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殿下、俺じゃダメですか?
18 城に戻ったら
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俺がレオナルド殿下と共に城に戻った後、俺達の仲が元に戻ったことは瞬く間に広がった。
そして城に戻ったその日の内に、俺はノーベンさんや父さんと母さんにこってり絞られ、陛下にも呼ばれた。でもなぜかしら呼ばれたのは俺一人で。
なんで俺だけ?! と思いつつ俺はドキドキバクバクと緊張しながら王の執務室へ。しかしそこには陛下だけなく王妃様のカレンちゃんもいた。
そして、そこで俺は驚愕の事実を知らされたのだった。
「え?! 俺とレオナルド殿下は離婚してないッ!?」
俺は思わず声を上げた。だが俺の目の前にいる陛下はこくりと頷いた。
「ああ、そうだ」
「え!? え!? でも俺、離婚届けの紙に名前を書きましたよ!?」
いつの日かレオナルド殿下に書かされた紙。あれは確かに離婚届けの紙だった。でも陛下とカレンちゃんは。
「だが、お前達は離婚していない」
「実はそうなのよ。セス」
俺は驚きのあまり声が出ない。俺はてっきりレオナルド殿下と離婚していると思っていからだ。
「王族の婚姻は少々特殊でな。王の許可がなければ結婚も離婚もできないのだよ。例え、離婚届けにサインをしていたとしてもな。そして俺は許可もしてない。どうせ、こうなるだろうとわかっていたからだ」
「へ、陛下はわかっていたんですか!?」
「まあな」
陛下はレオナルド殿下と同じように、男らしくふっと笑って言った。そしてその横でカレンちゃんが申し訳なさそうに俺を見る。
「本当はその事を伝えようと思ったんだけれど、陛下に止められて」
「言っても言わなくても、同じ結果は目に見えていた。それにあいつが……レオナルドがセスから他の誰かに本気で目移りする筈がないと思った。だからだ」
陛下は断言するようにハッキリと言った。
「それにレオナルドも俺が許可していない事を知っている。でもあいつは俺に許可を強く求めたりしなかった。だから何かある、と。本当はセスと別れたくないのだとわかったんだ」
「そ、そうなんですか?」
……俺はてっきり目移りされたと思っていたのに。
どうやら陛下の方が心眼をお持ちのようだ。まあ出なければこんな豊かな国は築けないだろう。
……でも離婚が成立してないって事は、俺って実はずっとレオナルド殿下と結婚したままだったって事だよな? あんなに別れちゃったんだって思って悲しかったのはなんだったんだ。
俺はなんだか肩透かしを食らってしまう。あの泣いた日々は、すっかり過去の事みたいに思えてくる。つい先週まで悲しさに泣いてたのに。
「だが今回はレオナルドの奴が悪い事をしたな。すまなかった、あれは器用に見えて不器用だから……。でもまあ、元通りに戻ってよかったよ。……セス、これからもうちの息子をよろしく頼むな?」
陛下はにっこりと笑ってそう俺に言った。その言葉を聞いて俺は、陛下に結婚の話をされた時の事を思い出す。
『まあ、とりあえず形式上結婚してくれたらいいから。セス、うちの息子をよろしく頼むな?』
そう言われた事を。
……思えば、あの時もこんな風に言われたな。そしてあの時の俺は困った。どうやってこの結婚を断ろうかって……。でも、今はもう。
「はい、そのつもりです。こちらこそ、これからもよろしくお願いします」
俺ははっきりと陛下とカレンちゃんに告げ、頭を下げた。
そして俺が顔を上げた時、二人は王様でも王妃様でもなく、普通の親と同じく目尻に優しい皺を寄せて微笑んだ。
「セスなら頼もしいわ!」
そうカレンちゃんは俺に言った。
その言葉に俺は笑ったけれど、俺は知らなかった。そもそもレオナルド殿下は陛下に離婚届さえ、渡さずにいた事を。
一方、レオナルドと言えば。
こちらはこちらでセスの両親、ウィルとリーナに呼び出されていた。
そしてレオナルドの前に怒ったウィルが仁王立ちしていた。
「レオナルド、俺は言ったよな? セスを頼むと……目を瞑って、歯を食いしばれ」
