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続編

66 豊穣祭の翌日 前編

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 ――――豊穣祭の翌日、いつも通りの朝がやってきた。
 眩しい光を瞼の裏に感じ、目を覚ませば朝日が目に入る。

「んぅ」

 僕は目をぱちぱちっと瞬かせて、それから「ふぁぁっ」と小さくあくびをした。そして目を擦ると自分の肌の色が元に戻っている事に気が付く。

 ……肌、元に戻ってる。あ、髪も。

 僕は長い前髪が黒くなっている事にも気が付いた。これで外に出ても変に思われない。

 ……良かった、元に戻って。いつも翌朝には戻るけど、戻らなかったらすごく困るから。

 なんて僕はまだ寝起きのぽやぽやする頭で考える。でも、不意に横になっていた体を仰向けにすれば、傍にいる人影に本当の意味で目が覚めた。
 なにせ、ベッド側にドレイクが椅子に座って腕を組んだまま眠っていたからだ。

 ……ドレイクッ!?

 僕は驚いて飛び起きる。でもドレイクはぐっすりと眠っているのか、目を瞑ったままだ。

 ……ドレイク、どうしてここに? というか、椅子で眠ってて体は辛くないのかな?

 窮屈そうに眠るドレイクに僕は心配になる。
 そしてドレイクの顔を見ていたら、昨日の夜の事を思い出してきた。
 自分の異形の姿を見られ、それでも変わらずに接してくれたドレイクの事を。

……ドレイク、僕の事、何ともないって言ってくれたな。……けど一晩寝て起きたら、やっぱり違うってなってるかも。

 ドレイクが言ってくれた言葉は嬉しいものばかりだった。だからこそ、また不安になってしまう。ドレイクを信じたいけれど、自分自身でさえ額の瞳は不気味に思っているから。
 僕は閉じている三つ目の瞳をそっと指先で撫でる。
 でも、そうこうしている内にドレイクが目を覚ましてしまった。

「ん……コーディー?」

 ドレイクは身じろぎをして目を開けると、まだ眠そうな目をしながらも僕が起きている事に気が付いた。

「あ……えっと。おはよう」

 先に起きていた僕はとりあえず挨拶をする。するとドレイクはじっと僕を見てきた。

 ……元の姿には戻ったけど、昨日の姿を思い出しているのかな。

 僕の心に不安が過るけどドレイクは「大丈夫そうだな」と呟くと、くわっと大きなあくびをした。それから窓の外の明るさを見て「もう朝か」と言いながら、うなじに手を当てて凝りをほぐすように頭を首を回す。
 まるでいつも通りだ。
 けど、そのあっさりしたドレイクの態度に僕は思わず驚いてしまう。

「ドレイク、昨日の事……覚えてないの?」
「昨日の事? ……ああ、お前がめそめそ泣いた事か?」
「めっ、めそめそなんて泣いてない! ……そのっ、泣いたことは事実だけどぉ」

 からかわれるように言われ、僕は思わずムッとして答える。

「そうじゃなくって、僕の事! この目の事とかっ」

 僕は前髪で隠した額を指差して言った。だけどドレイクの表情は変わらない。

「覚えてる、忘れる訳ねえだろう」

 ドレイクは当たり前だろ、とでも言いたげな顔をした。いつもと変わらないふてぶてしい態度で。
 でもこのふてぶてしさが、なんだか今は嬉しい。

 ……ドレイクは何とも思ってないんだ。

 そう思えたから。

「それよりお前の方こそ寝て俺が言った事、忘れたのか?」

 ドレイクに逆に聞かれて僕は思い出す。ドレイクが僕の姿を構わないと言った事も、僕の事を好きだと言ってくれた事も。
 おかげで僕は少し頬が熱くなる。

「忘れて、ない」
「なら、そういう事だ。だから文通ごっこは終いだぞ。もう待つのは飽きた」

 そうドレイクは言った。その言葉は『一緒に家に帰るぞ』と言っているのと同じで。僕はなんだか嬉しくて、顔がはにかんじゃいそうになる。でも、ぐっと答えて「……うん」と答えた。
 そんな僕にドレイクは手を伸ばし、「コーディー」と言いながら僕の頬を触った。
 でもその途端、体がなんだかおかしくなる。

「んぁっ」

 ドレイクに触れられた途端、体がムズムズッとして、気持ちよくなって、どこからともなく甘い声が出てしまう。なので僕は突然自分から出た声で驚いて慌てて手で口を塞いだ。

 ……なに今の!? なんだか体がムズムズする。まるで、あの例のクッキーを食べた時みたい。

 僕は媚薬が入っていたクッキーを思い出す。でも、今は起きたばかりで何も食べていない。

「おい、やっぱり調子が悪いんじゃないか?」

 変な声を出した僕を見てドレイクはそう言うと、座っていた椅子から腰を上げると心配そうな顔で僕の顔を両手で包んだ。そうされると余計に体がムズムズして、体が熱くなってくる。

「んんぁっ! ……ドレイクっ、手、放してぇ」

 僕が頼むとドレイクはパッと手を離した。すると体のムズムズがちょっと落ち着く。

 ……なんで、体がこんなに? それに……ムズムズするけど、離れたら離れたでドレイクにくっつきたい。

 ドレイクに抱き着きたい衝動が体を巡るが、ドレイクと言えば心配そうな顔で僕を見ていた。

「おい、本当に大丈夫か?」

 ドレイクは僕にそう言うけれど、ドレイクが傍にいるとなんだか襲いたくなってきた。

 ……なんでこんな気持ちにっ!?

 僕は突然自分の中に起こる感情に追いつけなくて困惑する。でもこれだけははっきりしている気がした。

 ……とりあえずドレイクから離れよう。

 僕はそう思ってベッドの隅に移動しようとした。でもドレイクはそんな僕を見逃さず「おい、ちょっと待て」と離れようとした僕の腕を掴む。

「ひゃぁ」

 掴まれたところから気持ちよさが体を巡って、また変な声が出てしまう。

 ……は、早く離れなきゃっ。

「やっぱり、どこかおかしいだろ。こら、逃げるな」

 ドレイクはそう言うと黒猫になった僕を捕まえた時みたいに、ベッドに乗り上げて僕をぎゅっと抱き締めた。すると電撃が体に走ったみたいに、体がムズムズどころかぞくぞくっとして言う事を利かなくなる。

「あぅぅっ」
「コーディー?」

 ドレイクは僕を抱き締めたまま、怪訝な顔で僕を見つめた。琥珀色の瞳がすぐ近くにある。そして薄い唇も。
 その唇を見ていたら、体が勝手に動いてしまった。

「コーディー、どう、ンッ!?」

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