68 / 114
殿下、俺じゃダメですか?
14 照れ隠し
しおりを挟む「……レ、オ?」
俺は思わず、ぱちくりと目を瞬かせる。だってそこには驚き、顔は勿論耳まで真っ赤にしているレオナルド殿下がいたんだ。それはいつもの俺みたいに。
だから、わかっちゃった。レオナルド殿下が俺の事、本当に好きで、照れてるんだって。
「セス……急に、そういうのは良くない」
レオナルド殿下は口元を手で隠し、目を逸らした。
「レオナルド殿下が照れてる……。可愛い!」
「可愛くなんてない」
レオナルド殿下はまた不貞腐れた顔をして俺に言った。そんな顔も可愛い。だから俺はついつい調子に乗った。
「ね、どこで照れたの? 名前、呼んだから?」
「なんでもない」
「もっかい言いましょうか?」
「一度で十分だ」
「そう言わずにぃ」
俺が笑って言うとレオナルド殿下はむすっとした顔で、がばりっと俺に覆いかぶさった。
「閉じないなら、その口、私が無理やり閉じてしまうぞ?」
レオナルド殿下の瞳が俺を見下ろしている。でも怖くなんかなかった。むしろ胸がドキドキと高揚している。
「ええ……閉じてください」
俺が素直に言うと、レオナルド殿下はちょっと驚いた後、フッと笑った。
「全く、セスはいつの間にか私を誘うのが上手くなったな」
「それも、レオナルド殿下のせ、んっ!」
言いかけている内にレオナルド殿下から口を塞ぐようにキスをされた。でも俺がさっきしたみたいな軽いキスじゃない。
情熱的な、蕩けるキス。
俺の唇を貪るように食み、俺の口腔内に入り込んで、荒々しく俺の舌を翻弄する。
「んんっ、ふっ……んぅ! ……ぷはぁっ」
「やっと静かになった」
レオナルド殿下は俺から唇を離すと、満足そうに笑って言った。一方、俺は久しぶりのキスにちょっと放心状態だ。
でもそんな俺にぴったりとくっつき、俺を抱き締めるとレオナルド殿下は俺の耳元で甘えた声を出した。
「セス……、やっぱりもう一度言って」
「ふぇ?」
「私を愛してると、もう一度」
確かめるように、強請るように、レオナルド殿下は俺に言った。だから俺は。
「何度だって、いくらだって言ってあげますよ。……レオナルド、愛してる。大好きだよ」
俺が心を込めて言うと、抱き合って顔は見えないけれどレオナルド殿下が心底嬉そうに笑っている気配がした。
それがなんだか俺は愛おしくて、レオナルド殿下をぎゅっと抱きしめた。
……ああ、やっとレオナルド殿下が戻ってきてくれたんだ。
そう思うと嬉しくって、また涙が出そうになったが、ぐりっと腰を押し付けられて俺はドキッとしてしまう。そこは少し膨らんでいたから。
「あ、レ、レオ?」
俺はドキドキとしながら、レオナルド殿下を呼ぶ。
……もしかしてこのまましちゃう?
そう思った。でも、返ってきた声は疲れていた。
「セス、このまま君を抱きたいが……さすがの私も無理なようだ」
弱弱しい声に驚いて、レオナルド殿下をみれば顔色が悪い。
でもそりゃそうだ。魔力が戻るには、時間がかかるものなのだ。レオナルド殿下の回復が良くて、調子に乗っていた。
「わわっ、レオ、ちょっと待って! すぐに薬を持ってきますから!」
「ああ……」
俺は具合の悪そうなレオナルド殿下をベッドに寝かし直して、慌ててテーブルの上にある薬を取りに行く。薬は小瓶に入っている液体で、中身は赤い色をしていた。
俺はきゅぽんっと小瓶の蓋を開けて、レオナルド殿下の口元にそっと寄せる。
「さ、これを飲んで」
俺が頭を支えて飲ませると、レオナルド殿下は大人しく薬を飲んだ。だが、苦みに眉間に皺を寄せる。
「……これは何の薬?」
「これはミシアの花を使った魔力回復薬ですよ。ついこの間、花が咲いて俺が作っておいたものです」
「ミシアの? ……もしかしてセシル様に貰った?」
レオナルド殿下に問いかけられて俺は頷いた。ミシアの花はセシル様がくれた種から芽吹いたものだ。
「ええ、まさかレオに使うとは思いませんでした」
「そうか。でも私に使ってよかったのか? セスが大事に育てていたのでは?」
「大丈夫ですよ、薬は使う為にあるんですから。それに、ミシアの花を採取した後に種もできましたから、また育てます」
「……そうか」
レオナルド殿下はぼんやりとした様子で答えた。魔力回復薬を飲むと体内の魔力が増量されて、まるで心地よく酔うみたいに少し酩酊するのだ。
「レオ、眠ってください。俺はここにいますから」
俺はそう言ったけれど、レオナルド殿下はぼんやりとしながらも体を少しずらし、ベッドの上に少しスペースを作った。そしてかけていた毛布を捲る。
「?」
「セス、一緒に寝てくれないだろうか?」
「へ?」
「ダメか?」
レオナルド殿下は少し寂しそうに俺に言った。まるで寂し気に耳を垂らしてる大型獣だ。
「仕方ないですね」
俺はくすっと笑って、レオナルド殿下が明けてくれたスペースに身を寄せる。そこはレオナルド殿下が寝ていたから、もう温かくて。
レオナルド殿下は俺を迎え入れると、ぎゅっとその胸の中に俺を閉じ込めるみたいに抱き締めた。
「……ずっとこうしたかった」
レオナルド殿下は目を瞑りながら俺に囁いた。その声はまどろんでいる、もう眠いのだろう。でも眠りかけのレオナルド殿下に俺は返事をした。
「ええ、俺もですよ」
俺はレオナルド殿下に胸に顔を寄せ、その匂いを思う存分、肺に入れ込んだ。しばらく嗅いでなかったレオナルド殿下の愛しい香り。
俺を落ち着かせて、安心させてくれる香りだ。
……ああ、やっぱりここはどこよりも、何よりも落ち着くな。
俺は目を瞑ってそう思い、まだ昼過ぎの明るい時間だと言うのに、気が付けばレオナルド殿下の寝息に誘われるように俺も深い眠りに落ちたのだった。
「ん……?」
目が覚めるといい匂いが俺のお腹を刺激した。
ぐぅ……。
……いい匂い。お腹空いた……。あれ? レオナルド殿下は?
