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殿下、俺じゃダメですか?
13 告白
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「……それで? 私が嘘をつかないように、仮死状態になる薬を飲み、自分が死んだように見せかけて真実を聞き出すつもりだったと?」
「う……はい」
クッションを背に座っているレオナルド殿下に洗いざらい吐かされて、俺は小さく返事をした。
……ああ、レオナルド殿下の視線が痛い。
「セス」
「はい……」
「なんで、そんな危険な事をしたんだ。仮死になる薬なんて危険だろう!」
レオナルド殿下は俺を責めるように言った。だから俺はつい言い返してしまう。
「そんなのレオナルド殿下のせいでしょッ! 大体レオナルド殿下に言われたくありませんね、移転魔法でイニエスト公国から転移してくるなんて! 冬の森で彷徨ってもおかしくなかったんですよ!」
俺が言い返すと、レオナルド殿下はうぐっと珍しく口を閉じた。
レオナルド殿下を俺が言い負かすなんて初めてかも……なんか、気持ちいい。
そう思うのも束の間。レオナルド殿下はやっぱり言い返してきた。
「わ、私には国に戻る自信があった! これはちょっと……魔力を使いすぎただけだ!」
「その過信が危ないと言っているんです! それに薬は試作に重ねた試作をして、ちょっと試しに飲んでみただけなのに……レオナルド殿下がそれで戻ってくるなんて。目が覚めてレオナルド殿下が目の前にいた時は夢かと思いましたよっ」
「こっちだって、セスが仮死になる薬を研究しているなんて思いもよらなかったよ」
レオナルド殿下はふんすっと鼻息を出して言った。レオナルド殿下にとっても戻ってくるのは計算外だったのだろう。
……これが一杯食わせた、ってやつだろうか。
そう思いつつも俺の中に疑問が浮かぶ。
「でもどうして俺が仮死状態に陥ったってわかったんです? あの時、俺は一人でいたし、薬の事は誰にも話していなかったのに」
レオナルド殿下に尋ねると、ついっと俺の左薬指に嵌っている結婚指輪を指さした。
「それにはセスに危険が及ばぬように魔法をかけている。その魔法が解けたから、慌てて飛んできたんだ」
「……俺に危険が……。あ、そっか俺が死んだら危険も何もないもんな」
なるほど、と俺は納得する。けれど、また新たな疑問が。
「でも、それってこの指輪を嵌めてないといけませんよね? 俺が外すとは思わなかったんですか?」
「……外れなかっただろう? そう言う風に魔法で固定していた」
「え!? ……通りで。俺の手が大きくなったから外れないのかと思ってました」
「今は全ての魔法が解けている。指輪も外れるだろう」
レオナルド殿下に言われて、指輪を外してみる。すると、するりっと簡単に抜けた。
「ホントだ」
俺がまじまじと結婚指輪を見て呟く。だが、レオナルド殿下を見ると面白くなさそうに不貞腐れた顔を見せていた。なんだか、いたずらが上手くいかなかった時の子供みたいだ。
……なんか、可愛い。
「今日はいっぱい喋ってくれますね? あれだけ俺になぁんにも話してくれなかったのに」
皮肉たっぷりに俺がイジワルに言うとレオナルド殿下は不貞腐れた顔のまま答えた。
「また死んだふりでもされたら困るからな」
その言葉は素直じゃなかったけれど、つまりは俺に死んでほしくないって事だ。
……なんだか、今日は素直じゃないなぁ。俺がイジワルしたから?
そう思いつつも俺は指輪を嵌め直し、レオナルド殿下の前に差し出した。
「?」
「レオナルド殿下、また外れないように魔法をかけてくれますか?」
俺が尋ねるとレオナルド殿下は驚いた顔を見せた。
「……怒ってないのか、私を」
「怒ってますよ。すーーーーーーーーっごく、ね」
俺が強調して言うと、レオナルド殿下は顔を引きつらせた。
「すごく、か?」
「ええ、すっごく。俺の気持ちを聞かないで、勝手に決めて、騙して。怒らない方が無理でしょ」
「……そうだな」
レオナルド殿下は小さな声で返事をした。気弱なレオナルド殿下を見るのも初めてだ。
……うーん、今日は珍しいものばかり見るな。でも。
「けど、レオナルド殿下にもう言いたいこと言っちゃいましたから。……あとは言葉を待つだけです」
俺が誘導するように言うと、レオナルド殿下はようやく俺を真っすぐに見た。
サファイアの瞳の瞳が俺に訴える。申し訳なかった、と。そして、レオナルド殿下は言葉でも俺に伝えてくれた。
「すまなかった、セス。酷い事を言ったし、酷い態度も取った。何もかも相談せずに決めたことも……。身勝手だった。ごめん」
レオナルド殿下はそう言って謝罪し、俺が差し出した手を取って指輪にキスをした。すると、軽く指輪が光った。魔法が宿ったのだ。
それを見たら、なんだか……なんだか……泣けてきちゃって。
「ホント、ですよ。俺……俺……すっごく、悲しかった、んですからねっ」
俺はぼたぼたっと大粒の涙を流して、レオナルド殿下に言った。そんな俺をレオナルド殿下はサファイアの瞳を大きく開けて見つめた。
俺は服の袖で涙を拭うが、その手をレオナルド殿下が引き剥がした。
「セス」
俺を呼ぶその顔には後悔が滲んでいる。
「セス、本当にすまなかった。こうする方がセスの為だと思ったんだ」
懺悔するように言うレオナルド殿下は見たことないほど、弱弱しいものだった。
「私はセスが、セスさえいてくれればそれでいい。だがセスは違う、セスは元々ストレートだし、最初から私との結婚は乗り気じゃなかった。それに……フェニをあんなに愛して、孤児院の子達にも優しく接していた。ジュリアナやアンジェリカにも……。だから私は」
レオナルド殿下は俺に目を伏せながら言った。でも俺はただただ怒りが沸く。
「俺の為に別れる事を選んだって言うんですか! 俺が……俺が、どんな思いをしたかっ。俺だってあなたを愛してるのにッ!!」
「セス……」
俺の言葉にレオナルド殿下の瞳が大きく開かれる。
「確かに俺は最初、陛下に言われて形式上だと思って結婚した。でも、でも本当に嫌だったら結婚なんかしてない! レオナルド殿下だから……っ。それに、もう俺はすっかり貴方を愛してしまってるんです。だから他の誰かと、他の女性と子供なんて作る気なんてない! 俺達にはフェニがいるし、俺はレオナルド殿下、貴方としか……っ!」
俺は俺の気持ちを疑われた事が悲しくて、うわーんっと大泣きしてしまった。滑稽で、みっともないとわかっていても、涙が止まらない。涙があふれて溢れて、頬をいくつもの涙が通っていく。
でもそんな俺を抱き寄せて、レオナルド殿下は俺の背を優しく撫で、謝罪した。
「すまなかったよ、セス。どうか愚かな私を許してくれ。……もう二度とこんなことはしない、そう誓うから泣かないで」
レオナルド殿下は俺の額に優しくキスをして言った。俺はひっくひっくと肩を揺らしながら、レオナルド殿下を見上げる。
「ホントに? もう二度と?」
泣きながら尋ねるとレオナルド殿下はしっかりと頷いた。
「ああ。だから、もう泣き止んで」
ぽんぽんっと背中を優しく撫でられ、ぎゅっと抱き込まれてしまえば、俺の悲しい気持ちは落ち着いていく。
「……ぅん、わかった」
俺はずびーずびーっと鼻をすすって、ごしごしっと涙を拭いた。そんな俺を見てレオナルド殿下は少し困ったような表情で俺を見た。
どうしてそんな顔をするの?
「レオナルド殿下?」
「……でも、セスは本当にいいのかい?」
窺うようにレオナルド殿下は俺に言った。でも何がいいのかわからない。
「へ?」
「私はセスが思っているほど善人でもない。腹黒いし、今回のように嘘も平気で付ける。それでもいいのか? 私は君の傍にいて」
レオナルド殿下は俺を見つめて、問いかけた。サファイアの瞳が不安げに揺れている。まるで俺が嫌だと言うとでも思ってるみたいだ。そんな訳ないのに。
だから俺はそっとレオナルド殿下の顔を両手で包んで、こつんっと額を合わせた。
「うん、それでもいい。だから、俺の傍にいて」
俺が告げるとレオナルド殿下はにっこりと笑った。弧を描くサファイアの瞳がキラキラとまるで宝石みたいに煌めく。
「ああ。セスが許してくれる限り、傍にいる。もう離れない」
レオナルド殿下の言葉に俺の中の兎が久しぶりに大暴走だ。ぴょぴょぴょーーーーーんっと飛び回っている。
なのにレオナルド殿下は。
「セス、愛している」
そんな事まで言ってしまうから、俺は思わずいつも通り照れくさくなって、恥ずかしくなって顔を背けてしまう。でも今日だけは、それだけで終わらなかった。
俺は視線をレオナルド殿下に頑張って戻し、重い口を開けて心の中の想いを吐き出した。レオナルド殿下にずっとずっと伝えたかった言葉を。
「俺も……。レオナルド、愛してる」
俺は愛を告白し、そっとレオナルド殿下に自らちゅっとキスをした。
ずっと触れたかった唇。胸が嬉しさで弾けそうになる。
でも、そっと顔を離すとそこには思わぬ表情があった。
「う……はい」
クッションを背に座っているレオナルド殿下に洗いざらい吐かされて、俺は小さく返事をした。
……ああ、レオナルド殿下の視線が痛い。
「セス」
「はい……」
「なんで、そんな危険な事をしたんだ。仮死になる薬なんて危険だろう!」
レオナルド殿下は俺を責めるように言った。だから俺はつい言い返してしまう。
「そんなのレオナルド殿下のせいでしょッ! 大体レオナルド殿下に言われたくありませんね、移転魔法でイニエスト公国から転移してくるなんて! 冬の森で彷徨ってもおかしくなかったんですよ!」
俺が言い返すと、レオナルド殿下はうぐっと珍しく口を閉じた。
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「わ、私には国に戻る自信があった! これはちょっと……魔力を使いすぎただけだ!」
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レオナルド殿下はふんすっと鼻息を出して言った。レオナルド殿下にとっても戻ってくるのは計算外だったのだろう。
……これが一杯食わせた、ってやつだろうか。
そう思いつつも俺の中に疑問が浮かぶ。
「でもどうして俺が仮死状態に陥ったってわかったんです? あの時、俺は一人でいたし、薬の事は誰にも話していなかったのに」
レオナルド殿下に尋ねると、ついっと俺の左薬指に嵌っている結婚指輪を指さした。
「それにはセスに危険が及ばぬように魔法をかけている。その魔法が解けたから、慌てて飛んできたんだ」
「……俺に危険が……。あ、そっか俺が死んだら危険も何もないもんな」
なるほど、と俺は納得する。けれど、また新たな疑問が。
「でも、それってこの指輪を嵌めてないといけませんよね? 俺が外すとは思わなかったんですか?」
「……外れなかっただろう? そう言う風に魔法で固定していた」
「え!? ……通りで。俺の手が大きくなったから外れないのかと思ってました」
「今は全ての魔法が解けている。指輪も外れるだろう」
レオナルド殿下に言われて、指輪を外してみる。すると、するりっと簡単に抜けた。
「ホントだ」
俺がまじまじと結婚指輪を見て呟く。だが、レオナルド殿下を見ると面白くなさそうに不貞腐れた顔を見せていた。なんだか、いたずらが上手くいかなかった時の子供みたいだ。
……なんか、可愛い。
「今日はいっぱい喋ってくれますね? あれだけ俺になぁんにも話してくれなかったのに」
皮肉たっぷりに俺がイジワルに言うとレオナルド殿下は不貞腐れた顔のまま答えた。
「また死んだふりでもされたら困るからな」
その言葉は素直じゃなかったけれど、つまりは俺に死んでほしくないって事だ。
……なんだか、今日は素直じゃないなぁ。俺がイジワルしたから?
そう思いつつも俺は指輪を嵌め直し、レオナルド殿下の前に差し出した。
「?」
「レオナルド殿下、また外れないように魔法をかけてくれますか?」
俺が尋ねるとレオナルド殿下は驚いた顔を見せた。
「……怒ってないのか、私を」
「怒ってますよ。すーーーーーーーーっごく、ね」
俺が強調して言うと、レオナルド殿下は顔を引きつらせた。
「すごく、か?」
「ええ、すっごく。俺の気持ちを聞かないで、勝手に決めて、騙して。怒らない方が無理でしょ」
「……そうだな」
レオナルド殿下は小さな声で返事をした。気弱なレオナルド殿下を見るのも初めてだ。
……うーん、今日は珍しいものばかり見るな。でも。
「けど、レオナルド殿下にもう言いたいこと言っちゃいましたから。……あとは言葉を待つだけです」
俺が誘導するように言うと、レオナルド殿下はようやく俺を真っすぐに見た。
サファイアの瞳の瞳が俺に訴える。申し訳なかった、と。そして、レオナルド殿下は言葉でも俺に伝えてくれた。
「すまなかった、セス。酷い事を言ったし、酷い態度も取った。何もかも相談せずに決めたことも……。身勝手だった。ごめん」
レオナルド殿下はそう言って謝罪し、俺が差し出した手を取って指輪にキスをした。すると、軽く指輪が光った。魔法が宿ったのだ。
それを見たら、なんだか……なんだか……泣けてきちゃって。
「ホント、ですよ。俺……俺……すっごく、悲しかった、んですからねっ」
俺はぼたぼたっと大粒の涙を流して、レオナルド殿下に言った。そんな俺をレオナルド殿下はサファイアの瞳を大きく開けて見つめた。
俺は服の袖で涙を拭うが、その手をレオナルド殿下が引き剥がした。
「セス」
俺を呼ぶその顔には後悔が滲んでいる。
「セス、本当にすまなかった。こうする方がセスの為だと思ったんだ」
懺悔するように言うレオナルド殿下は見たことないほど、弱弱しいものだった。
「私はセスが、セスさえいてくれればそれでいい。だがセスは違う、セスは元々ストレートだし、最初から私との結婚は乗り気じゃなかった。それに……フェニをあんなに愛して、孤児院の子達にも優しく接していた。ジュリアナやアンジェリカにも……。だから私は」
レオナルド殿下は俺に目を伏せながら言った。でも俺はただただ怒りが沸く。
「俺の為に別れる事を選んだって言うんですか! 俺が……俺が、どんな思いをしたかっ。俺だってあなたを愛してるのにッ!!」
「セス……」
俺の言葉にレオナルド殿下の瞳が大きく開かれる。
「確かに俺は最初、陛下に言われて形式上だと思って結婚した。でも、でも本当に嫌だったら結婚なんかしてない! レオナルド殿下だから……っ。それに、もう俺はすっかり貴方を愛してしまってるんです。だから他の誰かと、他の女性と子供なんて作る気なんてない! 俺達にはフェニがいるし、俺はレオナルド殿下、貴方としか……っ!」
俺は俺の気持ちを疑われた事が悲しくて、うわーんっと大泣きしてしまった。滑稽で、みっともないとわかっていても、涙が止まらない。涙があふれて溢れて、頬をいくつもの涙が通っていく。
でもそんな俺を抱き寄せて、レオナルド殿下は俺の背を優しく撫で、謝罪した。
「すまなかったよ、セス。どうか愚かな私を許してくれ。……もう二度とこんなことはしない、そう誓うから泣かないで」
レオナルド殿下は俺の額に優しくキスをして言った。俺はひっくひっくと肩を揺らしながら、レオナルド殿下を見上げる。
「ホントに? もう二度と?」
泣きながら尋ねるとレオナルド殿下はしっかりと頷いた。
「ああ。だから、もう泣き止んで」
ぽんぽんっと背中を優しく撫でられ、ぎゅっと抱き込まれてしまえば、俺の悲しい気持ちは落ち着いていく。
「……ぅん、わかった」
俺はずびーずびーっと鼻をすすって、ごしごしっと涙を拭いた。そんな俺を見てレオナルド殿下は少し困ったような表情で俺を見た。
どうしてそんな顔をするの?
「レオナルド殿下?」
「……でも、セスは本当にいいのかい?」
窺うようにレオナルド殿下は俺に言った。でも何がいいのかわからない。
「へ?」
「私はセスが思っているほど善人でもない。腹黒いし、今回のように嘘も平気で付ける。それでもいいのか? 私は君の傍にいて」
レオナルド殿下は俺を見つめて、問いかけた。サファイアの瞳が不安げに揺れている。まるで俺が嫌だと言うとでも思ってるみたいだ。そんな訳ないのに。
だから俺はそっとレオナルド殿下の顔を両手で包んで、こつんっと額を合わせた。
「うん、それでもいい。だから、俺の傍にいて」
俺が告げるとレオナルド殿下はにっこりと笑った。弧を描くサファイアの瞳がキラキラとまるで宝石みたいに煌めく。
「ああ。セスが許してくれる限り、傍にいる。もう離れない」
レオナルド殿下の言葉に俺の中の兎が久しぶりに大暴走だ。ぴょぴょぴょーーーーーんっと飛び回っている。
なのにレオナルド殿下は。
「セス、愛している」
そんな事まで言ってしまうから、俺は思わずいつも通り照れくさくなって、恥ずかしくなって顔を背けてしまう。でも今日だけは、それだけで終わらなかった。
俺は視線をレオナルド殿下に頑張って戻し、重い口を開けて心の中の想いを吐き出した。レオナルド殿下にずっとずっと伝えたかった言葉を。
「俺も……。レオナルド、愛してる」
俺は愛を告白し、そっとレオナルド殿下に自らちゅっとキスをした。
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