殿下、俺でいいんですか!?

神谷レイン

文字の大きさ
上 下
47 / 114
殿下、ちょっと待って!!

13 フェニの捜索 後編

しおりを挟む
「フェニを探しに行ってきます」

 部屋を出て行こうとする俺をレオナルド殿下は腕を掴んで引き留めた。

「待ちなさい、セス。一人でこの広い城の中を探すつもりかい?」
「そうです。だから手を放して」

 俺は間髪入れずに答えた。だが俺の腕をレオナルド殿下は放してくれなかった。

「セス、少し待ちなさい。私の魔力探知でフェニを探すから。フェニ程の魔力があれば、すぐに見つかるだろう」

 レオナルド殿下はそう言ってから俺の手を放した。フェニは不死鳥だ。その身に潜めている魔力量は人よりも多い。魔獣と呼ばれているだけはあるのだ。
 レオナルド殿下は地面に膝をつき、床に手を置くと目を瞑った。

「セス、安心しろ。レオナルドの魔力探知は高精度のものだ。すぐに見つかるだろう」
「ええ、そうですよ」

 ランス殿下は俺を安心させるように言い、騒ぎを聞いて駆けつけてくれたノーベンさんも頷いた。
 でも、床から手を放したレオナルド殿下の表情は険しかった。

「……どうやら困ったことになったようだ」

 その一言でランス殿下は理解したみたいだった。

「まさか、見つからなかったのか? ……これは非常事態だな。エリオット、すぐに兄上と父上に報告を」
「ノーベン、すぐに城の出入り口を封鎖させろ。誰一人出すな。使用人達を全員起こせ」

 ランス殿下とレオナルド殿下は素早く自分の従者達に指示を出した。
 従者達はすぐに「「ハッ」」と答えると部屋を飛び出るように出て行った。

「手際のよい者なら、すぐに城を出ている可能性が高いな。町の重役に声をかけて不審な者がいなかったか探して貰おう」

 ランス殿下はそういうと部屋を出て行った。
 それを見送り、事態を把握できていない俺はレオナルド殿下に視線を向けた。

「一体、どういうことですか? フェニを見つけられるんじゃ……」

 俺が尋ねるとレオナルド殿下は渋い顔を見せた。

「ああ、私の魔力探知でならフェニを見つけられたはずだ。この城、そして半径三キロ以内にいたなら。……しかし何も引っ掛からなかった。恐らくフェニは魔力探知を跳ね返す魔具の中にいるか、もしくは三キロ以上離れた場所にいる。どちらにしろ捕まっている可能性が高い」
「捕まって!? 一人で飛び出したとかじゃなくて?!」
「部屋を飛び出しても城を飛び出すまではないだろう。フェニにとって城の外はまだ未知だ。それに巣立ちにしてはおかしい。セスに何も言わずに姿を消すなんて、フェニはしないだろう」
「……つまり誰かが」

 俺が呟くように言うと、レオナルド殿下は深く頷いた。

「ああ、連れ去ったと考えるべきだ。……まさかフェニ自ら部屋を出るとは。これならば外側だけでなく内側にもドアに結界を張っておくべきだった」

 レオナルド殿下は油断した、とため息交じりに呟き、何も出来ない俺は立ち尽くすしかなかった。

 ……フェニを一人にするんじゃなかった。俺が傍にいたらっ。せめてノーベンさんに見て貰っていれば。

 後悔がどんどん溢れ出す。でもそんな俺の手をレオナルド殿下は力強く握った。

「セス、そんな顔をしなくても大丈夫だ。必ずフェニを見つけ出す。約束しただろう? フェニが巣立つ時は一緒に見送ろうって……私を信じて」

 嘘のないサファイアの瞳が俺を見つめた。

「はい」

 俺は返事をして手を握り返した。


















 その頃、フェニは。

「ぴっ?!」

 フェニは酷い揺れに目を覚ました。

 クッションが敷かれているが体がぐわんぐわんっと上下に動き、身が定まらない。そして辺りを見回すと何かの中のなのか、真っ暗闇だった。馬が駆け走る蹄の音が身近に響き、フェニはパニックに陥った。

「ピピ―――ッ! ピピピィーッ!!」

 甲高い声で鳴き、暗闇の中でパタパタっと羽を動かして飛び、柔らかな壁に体当たりしてみる。しかしビクともしない。壁からは革の匂いがした。

 ……なんで!? ここ、どこ!? えちゅは?! えちゅっ!!

 バサバサッと羽を動かして何度も壁に体当たりする。すると「どうどう」と男の声が聞こえ、馬が立ち止まった。

 ……誰? えちゅのとこ、帰りたいッ。

 フェニはそう思いながら「ぴぴぃ」と小さく鳴いた。そんなフェニが入っている鞄の蓋を誰かがぺらりと捲った。

「ピーピーっうるせぇ、少し黙ってろ」

 暗闇の中、はっきりはわからなかったが男の声がして、プシュッと液体のようなものをかけられた。
 フェニはけほけほっと咳き込んだが、すぐに眠たくなる。

 ……んむ、ねむ、たい……えちゅ、の、とこ、か、え、り……。

 フェニはそのまますぴーすぴーっと眠ってしまった。
 男はそれを見るとバサッと鞄の蓋をしっかりと閉めて背負った。

「早く国を出ないと見つかっちまうからな」

 ……まさか本当に不死鳥の雛が手に入るとは俺はラッキーだぜ。こいつを売り飛ばしちまえば、賭けで貯まった借金は全部チャラだ!

 男はニタリと醜く笑い、馬の腹を蹴って、また森の中の道を走らせた。
 目指すは国境、男は他国でフェニを法外な値段で売り飛ばす気でいた。





 だが、フェニの鳴き声があるモノを呼び起こしていたことを男は気が付いていなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!

小池 月
BL
 男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。  それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。  ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。  ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。 ★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★ 性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪ 11月27日完結しました✨✨ ありがとうございました☆

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき(藤吉めぐみ)
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

「じゃあ、別れるか」

万年青二三歳
BL
 三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。  期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。  ケンカップル好きへ捧げます。  ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

処理中です...