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本編
3 お背中流します ※
しおりを挟むしかし、それから話は不思議なくらい、とんとん拍子に進んでいき、俺とレオナルド殿下の婚約が公式に国中に発表されて、俺達は結婚式の段取りを何度も繰り返し覚えた。
……いや、正確には俺が何度も。レオナルド殿下は一度で覚えてた。
そして結婚式当日。
無事に教会で式を終え、街中を馬車で周り、今は夜会の最中だ。
煌びやかな大広間は多くの着飾った客人で埋まり、テーブルには豪華な料理が並べられ、給仕係がドリンクを運んでいる。大広間の隅では音楽家たちの生演奏が披露され、大いに賑わっていた。
そんな中、第三王子であるレオナルド殿下と結婚した俺の元に正装姿のウィギー薬長がやってきた。だが、今日の薬長は俺の上司ではなく侯爵家の人として参加していた。
「セス様、今回はおめでとうございます」
薬長は恭しく俺に挨拶をした。結婚した今、俺の方が身分が上になった為、薬長は俺をセス様と呼び、敬語で話す。
昨日も普通に仕事をして『では薬長、また明日』『ああ、明日は楽しみにしているよ、セス』と話した仲なので少し変な感じだ。でも今は公の場なので仕方がない。
「ありがとうございます。侯爵様、少し外に出て話しませんか?」
俺はバルコニーの方を見て、視線で促した。
「ええ、構わないですよ」
薬長はそう言ってくれた。レオナルド殿下の方にちらりと視線を向けると、陛下と少し話し込んでいるようだ。
まあ、ちょっとぐらい離れても大丈夫だろう。
俺はそう思って、薬長と一緒にバルコニーに出た。
「はぁー、疲れたぁ」
新鮮な空気を吸って吐き出す。夏の、乾いた匂いがして、空には夏の星空が浮かんでいる。そして俺は大勢の人から離れて、ようやくほっとする。
基本、薬科室で黙々と働いているのが性に合っている俺だ。色んな人と会い、挨拶を交わすのは少々気疲れた。
「お疲れだな、セス」
薬長は人の目がないからか、いつもの口調で俺に言った。でも俺もこの方が気楽なので助かる。
薬長もその事がわかっているのだろう。
「ええ、朝から色々とありましたからね」
「聖堂で式を行って、街中を馬車でパレード。その後は少し休憩を挟んで、この夜会。色んな人と顔を合わせて疲れて当然だな」
薬長に労われて、俺は困ったように笑う。
「まあ、仕方がないですよ。結婚した相手が相手ですから」
なんたって、相手はこの国の第三王子なのだ。むしろ、これぐらいで済んだのはまだマシな方かもしれない。第一王子なら、もっと大変だっただろう。
……しかしレオナルド殿下は俺とは違って、やっぱり慣れている様子だったな。疲れた素振りもなかったし。さすが王子様だなぁ~。
なんて能天気に俺が思っていると薬長に声をかけられた。
「しかし、セスがレオナルド殿下との結婚を快諾するとは思っていなかったよ」
それは俺も思っています、まあ今回は仕方ない理由があったんですけど、と言いたいが薬長には言えない。
俺とレオナルド殿下の結婚が形式上だという事は秘密なのだ。
「でもまあ、レオナルド殿下はセスの事を気に入っていたからな」
おかげで形式上の結婚相手にされたが仕方ない、レオナルド殿下の貞操を守る為なのだ。
「以前から健気に薬科室にクッキーやらマフィンやらのお菓子を持って来ていたし」
そうそう、レオナルド殿下のクッキーやマフィンはおいしいから、ついつい食べてしまうんだよな。形式上とはいえ、結婚相手が太っていたら嫌だろう。今はまだ太ってはいないがこれからは気を付けなければ。
「廊下でセスを見かけたら、すぐに駆け寄ってきて。……いや、まああれは待ち伏せをしていたというか」
俺を見かける度に駆け寄ってきて、それは今でも変わらない。優しいからな、レオナルド殿下は。
「いつか、セスを落とすだろうとは思っていたけど、とうとうこの日がくるとは。いや、執念って言うのは怖いな。どれだけ根回ししたのか」
薬長は肩を震わせて言った。だが俺はその言葉を聞いて首を傾げる。
ん? 俺を落とす? ……どういうことだ? それに執念? 根回しって?
