殿下、俺でいいんですか!?

神谷レイン

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殿下、俺じゃダメですか?

14 照れ隠し

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「……レ、オ?」

 俺は思わず、ぱちくりと目を瞬かせる。だってそこには驚き、顔は勿論耳まで真っ赤にしているレオナルド殿下がいたんだ。それはいつもの俺みたいに。
 だから、わかっちゃった。レオナルド殿下が俺の事、本当に好きで、照れてるんだって。

「セス……急に、そういうのは良くない」

 レオナルド殿下は口元を手で隠し、目を逸らした。

「レオナルド殿下が照れてる……。可愛い!」
「可愛くなんてない」

 レオナルド殿下はまた不貞腐れた顔をして俺に言った。そんな顔も可愛い。だから俺はついつい調子に乗った。

「ね、どこで照れたの? 名前、呼んだから?」
「なんでもない」
「もっかい言いましょうか?」
「一度で十分だ」
「そう言わずにぃ」

 俺が笑って言うとレオナルド殿下はむすっとした顔で、がばりっと俺に覆いかぶさった。

「閉じないなら、その口、私が無理やり閉じてしまうぞ?」

 レオナルド殿下の瞳が俺を見下ろしている。でも怖くなんかなかった。むしろ胸がドキドキと高揚している。

「ええ……閉じてください」

 俺が素直に言うと、レオナルド殿下はちょっと驚いた後、フッと笑った。

「全く、セスはいつの間にか私を誘うのが上手くなったな」
「それも、レオナルド殿下のせ、んっ!」

 言いかけている内にレオナルド殿下から口を塞ぐようにキスをされた。でも俺がさっきしたみたいな軽いキスじゃない。

 情熱的な、蕩けるキス。

 俺の唇を貪るように食み、俺の口腔内に入り込んで、荒々しく俺の舌を翻弄する。

「んんっ、ふっ……んぅ! ……ぷはぁっ」
「やっと静かになった」

 レオナルド殿下は俺から唇を離すと、満足そうに笑って言った。一方、俺は久しぶりのキスにちょっと放心状態だ。
 でもそんな俺にぴったりとくっつき、俺を抱き締めるとレオナルド殿下は俺の耳元で甘えた声を出した。

「セス……、やっぱりもう一度言って」
「ふぇ?」
「私を愛してると、もう一度」

 確かめるように、強請るように、レオナルド殿下は俺に言った。だから俺は。

「何度だって、いくらだって言ってあげますよ。……レオナルド、愛してる。大好きだよ」

 俺が心を込めて言うと、抱き合って顔は見えないけれどレオナルド殿下が心底嬉そうに笑っている気配がした。
 それがなんだか俺は愛おしくて、レオナルド殿下をぎゅっと抱きしめた。

 ……ああ、やっとレオナルド殿下が戻ってきてくれたんだ。

 そう思うと嬉しくって、また涙が出そうになったが、ぐりっと腰を押し付けられて俺はドキッとしてしまう。そこは少し膨らんでいたから。

「あ、レ、レオ?」

 俺はドキドキとしながら、レオナルド殿下を呼ぶ。

 ……もしかしてこのまましちゃう?

 そう思った。でも、返ってきた声は疲れていた。

「セス、このまま君を抱きたいが……さすがの私も無理なようだ」

 弱弱しい声に驚いて、レオナルド殿下をみれば顔色が悪い。
 でもそりゃそうだ。魔力が戻るには、時間がかかるものなのだ。レオナルド殿下の回復が良くて、調子に乗っていた。

「わわっ、レオ、ちょっと待って! すぐに薬を持ってきますから!」
「ああ……」

 俺は具合の悪そうなレオナルド殿下をベッドに寝かし直して、慌ててテーブルの上にある薬を取りに行く。薬は小瓶に入っている液体で、中身は赤い色をしていた。
 俺はきゅぽんっと小瓶の蓋を開けて、レオナルド殿下の口元にそっと寄せる。

「さ、これを飲んで」

 俺が頭を支えて飲ませると、レオナルド殿下は大人しく薬を飲んだ。だが、苦みに眉間に皺を寄せる。

「……これは何の薬?」
「これはミシアの花を使った魔力回復薬ですよ。ついこの間、花が咲いて俺が作っておいたものです」
「ミシアの? ……もしかしてセシル様に貰った?」

 レオナルド殿下に問いかけられて俺は頷いた。ミシアの花はセシル様がくれた種から芽吹いたものだ。

「ええ、まさかレオに使うとは思いませんでした」
「そうか。でも私に使ってよかったのか? セスが大事に育てていたのでは?」
「大丈夫ですよ、薬は使う為にあるんですから。それに、ミシアの花を採取した後に種もできましたから、また育てます」
「……そうか」

