殿下、俺でいいんですか!?

神谷レイン

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殿下、ちょっと待って!!

11 ランスが見たもの

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 夜もすっかり更けた頃。

「はぁー、疲れた。酒の席も長くなると辛いものだな」

 大きなため息を吐いて城に戻ってきたのはランスだった。

「その割には楽しそうに飲んでいましたが?」
「まあ、酒はうまかったからな」

 ランスはカラカラと笑って従者に言った。
 今日は貿易商達の会合があり、ランスもそれに参加していた。勿論、他国と国交を結ぶ外交官として。そして長い酒の席を終えて、今しがた帰ってきたのだ。

「今日はもう風呂に入って寝るよ。明日の午前中は何も予定なかったよな?」
「はい、予定は何も入っておりません……何かされるので?」
「久しぶりにセスのところにでも行こうかと思ってな」

 ランスが言うと従者は呆れた顔でちらりと視線を向けた。

「ん、なんだよ。何か言いたそうだな?」
「行く前に、レオナルド殿下に許可を頂いていた方が賢明かと思われますが?」
「あー、あいつ、セスには異様に執着してるからなぁ」
「わかっていらっしゃるなら」
「けど、先に言ったら絶対邪魔されるだろ? 俺だって義弟と二人きりで楽しみたい。それにあの小鳥の事も気になるしな」

 ランスが言うと、従者は渋い顔を見せた。

「不死鳥……ですか」
「セスの周りは大変なことになっているみたいだし、少し話しをしにな」

 ランスもセスの周りで不死鳥の涙を狙っている輩がいる事は耳にしていた。なので、卵を渡した本人としてランスは少しばかり責任を感じていた。

「わかりました。セス様には明日の午前に伺うと、ご連絡入れておきます。あとレオナルド殿下にも」
「げーっ、レオナルドにも言っておくのか?」
「魔法でひねりつぶされても良ければ黙っておきますが?」

 従者に言われて、ランスは確かにレオナルドならやりかねない、と思った。
 普段は大人しい弟もセスが絡むと豹変することをランスは知っている。

「……はぁ、一応言っておいてくれ」
「畏まりました」
「セスと二人でお茶をしたかったんだけどな~」

 従者は頷き、ランスはぼやきながら自分の私室に向かう。
 だがその時、廊下を小さな何かが横切った。二人は足を止め、目をぱちくりさせた。

「おい……今の見たか?」
「はい……。今のは擬人化した不死鳥でしたね」

 二人の大人は立ち止まったまま、顔を合わせて視線を交わした。

「こんな時間に、なんで一人で?」

 ランスは眉間に皺を寄せ、怪訝な表情で呟いた。








 そして、そのフェニと言えば。
 夜の廊下を一人で走って、人に見つからないように気を付けながら隠れる場所を探していた。

 ……ふぇに、どっかに連れて行かれちゃうのやだ! えちゅといっしょにいりゅ! だから、どこかにかくれなきゃ!

 フェニは走り回って、人気のないとある物置部屋を見つけて中に入り込んだ。物置部屋には壺やらシーツやら色々と置かれている。
 フェニは窓辺の奥まったところを見つけ、そこに身を潜ませた。

 でも冷え切った部屋の中は寒くて、フェニはぽんっと鳥の姿に戻った。鳥の姿なら柔らかな羽毛が寒さから身を守ってくれるからだ。それに鳥の姿なら、より狭いところに隠れられる。

 ……ふぇにはえちゅとずっといっしょにいりゅ。どこにもいかない! だからここにかくれるんだっ!

 フェニは座り込んで、心の中で叫んだ。
 そして先ほどの事を思い出す、それはつい三十分ほど前の事だった。




 ガタッ!




 眠っていたフェニは窓が風に叩かれた音で目が覚め、辺りを見回した。しかしそこには誰もいない。

「んー、えちゅ? れお?」

 フェニは二人がいなくて寂しさからベッドを下り、部屋を出て、一人廊下をぺたぺたっと裸足で歩いた。そして私室の隣の部屋を見れば、ドア下の隙間から光が漏れている。
 しかも中から二人の話声が聞こえた。

 ……えちゅ、いる!

 そう思ってドアを叩こうとしたが、レオナルドの言葉がフェニの胸に刺さった。

「セスとフェニには北にある別邸で数週間滞在してもらい、そこでフェニに巣立ってもらうつもりだ。北の別邸は郊外で森も近い、人も少ないから私の転移魔法でこっそり行けば、巣立つ時も危険は少ないだろう」

 そうレオナルドはセスに言い、セスは「もう決まっているんですね?」と尋ねた。その問いかけに、レオナルドは「ああ」とはっきり答えた。

 ……れおは、ふぇにをえちゅから引きはなしゅつもりなんだっ!

 そう思ったらフェニはその場から逃げていた。
 セスから離されてしまうのなら、どこかに隠れてしまおうと思ったのだ。

 ……れおはふぇにをちがうとこりょにつれてくんだっ。そこでえちゅと離すちゅもりなんだ! れお、きらい!!

 フェニはふんっと怒った鼻息を出した。
 でも、その時、どこからか自分を呼ぶ声が聞こえた。

『ドコニイル?』

 フェニはハッとして窓の外を見る。そこには寒空が広がっているだけだ。

 ……ちがうもん、ふぇに、外になんかいきたくないもん!!

 フェニは自分に言い聞かせるが、自分を呼ぶ声はここ数日続いている。それに体は外に行きたいとウズウズしている。外でいっぱい羽ばたきたいと。

 ……むーーーっ、ふぇにはえちゅといっちょにいるんだもん!!

 フェニはぎゅっと目を瞑って、自分自身に言い聞かせた。
 でもその時、カタッと物音がした。

「ぴっ!?」

 フェニは驚いて辺りを見回すが、何も変わりはない。

 ……なんだ、気にょせいかぁ。

 フェニはホッと息を吐いた。でもなんだか真っ暗闇が怖くなってきた。今すぐにでもセスの元に戻りたいと心が叫ぶ。

 ……えちゅ、ふぇにがいないこと、気がちゅいたかなぁ? えちゅぅ……。

「ぴぴぴぃ」

 小さな声が寂しさと一緒に出る。
 だがその時、フェニの頭上に影が差した。

「ぴ?」

 フェニが見上げると、そこには黒い影が蠢いていた。




「こんなところにいるなんてラッキーだぜ」
「ぴ!?……―――ッ!!!」



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