殿下、俺でいいんですか!?

神谷レイン

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本編

6 知らない方が幸せ

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 翌朝、昼近くになっても顔を見せない三男坊に国王は執務室でやれやれと肩を竦めた。

「レオナルドはまだ寝ているのか?」

 王が尋ねると従者は「はい、そのようです」と頷いた。昨日は初夜だ、どうなっているかは大体想像がつく。

「……セスは大丈夫だろうか」

 思わず王の口から心配の言葉が出る。
 しかしそこへウィギーがやってきた。新薬の報告書を持ってきたのだ。だが、そんなウィギーに王は「今日はセスは休みだぞ、なんなら明日も休むかもしれん」と告げた。

 その言葉にウィギーは苦笑した。

「セスは三日ほど休みにしています」
「すまんな、うちの三男坊のせいで」
「いえ、レオナルド殿下の執着を間近で見ていれば仕方ありません」

 ウィギーの言葉に王はふぅっと息を吐いた。

「……レオナルドに頼まれて法律改正したが、あの腹黒さは誰に似たんだかなぁ。まあセスには悪いが、付き合ってもらうしかないんだが」
「セス本人は鈍感で気が付いていなかったみたいですが……まあ、セスもまんざらじゃないようですから大丈夫でしょう」
「そう願うよ。同性婚を確立して、形式上の結婚だと騙して囲い込むなんてなぁ」

 王はそこまで言って、うーんっと眉間に皺を寄せた。
 実のところ、王は同性婚を施行する気はなかった。しかしレオナルドの強い願い出があり、特に問題もなかったから法律を作ったのだ。
 しかし、それはレオナルドの策略の始まりに過ぎなかった。

 カップルは別れればそれまでだが、婚姻はそうはいかない。契約である以上、相手を縛ることができる。つまり、セスを縛る為だ。
 そして、全然振り向かないセスに形式上の結婚を持ち掛けて、騙した。

 ……きっとレオナルドの事だ。同性婚がすぐには広まらない事を見越していたんだろう。そしてそれがセスへの結婚への言い訳に立つとまで考えた。あれは色々と問題だが、有能だからな。

 王は心の中で思う。そして、レオナルドが有能ゆえに王はセスに結婚するように命じなければいけなかった。

『セスと結婚できないのであれば、私は国を出て行きます。なので父上、手伝ってくれますネ?』

 にっこり笑顔でレオナルドにそう脅されたのだ。

 レオナルドは一部問題はあるが、頭脳明晰で人当たりもいい。おまけにあの美貌だ、庶民にも人気が高い。次期王は第一王子と決まっているが、そんな人物がいなくなれば王家の人気も落ち、有能な人材もなくなってしまう。

 本来なら妻の親友マブダチの息子であり、昔から純粋無垢なセスに嘘を吐くのは憚れたが、治世者として嘘を吐かなければならなかった。

「セスには悪いが、レオナルドを引き留めるいかりになってもらうしかないな」

 王は申し訳なさそうに言ったが、ウィギーもうんうんっと力強く頷いた。

「ええ、その方がいいでしょう。……実はこの前気が付きたくない事実にも気が付いてしまいましたし」

 ウィギーの含んだ言い方に、王は首を傾げた。

「気が付きたくない事実? なんだそれは」
「……陛下は薬科室の者が全員結婚しているのはご存知ですね?」
「ああ、そういえばそうだな? 珍しく全員結婚しているから覚えているぞ」

 王は思い出して呟く。バーセル王国では二十歳から結婚でき、貴族などは財産や領地などの関係から多くの者が婚姻を結ぶ。だが、庶民で結婚する者は少ない。結婚しなくても、保証などを受けられる制度がしっかりしているからだ。

 同性婚が施行されても、結婚する者が多くないのはこの理由もあった。しかし薬科室に勤めている者全員が結婚をしているのである。それは庶民も含めて。

「私もただ、珍しいなと思っていました……。しかし調べてみると、皆、五年前に結婚しているのです」
「五年前? 何かあったか?」

 首を傾げる王にウィギーはぽつりと告げた。

「……セスが見習いで薬科室に入ってきたのも五年前なのですよ」

 その言葉に王の顔も引きつる。

「まさか……セスに近づかせない為?」
「その事に気が付いて、皆にどうして結婚したのか尋ねました。すると結婚すると報奨金がでたり、家が当たるという話があって結婚したそうです。そして私の妻ですが……妻と私が出会ったのは町の喫茶店で、妻はそこの店員でした。何も知らずに私達は恋仲になり結婚しましたが、調べればその店のオーナーがレオナルド殿下でした。怖くなってそこで調べるのは止めましたが、裏で手を引かれていた事は……確かでしょう」

 ウィギーが告げると、王は顔を青ざめた。

「レオナルドからセスを絶対に離せないな、これは」
「まあ、レオナルド殿下のことですから、きっとセスを落とすでしょうけどね」
「……セスに神のご加護があらんことを」

 王は思わずと言った口調で祈った。
















 ーーーーそして当のセスと言えば。

 早朝に一度起きたが、もう一度抱き潰されて、また気を失うように眠っていた。
 そんなセスの髪をレオナルドは愛おしそうに梳いた。

「二十歳になるまで待ってようやく手に入れたんだ。絶対に離さないからね? 私から逃げたら閉じ込めてしまうから。誰がなんと言おうとセスがいいんだ。だから諦めてね。……愛しているよ、セス」

 レオナルドはにっこりと笑って、セスの頬にキスをした。
 だがセスは眠りを邪魔されて、不機嫌そうに眉間に皺を寄せて小さく寝言を呟いた。

「むにゃ……」

 何も知らないセスはまだまだ幸せな夢の中だった。




おわり




****あとがき****

 本日までお付き合い頂き、ありがとうございました。

 とにかく、ぱらっと読めて、いちゃいちゃするお話が書きたかったので、結構王道な話を書いてしまいましたが、読者様に楽しんでいただけたら幸いです。
 ちなみに神谷はとても楽しく書きました(笑)

 次話はおまけで、レオナルド視点からの物語です。

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