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閑話

コーディーの休日 前編

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 ――――夏の終わりも近い頃。
 ドレイクが僕の家に住むようになったある日の休日、まだ日が昇って間もない早朝。ギシッとベッドが揺れて僕は眠たい目を開けた。

「んー?」
「悪い、起こしたか?」
「ど、れいく?」
「静かにするからお前は寝てろ」

 ドレイクはそう言うと僕の頭を大きな手で撫でた。その感触が気持ちよくって僕はまたうとうとと目を閉じる。
 けど僕が目を閉じるとその手は離れて、ドレイクは部屋をウロウロし始める。その物音を聞きながら僕はぼんやりと思い出す。

 ……そういえばドレイク、昨日の夜に今日は休日出勤だって言ってたなぁ。休日に出勤って大変だなぁ。

 僕はそう思いつつも眠くて起きられない。でも部屋は広くないので、ドレイクが身支度をしている音が聞こえる。

 ……うーん。仕事に行くんだから、一応『いってらっしゃい』って見送った方がいいかなぁ。うーん、それにしてもねむい。

 ベッドの上で横になって目を瞑っていても頭の中は悶々として。でも変な時間に起きてしまったからか眠れなくて。けれど、そうこうしている内にドレイクは行く時間になったようで小さな声で僕に囁いた。

「コーディー、寝てるか? ……行ってくる」

 その声を聞いて僕は横になったまま、ぼんやりと目を開けて小さく返した。

「ん。いって、らっさぃ」

 ベッドの上で見送ることになったが、ドレイクは「ああ」と言うと僕の頭をぽんぽんっと撫でて、それから出て行った。まるで子ども扱いだ。

 ……僕、大人なんだけどな。

 そう思いつつも、なんだかドレイクが出て行ったら本当に静かになって僕はうとっとして今度はしっかりと眠りについた。そして、しっかりと目が覚めたのはそれから数時間後だった。




 ◇◇




「ふぁぁ~~~~っ!」

 僕はぐーっと背伸びをして大きなあくびをした。
 それからぽやぽやする頭をぽりぽりっと掻いて部屋を見渡す。

 ……あれ? どれいく、いない。……あ、そっか。ドレイクは朝出て行ったんだっけ?

 大きな巨体が隣にいないことに気が付いて、早朝に出て行った事を思い出した。

「今日は夕方まで帰ってこないってことだったから、それまで一人か……。久しぶりのひとり、むっふっふ!」

 段々とハッキリと目が覚めてきた僕は久しぶりの一人の自由に笑みを零す。

 ……ドレイクが来てから一人の時間ってあんまりなかったから今日は色々しよーっと。とりあえずはさっさと家事をやって、買い出しに外に出よっと。お昼はどこかでランチにしよっかなー。

 今日の予定を頭の中で考える。もうそれだけで楽しい。しかも窓の外を見れば、今日もお天気がいいようだ。洗濯物を干せば、あっという間に乾くだろう。

 ……今日はシーツも洗っちゃおう! そうなればさっさと顔を洗って、ご飯食べて掃除しよう!

 僕はベッドから下りて、早速洗面所へと向かった。
 それから顔を洗った後、服を着替えて適当に朝ご飯を食べて、掃除をして、気が付けばあっという間に昼過ぎ。

 ……あれ? いつもは早く終わるのに、こんなに時間かかってたっけ?

 僕はいつも以上に時間がかかった事に首を捻る。最近はドレイクが家事を手伝ってくれるので昼前には必ず終わっていたのだ。

 ……そう言えばドレイクが来る前までは結構バタバタとしてたかも。ドレイクって掃除の手際がいいから、いつの間にか任せるの普通になっちゃって。

 今ではドレイクが風呂やトイレなどの掃除、僕は洗濯と朝食作りの分担作業で休日は過ごしてる。

 ……何もしない人だったら『すぐに出てけ!』って言えるけど、ドレイクはちゃんとしてくれるから余計に言えないんだよな。食費と家賃分だってお金をくれるし。それに一緒に住むのが本気で嫌なわけじゃないからなぁ。

 なんて僕は考えるけれど、時計を見れば針は進むばかり。

 ……いけない! 早く行かないとランチタイムが終わっちゃう!

