殿下、俺でいいんですか!?

神谷レイン

文字の大きさ
上 下
79 / 114
殿下、俺じゃダメですか?

最終話 俺じゃダメですか?

しおりを挟む
 翌日のよく晴れた日。
 
 セスは家に行く前に、レオナルドを町の小さな教会に連れ出していた。

「セス、ここは?」

 レオナルドは辺りを見回しながら、セスに手を引かれて中に入る。
 教会には女神が祭られている祭壇と参列席と実に簡素なもので。でもステンドガラスから太陽の光が入り、赤、緑、黄色、青と幻想的な光が教会を包んでいた。

 レオナルドはセスがこれから何をするか全く知らされておらず、こんなところに何の用があるというのだろう? と内心首を傾げていた。

 ……セスは別に信仰深いってわけでもないのに。

 レオナルドは不思議に思いながら祭壇の前までたどり着いた。奥には木造でできた女神像が立っている。

「セス、ここに何の用があるの?」

 レオナルドは堪らずセスに尋ねた。
 するとレオナルドの手を引いていたセスは振り返り、にっこりと笑った。

「レオナルド殿下に俺の気持ちを、ちゃんとわかって貰おうと思って」
「私にわかって? どういう」

 レオナルドが尋ねるとセスはレオナルドの両手をぎゅっと握った。そしてじっとレオナルドを見つめる。

「レオナルド殿下は俺が仕方なく結婚したってまだどこかで思ってるみたいだから俺から改めて申し込ませて欲しいんです」
「……っ!」

 セスは言った後呼吸を整え、それからサファイアの瞳を大きく開けて驚いているレオナルドに告げた。

「レオナルド殿下、俺とこれからの人生を一緒に生きて欲しいです。俺は……平民だし、男だし、かっこよくもないし……その、お金もないし」

 言っている内に段々とセスの声が小さくなってくる。しかしレオナルドはじっとセスの告白を聞いた。

「貴方には身分不相応かもしれない。でも俺は貴方とこれからも生きたい。だから、もう一度俺から誓わせてください。……レオナルド」

 セスはそう言うと、いつの日かレオナルドがセスにしたように昔のしきたりに倣って床に片膝をつき、レオナルドの手を取るとその甲に唇を落とした。
 
 しかし、しばし待ってもレオナルドからの返事が来ない。セスの心の中に不安が募っていく。

「あ。あの……俺じゃダメですか?」

 弱弱しい声でセスは言ったけれど、そんなセスにレオナルドはようやく声をかけた。

「セス、立って」

 レオナルドに言われてセスは立ち上がった。そしてレオナルドを見ようとした。けれど、その前にガバリっと抱き着かれてしまった。

「うわぁっ!!」

 あまりに勢いよく抱き着かれたのでセスは驚いた声を上げた。けれどそんなセスにレオナルドは嬉しそうに言った。

「勿論! 勿論だよ、セス。セスじゃなきゃ嫌だよ。これからも私の傍にいて欲しい」

 レオナルドの答えを聞いて、セスはほっと安堵の息を吐いた。

「よかった」

 セスが呟くと、そっとレオナルドは体を離した。そしてその顔を見ると満面の笑みを浮かべている。まるで花が咲きそうなくらい嬉しそうだ。
 その笑顔を見てセスも自然と笑みを零す。

「こんなに嬉しい事はないよ、セス。ありがとう」

 レオナルドはセスの頬を撫でて、うれし気に言った。だからセスはなんだか照れてしまう。

「いや、あの……俺、今まではっきりと言った事なかったから、ちゃんと伝えておこうと思って」
「そうか」

 納得したようにいうレオナルドを見ると、まだまだニコニコ笑顔だ。あんまりに嬉しそうだから直視できない。

 ……ううっ、イケメンの満面の笑みはかえって毒だ。キラキラしててまぶしぃ。

「でも、どうしてここで? 何か理由があるの?」

 セスがキラキラオーラにきゅっと目を瞑っているとレオナルドに尋ねられた。

「ああ。実はここ、父さんが母さんにプロポーズした場所なんです。だから、ここなら上手くいくかなって。それに子供の頃、俺もいつかここで誰かにプロポーズするのかなって思っていたから……レオナルド殿下と一緒に来たかったんです」

 セスが告げると、レオナルドはキラキラ度を増しながら「そうか」と呟いた。

 ……ううっ、さらに眩しい!!

