殿下、俺でいいんですか!?

神谷レイン

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殿下、ちょっと待って!!

9 ヤリすぎでは?? ※

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 それから、なんだかんだとフェニが生まれてから一ヶ月半が経ち。

 みんな、もうフェニに見慣れたようで誰も騒がなくなり、俺の傍にフェニがいる事が日常になっていった。
 フェニもレオナルド殿下に慣れて、抱っこされてももう騒ぐこともなくなった。不満そうな顔はしているが、レオナルド殿下は一切気にしていない。

 そして俺やレオナルド殿下の会話を聞いて、フェニは色々と言葉を覚えていった。
 今では簡単な言葉のやり取りができるぐらいには。









「えちゅ、だっこ」
「フェニ、ちょっと待って」
「えちゅぅぅ、だっこぉぉ、だっこちてぇ」

 フェニは俺の服の袖を引っ張って強請った。

「はいはい。よっこいしょ」

 俺はフェニを両手で持ち上げて、抱っこする。するとフェニは満足そうに、にこぉっと笑った。三歳児はなかなか重いが、この笑顔をみたらそんな事忘れてしまう。

 ちなみに、“えちゅ”というのは俺の事らしい。簡単な言葉は話せるようになったが、俺の名前を呼ぶのはまだ難しいらしく、舌ったらずだ。
 でも可愛いので、全然問題ない。

「じゃあ、お風呂に行こうか」
「うん」

 フェニはそう答えた後、キョロキョロと辺りを見回した。その反応に俺は笑ってしまう。

「大丈夫だよ、今日はレオナルド殿下、遅くなるって言っていたから」

 俺が教えるとフェニはあからさまにほっとした顔を見せた。

 フェニはレオナルド殿下と一緒にお風呂に入るのが嫌みたい。……いや、正確には洗われるのが嫌なんだろうと思う。レオナルド殿下、フェニが暴れても容赦なく洗うからな。

「今日は俺と二人だよ」

 俺が告げるとフェニはふふっと笑った。

 でも、それからフェニと一緒にお風呂に入って、体も洗ってのーんびり浴槽に浸かっていると、脱衣所のドアを開けてレオナルド殿下がやってきた。

「私も一緒に入る」

 逞しい身体を惜しげもなくさらけ出して。
 俺も同じ男だし、何度もレオナルド殿下の体は見ているけど、浴室は明るいから目のやり場に困っちゃう。

「は、はい……」

 俺はなんとか答えたが、フェニはザバッと浴槽から上がるとぴゅーっと脱衣所にかけて行き、名前を呼んだ。

「にょーべん!」

 フェニが呼ぶとノーベンさんがどこからともなくやってきた。

「はいはい、なんでしょうか」
「からだ、ふいちぇ!」
「もう、上がられるのですね?」
「うん」

 ノーベンの問いかけにしっかりと受け答えするフェニ。
 その姿に、成長したなぁ、と思わず親のように思ってしまう。

「ノーベン、フェニを頼む」

 レオナルド殿下が声をかけるとノーベンさんは「畏まりました」と言って、大きなタオルでフェニを包み、ドアを閉めた。それからフェニの声が遠くなっていく。

 二人っきりになった浴室。

 レオナルド殿下の視線が痛いほど俺に突き刺さる。そして俺の胸はドキドキして、兎がぴょぴょんっと飛び始める。レオナルド殿下は俺の傍に寄ってくると俺の顎に手を当てて、おねだりした。

「セス、私の体、洗ってくれる?」

 色気むんむんのレオナルド殿下に言われて、拒否できる人がいるんだろうか。

 俺は「は、はひ」と答えて、浴槽から上がる。




 でも一時間後には……。





「あっ、あっっ、れ、レオっ!」
「セス、気持ちいい?」
「んぅ、気持ちぃっよ、レオッ」

 俺はレオナルド殿下の首に手を回して、蕩けた頭で答えた。
 浴槽の壁に背をつけ、レオナルド殿下は俺の両足を持ち上げて俺の後孔に熱い剛直を突き立てている。

 まるで抱っこされているような形だが、両足を持ち上げられているから不安定だ。レオナルド殿下が腰を動かすと俺の体は振り子のように揺れる。
 パンパンッとお尻を打ち付けられるように腰を入れられ、俺は早々に二回目の射精を迎えた。ぎゅうっと足の指を曲げ、レオナルド殿下にしがみつく。

「ああああっ!!」

 びゅくっと射精して声を上げると、同時にお腹の中にレオナルド殿下の精液がかけられたのがわかった。

「はぁっはぁっ、セス」

 レオナルド殿下は熱気を纏ったまま俺の唇を食み、ねっとりとキスをした。極まってしまった俺はされるがまま、そのキスを受け取る。

「んはぁっ」
「はぁっ……セス、明日は休みだろう? もう一回」

 熱が冷め止まぬレオナルド殿下は俺に問いかけた。

「んっ、あ、もぉ、らめ」
「お願い」

 ダメって言ったのに、レオナルド殿下の腰が動き始める。

「ああっ、らめっていっらのにぃ。ああーーっ!」


















 ……ああ、どうしてこんなことに。最近、俺とレオナルド殿下はもっぱら風呂場でよろしくヤっている。いや、ヤりすぎている気がする。

 なぜかと言うと、大抵フェニがどこにでも俺についてくるんだけど、風呂場だけはレオナルド殿下が現れるとすぐに逃げて、さっさと上がっちゃうから。

 そして二人っきりになった風呂場で俺はいつもレオナルド殿下にこうして抱かれている。
 抱かれた後、汚れを流せるから楽でいいっちゃいいけど、最近はもっぱら風呂に入る=レオナルド殿下とする、みたいな流れだ。

 ……世の中の小さな子供を持つ親もこんな感じなのかな? しかし、風呂場でって……俺ってまるで泡姫みたい。

 行ったことはないけど、花街にはそういうところがあるのは知っている。

 石鹸宿って言うんだっけ? そこで働いている子を泡姫って呼ぶらしい。でも女の子だから泡姫なんだよな? 男の場合はなんて呼ぶんだろう? 泡王子、とか?

