俺様騎士は魔法使いがお好き!

神谷レイン

文字の大きさ
上 下
77 / 100
続編

60 手紙 後編

しおりを挟む
 ――――自分の家に帰らなくなって、五日目。
 僕はドローエダ姉さんが育てている植物園の雑草取りを手伝っていた。

「コーディー、お疲れ様。そろそろ終わっていいよ」

 後ろから声をかけられて振り返れば、そこにはドローエダ姉さんが立っていた。

「ドローエダ姉さん」
「すっかり綺麗になったな。ありがとう、抜いた雑草はこちらで処理をしておくよ。それと今日も届いていたぞ?」

 ドローエダ姉さんはそう言うと、肩に乗っていた小さな青い小鳥を指先に乗せ、僕に差し出した。
 その青い小鳥は首から小さな鞄を抱え、僕をつぶらな瞳で見つめる。

「ありがとう、小鳥さん」

 僕がお礼を言いながら片手を差し出すと、小鳥は自ら僕の手の平の上に乗った。そして「ぴぴっ」と鳴き、『お届け物です!』とでも言うように胸を張って首にかけている鞄を主張した。
 なので、僕は小鳥が首に抱えている小さな鞄の蓋を開け、中を見た。そこには小さな手紙とクッキーの小袋が入っていた。

 ……今日はクッキーなんだ。

 僕は中を取り出して思う。そして小鳥は僕が中身を取り出した後、「ぴっ」と鳴いて、ぴょんぴょんっと跳ねながら僕の腕の上を移動して肩に止まった。
 そして僕の肩の上で毛づくろいを始める。

 ……ダブリン姉さんが魔法で生み出した鳥だけど、本物の小鳥みたいだなぁ。

 なんて思いながら、僕は手紙をやりとりする為の俗称・文通鳥から受け取ったものを再度見る。
 小袋に入ったクッキーと共に小鳥が運んできた小さな手紙。その手紙の表には『コーディーへ 』と書かれ、裏にはいつも通り『ドレイク』と名前が書かれていた。

「ドレイクは意外にマメな男だったんだな。……いや、コーディー相手だからか?」

 ドローエダ姉さんはふふっと笑いながら僕に言った。その声にはちょっとからかいが含んでる。

「ドローエダ姉さん、そんなんじゃないよ」

 僕は照れ臭さを抱えながら答えつつ、手紙の中をその場で開く。

『コーディー、いつになったら戻ってくる? オムレツが食べたい』

 ドレイクの字で、短い文が書いてあった。

 ……オムレツが食べたい、なんて。フォレッタ亭に食べに行ったらいいじゃないか。

 そう思うけど、求められて嫌な気はしない。けれど、もっと他に言う事はないの? とも思ってしまう。
 だが、こういったやり取りは『しばらく家に帰らない』と書いた手紙と渡しそびれたドレイクの騎士章をこの文通鳥でドレイクに届けて以来、続いている。なにせ、この青い小鳥がドレイクからの短い手紙を抱えて帰ってくるからだ。

 しかも時々こうしてお菓子や花を添えて。

 ……まあドローエダ姉さんの言う通り、ドレイクって意外に筆まめなのかも? けど今まで他の女の子にしてきたようにしてるのかもって思うと、ちょっと嫌だな。

 僕は美味しそうなクッキーを見ながら思う。でもどうして嫌だと思ってしまうのか、自分でもよくわからない。クッキーを贈られて嬉しいはずなのに。

 ……とにかく返事はまた後で書こう。

 僕はそう思いながらポケットに手紙とクッキーを入れ込む。
 しかしそんな僕にドローエダ姉さんは尋ねた。

「コーディー、豊穣祭が終わるまでは帰らないのか?」

 そう聞かれて僕は頷く。

「うん、まだ帰れない。豊穣祭が終わっても……どうしようかって思ってる」
「そうか。私は大丈夫だと思うが、コーディーがそうしたいならそれでいい」

 ドローエダ姉さんはぽんっと優しく僕の肩に手を置いて言ってくれた。いつだって姉さん達は僕の意見を尊重してくれる。でも、同時に迷惑をかけている事を僕はわかっている。

「迷惑をかけてごめんね、ドローエダ姉さん」
「何を言う。別に迷惑なんて何一つないさ。むしろコーディーが魔塔に戻ってきて、みんな大喜びだぞ? もちろん私もな」

 ドローエダ姉さんはぱちっとウインクして優しく言ってくれた。その優しさに僕は時々胸が痛い。僕は何もできないのに、いつも優しくしてくれるから。

 ……僕がもっと魔法が使えたりできたらよかったのに。できる事と言ったら、こんな雑草取りぐらいだもんな。

 僕は自分自身にため息を吐きたくなる。
 けれどそんな僕にドローエダ姉さんは思い出したように、ある事を教えてくれた。

「ああ、そう言えばコーディー。セージ様に会いたがっていただろう? セージ様は豊穣祭の翌日にこちらに来られるそうだぞ」

 ドローエダ姉さんに教えられて僕はすっかり、その事を忘れていた事を思い出した。

 ……そうだ! セージ様が来るってドローエダ姉さんが言ってたんだった。でもドレイクが子供に戻っちゃって、それどころじゃなくて忘れてた!!

「ドローエダ姉さん、セージ様は豊穣祭の翌日に来るの!?」

 僕が迫って尋ねればドローエダ姉さんは少し驚いた顔をして「ああ」と答えた。

 ……セージ様が豊穣祭の翌日に。なら、ドレイクの事が何かわかるかもしれない。それに僕の事、もう一度見てもらおう。セージ様ならきっと何かいいアドバイスをくれるはず。

 僕はみんなから賢者様と呼ばれるセージ様を思い浮かべる。
 でも不意に少し不安が過る。

 ……もしセージ様にドレイクの事を聞いて、ドレイクの気持ちが変わったら。

 そう思うだけで、なぜか胸の奥底に穴が開いたような気持ちになる。でも、僕は気持ちを誤魔化すように自分に言い聞かせた。

 ……いや、それはそれでいいじゃないか。ドレイクが僕を好きな理由、全くわかんないし。元に戻るだけだ。

 そう思うのに、一度開いてしまった穴から冷たい風が吹いてくるみたいに心がきゅっと寒くなる。

「コーディー、どうした?」

 僕の気持ちを機敏に察してか、ドローエダ姉さんがそう尋ねた。

「え? あ、ううん。なんでもないよっ。セージ様に会えるの、久しぶりだから嬉しいなって考えてた」
「そうか? ……だが、豊穣祭ももう明後日だな。今年も無事にやり切れそうか?」

 ドローエダ姉さんに聞かれて僕は頷いた。

「うん。大丈夫、新年の時もしたし、もう毎年の事だから」
「すっかり慣れたものだな。今年も楽しみにしているよ」

 ドローエダ姉さんに言われ、僕は「うん」と期待に応えるように返事をした。

 ……そうだ。もう明後日には豊穣祭なんだ。今回も頑張らないと。僕が唯一、できる事なんだから。

 僕は明後日に控えた豊穣祭を思い、ひとり意気込んだ。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

処理中です...