殿下、俺でいいんですか!?

神谷レイン

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おまけ

殿下、現実世界ですよ!

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メリークリスマス!
皆さま。完結しましたが、一話だけお話を書きました。
楽しく読んでいただければ幸いです。

************





 俺の名前はセス。
 昼は医大に通い、夜は大手チェーンの薬局店のバイトをしている大学生だ。

 ――――夜の九時。

「セス君、お疲れ様。気を付けて帰るんだよ」
「お疲れ様です。お先に失礼しまーす」

 俺は店長に挨拶をしてお店を出る。
 びゅっと冷え込む寒さに、俺はぶるっと体を震わせて手を上着のポケットに突っ込む。そして、そのまま歩いて家路を急ぐ。でも冷たい風にお店を出て一分もしない内に鼻先がもう冷えてきた。

 ……ううう~っ、寒いなぁ。早く暖房の効いた部屋で暖まりたい。それか熱いお風呂に入りたいっ。

 体の芯が冷えそうな寒さに、はぁっと白い息を吐くと、今度はぐぅっとお腹が小さく鳴った。

 ……お腹空いたな。今日の夜は何を食べようかなー? コンビニでおにぎりでも買って済ませちゃおうかな? 寒いからホカホカの肉まんでもいいかなっ。

 そう思いながら大通りを歩いていると、高級車が路肩に寄り俺の側で停まった。
 そして車の運転席が開いて、一人の男が出てくる。

 190㎝の高身長、金髪の豪奢な髪に青の瞳。オーダーメイドのスーツを着こなし、高そうな革靴を履いている美丈夫。黒のコートを着込んだその姿は、どこからどうみても洗練された大人の男。

 通りを歩く女性、いや誰もが彼に振り向き、二度見している。

 ……まあ、こんなイケメンいたら、誰だって見るよね。

「やあ、セス。今帰り?」

 親し気に声をかけられて俺は挨拶をする。

「あ、こんばんは。レオナルドさん」
「こんばんは」

 レオナルドさんはニコニコしながら俺に挨拶をした。

 彼の名前はレオナルドさん。
 財閥の御曹司で、大企業の社長さんをしている。イケメン社長として雑誌にも取り上げられてて巷の有名人だ。

 そしてなぜそんな人が俺と知り合いかと言うと、俺の母さんがレオナルドさんのお母さんと友達で、俺が子供の時、お家(豪邸)によく母さんについて遊びに行っていたからだ。
 その時、十一歳違うレオナルドさんは子供だった俺の相手をよくしてくれていた。

「レオナルドさんも今、仕事終わりですか? 最近よく会いますね」

 俺が何気なく言うと、レオナルドさんは「ああ、本当だね」と笑っていた。
 レオナルドさんの仕事場は俺のバイト先と近いらしく、最近よく帰り道で会う。

 ……レオナルドさん、俺なんか通り過ぎて行っちゃえばいいのに、律義に車を停めて挨拶してくれるんだよな。

「それよりセス、お腹空いてない?」

 レオナルドさんに答えるよりも先に、お腹がぐぅっと鳴った。

「あ」
「空いてるみたいだね」

 俺は慌ててお腹を押さえたが、腹の虫の音をしっかり聞いたレオナルドさんはクスッと笑って言った。

「おいしいレストランがあるんだけど、私に付き合ってくれないかな? 一人でレストランに入るのは寂しくてね」

 そう言われたら断れない……。

「レオナルドさんが良ければ」
「勿論!」
「あ、でも手持ちが」
「私が誘っているんだから、私が払うよ」
「でも……この前もそう言って。毎回は悪いです! 俺も払います」

 俺が主張するとレオナルドさんはにっこりと笑った。

「セスが払えるようになったら払ってもらうよ、それまでは出世払いでいいさ」

 後光がさすような笑顔で言われてしまえば俺は何も言い返せない。というか、歩いている女性たちが足を止めて、レオナルドさんを見始めてる。

 このままいたら、レオナルドさんに声をかける人が現れてくるかもっ! この前、こうやって立ち話してたら、女の人が詰め寄ってきたもんな。

「わかりました。……俺が出世したら、ちゃんとお返ししますからね!」
「ああ、楽しみにしているよ」

 ……大人の余裕っていうのはこういう事を言うのだろうか。

 俺はそう思いつつもレオナルドさんにドアをわざわざ開けてもらい、助手席に座った。

 ふぁ~っ、暖房が効いてて、あったか~いッ!

 俺は暖かな車内にほっと息をつき、そんな俺を運転席に座ったレオナルドさんはふふっと見て笑った。

「外、寒かっただろう? お腹も空いて、より体が冷えているんじゃないか? 早く美味しいお肉を食べに行こうね」

 ……お肉ッ!

