呂に入って、ゆっくりする?」
「いえ、大丈夫です。ただ豪華な部屋だなぁと思って」
俺が告げるとレオナルド殿下は少し考える顔を見せ、そして。
「帰ったら部屋を改装するか」
ぽつりと呟き、俺は慌ててそれを止める。
……この人、俺達の部屋をここみたいに豪華にするつもりだ!
「いや、必要ないです。今の部屋で十分ですよ! それに俺達には街に二人だけの家があるでしょ!?」
「そう? でも」
「今の部屋で十分ですから! 改装は必要ありません!」
「セスがそう言うなら、止めておくよ」
俺がハッキリ拒否すると、レオナルド殿下はにっこりと笑って答えた。
……ちょっと油断すると、なにかと俺の為にしちゃうんだから。気を付けなきゃ。
俺はふぅっと息を吐く。
「それよりセス。荷物は後で使用人たちが運び入れてくれるそうだ。夕食は十九時頃に部屋に運んでくれて、それまでは庭園散策や史書室を自由に使っていいと。あとルナ様が顔を出しに来るらしい、ただ忙しいからいつになるかはわからないそうだ。まあ結婚式までに二日あるから、忙しくとも少しぐらいは顔を合わせられるだろう」
レオナルド殿下の説明を聞いて、俺は「わかりました」と頷く。
……ルナ様は結婚式の準備で忙しいんだろうなぁ。王族の結婚だもんなぁ。俺達の結婚式も色々と忙しかったし。でも思えば俺もレオナルド殿下と結婚して、もうすぐ一年かぁ。早いな~。
俺はレオナルド殿下と結婚した時のことを思い出す。そしてもう一年も経ったのだと感慨深い気持ちになった。だっていろんなことがありすぎたから。
……一年で色んな事があったよなぁ。まあ、まずはレオナルド殿下と結婚するって思ってなかったし。セシル様に会ったり、父さんが帰ってきて一悶着あったり、フェニが生まれたり、レオナルド殿下が出て行っちゃったり。……あの時は悲しかったな。でもレオナルド殿下もここイニエストにいて同じ気持ちだったのかな?
そう思いながら顔を上げてレオナルド殿下の顔をじっと見つめる。すると、レオナルド殿下はおもむろに顔を近づけてチュッとキスしてきた。
「んむ!」
「あんまり可愛い顔で見つめると食べちゃうよ?」
レオナルド殿下は甘い雰囲気を醸し出しながら笑って言い、俺は慌てて口を押える。
「だ、ダメですよ。着いたばっかりなんですから! それに昨日だって」
「昨日、何かしたかな?」
レオナルド殿下はニコニコしながら俺に尋ねる。本当は俺が何を言おうとしてるかわかってるのに。
……昨日の夜だって、泊まった宿屋でシたのに。
俺は心の中で呟きながら、昨晩の事を思い出す。
『あっ、レオッ。も、俺……イっちゃうぅっ』
『いいよ、セス。我慢しないで』
甘く耳元で囁かれた声が頭の中で鮮明に蘇って、恥ずかしくなる。
「顔をそんなに赤くして、可愛いね。セスは」
「も、もう、意地悪言わないでくださいっ」
顔を赤くしながら言うと、レオナルド殿下はフフッと笑った。
……なんだか冬の一件から、やっぱりちょっと変わったようなぁ。柔らかくなったというか。
俺は何となくそう思う。でも、どこが? と聞かれたら答えにくい。
「セス、どうしたの?」
考え込む俺にレオナルド殿下は尋ねた。
「ううん、なんでもないです。それよりレオナルド殿下は疲れてませんか?」
「私は全然。城にいた方がノーベンにこき使われるからね」
レオナルド殿下は肩をすくめて言い、俺は有能な従者を思い浮かべる。ちなみにノーベンさんは城でお留守番だ。
「それより、レオ、だろう? 普段でも愛称で呼ぶって約束したはずだけど?」
「あ、う、はぃ。レオ」
俺は素直に返事をする。今までベッドの中だけレオと呼んでいたけど、これからは普段も愛称で呼ぶようにこの前約束を取り付けられてしまったのだ。
……夜、呼ぶのは慣れたけど、普段呼ぶのはなんだか恥ずかしいんだよなぁ。なんどなく夜の事を思い出しちゃうし。
でも俺がそんなことを思い返していると「セス?」と呼ばれ、「はい!」と俺は背筋を伸ばして返事をする。そんな俺にレオナルド殿下はやれやれという表情を見せて、ある提案をしてくれた。
「セスが疲れていないのなら、庭園に行ってみるかい? ここにしかない固有種の植物もあるという話だから、どうだろう?」
「固有種の植物ッ! 見に行きたいです!」
俺は少し食い気味に返事をした。するとレオナルド殿下は興味津々な俺を見て笑う。
……う、ちょっと正直すぎたかな?
そう思ったけれどレオナルド殿下は俺の手を優しく握った。
「いいよ。行こうか」
にっこりと笑うレオナルド殿下に俺はこくりと頷いて、ぎゅっとその手を握り返した。
◇◇
――それからレオナルド殿下に手を引かれ、城の裏に広がる庭園に連れて行ってもらった。そこは庭師の手が入り、綺麗に整えられた花園が広がっている。
そしてお目当ての植物たちも多く植えられていた。
「うわーっ、すごいすごい!」
俺は植えられている植物を前に目を輝かせる。だって目の前にある植物は今まで乾燥させたものしか見た事がなかったから。
……この光景、父さんにも見せてあげたいな~! こっちの花なんか母さんが好きそう!
俺は未だ旅を続ける父さんと母さんを思い出す。でもそんな俺の後ろからレオナルド殿下が声をかけてきた。
「セスは本当に植物が好きだね」
ちょっと呆れ気味の声に俺はレオナルド殿下をそっちのけで植物に見入っていたことに気がつく。
「あ、ごめんなさい。ついつい」
俺は庭園に連れてきてくれたレオナルド殿下に謝る。でもレオナルド殿下は怒ったりしなかった。
「いいよ。セスが楽しそうにしてる方が私も楽しい」
優しい言葉に俺は嬉しくなる。だから俺は『ありがとう、レオ』と声をかけようとした。しかしその時。
「見つけたぞぉッ!」
どこからかそんな声が急に聞こえてきて、俺はビクッと肩を揺らした。
「へ? 今の声は」
辺りを見回すと、ガサガサっと茂みが揺れる。
「セス、こちらに!」
レオナルド殿下はすぐさま俺を抱き寄せ、茂みを注視した。
けれど、揺れる茂みから出てきたのは懐かしい顔だった。
「久しぶりだな、僕だぞ!」
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