そう思った時、どこからともなく声が聞こえた。
「セス、ここにいたのか」
振り返れば、そこにはレオナルド殿下がいた。
「殿下」
俺が声をかけると、レオナルド殿下は俺に近づき、口をむっと尖らせる。
「セス、私の事は殿下じゃなくて名前で呼ぶように言っているだろう?」
「あ、はい……レオ」
俺はレオナルド殿下の愛称を呼ぶと、にっこりと笑った。でもすぐにその視線は薬長に向かう。
「こんばんは、ジェニル侯爵。今日は私達の式に参加してくれてありがとうございます」
レオナルド殿下は俺の腰に手を回し、薬長に言った。ジェニルとは薬長の苗字だ。
「いえ、今日はとても良い式に参加させていただきました」
薬長は侯爵の人間の顔に戻って言った。
「今日は奥方とご子息は来れなかったのですね」
「ええ、下の子はまだ小さく手がかかりますので、今日は残念ながら私だけ」
「そうですか。ジェニル殿の奥方にもご挨拶したかったですが、それならしょうがないですね」
レオナルド殿下は残念そうに言い、薬長は不思議そうに「私の、ですか?」と問いかけた。その問いかけにレオナルド殿下は笑顔で答える。
「ええ、私はセスと夫夫になりましたから。セスの上役である方のご家族にもちゃんとご挨拶しておこうと思いまして。今日は残念ですが奥方によろしくお伝えください、ジェニル侯爵。今後長い付き合いになりますから」
レオナルド殿下は俺の腰をぎゅっと抱いて言った。
……形式上の結婚とわかっているけど、本当に夫夫になったみたいだ。レオナルド殿下は演技がうまいなぁ。
しかし俺が感心していると、薬長は顔を引きつらせて「え、ええ」と答えていた。
……なんで顔を引きつらせて?
俺はどうしたんだろ? と思って声をかけようとしたが、薬長は「あ、私はそろそろお暇しなければ! 妻と子供が待っていますので! では殿下、セス、失礼します!」とそそくさと逃げるようにバルコニーから大広間の方へ去って行った。
……一体どうしたんだろう? 薬長ってば。
そう思ったが、レオナルド殿下が両手で俺の腰をぎゅっと抱き寄せた。気が付けば真正面にレオナルド殿下がいる。
「レオナルド殿下?」
見上げるとレオナルド殿下は俺を見下ろしていた。
「……セス、疲れた。一緒に部屋に戻ってくれないか? 父上にはもう部屋に戻る事を伝えているから」
レオナルド殿下は俺に少し寄りかかり、甘えるように言った。
平気な素振りをしていても、今日は色々あってレオナルド殿下も疲れたんだろう。
なんだ、レオナルド殿下も疲れていたのか。そうだよな、俺よりレオナルド殿下の方が大変だったもんな。
「なら、部屋に戻りましょうか」
夜会はまだまだ続いているが挨拶回りは終わり、時刻はもう十時を過ぎている。俺達がいなくなっても大丈夫だろう。それに、あとは国王陛下が何とかしてくれるだろう。
「ああ」
レオナルド殿下は俺に微笑んで、返事をした。
それから俺達はレオナルド殿下の部屋に戻り、そっとドアを閉めた。
この部屋は大広間からは遠く、喧騒は届かない。だが部屋は暗く、俺は静かな部屋の明かりを灯した。すると、レオナルド殿下のほっとした顔が見えた。
「お疲れさまでした、殿下」
「セスも今日はお疲れだったね。疲れていないかい?」
レオナルド殿下は微笑んで俺に言った。
俺よりも疲れているだろうに気を遣ってくれるなんて、優しい人だ。
「疲れてますけど、まだ大丈夫です。殿下は今日はもう寝ますか?」
寝るなら従者を呼ばなければ。
そう思ったけれど、レオナルド殿下はふるふると頭を横に振った。そして俺をじっと見る。
「セス、殿下じゃないだろう?」
「……レオ」
俺が愛称を呼ぶと、レオナルド殿下は嬉しそうに笑い、そして答えた。
「汗を掻いたから風呂に入りたいな」
確かに今日は色々と動いて、汗も掻いた。日中のパレードも日差しの中で行ったし、今日は少し暑かった。
……うむ、とりあえず従者だな。
「では、従者を呼んで参りますね」
俺はそう言って部屋を出ようとしたが、レオナルド殿下はぎゅっと俺の腰を掴んで離さない。
「?」
見上げればレオナルド殿下は俺を見下ろしていた。
「もう風呂の用意はさせてある。だからセス、悪いんだがこのまま風呂場に連れて行ってくれないか?」
レオナルド殿下は甘えるように俺に言った。風呂場は、ここから二部屋先と近くにある。
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薬や治癒魔法で疲れを取ってあげたいところだが、あまり使いすぎると体に元々備わっている自然治癒能力を退化させてしまう。
つまり俺にできる事は一つだけ。
「いいですよ。俺で良ければ」
俺はレオナルド殿下の分厚い大きな手を握って、レオナルド殿下を風呂場に連れて行くことにした。
「セス、ありがとう」
「いいんですよ」
俺はレオナルド殿下の手を引いて、風呂場に移動した。
一瞬、レオナルド殿下がにやりと笑ったことにも気が付かないで。
風呂場はすでにタオルなどが用意され、浴室からはいい香りがした。どうやら湯に疲れが取れるようにハーブが入れられているようだ。
だが、ここからはさすがに従者の手が必要だろう。俺は一人で入れるが、貴族がお風呂に入る時、従者に手伝ってもらうと聞く。
「では、従者を呼んできますね」
そう言って手を離そうとしたけれど、レオナルド殿下にぎゅっと手を握られた。
「レオナルド殿下?」
「セス、一緒に入らないか?」
「……へ?」
思わぬ言葉に俺は数秒遅れで驚く。
「ダメか? 彼らは夜会でまだ忙しいだろうし、……その、セスも汗を掻いてるんじゃないか?」
レオナルド殿下に言われて、俺は言い返せない。今日は俺も汗を掻いてて、本当なら俺も服を脱いで入りたかった。しかしそれはレオナルド殿下の後で、と思っていた。
だがその気持ちを汲み取ってくれたのだろう。けれど……さすがに一緒に入るのは悪いのでは。
「何よりこのまま一人で入ったら、風呂の中で寝てしまいそうで」
それは危ない!
「わかりました。では、一緒に入りましょうか」
俺が答えると、レオナルド殿下は「ああ」と嬉しそうに答えた。
それからレオナルド殿下の服を先に脱がして浴室に送り、俺も服を脱いで裸になる。
……男同士だけど、一応腰にタオルを巻いておくか。なんか恥ずかしいし。
俺は腰にタオルを巻いて、いそいそと浴室の中に入った。湯気が立ち込める温かな浴室の中には、椅子に座って逞しい背中を惜しげもなく晒すレオナルド殿下がいた。
肉体美って言葉はこの人の為に在るんじゃなかろうか……。そして俺の体の貧相さ……うん、比べるのは止めよう。
そう一人で思っていた俺に、レオナルド殿下は振り返って言った。
「セス、体を洗ってくれないか?」
「え!? 体を?」
俺が!? うーん、俺が洗っていいのかな? けどレオナルド殿下は自分では洗えないほど疲れているのかも。普段は従者に手伝ってもらってるだろうし……。
「ダメかな?」
窺うように尋ねられて、俺は断れなかった。
「わかりました」
「セスも疲れているのに悪いね」
「いえ」
俺はそう答えて、桶を手にした。そしてたっぷりのお湯が張られている湯船の温度を確認してから、
桶でひとすくい。
「殿下、髪から洗いますね。目を瞑ってください」
「ああ」
レオナルド殿下は素直に目を瞑った。俺はそんな彼の頭からお湯をかける。
そして髪用のいい香りがする液体石鹸でレオナルド殿下の髪を洗っていく。他人の髪なんて洗った事がないので、こんなもんか? と戸惑いつつ、丁寧に洗った。
そしてお湯で泡を洗い流し、次は体を洗う。
明るい浴室で見れば見るほど裸のレオナルド殿下はどこも逞しい。
筋肉で盛り上がった張りのある胸板、逞しい腕と足。割れている腹筋、骨ばっている大きな手。そして、金色の下生えから覗くあそこも俺のモノとは全然違った。
……ひぇ~、レオナルド殿下ってあそこも立派なんだな。平常時でこれって、勃ったらどうなるんだろう。
そう思いながらも、レオナルド殿下のあそこはあんまり見ないようにして(もうしっかりと見てしまったが)俺はレオナルド殿下の疲れを取るようにごしごしと一生懸命、体を洗った。
「ああ、気持ちいいよ。セス」
突然色っぽい声で言われ、俺の胸がぴょんっと変な動きをする。こんな真っ裸の時に言わないで欲しい。
「そう、ですか」
俺は温かいお湯を全身にかけ、レオナルド殿下はすっかり綺麗になった。
「レオナルド殿下、終わりましたよ。お風呂に入って温まってください」
俺は一仕事終えてそう言ったが、くるりとレオナルド殿下がこちらを振り向いた。
「いや、今度は私がセスを洗おう」
思いもよらない言葉に俺は「へぇ!?」と変な声が出た。
「いえいえ、殿下に洗ってもらうなんて!」
俺が言うとレオナルド殿下は俺の口を閉じさせるように、人差し指をむにっと押し付けた。
「むっ?!」
「セス、私にもさせて。ね?」
下ろした前髪から覗くサファイアの瞳に見つめられ、上気した色っぽい顔で言われたら俺は黙るしかない。胸がまたぴょんぴょんっと変な動きをする。
ぐぅ、イケメンの破壊力、すごい……。
「いいね?」
レオナルド殿下に言われて、俺は言葉も出ずにこくりと頷いた。
でも俺はこの時、断らなきゃいけなかったんだ。
それから俺は椅子に座らされ、レオナルド殿下に髪を洗われて、そして体も洗われているのだが……。
「んっ……ふっ」
レオナルド殿下の手が俺の太ももの際どい所を洗ってくる。腰にタオルを巻いているのに!