 素直にぎゅるっと俺のお腹が鳴る。
 その音がまた聞こえてしまったのかレオナルドさんは笑みを零しつつ、車を発進させた。







 それから俺とレオナルドさんは最近できた有名シェフの洋食屋を訪れ、個室の席を案内されて、美味しい料理に舌鼓を打った後。

「はぁ~~っ、お腹いっぱい!」

 俺は満腹になって、椅子の背もたれにぐてっと寄りかかった。

「おいしかったね」

 レオナルドさんはナフキンで行儀よく口元を拭きながら言った。

 ……ミディアムに焼かれたステーキ、美味しかったなぁ。量もちょうど良くて……サラダもスープもパンもおいしかったし。デザートのケーキも最高だった。……でも、レオナルドさんが時々くれるケーキの方がおいしいって言ったら失礼かなぁ?

 俺はお腹に収まった料理を思い出しながら、チューチューとストローの刺さったアイスティーで口の中をさっぱりさせていると「セス」と声をかけられた。

「はい?」

 俺が返事をするとレオナルドさんはなんだか真剣な顔をしている。

 ……どうしたんだろう??

「実は、今日誘ったのはご飯を一緒に食べたかったのもあるんだけどセスにある相談があったからなんだ」
「……俺に、相談?」

 なんでもできるレオナルドさんが?? 一体なんだろう。

「ああ。実はね、ここ最近ずっと父からお見合いをするように勧められているんだ」
「お見合い!」

 ……まあレオナルドさん、三十一歳だし、適齢期って言ったら適齢期なのかも。

「身を固めろ、と言われてね。でも、私はまだ誰とも結婚したくないんだ。……好きな人もいるし」

 ……好きな人がいるんだ。……ん? なんだろう、胸がモヤつくな。おいしいからってパンを食べ過ぎたかな??

 さすさすっとお腹を擦る。

「それでセスにお願いがあるんだ」
「俺に、お願い?」

 俺にできることだったら、何でもしてあげたいけど……何だろう?

 首を傾げる俺にレオナルドさんは思わぬお願いをした。

「ああ……私と同性パートナーシップを結んでして欲しいんだ」
「……同性パートナーシップ?? それって、あれですか? 同性同士でも結婚と同じ権利を持てるってヤツ?」

 俺はニュースやテレビで報道されていた内容を思い出しながら言った。するとレオナルドさんは「ああ、それだよ」と深く頷いた。

 ……なんだ、俺にお願いって同性パートナーシップかぁ。それだったら俺にもできるな~。

 なんて思ったが、改めて考えてみると。

「ええ?! 俺とですか?!」

 俺は思わずちょっと大きな声を出してしまい、慌てて自分で口を塞いだ。
 でもレオナルドさんは気にせずに答えた。

「ああ、セスとだ。セスなら気心知れているし、私に何かを求めたりしないだろう? だから、頼めないだろうか? セスにしか頼めないんだ」

 レオナルドさんに懇願するように言われて俺は考える。

 ……なるほどなぁ。俺しか頼める相手がいないのか。好きな人がいるなら結婚もできないしなぁ。

「セス、ダメかな?」

 困った顔でそんな風に言われたら断れない。
 いつも良くしてもらってるんだ。今度は俺が助けてあげなきゃ! 同性パートナーになっても何が変わるわけでもないし!

「いいですよ!」
「セス! ……ありがとう」

 レオナルドさんは嬉しそうに微笑んだ。

 でも、この時の俺は知らなかった。裏で、レオナルドさんがニタリと笑っている事を。

 そして同性パートナーシップを結ぶという事がどういう事が……。










 それから一か月後。

 俺達は同性パートナーシップを結び、レオナルドさんが住んでいる高級マンションに俺も一緒に住むことになった。

「今日から俺、ここで暮らすんですね」

 俺はリビングでソファに座りながら、レオナルドさんが淹れてくれた麦茶を飲んでしみじみと呟く。

「ああ、そうだよ。結婚してくれて、ありがとう。セス」

 レオナルドさんは俺の隣に座って甘く笑う。だから、何となく照れてしまう。

 ……俺達、偽装結婚なのに。なんだか、この前から胸が苦しい。

「お、俺、風呂に入ってきます。汗かいたし」

 俺はすくっと立ち上がって言った。

「ああ、その前にセスに見せておきたい部屋があるんだ」

 ニッコリ笑って言い、レオナルドさんも立ち上がった。

 ……俺に見せたい部屋? なんだろう??

 俺はそう思いつつもレオナルドさんにエスコートされて、その部屋に向かった。そこは一番奥にある部屋だった。

「何の部屋なんです?」
「見たらわかるよ」

 レオナルドさんに言われて、俺はドアを開ける。

 ……なんだろうなぁ?