 でもそんなセスをレオナルドはぎゅっと再び抱き締めた。

「セスにまた惚れ直してしまいそうだ。もうこれまでになく愛おしいと思うのに、まだまだたくさんセスへの気持ちが溢れ出してくる」

 耳元でレオナルドは堪らずと言った様子で言い、セスはくすっと笑った。

「そんなの、俺もですよ」

 ……レオナルド殿下と出会ってから俺はいっぱい知らなかった感情を教えてもらった。でもきっとこれからもそうやって生きていくんだ。レオナルド殿下と……笑ったり、怒ったり、喜んだり、悲しんだり。一緒に思い出を重ねていくんだ。

「……セス」

 レオナルドは体をそっと離し、セスの顔を見つめた。そしてセスもサファイアの瞳をエメラルドグリーンの瞳で見つめ返す。
 互いの視線が絡み合い、二人は何の言葉も交わさずにゆっくりと互いの唇を寄せた。

 それはとてもやさしいキスで。

 ちゅっと唇同士が触れ合うだけのものだった。けれど二人はそっと離れた後、満足そうにお互いを見つめ合った。

「ふふっ、まるで誓いのキスですね」
「そうだね」

 盛大に行われた結婚式。その時も誓いのキスをしたけれど、以前と今では全然気持ちが違う。
 
 ……今の方がずっと本当の誓いのキスみたい。

 でもそれはレオナルドも思っていたのか、優しい顔でセスを見つめていた。

 そんなレオナルドにセスは笑みを返し、ぎゅっとレオナルドの大きな手を握った。

「さ、早く商店街で買い物をして家に行きましょう? ……家に着いたら……その、朝まで一緒なんでしょ?」

 セスは恥ずかしそうにしながらもおずおずとレオナルドに言った。
 そしてセスの言葉はレオナルドが前日言った言葉を指していた。

『二人でゆっくりと、部屋に防音魔法をかけて朝まで二人だけでできる事をしようか』

 セスはレオナルドが言った言葉を忘れてはいなかったのだ。

 ……朝までって言っていたから、商店街で明日の朝の分のご飯も買わなくちゃ。でも、本当に朝まで一緒なのかな? ドキドキ。

 セスは胸を高鳴らせて思ったが、次の瞬間。
 光が辺りを包み込み、気が付けばセスは自分の部屋に立ってた。




「へっ?」





 セスは驚いて間抜けな声を出したが、そんなセスをレオナルドはすぐ後ろにあるベッドに押し倒した。

「セス、悪いが買い物は明日だ。もう我慢できない。セスが今すぐ欲しい」
「へぇっ!? ちょ、ちょっと殿下!?」

 レオナルドは息を荒くした様子で宣言すると、セスの言葉を無視して、セスが着ている服をどんどん剥ぎ取っていく。

「ちょ、レオ!」
「セス、いっぱい気持ちよくしてあげるからね? 今日はまだやったことのないこともしてみようか」

 レオナルドはにっこりと笑みを浮かべてセスに言ったが、セスの顔は引きつっていた。

「なにをするつもり!?」
「セスが気持ちよくなること。泣くぐらい気持ちよくさせてあげるからね?」

 レオナルドのサファイアの瞳は爛々と情欲に輝き、セスは恐れを感じた。

 ……泣くぐらい気持ちよくなるって何をするつもりだーっ!?

 だが、そう思っている内にセスはレオナルドに服を全て脱がされ、すっぽんぽんにされていた。そして、その裸で寝転ぶセスを跨ぐようにレオナルドは膝立ちをしていた。
 みればズボンの中に納まっている凶暴なアレが息苦しそうに突っぱねている。

「ひぇっ」
「セス、愛してるよ」

 もうセスに逃げ場はなかった。
 
「ちょ、ちょっと待って、レオ! あっ、ま、待ってぇーーーーんっ!」

 セスはレオナルドに組み敷かれ、その後、たくさんのキスと愛撫を受け、そしていろんな液を体から出して、最後には泣いて泣いて『もう、だめぇえええっ』と叫ぶぐらい、どろどろの甘々に愛され、結局朝方に気絶するまでレオナルドの相手をすることになったのだった。

 ……レオナルド、容赦なさすぎるぅぅぅぅぅっ!! ひえーーーーーんっ!
















 そして、それからの二人はーーーー。

 ルナとエドワードの結婚式に呼ばれ、そこでセシルと再会したり。
 フェニがジークと喧嘩して城に帰ってきたり。
 セスが他国へ誘拐されたり。
 レオナルドの隠し子騒動なんかあったり!?と……他にもセスとレオナルドは色々な事件に巻き込まれたり、起こしたり? した。
 だが二人はいつまでも離れることはなかった。




 でも、彼らの物語はここまで。





 二人がその後、どういう人生を送ったのかは……彼らだけの特別なお話。



完結

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

「じゃあ、別れるか」

万年青二三歳
BL
 三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。  期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。  ケンカップル好きへ捧げます。  ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~

華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。 もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。 だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。 だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。 子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。 アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ ●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。 ●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。 ●Rシーンには※つけてます。

聖騎士に裏切られた聖女は愛されることを知る

andante
恋愛
聖騎士のために力を与えていた聖女は裏切られたことを知る。 婚約は解消され、お互いに新たな道を歩むことになった。

処理中です...