 ぽけっとしていた僕は慌てて出かける準備をする。まあ準備を言っても、いつものユニコーンのぬいぐるみがついた鞄を肩にかけるだけなんだけどね。
 そして鞄を持った僕は飛び出すように家を出た。

 少し早歩きで市場までの道を何十分か歩いて、ようやく市場までやってくると昼過ぎだと言うのにまだまだ人で賑わっていて、そこには数台の屋台が出ている。

 ……今日はゆっくりする時間がないから、買い食いしちゃおっ。

 僕はそう決めて屋台を見てみる。
 薄切り肉を何枚も挟んだサンドイッチのお店に具がたっぷり入ったスープ屋さん。甘い香りが漂うクレープ屋さんに焼きたてのピザ屋さん。揚げ物屋さんなんかもあって、どれもこれも目移りしちゃう。でも、僕はじーっと色々と眺めて結局最初に見たサンドイッチのお店で買うことに決めた。

「こんにちは。このオススメをひとつ下さい」
「はいよっ」

 僕が店先で頼むと愛想のいいおじさんが返事をしてくれて、すぐにサンドイッチを提供してくれた。僕はお金を払ってホクホクした気持ちで近くのベンチに座る。もうお昼過ぎだから、朝食はすっかり消化されてお腹ペコペコだ。
 紙包みをカサカサっと捲って中身を出せば、美味しそうなサンドイッチがお目見えだ。なのでお腹の虫が騒ぎ出し、僕はすぐにお祈りを捧げると早速食らいついた。
 パクッ!

 ……んー、おいしっ! お肉に味が染みてて、一緒に挟んであるレタスもシャキシャキだぁ! お肉、一杯入ってるから噛み応えあるなぁ。これ、ドレイクが好きそうかも。ドレイクなら二、三個ぺろっと食べちゃいそうだなぁ。

 僕はモグモグしながら思うけど、途中でん? と思い返す。

 ……ドレイクがいないのに、なんでドレイクの事ばっかり考えてるんだろ、僕。

 何となく癪な気持ちになる。でもサンドイッチはおいしいので、もぐっともう一口頬張る。そうすれば、やっぱりおいしいしドレイクが好きそうだ。

 ……うーん、仕方がない。ドレイクに今度教えてあげよう。あとクレープもおいしそうだったから姉さん達に明日、教えてあげよっ。

 僕はいい天気の下でもぐもぐと食べ続けた。
 それからサンドイッチを食べ終わった後は市場で買い出しだ。でも買い物をしている最中も『ドレイクが好きそうだな』とか『ドレイクがこの前気にしてたやつだ』とか思ってしまった。

 ……もう折角の休みなのに、なんでドレイクの事ばっかり考えちゃうんだろっ。もう考えない!

 むんっと意気込んで僕は買い出しの帰り道を歩く。そして買い物袋はどっしりと重たい。

 ……しかし買いすぎちゃったな。ドレイクがいたら持ってくれるのに。……あ、またドレイクの事。

 今しがた考えないと思ったばかりなのに、またドレイクの事を思ってしまって僕は一人むっすりとする。

 ……なんだか、上手く言葉に表せないけど……ドレイクの毒にでもかかった気分だ。

 それはまるでドレイクの事を意識しないではいられない、遅効性のある毒。そしてそれは時々、胸をドキドキさせたりもする。特にドレイクの姿を思い出した時には。

 ……僕、本当にドレイクに毒を盛られたわけじゃないよね? うーん。でもドレイクなら案外やりそうな気もしなくもないな。

 僕はかなり失礼な事を考えつつ、重たい荷物に手が痺れてきたので、来た時と同様に少し早足で家へと向かった。




**************

明日の後編へつづく!
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