俺はベッドにレオナルド殿下の姿が見えなくてキョロキョロと辺りを見回した。するとダイニングの方からレオナルド殿下が。
「おはよう、セス。……いや、おはようというには、いささか変か? もう夕方だし」
レオナルド殿下はそう言って腕を組んだ。
「れ、レオ!? もう大丈夫なんですか?」
「ああ、もう大丈夫だよ。大分魔力も回復したし」
俺が尋ねるとレオナルド殿下はにっこりと笑った。その血色は随分といい。
「それよりセス、お腹は空いていないかい? セスの家の物を勝手に使わせて貰ったけど、夕食を作ったんだ」
「夕食……」
ぐぅううっ。
呟いた後、まるで食べる! と言うようにお腹が鳴った。
「あ」
「お腹、空いてるみたいだね」
レオナルド殿下はくすっと笑って俺に言った。俺は腹を抱えて、顔を赤らめる。
……うう、毎度のことながら恥ずかしい。でも朝から何にも食べてないもんな。レオナルド殿下、一体何を作ってくれたんだろう?
「セス、一緒にご飯にしよう」
俺はレオナルド殿下に促される様にベッドを下りて、すぐにダイニングに向かう。そしてそのテーブルを覗けば、家庭的な料理が並んでいた。
野菜たっぷりのスープにポテトサラダ、トマトソースのパスタ、真ん中にはガーリックトーストもある。
……うーーんっ、いいにおいっ!
俺のお腹は匂いに刺激されて、早く食べようとぎゅるぎゅる鳴っている。
……しかし、王子様にこんな料理を作ってもらっていいのかな? というか、しばらく買い物に行っていなかったから数少ない材料しかなかったと思うんだけど……これだけ作れるレオナルド殿下ってやっぱりすごい。
俺はそんな事を思いながら、食事が用意されている席に大人しく座る。
「寝ている間にこんなに作ってもらって、すみません」
「いいんだよ、これぐらい。それより早く食べよう」
「はい!」
お腹の空いていた俺は少々食い気味に返事をして、レオナルド殿下と祈りを捧げてから食事を始めた。
……んんんんっ! レオナルド殿下ってお菓子作りも上手だけど、料理も上手なんて、なんでも出来過ぎ! ああ、それにしてもどれもおいしい! パスタのトマトソースも絶品!
俺は上手さに歓喜しながら遠慮なくパクパクパクッと目の前の料理を平らげていく。
でも食べている最中、ちらっとレオナルド殿下を見て不思議な気分になる。俺の部屋にレオナルド殿下がいるなんて。
……こんな風に同じ食卓を囲んで、レオナルド殿下の手料理を食べて……レオナルド殿下が俺のところに嫁いできてくれたみたい。なんか、変な感じ。ふふっ。
「セス? どうした?」
「いいえ、なんでもありません」
俺は誤魔化して、おいしいスープをごくごくっと飲んだ。
「もう一杯いるかい?」
「はい」
俺は手を差し出して、聞いたレオナルド殿下に空の器を渡した。レオナルド殿下は自ら立って、鍋からスープをよそってくれる。
……へへ、やっぱり奥さんみたい。
そう俺は能天気に思った。
だが俺はすっかり忘れていた、夜になればその立場は逆転すると。
88
お気に入りに追加
4,071
あなたにおすすめの小説
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

「じゃあ、別れるか」
万年青二三歳
BL
三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。
期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。
ケンカップル好きへ捧げます。
ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~
華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。
もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。
だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。
だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。
子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。
アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ
●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。
●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。
●Rシーンには※つけてます。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる