俺様騎士は魔法使いがお好き!

神谷レイン

文字の大きさ
上 下
94 / 100
続編

72 僕達の関係

しおりを挟む
 ――――それからあっという間に夕方になり。
 ドレイクは約束した通り、僕を迎えに来た。

「……迎えに来なくていいのに」

 僕はむすくれた顔で魔塔の出入り口で待っていたドレイクに呟いた。

「なにむくれてんだ?」
「別にむくれてないしっ。もぉ、帰るよっ」

 僕はむすっとしまま答え、先を歩く。するとドレイクは隣を歩いてきた。
 でも最初のような違和感はもうない。むしろドレイクが隣を歩くのも慣れてきた。

 ……最初は噂になるから隣を歩くのも嫌だったのに。

 そんな事を思っているとドレイクが不意に名前を呼んだ。

「コーディー」
「なに?」
「手でも繋ぐか?」

 ドレイクに聞かれて僕は当然断る。朝の事をまだからかわれてると思って。

「い、や、です!」
「そうか? まあ、今は嫌でも先はわからないからな。お前から握るようになるまで待つか」
「待たなくていいよっ。握んないし!」
「どうかな?」

 ドレイクは余裕の顔をして僕に言った。まるで僕が自ら握るようになるのを予知しているみたいに。

「ぜぇったい、握んない」
「お前の絶対は信じられないからな。まあ、今はそういう事にしといてやる。それより今日はローレンツのところに行くぞ。ローレンツに最近お前の顔を見てないから連れて来いって言われてるんだ」

 ドレイクはそう言い、僕は確かに最近フォレッタ亭に顔を出してないことを思い出した。

 ……いや、そもそもフォレッタ亭に行ったのって……ドレイクが僕に公衆の面前でキスした以来ぃー!?

 僕は思い出して恥ずかしくなる。

「何、顔を抱えてんだ?」

 僕が恥ずかしさから頬に手を当ててるとドレイクは不思議な顔を見せた。なので僕は小さな声でドレイクを罵る。

「どれいくのばか」
「は? 急になんなんだ?」
「自分の心に聞いてみればっ」

 僕はそう答えて、のっしのっしと怒りながら歩く。だが、ドレイクは僕の怒っている理由がわからないのか「変な奴」と呟いた。

 ……変な奴~!? ドレイクのせいでしょ! あー、もうどんな顔して会いに行けばいいんだろう。でもフォレッタ亭のご飯は美味しいから、今後も食べに行かずにはいられないもんなぁ。うぅーっ、やっぱりドレイクのせいだ!!

「どれいくのばか」

 僕はもう一度ドレイクを罵り、ドレイクは「一体何なんだ?」と頭を抱えた。
 でも僕は怒った理由を教えたりはしなかった。
 けれど、そうこうしている内にフォレッタ亭へと着き、僕は久しぶりにローレンツさんと会った。



 ◇◇


 ――――開店前のフォレッタ亭にて。

「いらっしゃ、おおおっ!」
「うるさいぞ、ローレンツ」

 驚くローレンツさんにドレイクはうざったそうな顔で言った。

「おまっ、大声も出るってもんだろ! 久しぶりだね、コーディー君。元気にしてた?」
「あ、はい」
「こいつがウチの店で不埒な真似をしたから、もう二度と来てくれないかと心配してたんだよ。あの後は大丈夫だった? こいつが送り狼になったんじゃないかと心配してたんだ」

 ローレンツさんは僕に心配そうに尋ねた。
 確かにあの日の後は大丈夫だった。でも最近の方が全然大丈夫じゃない。だから僕は「あ、え、っと」と馬鹿正直に言葉に詰まってしまう。
 そんな僕を見て、ローレンツさんはドレイクに声をかけた。

「おい、ドレイク。お前、無理やりコーディー君に何かしたわけじゃないだろうな?」
「人聞きの悪い事を言うな。そんな事するわけないだろ」

 ……してるでしょーがっ! ムーッ!!

 と言いたいが、さすがにそれは言えず。ローレンツさんはドレイクに疑いの目を向ける。

「どうだか。この前、俺に香油を譲ってくれって言ったの。まさか……」

 問いかけるローレンツにドレイクは明後日の方向を見て無視する。そんなドレイクにローレンツは呆れた視線を向け、そして僕には心配そうな顔を見せた。

「コーディー君、ドレイクに嫌な事されたら俺に言うんだよ? 俺が叱っとくから。ドレイクはどうも子供の頃から少し強引なところがあるからね」
「あー、えっと。……はい?」

 僕は何と言っていいか困って曖昧に答えた。

「別に強引な事なんかしてない。もしそんな事をしてたら、魔女様達が黙ってない。それはお前もわかるだろ」
「まあ、それもそうか」

 ドレイクが言うと、ローレンツさんは簡単に納得した。

 ……いや、強引な事、結構されてますけどっ!?