 レオナルド殿下はぼんやりとした様子で答えた。魔力回復薬を飲むと体内の魔力が増量されて、まるで心地よく酔うみたいに少し酩酊するのだ。

「レオ、眠ってください。俺はここにいますから」

 俺はそう言ったけれど、レオナルド殿下はぼんやりとしながらも体を少しずらし、ベッドの上に少しスペースを作った。そしてかけていた毛布を捲る。

「?」
「セス、一緒に寝てくれないだろうか?」
「へ?」
「ダメか?」

 レオナルド殿下は少し寂しそうに俺に言った。まるで寂し気に耳を垂らしてる大型獣おおきなネコだ。

「仕方ないですね」

 俺はくすっと笑って、レオナルド殿下が明けてくれたスペースに身を寄せる。そこはレオナルド殿下が寝ていたから、もう温かくて。
 レオナルド殿下は俺を迎え入れると、ぎゅっとその胸の中に俺を閉じ込めるみたいに抱き締めた。

「……ずっとこうしたかった」

 レオナルド殿下は目を瞑りながら俺に囁いた。その声はまどろんでいる、もう眠いのだろう。でも眠りかけのレオナルド殿下に俺は返事をした。

「ええ、俺もですよ」

 俺はレオナルド殿下に胸に顔を寄せ、その匂いを思う存分、肺に入れ込んだ。しばらく嗅いでなかったレオナルド殿下の愛しい香り。
 俺を落ち着かせて、安心させてくれる香りだ。

 ……ああ、やっぱりここはどこよりも、何よりも落ち着くな。

 俺は目を瞑ってそう思い、まだ昼過ぎの明るい時間だと言うのに、気が付けばレオナルド殿下の寝息に誘われるように俺も深い眠りに落ちたのだった。












「ん……?」

 目が覚めるといい匂いが俺のお腹を刺激した。
 ぐぅ……。

 ……いい匂い。お腹空いた……。あれ? レオナルド殿下は?

 俺はベッドにレオナルド殿下の姿が見えなくてキョロキョロと辺りを見回した。するとダイニングの方からレオナルド殿下が。

「おはよう、セス。……いや、おはようというには、いささか変か? もう夕方だし」

 レオナルド殿下はそう言って腕を組んだ。

「れ、レオ!? もう大丈夫なんですか?」
「ああ、もう大丈夫だよ。大分魔力も回復したし」

 俺が尋ねるとレオナルド殿下はにっこりと笑った。その血色は随分といい。

「それよりセス、お腹は空いていないかい? セスの家の物を勝手に使わせて貰ったけど、夕食を作ったんだ」
「夕食……」

 ぐぅううっ。
 呟いた後、まるで食べる! と言うようにお腹が鳴った。

「あ」
「お腹、空いてるみたいだね」

 レオナルド殿下はくすっと笑って俺に言った。俺は腹を抱えて、顔を赤らめる。

 ……うう、毎度のことながら恥ずかしい。でも朝から何にも食べてないもんな。レオナルド殿下、一体何を作ってくれたんだろう?

「セス、一緒にご飯にしよう」

 俺はレオナルド殿下に促される様にベッドを下りて、すぐにダイニングに向かう。そしてそのテーブルを覗けば、家庭的な料理が並んでいた。

 野菜たっぷりのスープにポテトサラダ、トマトソースのパスタ、真ん中にはガーリックトーストもある。

 ……うーーんっ、いいにおいっ!

 俺のお腹は匂いに刺激されて、早く食べようとぎゅるぎゅる鳴っている。

 ……しかし、王子様にこんな料理を作ってもらっていいのかな? というか、しばらく買い物に行っていなかったから数少ない材料しかなかったと思うんだけど……これだけ作れるレオナルド殿下ってやっぱりすごい。

 俺はそんな事を思いながら、食事が用意されている席に大人しく座る。

「寝ている間にこんなに作ってもらって、すみません」
「いいんだよ、これぐらい。それより早く食べよう」
「はい!」

 お腹の空いていた俺は少々食い気味に返事をして、レオナルド殿下と祈りを捧げてから食事を始めた。

 ……んんんんっ! レオナルド殿下ってお菓子作りも上手だけど、料理も上手なんて、なんでも出来過ぎ! ああ、それにしてもどれもおいしい! パスタのトマトソースも絶品!

 俺は上手さに歓喜しながら遠慮なくパクパクパクッと目の前の料理を平らげていく。
 でも食べている最中、ちらっとレオナルド殿下を見て不思議な気分になる。俺の部屋にレオナルド殿下がいるなんて。

 ……こんな風に同じ食卓を囲んで、レオナルド殿下の手料理を食べて……レオナルド殿下が俺のところに嫁いできてくれたみたい。なんか、変な感じ。ふふっ。

「セス? どうした?」
「いいえ、なんでもありません」

 俺は誤魔化して、おいしいスープをごくごくっと飲んだ。

「もう一杯いるかい?」
「はい」

 俺は手を差し出して、聞いたレオナルド殿下に空の器を渡した。レオナルド殿下は自ら立って、鍋からスープをよそってくれる。

 ……へへ、やっぱり奥さんみたい。

 そう俺は能天気に思った。


 だが俺はすっかり忘れていた、夜になればその立場は逆転すると。

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