怒気を含んだ声で言われ、レオナルドは素直に目を瞑り、歯を食いしばった。ウィルとの約束を違え、セスをたくさん泣かせて、悩ませた。だから殴られても仕方ないと思ったのだ。
ギリッと歯を強く噛み、衝撃に身構える。
しかしウィルの拳はレオナルドの頬ではなく、懐にドスッと一発見舞われた。構えていなかったレオナルドは思わず「ぐっ」と声を出し、身を屈めた。
……顔を殴るんじゃなかったのか。
そう思ってレオナルドがウィルを見ると、ウィルはフンッと鼻を鳴らした。
「誰も顔を殴るとは言ってない。俺は歯を食いしばれ、と言っただけだ」
ウィルは悪びれもなく言い、腰に手を当てた。
「それにうちの可愛い息子を泣かせたんだ、それぐらいどうってことないだろ」
「……はい」
レオナルドはお腹を抑えながら、姿勢を元に戻した。そして、改めてウィルとその後ろにいるリーナに頭を下げる。
「今回は申し訳ありませんでした」
そうレオナルドは誠実に二人に謝った。しかしウィルはまだ怒っていた。
「本当だ! ……もう二度目はないぞ。もし次こんなことをしたら、今度こそセスを連れて行くからな」
「はい」
レオナルドは素直に返事をした。しかし、その他にも何かもの言いたげな顔をするレオナルドを見てウィルは大きなため息を吐いた。
「お前な、俺達にも申し訳ないとか思ってんじゃねーだろうな?」
その言葉にレオナルドは視線を逸らした。ウィルの言葉は図星だったからだ。
「たくっ……。確かにな、セスに子供がいたら、孫がいたらそりゃ可愛いさ。だけどな、俺達が一番大事にしているのは、まだいもしない孫じゃなくてセスなんだ。セスがお前といて幸せだって言うんなら、それでいいんだ」
ウィルはハッキリとレオナルドに言った。ウィルもリーナもレオナルドとセスから今回、どうしてこんな事になったのかその事情を聞いていた。なので二人はもう知っている、セスが不死鳥の涙を飲んで不妊じゃなくなったことも。
だからこそレオナルドは二人に後ろめたかった。
……セスが望めば、子供を儲け、二人に孫を見せる事だってできる。きっと二人は可愛がるだろう。自分の両親が、ジュリアナとアンジェリカを可愛がっているように。でも、私はその権利を二人から奪った。
その事は結婚した時から思っていた。セスが“時忘れ”の効果で不妊であっても、必ずしも子供を持つ可能性はゼロじゃないからだ。ウィルがセスを得られたように。
だが、あの時は可能性が限りなく低かった。だからこそ、レオナルドはそこまで後ろめたさを感じることもなかった。しかし今は違う。
もしかしたら女性と一回交わっただけでも、セスは自分の子供を持つことができるかもしれないのだ。だが、もうレオナルドはセスを離せはしない。この後ろめたさを背負ってでもセスと共に生きていく。
「はい、セスは大事にします。もう二度とこんなことはしません」
レオナルドは誓うように言った。その答えにウィルは満足そうに笑った。
「わかればいいんだよ」
そして二人の会話が落ち着いた頃、黙って見ていたリーナがようやく口を開いた。
「レオナルド殿下、これからもセスをお願いしますね」
全ての会話を聞いていたリーナはこれ以上、言う事はないと言うようにレオナルドに優しく頼んだ。その言葉にレオナルドは「はい」とすぐに返事をした。
「ふふっ、頼もしい返事ね。今度こそ、信じさせてね」
リーナはそう言うと「ところで、レオナルド殿下」と言葉を続けた。
「はい、なんでしょう?」
「ずっと尋ねたかった事があるの。……カレンから二人に子供ができたって聞いたのだけど、本当かしら?」
リーナの言葉にウィルはぐるんっとリーナに首を振って「ええぇぇっ!?」と驚いた。どうやら初耳だったらしい。
「え、リーナさん! 二人に子供が出来たってどういうこと!?」
「カレンがそう言っていたのよぉ」
リーナはそう言い、ウィルの視線がレオナルドに注がれる。
どういう事なんだ?! とその視線がレオナルドに尋ねていた。だからレオナルドはすぐに答えようとしたが、その前にバーンッと部屋のドアが開かれた。
「あ! えちゅっ、いたぁあ!」
ととととっと走ってくると、ぺちゃっとウィルの足元にフェニがくっついた。でもくんくんっと匂いを嗅ぐと眉間に渋い皺を寄せ、首を傾げた。