 そう思って部屋を開け、俺は驚愕した。

「っ!!」
「どう? 気に入ってくれた?」

 レオナルドさんは俺の後ろでそう囁いた。でも俺は驚きで声が出ない。

「素敵な部屋だろう?」

 レオナルドさんに言われて、俺は声をどうにか捻り出した。

「こ、これ……」

 そう呟いた俺の顔はきっと驚きに満ちている。でもレオナルドさんの顔は怖いくらい笑顔だった。

「セスのコレクション部屋だよ」

 俺の耳元でレオナルドさんは囁いた。そして俺は部屋を見渡す。
 そこには壁一面にいつ撮られたかわからない俺の写真がビッシリと貼られ、そして俺が失くしたと思っていたペンや下着、携帯などがガラスケースに飾られていた。

「こ、これって」
「セスの物を集めた部屋だよ?」
「な、なんで……れ、レオナルドさん、好きな人がいるって」
「ああ、いるよ。私の目の前に」

 にっこりと笑顔で言われて、俺は何も返事が出来ない。

 ……まさか、俺がレオナルドさんの好きな人だったなんてッ!!

 そう思ったが、急な眠気が俺を襲った。

「うっ」

 その場に立っていられない。ふらつく俺の体をレオナルドさんは支えてくれた。

「ああ、睡眠薬が効いてきたみたいだね?」
「すい……みん、やく?」

 俺はそう呟いたけれど、そのまま眠気に抗えず瞼を閉じてしまった。













 次に目を覚ました時には俺の部屋だった。

「ッ!」

 ……今のは夢?

 そう思ったが、ハッと自分が何も着ていない事に気が付いた。その上、手首に手錠をされ、その手錠には鎖が付いていてベッドに括りつけられていた。

 まるで俺が逃げないように。

「これは……」

 俺が呟くとドアが開き、俺はびくっと肩を揺らした。

「起きたんだね、セス」

 入ってきたのは風呂上がりのにこやかなレオナルドさんだった。

「レオナルドさん、これは!?」

 俺が尋ねるとレオナルドさんはぽすっと俺のベッドに座り、俺の頬を撫でた。

「勿論セスが逃げない為のものだよ?」
「俺が……逃げない?!」

 つまり、それって監禁……ッ!?

 俺が驚いている間にレオナルドさんは何かベッドの下から箱を取り出した。

 ……え? 俺、そんなところに箱を置いた覚えなんてないのに。

 そう思っているとレオナルドさんはその箱から大人のアダルトグッズと呼ばれるものを取り出し始めた。

「な、なに……?」
「セス、これから私がみっちり調教してあげるからね?」
「え……?」

 小さく呟いた時には、もうベッドに押し倒されていた。

「もう離さないよ? セス」

 レオナルドさんは獰猛な目つきで俺を見つめた。
 その後、俺はレオナルドさんの宣言通り、調教され、淫猥な事をされ続けた。























「セス! セス!! 起きて!!」


 呼び起されて俺はハッと目を覚ました。 

「はひっ?!」

 目が覚めると、心配顔のレオナルド殿下が俺の目の前にいた。
 部屋の中はまだ暗く、朝が来る前の早朝だと気が付く。

「セス、うなされていたけど大丈夫?」
「……あ、レオナルド、さん?」
「?」
「あ、レオナルド殿下??」
「……どうしたの、セス。大丈夫? 怖い夢でも見たの?」

 レオナルド殿下に言われて、俺は段々と意識が覚醒し始めてくる。

 今まで見ていた事が夢だったと。でもあまりにリアルで……。

 俺は思わず優しいレオナルド殿下に抱き着いた。

「セス、大丈夫かい?」
 レオナルド殿下が俺の背中を落ち着かせようと優しく撫でてくれる。

 ……やっぱり、俺はこっちのレオが好き!

 俺は夢の中のレオナルドさんを思い出して、改めて思った。

「セス、一体どんな夢を見たのか教えてくれないかい? 話したらちょっとは落ち着くかも」

 レオナルド殿下に言われて、俺は顔を上げてちらっと視線を向ける。

「?」

 どうしたの? とその瞳が俺に問いかける。

 ……確かに話したらちょっとは落ち着くかも。恥ずかしいけど……でも、レオナルド殿下なら。

 俺はそう思ってぽつりぽつりと話し始めた。

「俺……夢を見たんです」
「うん、どんな夢?」
「それが、レオナルド殿下が出てくる夢で」
「私が?」
「うん。そこは変わった世界で、レオナルド殿下は何か動く箱みたいなのに乗ってて、俺を迎えに来るんです。それで食事処に一緒にいくんですけど」
「変わった世界……」
「レオナルド殿下が結婚をお父さんにするよう言われていて、好きな人がいるから俺に偽造結婚を持ちかけるんです」
「うん……?」
「俺、レオナルド殿下の為ならって結婚して、一緒に住むんですけど……」

