殿下、俺でいいんですか!?

神谷レイン

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殿下、どうしたんですか??

3 お買い物

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 夕暮れ時。俺は久しぶりに城を出て、商店街を歩いていた。

 ……父さん、俺を連れて行きたいのかな。

 俺はトコトコと歩きながら考え、父さんに言われた事を思い出す。

『セス、他国には様々な薬や薬草がある。一緒に旅すればいい勉強になるぞ?』
『えっ、でも俺、結婚したばかりだし』
『どうせ、あの王子が勝手に言ったことだろう? それに俺もセスがいてくれたら助かる』
『いや、でも俺は』

 そう俺は言いかけたが、父さんはウィギー薬長に呼ばれて『この話はまた後でな』と最後まで聞いてくれなかった。

 ……あとで話すも何も俺は。

「セス様、どうされました?」
「何が気になる事でも?」

 両隣から声をかけられて俺はハッと顔を上げた。俺の傍にはマッチョな騎士さん達がいた。レオナルド殿下と結婚した俺は、一応王族の一員になったので護衛が付くようになったのだ。

 俺に護衛なんていらないと思うんだけど、レオナルド殿下は『城の外に行くなら絶対に護衛の騎士を連れて行きなさい。じゃないと外に出るのは許さないよ?』って言うから、昨日ノーベンさんに頼んで護衛を手配してもらったのだ。

 ちなみに今日護衛してくれているのは、レオナルド殿下直属の近衛騎士さんでよく見かける人達だ。

「いえ、大丈夫です。今日は俺の買い物に付き合ってくれてありがとうございます」
「自分達は仕事ですから」
「ええ、お気になさらず」

 俺がお礼を言うとそう爽やかに返されてしまった。
 俺はそれでも申し訳なさを感じつつ、お目当ての小さなお菓子屋さんへ足を運んだ。
 そこには販売用の窓口と店頭にショーケースがあるだけの、本当に小さなお店だ。ショーケースにはお団子が数種類、その他焼き菓子なども置いてある。

 そして今日のお目当ては、この三色団子と甘いタレがかかっているみたらし団子だ。
 他国の食べ物で、お団子がモチモチしていてとてもおいしいんだ。

 俺は勿論、父さんも母さんも大好きだ。なので折角帰ってきた二人に食べさせようと思って、今日はわざわざ町に出てきたという訳だ。

「こんにちは!」

 俺は店先から、販売窓口に声をかける。すると奥から店の奥さんが出てきた。

「あんら! セスじゃない! 久しぶりねぇ~!」
「こんにちは、おばさん。お久しぶりです」
「あ、今はレオナルド王子の伴侶さんだったわね。セス様って呼んだ方がいいのかしら?」

 おばさんは俺の後ろに控える騎士さん達をちらちら見て言った。

「様なんて、いりませんよ。別に俺、結婚しただけで偉くなった訳じゃないんですから。子供の頃から知ってるおばさんに”セス様”なんて呼ばれたら、背筋がぞぞぞってしちゃいます」

 俺が正直に言うとおばさんは笑って答えた。

「おや、そうかい? ならそのままで呼ばせてもらうよ?」
「はい」
「今日はうちにまた団子を買いに来たのかい?」
「はい。父さんと母さんが帰ってきてて」
「そうなのかい! じゃあ、今日も三色とみたらしの三本ずつかい?」
「あ、今日は五本ずつで。それとは別に三色を二本、包まずにそのまま下さい」
「はいよ。ちょっと待ってくんな」

 おばさんはそう言うとショーケースからまず二本、三色団子を出して俺に手渡してくれた。俺はそれを騎士さん達に一本ずつ差し出す。

「セス様?」
「まさか、俺達に?」

 騎士さん達は少し驚いた顔をした。

「これ、とってもおいしいんですよ。今日の護衛のお礼ってわけじゃないですけど、よければ。……あ、もしかして甘いモノ、嫌いでしたか?」

 俺が尋ねれば、二人は少し顔を見合わせた後「いえ。ではご厚意に甘えて」「頂きます」と団子を受け取ってくれた。でも二人共、団子は初めてだったのか興味深々な顔で見つめつつ、覚悟を決めてパクリッと団子一つを勢いよく食べた。