「えちゅと匂い、似てるけど……ちがぅ」
フェニの顔はむむむっと険しくなり、ウィルの足元から離れると傍にいたレオナルドの足元に今度はくっついた。
「れお、あのひと、えちゅじゃない!」
なんで?? と怪訝な顔をしてフェニはレオナルドに尋ねた。そんなフェニをレオナルドはひょいっと両手で持ち上げた。
「セスは今、私の父に呼ばれてここにはいないんだ。こちらの方はセスのお父さん、あちらの女性はセスのお母さんだよ、フェニ」
レオナルドが説明するとフェニはパチパチッと大きな瞳を瞬かせて、二人をよく見た。
「えちゅのおとーさんとおかーさんっ!!」
「ああ、そうだ」
レオナルドが説明すると、ウィルが驚愕した顔のまま声を上げた。
「れ、れれ、レオナルド、そ、その子はっ?」
噛み噛みで尋ねるウィルにレオナルドは笑って答えた。
「この子はフェニ、私達の子ですよ」
「はじめまちて! ふぇにだよ!」
フェニはセスの両親だからか、警戒心なく挨拶をした。しかし、その愛らしい挨拶にウィルはノックアウトされ、真っ白になってその場に立ち尽くした。
そしてそんなウィルを見てリーナは「あらあらあら」と頬に手を当てて、微笑んだ。
「れお、えちゅのおとーさん、どちたの?」
フェニは固まったまま動かないウィルに怪訝な顔を見せたが、レオナルドは笑いを堪えるので必死だった。まさかこんな反応になるとは。
しかしフェニの質問にレオナルドが答える前にそこへセスがやってきた。
「あ、ここにいた」
「えちゅっ!」
フェニはセスが現れるなり嬉しそうに声を上げた。
「フェニもここにいたのか。それより……レオナルド殿下、父さんどうしちゃったの? 固まってるけど」
セスはレオナルドに近寄るなり、尋ねた。そこには固まったまま微動だにしないウィルがいる。
「フェニの可愛さにやられてしまったらしい」
「へ?」
セスはレオナルドの言っている意味が分からず、首を傾げるしかなかった。その後、ウィルが正気を取り戻すのに小一時間ほどかかったのだった。
*************
今日は勤労感謝の日。ということで、特別に二話、投稿しました。
皆さま、お疲れ様です。
そして城に戻ったその日の内に、俺はノーベンさんや父さんと母さんにこってり絞られ、陛下にも呼ばれた。でもなぜかしら呼ばれたのは俺一人で。
なんで俺だけ?! と思いつつ俺はドキドキバクバクと緊張しながら王の執務室へ。しかしそこには陛下だけなく王妃様のカレンちゃんもいた。
そして、そこで俺は驚愕の事実を知らされたのだった。
「え?! 俺とレオナルド殿下は離婚してないッ!?」
俺は思わず声を上げた。だが俺の目の前にいる陛下はこくりと頷いた。
「ああ、そうだ」
「え!? え!? でも俺、離婚届けの紙に名前を書きましたよ!?」
いつの日かレオナルド殿下に書かされた紙。あれは確かに離婚届けの紙だった。でも陛下とカレンちゃんは。
「だが、お前達は離婚していない」
「実はそうなのよ。セス」
俺は驚きのあまり声が出ない。俺はてっきりレオナルド殿下と離婚していると思っていからだ。
「王族の婚姻は少々特殊でな。王の許可がなければ結婚も離婚もできないのだよ。例え、離婚届けにサインをしていたとしてもな。そして俺は許可もしてない。どうせ、こうなるだろうとわかっていたからだ」
「へ、陛下はわかっていたんですか!?」
「まあな」
陛下はレオナルド殿下と同じように、男らしくふっと笑って言った。そしてその横でカレンちゃんが申し訳なさそうに俺を見る。
「本当はその事を伝えようと思ったんだけれど、陛下に止められて」
「言っても言わなくても、同じ結果は目に見えていた。それにあいつが……レオナルドがセスから他の誰かに本気で目移りする筈がないと思った。だからだ」
陛下は断言するようにハッキリと言った。
「それにレオナルドも俺が許可していない事を知っている。でもあいつは俺に許可を強く求めたりしなかった。だから何かある、と。本当はセスと別れたくないのだとわかったんだ」
「そ、そうなんですか?」
……俺はてっきり目移りされたと思っていたのに。
どうやら陛下の方が心眼をお持ちのようだ。まあ出なければこんな豊かな国は築けないだろう。