 俺はそこまで言いかけて、口を噤んだ。でもそんな俺にレオナルド殿下は「セス?」と問いかけた。ここまで聞いたら、先が気になるんだろう。

 俺は目を逸らして、話を続けた。

「レオナルド殿下……実は俺のストーカーで、部屋の一室に俺の絵が一杯貼ってあったんです。そこには俺が失くしたと思っていたモノも飾られていて」
「そ、それは……怖かったね」

 レオナルド殿下は慰めるように言ったけど、俺は首を振った。

「別にそれはいいんです!」
「え? それは良いの?」
「問題はその後なんです! レオナルド殿下……俺に手錠と鎖を付けて部屋に軟禁しちゃうんです! それで……その、俺のこと……ちょ、ちょう、調教……し始めて。色々とおもちゃで遊ばれて……最後にはなんでかレオナルド殿下が二人になって!! 俺、いっぱい抱かれて死んじゃうかと」

 俺は話しながら恥ずかしさに顔を赤くした。

 夢の最後。おもちゃで遊ばれて泣き叫び……レオナルド殿下が二人になって色んなことをされた……。
 ああああ! 恥ずかしいぃッ! 夢って大抵変だけれど、ここまで変なのは初めてだ! ……それにしても、俺が逃げちゃうからって監禁するなんて。俺、あの部屋に驚いただけで別に嫌じゃなかったのに。

「セス、もしかして魘されていたのは二人の私に抱かれていたから?」
「だって、レオナルド殿下が二人ですよ!? 俺、壊れちゃいますよ。それに、なんだか妙にイジワルだったし」

『セス、いやらしいね』
『セスはホントは淫乱だもんね?』

 二人のレオナルドさんに言われたセリフを思い出して、赤面する。夢の中での事なのに、恥ずかしいったらない。

 ……ああ、もう早く忘れよう!

 そう思ったけれど、気が付けばレオナルド殿下に押し倒されていた。

「ふぇ……?」
「ごめん、セス。セスが夢に見るまで欲求不満だとは知らなくて」
「えッ!?」

 レオナルド殿下に言われて俺は声を上げる。しかしレオナルド殿下は驚く俺を無視した。

「夢に見ないぐらい、いっぱい愛してあげるからね? 夢の中の私より」
「え? え? ちょ、ちょっと待ってぇ~~?!」

 そう叫んだが、結局俺は早朝だというのにレオナルド殿下とベッドの上で軽く運動をすることになったのだった……。



















 そして軽い運動後。

「すぅすぅ……」

 疲れて眠るセスの顔を見ながら、レオナルドは顎に手を当てた。

 ……私の心の欲望が漏れ出たのだろうか?

 セスの見た夢は、話を聞く限りではほとんどレオナルドの欲望をそのまま忠実に再現したようなものだった。

 ……私もできればセスをこの部屋に監禁、調教したいが、それではセスが私を怯えてしまう。そう思ってしてこなかったが、あまりそこは問題視してなかったな? 抱かれ過ぎる事に魘されたといっていたし。うーん。アリなのか?

 レオナルドは真剣な顔で、眉間に皺を寄せ考える。
 だが、それよりも何よりもレオナルドが一番に思ったのは。

 ……ああ、それにしても私もセスの夢を見たかったッ!! 監禁され、調教されて悶えるセスなんて可愛いに決まってるじゃないか!!

 レオナルドはふんふんっと鼻息を荒くして思った。

 ……願うなら、私の時は私が二人になるのではなく、セスが二人になるといいな。

 レオナルドは朝っぱらから、ごくごく真面目にそう思った。
 そしてレオナルドはニタリと笑い、眠るセスの頬にキスを落として、目を瞑った。

 ……私もいい夢が見れるように、もうひと眠りするか。
 





 その後、レオナルドが夢を見れたのか、見れなかったのかはーーーーーー。





おわり



********

多くのお気に入り、ありがとうございます。
まさかこんなにお気に入り登録していただけるとは、本当に思っていなかったので未だに驚いております。


もしもこのお話を楽しんでいただけたのならうれしい限りです。
なかなか落ち着かない世の中ではありますが、皆さま、年末もご自愛くださいますよう、気を付けてお過ごしください。

神谷はおこたにみかん、映画三昧としけこみたいところですが……年末年始も仕事を頑張ります(笑)
では、皆さま。よいお年を(・ω・)ノ
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