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続編

71 コーディーの周りの人

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 ――――魔塔の外から声が聞こえ、姉さん達やルーシー、ゴドフリーさんも含めたみんなで外に出ればそこにはヒューゲルさんとドレイクよりも体格のいい男性が立っていた。
 黄色味がかったバターブロンドの髪に、切れ長の琥珀色の瞳を持つ四十代の人物。優し気な雰囲気を持っているからか、体が大きくても怖さがない。
 そして僕はこの人を知っていた。

「コンスタンテ様!」
「やぁ、コーディー。久しぶりだね、元気そうだ」

 コンスタンテ様はニコッと笑って僕に言い、そんなコンスタンテ様にセージ様は声をかけた。

「コタ、随分と早かったな。陛下との謁見はもう終わったのか?」
「うん、頼まれていた物を納品しただけだからね」

 コンスタンテ様は穏やかにセージ様の問いかけに返事をした。そんな二人を僕が眺めていると、ドレイクが僕の服の袖を引っ張った。
 なんだろう? と思って見れば、ドレイクは僕に耳打ちをした。

「コーディー、もしかしてだが……この方はコンスタンテ・ティーグレ様か!?」

 ドレイクはそう僕に聞いた。なので僕は頷いた。

「うん、そうだよ」
「この人が!」

 ドレイクは言いながらセージ様と仲良くしているコンスタンテ様を見つめる。
 でも騎士であるドレイクがコンスタンテ様に羨望の眼差し向けるのは仕方のないことかもしれない。
 なにせ、コンスタンテ様は二十年ほど前に当時の騎士団と共に暗闇の森に棲み、周辺の村人たちを悩ませていたレッドドラゴンを倒した人なのだから。

 しかもコンスタンテ様はその功績を認められ、副団長の座を勧められたらしいけど、その座を適性のある友人に渡し。第二王女様との結婚も勧められたけど、好きな人がいるからと断り、その高潔さはまさに騎士の鏡と言われ、小さな子供から大人までコンスタンテ様に今も憧れる人は少なくない。
 特に同じ騎士であるドレイクもきっとそうなのだろう。

 ……まあ、コンスタンテ様はドラゴンを倒した後は騎士を辞めて家具職人になったんだけど、まだまだ根強い人気があるからなぁ。でも、コンスタンテ様は本当に優しくていい人だから人気があるのもわかる。僕だってコンスタンテ様の事、大好きだもん。

 そんな事を思っていたらコンスタンテ様がドレイクに声をかけた。

「もしかして君がドレイク君かな?」
「はい!」

 コンスタンテ様に声をかけれ、ドレイクはピシッと立って返事をした。

「ヒューゲルから話は聞いてるよ、とっても優秀な部下がいるって」
「団長から?」

 ドレイクはコンスタンテ様の隣にいるヒューゲル団長に目を向けた。

「ヒューゲルとは元同期でね。ここに来るまでに君の話を聞いたんだよ。この前の魔獣討伐でも、一番に活躍したとか」
「いえ、そんな……自分はまだまだで」
「謙遜だね。でも、そんなに強い君がコーディーの傍にいてくれたら安心だ。ダブリン様達から聞いたけど、君はコーディーと仲が良いとか?」

 コンスタンテ様が聞くとドレイクは僕をちらっと見て答えた。

「はい。コーディーとこれからも共に居たいぐらいには」

 ……ちょ、何言っちゃってるの!?

 まるでプロポーズみたいな台詞に僕は驚く。でもコンスタンテ様はドレイクの言葉を聞いて朗らかに笑った。

「そうなのか。コーディーを頼むよ。……しかし、あんなに小さかったコーディーもそういう年頃かぁ。早いものだね、セージ」
「ああ、そうだな」

 コンスタンテ様はセージ様に声をかけ、二人はしみじみと言った様子で僕を見ながら言った。なので、僕はなんだか恥ずかしい。

 ……なんで僕が恥ずかしい気持ちにならないといけないんだろ。むぅ、ドレイクのせいだ。

 僕はじろっとドレイクを睨む。でもそんなドレイクはこそっと僕に尋ねた。

「コーディー、お前はこのお二人と一体どんな仲なんだ?」
「どんな仲って、別に普通だけど?」
「それにしては親しいだろ。お前を子供の頃から知ってるようだし」
「ああ、それはセージ様が僕のお師匠様だから」
「師匠?!」
「うん、魔力制御を教えてくれたのはセージ様なんだ。それに子供の頃、セージ様とコンスタンテ様は一時王都に住んでいたからよく会っていたし、遊んでもらったんだ。あ、僕の今住んでいるアパートの一室も元はセージ様達が住んでいた部屋なんだよ」

 僕が答えるとドレイクは僕をじっと見た。

「……お前ってとんでもない奴だな」

 ドレイクは僕をまじまじと見て言った。でも僕は何のことかわからない。

 ……とんでもないって、何がだろう?