「ん! これは!」
「弾力があって、ほのかに甘くて、おいしい!」

 二人はそのまま二個目の団子にも食らいついた。
 ふふふ、そうでしょう、そうでしょう。ここは隠れたお菓子の名店なのだ。

「はい、セス。できたよ」
「あ、ありがとう、おばさん」

 俺は財布を取り出して、お金を渡す。

「毎度どうも、また買いに来ておくれ」
「うん」

 俺はそう返事をして、団子が入った紙袋を抱えた。その頃には騎士さん達は団子を食べ終わっていた。

「帰りましょうか」

 俺はそう騎士さん達に言った。でもその帰り道、思わぬ事態が俺を待っているなんて、この時の俺は知る由もなかったーー。









 同時刻、レオナルドが執務室で書類仕事をしているとドアがノックされた。
 ノーベンが相手を確認し、すぐにレオナルドに知らせる。

「殿下、ダンウィッカー氏が来られました」
「お通して。あと、お茶の用意を頼む」
「はい」

 ノーベンはそう言うと、ドアを開けてウィルを中に招き入れた。そして入れ違うようにお茶を淹れに出て行く。それを見送り、パタンッとドアが閉まった後、ウィルはレオナルドに視線を向けて「よう」と声をかけた。

「昨日ぶりですね。今日は私に御用が?」
「ぁったりめーだろ。用がなきゃ、ここに来ない」

 ウィルは悪態をついて、そうレオナルドに言った。
 そんなウィルにレオナルドは苦笑する。そして改めてウィルとセスの姿を重ねた。

 声質も外見も、双子だと言っても過言ではないぐらい二人は似ている。それこそウィルが髪を短くして目元のホクロを隠せば、誰もわからないだろう。

 けれど、どれほど似ていてもレオナルドにとって、やはり二人はハッキリ違う。纏う空気が違うのだ。
 それに何より、ウィルの姿を見ても一ミリたりとも胸がときめかない。セスを見つければ、勝手に胸が騒ぎ出すというのに。

 ……外見も好みだが、やはり私はセスが好きなんだな。

 そう改めてレオナルドは思った。

「なんだよ、人の顔をジロジロ見やがって。ああん?」
「いえ、何も」

 チンピラのようにガンをつけるウィルに対してレオナルドは実ににこやかに笑った。だが、そんなレオナルドにウィルは不機嫌に鼻を鳴らした。

「フンッ……。まあいい、今日はお前にハッキリ言っておこうと思ってな。俺はお前とセスの結婚を認めないからなッ!」

 ウィルはまるで宣戦布告するようにレオナルドに言った。しかしレオナルドは慌てたりせず、静かに尋ね返す。

「どうしてですか?」
「どうして? そんなの決まってるだろ。俺がお前の事、気に食わないからだ! ……それにお前は知っているんだろ? どうして俺達が旅をしているのか。セスの……体の為だって事を」

 ウィルの質問にレオナルドは何も答えなかった。
 でもそれは肯定で、レオナルドはセスの体に隠されているある秘密を知っていた。だが、レオナルドは面と向かってその事をセス本人に聞いたことはなかった。
 それはとてもデリケートな問題で、例え夫夫でも本人から言われる前に聞くのは躊躇われる事だった。

「セスがお前の事を本気で好きなら、何も言わない。だが違うなら……。あの事が原因でお前と結婚したのなら、俺はあいつを旅に連れて行く」

 ウィルはレオナルドにそう告げた。その意志は固そうだ。だがレオナルドだって、やっと手に入れたセスをみすみす手放すわけがない。

『残念ですが、セスを旅になんて連れて行かせませんよ』

 そうレオナルドは口を開いて言おうとした。

 けれど、口に出して言う前にコンコンッと何かが窓を叩いた。見れば一羽の鳥が窓辺に立ち、窓をコンコンッと叩いている。そしてその口元には何かを挟んでいた。

「とり……?」

 ウィルは不思議そうに呟いたが、レオナルドはハッとした顔をした後、すぐに窓を開けて、その鳥が咥えている紙を受け取って読んだ。

「おい、なんなんだ?」

 気になってウィルは尋ねたが、レオナルドは答えなかった。
 そして鳥は仕事を終えた、と言わんばかりに飛び立っていった。

「おい、あの鳥はなんな」

 ウィルがもう一度問いかけようとした時、 そこへ慌ただしくノーベンが戻ってきた。

「殿下! ダンウィッカー様!」

 いつも冷静なノーベンの慌てぶりにウィルは驚いた。

「ノーベン? どうしたんだ、そんなに焦って」

 ウィルが尋ねるとノーベンは声をあげた。

「たった今、報せが! セス君が誘拐されたとッ!」
「えッ、何だって?! セスが!? おい、どこでだ!」

 ウィルが声を荒げてノーベンに尋ねる。

「それが盗賊らしき者達に連れ去られたと……」
「盗賊? ……まさか!」

 ウィルは何か思い当たる節があるのか、一人呟いた。そのウィルの肩をレオナルドはガシッと掴んだ。

「何か知っていますね? 教えてください」


 そう言われてウィルがレオナルドを見ると、いつもは涼やかなサファイアの瞳が怒りに燃えていた。





**********
 三色団子もみたらし団子もおいしいですよねぇ。
 どちらも捨てがたいけど、どっちかっていうと神谷は三色団子派です(笑)
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