……でも離婚が成立してないって事は、俺って実はずっとレオナルド殿下と結婚したままだったって事だよな? あんなに別れちゃったんだって思って悲しかったのはなんだったんだ。
俺はなんだか肩透かしを食らってしまう。あの泣いた日々は、すっかり過去の事みたいに思えてくる。つい先週まで悲しさに泣いてたのに。
「だが今回はレオナルドの奴が悪い事をしたな。すまなかった、あれは器用に見えて不器用だから……。でもまあ、元通りに戻ってよかったよ。……セス、これからもうちの息子をよろしく頼むな?」
陛下はにっこりと笑ってそう俺に言った。その言葉を聞いて俺は、陛下に結婚の話をされた時の事を思い出す。
『まあ、とりあえず形式上結婚してくれたらいいから。セス、うちの息子をよろしく頼むな?』
そう言われた事を。
……思えば、あの時もこんな風に言われたな。そしてあの時の俺は困った。どうやってこの結婚を断ろうかって……。でも、今はもう。
「はい、そのつもりです。こちらこそ、これからもよろしくお願いします」
俺ははっきりと陛下とカレンちゃんに告げ、頭を下げた。
そして俺が顔を上げた時、二人は王様でも王妃様でもなく、普通の親と同じく目尻に優しい皺を寄せて微笑んだ。
「セスなら頼もしいわ!」
そうカレンちゃんは俺に言った。
その言葉に俺は笑ったけれど、俺は知らなかった。そもそもレオナルド殿下は陛下に離婚届さえ、渡さずにいた事を。
一方、レオナルドと言えば。
こちらはこちらでセスの両親、ウィルとリーナに呼び出されていた。
そしてレオナルドの前に怒ったウィルが仁王立ちしていた。
「レオナルド、俺は言ったよな? セスを頼むと……目を瞑って、歯を食いしばれ」
怒気を含んだ声で言われ、レオナルドは素直に目を瞑り、歯を食いしばった。ウィルとの約束を違え、セスをたくさん泣かせて、悩ませた。だから殴られても仕方ないと思ったのだ。
ギリッと歯を強く噛み、衝撃に身構える。
しかしウィルの拳はレオナルドの頬ではなく、懐にドスッと一発見舞われた。構えていなかったレオナルドは思わず「ぐっ」と声を出し、身を屈めた。
……顔を殴るんじゃなかったのか。
そう思ってレオナルドがウィルを見ると、ウィルはフンッと鼻を鳴らした。
「誰も顔を殴るとは言ってない。俺は歯を食いしばれ、と言っただけだ」
ウィルは悪びれもなく言い、腰に手を当てた。
「それにうちの可愛い息子を泣かせたんだ、それぐらいどうってことないだろ」
「……はい」
レオナルドはお腹を抑えながら、姿勢を元に戻した。そして、改めてウィルとその後ろにいるリーナに頭を下げる。
「今回は申し訳ありませんでした」
そうレオナルドは誠実に二人に謝った。しかしウィルはまだ怒っていた。
「本当だ! ……もう二度目はないぞ。もし次こんなことをしたら、今度こそセスを連れて行くからな」
「はい」
レオナルドは素直に返事をした。しかし、その他にも何かもの言いたげな顔をするレオナルドを見てウィルは大きなため息を吐いた。
「お前な、俺達にも申し訳ないとか思ってんじゃねーだろうな?」
その言葉にレオナルドは視線を逸らした。ウィルの言葉は図星だったからだ。
「たくっ……。確かにな、セスに子供がいたら、孫がいたらそりゃ可愛いさ。だけどな、俺達が一番大事にしているのは、まだいもしない孫じゃなくてセスなんだ。セスがお前といて幸せだって言うんなら、それでいいんだ」
ウィルはハッキリとレオナルドに言った。ウィルもリーナもレオナルドとセスから今回、どうしてこんな事になったのかその事情を聞いていた。なので二人はもう知っている、セスが不死鳥の涙を飲んで不妊じゃなくなったことも。
だからこそレオナルドは二人に後ろめたかった。
……セスが望めば、子供を儲け、二人に孫を見せる事だってできる。きっと二人は可愛がるだろう。自分の両親が、ジュリアナとアンジェリカを可愛がっているように。でも、私はその権利を二人から奪った。
その事は結婚した時から思っていた。セスが“時忘れ”の効果で不妊であっても、必ずしも子供を持つ可能性はゼロじゃないからだ。ウィルがセスを得られたように。