 僕はドレイクの言葉の意味がわからず、首を傾げるばかりだった。
 でも僕にとっては当たり前すぎてわからなかったんだ。

 国王陛下にも口添えできる魔塔の魔女達のみならず、各国にも顔が利く漆黒の賢者様と呼ばれるセージ様や騎士の鏡と言われ民に根強い人気のあるコンスタンテ様から可愛がられている事がどれほどすごい事か。

「僕は普通だけど?」

 僕が何気なく言えばドレイクは「はぁ」と呆れた大きなため息を吐いた。

 ……なんでため息!?  なんだかちょっとバカにされた気がする。

 僕はドレイクのため息の理由がわからなくて、むっとする。でもそんな中、黙っていたヒューゲル団長がセージ様とコンスタンテ様に声をかけた。

「セージ様、コンスタンテ、そろそろ」

 声をかけられ、セージ様はポケットに入れていた懐中時計を見て答えた。

「ああ、そうだな。では我々は行こうか」
「セージ様、どこに行くんですか?」
「クロエ王女のところにな。茶の約束があるんだ」

 問いかける僕に、セージ様はそう答えた。そして僕は子供の頃に二人が何度かこの国の第二王女クロエ王女に呼ばれ、懇意にしていた事を思い出す。

 ……そう言えば、コンスタンテ様はクロエ王女と友達ってセージ様が言っていたな。でも、クロエ王女って確かヒューゲルさんの。

「そろそろ行かないと、妻の方がこちらに来てしまいますので」

 ヒューゲルさんは少し困った顔で答えた。実はヒューゲルさんの奥さんはクロエ王女様なのだ。
 その昔、クロエ王女がヒューゲルさんに猛アタックして結婚したという話は庶民の中では有名な話だ。ちなみにその結婚にもこのセージ様達も一役買ったとか。
 なので、王都にある劇場ではクロエ王女の結婚物語は定期公演されてたりする。僕はまだ見た事ないけど。

「ああ。では、また後でな。コタ、行こう」

 セージ様が言うとコンスタンテ様は頷き、セージ様の手を取って二人は先を歩くヒューゲルさんの後をついて行った。その後姿を見ながらドレイクが僕に尋ねた。

「コーディー、もしかしてセージ様とコンスタンテ様は」
「ん? ああ二人は夫夫なんだよ。あんまり知られてないけどね」

 僕が答えるとドレイクは「そうなのか」と言いながら、セージ様とコンスタンテ様をじっと見つめた。
 すると、ルーシーがとんでもないことを口にした。

「ふふっ、数年後の二人もあんな風に歩いてるかもしれないわねぇ」
「る、ルーシー?!」
「あらあら、そうねぇ。でも意外とそうなるのは早いんじゃないかしら?」
「ダブリン姉さん?!」
「はーい、私もそう思いま~す!」
「ちょ、ゴールウェイ姉さん!?」
「コーディーがドレイクと……まだ早い!」
「エニス姉さん、早いも何もっ!」
「コーディーが、いいなら、さびしいけど、許す」
「キラーニ姉さんまで何をっ」
「そうだな、コーディーも大人になったんだしな」
「ドローエダ姉さん、みんなを止めてよぉっ!」
「うーん、私はそれよりドレイクとコーディー君の魔力波長について調べたいですネッ!」
「ゴドフリーさんはどさくさに紛れて、何言ってんですか!!」

 僕は全員に色々言われて、「はぁ」と疲れたため息を吐く。
 でもそんな僕にドレイクは笑って言った。

「俺は今からでも手を繋いで歩いてもいいぞ?」

 からかう声でドレイクに言われ、僕は反論した。

「大丈夫です! 結構です! 一人で歩けます!!」
「そうか? 残念だな。でもま、今日も迎えに来るからちゃんと待ってろよ?」
「は? え? 迎えに!?」
「じゃあ、俺はそろそろ仕事に行く。では皆様、自分はこれで失礼します」

 ドレイクは僕には適当な態度だったくせに、最後姉さん達に挨拶する時だけピシッとした態度で頭を下げて言った。

「あらあら、お仕事頑張ってね。ドレイク」

 ダブリン姉さんが言うとドレイクは「はい」と頷き、そのまま去って行った。
 けど、その後姿を見ながら僕はますますむすーっとする。

 ……なんなの、あの猫かぶり!! もー、迎えになんてこなくていいんだからぁー!!

 そう思うけれど、そんな僕を後ろからゴールウェイ姉さんがぎゅっと抱き締めた。

「さぁて、コーディー。話も一段落ついたところだし、ゆーっくりこの事について聞かせてもらうわよぉ~!」

 ゴールウェイ姉さんは僕の首筋をちょんっと触って言った。
 そしてこういう時のゴールウェイ姉さんから逃げられないことを僕は知っている。でも僕は往生際悪く、誤魔化そうとした。

「あ、あの、べ、別に話すことなんて」
「はいはい、話は中でしましょうね~」

 ゴールウェイ姉さんはそう言うと僕を信じられないほどの強い力で引っ張った。

「ちょ、姉さん達!!」

 僕はゴールウェイ姉さん以外の姉さん達に助けを求めたが、誰もゴールウェイ姉さんを止められないとわかっているからか、助けてはくれなかった。

「ゴールウェイ、ほどほどにするんだぞ」

 ……ドローエダ姉さん、そういう事じゃないってばーっ!

 だが、僕の心の叫びは届かず。
 魔塔の中に連れ去られた僕はゴールウェイ姉さんに色々と聞かれたのだった。



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