「んっ、も、自分で洗いますから!」
俺がそう言っても、レオナルド殿下は許してくれなかった。
「いいから、じっとして」
背中にピタリと硬い胸板を押し付けられて、耳元で囁かれた。
ひぇーーーっ、イケメン怖い。
俺の性的嗜好は女性なのに、こんな風にされたらドキドキしない方が難しい。
「ふふっ、ドキドキしてるね?」
「そ、それは!」
「ここも洗っていい?」
レオナルド殿下はいつのまにかタオルを少し押し上げている俺の性器の先っぽを人指し指でくいっと撫でた。
「あっ!」
誰にも触られた事がない場所を触られて、俺はびくっと腰を動かしてしまう。俺は慌てて俺より大きな骨ばっている手を両手で止める。
「だ、だめ!」
そう言うのに、レオナルド殿下は弄る手を止めてくれない。人指し指だけでくいくいっとタオルに隠れている俺の亀頭を撫でた。
「んぅ! で、殿下ぁ」
「疲れてるところを身体を洗われて気持ち良くなってしまったのだろう。セスの年頃なら意図しなくても勃ってしまうのはよくある事だよ。だから恥ずかしがらなくていい」
そんなこと言われても恥ずかしいよぉぉっ。
俺はそう思ったけれど、レオナルド殿下には通じなかった。
「出してしまおうね?」
レオナルド殿下はそう言うと、タオル越しに俺の性器をぎゅっと握った。そして背後から俺の体をしっかりと支えて、ごしごしと俺の性器を強く扱いた。
疲れていた身体に、こんな気持ちいい事をされたら耐えられない。
「ああっ! で、殿下! だ、だめっ! んんっ」
俺は声をあげて、身を震わせた。けれど、レオナルド殿下の手は容赦ない。
「セス、私にされるのは嫌? セスが本当に嫌だったら、止めるよ?」
甘い声で耳元で囁かれる。
殿下が嫌なんじゃなくて、殿下にして貰うのが申し訳ないんですぅー!
そう言いたいのに、声がでない。出てくるのは嬌声ばかり。
ぐじゅぐじゅに扱かれるのが気持ちいい。頭がぼうっとしてくる。
「あっ、んん! あっあっ!」
「腰が動いてる。気持ちよさそうだね? いっぱい出そうね、セス」
レオナルド殿下はそう言うと、俺の乳首まで弄ってきた。むぎゅうっと人指し指と親指でつままれたら堪らない。背が弓なりになって、足が突っ張ると同時に性器をレオナルド殿下の手に押し付けるみたいに自然と腰が突き出た。
「あ、ああ、だめぇぇーーーッ!」
俺はどぴゅっとタオルに精液を吐き出した。どろっとした感触が気持ち悪い。けどタオルをはぎ取る元気もなくて。
「はーはーっ」
俺は息も絶え絶えで、レオナルド殿下の胸に体を寄りかからせた。
「セス、可愛いね」
壮絶な色気を垂れ流しにして、レオナルド殿下が俺に言った。
俺は可愛くないと思う……けど。
そう思ったけれど、俺の意識はそこで途切れた。
ふにっと柔らかなものが唇に当たったけれど、俺にはそれが何かわからなかった。
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