だが、あの時は可能性が限りなく低かった。だからこそ、レオナルドはそこまで後ろめたさを感じることもなかった。しかし今は違う。
もしかしたら女性と一回交わっただけでも、セスは自分の子供を持つことができるかもしれないのだ。だが、もうレオナルドはセスを離せはしない。この後ろめたさを背負ってでもセスと共に生きていく。
「はい、セスは大事にします。もう二度とこんなことはしません」
レオナルドは誓うように言った。その答えにウィルは満足そうに笑った。
「わかればいいんだよ」
そして二人の会話が落ち着いた頃、黙って見ていたリーナがようやく口を開いた。
「レオナルド殿下、これからもセスをお願いしますね」
全ての会話を聞いていたリーナはこれ以上、言う事はないと言うようにレオナルドに優しく頼んだ。その言葉にレオナルドは「はい」とすぐに返事をした。
「ふふっ、頼もしい返事ね。今度こそ、信じさせてね」
リーナはそう言うと「ところで、レオナルド殿下」と言葉を続けた。
「はい、なんでしょう?」
「ずっと尋ねたかった事があるの。……カレンから二人に子供ができたって聞いたのだけど、本当かしら?」
リーナの言葉にウィルはぐるんっとリーナに首を振って「ええぇぇっ!?」と驚いた。どうやら初耳だったらしい。
「え、リーナさん! 二人に子供が出来たってどういうこと!?」
「カレンがそう言っていたのよぉ」
リーナはそう言い、ウィルの視線がレオナルドに注がれる。
どういう事なんだ?! とその視線がレオナルドに尋ねていた。だからレオナルドはすぐに答えようとしたが、その前にバーンッと部屋のドアが開かれた。
「あ! えちゅっ、いたぁあ!」
ととととっと走ってくると、ぺちゃっとウィルの足元にフェニがくっついた。でもくんくんっと匂いを嗅ぐと眉間に渋い皺を寄せ、首を傾げた。
「えちゅと匂い、似てるけど……ちがぅ」
フェニの顔はむむむっと険しくなり、ウィルの足元から離れると傍にいたレオナルドの足元に今度はくっついた。
「れお、あのひと、えちゅじゃない!」
なんで?? と怪訝な顔をしてフェニはレオナルドに尋ねた。そんなフェニをレオナルドはひょいっと両手で持ち上げた。
「セスは今、私の父に呼ばれてここにはいないんだ。こちらの方はセスのお父さん、あちらの女性はセスのお母さんだよ、フェニ」
レオナルドが説明するとフェニはパチパチッと大きな瞳を瞬かせて、二人をよく見た。
「えちゅのおとーさんとおかーさんっ!!」
「ああ、そうだ」
レオナルドが説明すると、ウィルが驚愕した顔のまま声を上げた。
「れ、れれ、レオナルド、そ、その子はっ?」
噛み噛みで尋ねるウィルにレオナルドは笑って答えた。
「この子はフェニ、私達の子ですよ」
「はじめまちて! ふぇにだよ!」
フェニはセスの両親だからか、警戒心なく挨拶をした。しかし、その愛らしい挨拶にウィルはノックアウトされ、真っ白になってその場に立ち尽くした。
そしてそんなウィルを見てリーナは「あらあらあら」と頬に手を当てて、微笑んだ。
「れお、えちゅのおとーさん、どちたの?」
フェニは固まったまま動かないウィルに怪訝な顔を見せたが、レオナルドは笑いを堪えるので必死だった。まさかこんな反応になるとは。
しかしフェニの質問にレオナルドが答える前にそこへセスがやってきた。
「あ、ここにいた」
「えちゅっ!」
フェニはセスが現れるなり嬉しそうに声を上げた。
「フェニもここにいたのか。それより……レオナルド殿下、父さんどうしちゃったの? 固まってるけど」
セスはレオナルドに近寄るなり、尋ねた。そこには固まったまま微動だにしないウィルがいる。
「フェニの可愛さにやられてしまったらしい」
「へ?」
セスはレオナルドの言っている意味が分からず、首を傾げるしかなかった。その後、ウィルが正気を取り戻すのに小一時間ほどかかったのだった。
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今日は勤労感謝の日。ということで、特別に二話、投稿しました。
皆さま、お疲れ様です。
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