 そう言いたいけど、面倒なので僕は黙って「ふぅ」と小さく息を吐く。しかし不意にお店の中を見渡せば、ローレンツさんしかいなくて僕は何気なく尋ねた。

「ローレンツさん、ターニャさんは?」
「ターニャ? ああ、今日は実家に帰っててな。もうすぐ戻ってくるはずだよ」

 そんな話をしていたら、ちょうどよくターニャさんがお店に入ってきた。まさに噂をすれば影、だ。

「ただいまー。途中で買い物してたら遅くなっちゃった。……あ、ドレイクさんにコーディー君、いらっしゃい」

 ターニャさんは僕とドレイクを見て笑顔で迎えてくれた。でも僕はターニャさんの姿を見て、ちょっと驚く。だってそこにいたのは、男の服を着た爽やかなお兄さんだったから。でも声はどこからどう聞いてもターニャさんだ。

「え、ターニャ、さん?」

 僕は驚いて思わず目をぱちりと瞬かせる。

「あー、コーディー君はターニャのこの姿を見るのは初めてか」

 ローレンツさんは呟き、ターニャさんは「そういえばそうかも」と言った。
 そしてドレイクが僕に教えてくれた。

「なんだ、お前知らなかったのか? ターニャは男だぞ」

 さらっと告げるドレイクに僕は驚く。

「えええっ!? ターニャさんが男の子!」

 僕は言いながらターニャさんをもう一度見る。そこにいるのはやっぱりお兄さんだ。

「うん。私ね、可愛い格好をするのが昔から好きなの。でも、騙すような格好しててごめんね」

 ターニャさんは申し訳なさそうに謝った。だから僕は慌てて否定する。

「あ、違うんです! 騙されたなんて思ってなくて、ただ驚いただけです! ターニャさんはいつも可愛いから、こんな爽やかなお兄さんになるなんて思ってなくて」

 僕が正直に答えるとターニャさんは嬉しそうにふふっと笑った。

「ありがとう、コーディー君」
「コーディー君、ターニャが可愛いのはわかるが、恋しちゃだめだぞ。俺の嫁だからね!」

 ローレンツさんはターニャさんの肩をぐっと引き寄せて真面目に言った。でも、そんなローレンツさんにターニャさんは呆れた顔を見せる。

「もう何言ってるの。コーディー君が私に恋するわけないでしょ。それにそんな事、ドレイクさんが許すわけないわよ」
「まあ、それもそうか。……ところで、二人の関係はどうなってんだ?」

 ローレンツさんは何気なく僕達に尋ねてきた。

 ……僕達の、関係。

 聞かれて僕はフムッと考える。でも考える僕にドレイクが聞いてきた。

「コーディー。そろそろ俺の事が好きになったんじゃないか?」

 余裕そうな顔で聞かれ、僕はイラっとする。

 ……確かにドレイクの事は嫌いじゃない、他の人よりは好きだと思う。そもそも好きじゃなかったら一緒に住んでないし。まあ、強引に住み着いたっていう方が正解かもしれないけど? でも本当に嫌だったら追い出してるし。……ただ、これが恋かと言われたらよくわかんないし、ドレイクのこの余裕そうな顔……なんかムカつくぅー。

 と言う訳で、僕はぷいっとそっぽ向いて答えた。

「別に好きじゃない。ドレイク、意地悪だし、人の話聞かないし、僕をすぐにからかってくるしっ」
「なっ」
「それに人前で勝手にチューしてくる人なんて知らない」
「お前だって人の頬に勝手にキスしただろ。始まりはお前だぞっ」
「そんなの僕、覚えてないもん」
「あの日以降だって」
「ドレイクが勝手にしただけで、僕知らないもんね」

 僕はそっぽ向いたまま答えた。すると「ほぉ?」と少し苛立った声を聞こえてくる。でも知るもんか。

 ……僕の事、好きならもうちょっと優しくしてくれたっていいはずだもん。ドレイクってばいつも意地悪ばっかりなんだから。まぁ、心根が優しいのはわかってるけど。

 なんて悠長に思っていたら、ドレイクにぎゅっと手を握られた。

「へ? ちょ、離してよ」

 僕はそう言うけどドレイクは僕を見てない。

「ローレンツ、急用ができたから俺達は帰る」
「え!? 僕は食べる気で来たんだけど!?」

 僕はドレイクの手を離そうとするけど、大きな手はがっちりと僕の手を掴んで離さない。なんて馬鹿力なんだ。

「ドレイク!」
「さ、帰るぞ、コーディー。どうやらお前は色々と忘れているようだから、しっかりと体で思い出させてやる」

 ドレイクは怖いぐらいにっこりと笑って言った。
 その笑みに僕は恐怖を感じ、やってしまった、と今更ながらに気が付いた。

「い、いい! 結構です! 大丈夫です! 本当は覚えてますッ!!」

 そう言うけれどドレイクは手を離してくれず、僕を連行した。

「邪魔したな」
「あ、ちょっとぉーっ!」

 僕は引っ張られながら叫ぶけれどドレイクはずんずんと歩いて店を出る。そして僕達を見送ったローレンツ、ターニャ夫夫と言えば。

「コーディー君、大丈夫かしら」
「ま、まあ一緒に来たぐらいなんだから大丈夫だろう。それにドレイクだってコーディー君が本気で嫌がることはしない筈だ……たぶん」
「……たぶん」

 二人はそんな会話をし、家に連れ去られるように帰った僕と言えば――――。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

処理中です...