「セス、何考えてるの?」

 私室に戻る最中、レオナルド殿下はぐったりと疲れた俺を抱きかかえて尋ねた。でも俺は何も答えない。

「セス、怒ってる?」
「俺、やだって言った」

 ぷくっと頬を膨らませて抗議した。するとレオナルド殿下が困ったように眉を下げる。

「ごめん、ついついセスが可愛くって。それにこの三日、全然触れ合えてなかったから……恋しくて」

 三日ぐらい我慢してくださいよ、と思ったが、それだけ好かれているのだと思うと悪い気はしない。

「セス、明日はケーキを作ってあげるから」
「……生クリームたっぷりのじゃないとやです」
「ああ、勿論」

 うーむ、生クリームたっぷりのケーキなら、許すしかない。

 でも本当の事を言うと、俺だってレオナルド殿下と触れ合うのは好きなのだ。ただ行き過ぎてなければ。

「で、何を考えていたの?」
「うん? あ、いや、花街に泡姫って職業があるけど、男の人はなんていうのかなぁって」

 俺が何気なく言うとレオナルド殿下の腕に力が入った。なんで?

「セス、興味があるの?」
「え? 違いますよ。その……」

 いつも風呂場でしてるから、俺って泡王子みたいですよね~。あ、王子ならレオナルド殿下の方が泡王子かな? 実際に本物の王子様だしね。あははは~。

 ……なんて言えない!!

「あ、その、なんでもないです」
「そこまで言いかけたら気になるじゃないか。もしかして行ってみたいの?」
「え!? そんな訳ないじゃないですか」

 俺にはハードルが高すぎる。そもそもまだ童貞の俺にそんなところ、行けるわけがない。後ろは、もう大分開発されてしまったけれど。

「じゃあ、なんで?」
「なんでもないったら、なんでもないの! いいから中に入りますよ!」

 話している内に私室の前に着き、俺は指示を出した。レオナルド殿下は何か言いたそうな顔をしたが、それ以上は聞いてこなかった。

「はいはい」

 そうして私室のドアを開けて静かに中に入ると薄暗い部屋の中でノーベンさんが椅子に座って本を読んでいた。ベッドの上にはフェニがぷぅぷぅっとはなちょうちんをつけて気持ち良く寝ている。

 ノーベンさんは俺達が戻ってきた事に気が付き、速やかに立ち上がってお辞儀した。

「では、私は失礼します。おやすみなさいませ」
「ああ、ありがとう、ノーベン。おやすみ」
「おやすみなさい、ノーベンさん」

 俺達は小さく挨拶を交わし、子守りをしてくれたノーベンさんは静かに部屋を出て行った。
 最初はレオナルド殿下に抱えられたままの姿をノーベンさんに見られる事が恥ずかしさを感じていたが、もう今では慣れてしまった。……慣れてよかったものなのか。

「セス、下ろすよ」

 レオナルド殿下はそう言うと俺をそっとベッドの上に下ろした。
 少しだけベッドが揺れて、フェニが起きないかな? と心配で視線を向けるが、ぐっすりと眠っている。起こさなくて良かった、と思うが、よくよく見ると小さな口元に髪が入ってもぐもぐしていた。

 ……髪の毛食べてる。

 俺は手を伸ばしてそっとフェニの髪の毛を払った。

「んむぅっ」

 フェニは一瞬唸ったが、その後もすぴすぴっと気持ちよさそうに夢の中だ。
 この顔を見ていると、なんだか胸が温かくなる。

「セス、私達も寝よう」

 レオナルド殿下もベッドに上がり、サイドテーブルのランプに手をかける。
 最近の俺達はフェニを挟んで川の字で寝るのがもっぱらのスタイル。一度、フェニが俺側に寝ていてベッドから転げ落ちたもんだから。

「はい」

 俺は掛け布団を被って答え、レオナルド殿下は部屋の明かりを消した。

「おやすみ、セス」
「おやすみなさい、レオ」

 小さく声をかけあって、俺は目を瞑る。するとフェニは俺の気配を感じたのか、眠りながらもぞもぞっと動いて俺の懐で丸まった。俺はそんなフェニをそっと抱き寄せ、そして温かなフェニの体温にほっと息を吐く。

 ……こうして三人で寝てると、まるで本当に親子みたいだよなぁ。俺も小さい頃、こうして寝ていたし。

 俺は暗闇の中でそんな事を思いながら、うとうとっと眠りに落ちていく。

 ……ずっと、こうして、いたい、な……。

 俺は心の中で小さく呟き、フェニを抱きかかえながら願った。





 でも人の世界はフェニには危険が多かったーーーー。


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