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続編
60 手紙 前編
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――――それからすっかり夕方になり、ダブリン姉さんが再び部屋へとやってきた。
「コーディー、入るわね」
ノックをした後、ダブリン姉さんは部屋の中に入ってきて、未だベッドの住人である僕の傍へと歩み寄った。そしてすぐに僕の顔を見て、心配顔になる。
僕の目元が赤くなっているからだろう。まるで僕の弱さを示すかのようで恥ずかしい。
「コーディー、大丈夫?」
「うん。……ドレイクは?」
「帰ったわ」
「そっか……。ダブリン姉さん、ドレイクの怪我も他の人の事もありがとう」
「いいのよ。ドレイクは私に治癒魔法をかけて欲しくないようだったけれどね」
ダブリン姉さんはふふっと笑って言った。なんだか、その様子が想像できる。でも傷がついて痛くないわけがない。
……ドレイクにはもう一度ちゃんと謝らなきゃ。……でも、しばらくは。
「ダブリン姉さん、お願いがあるんだ」
「あらあら、何かしら?」
「あのね。しばらく、いや、豊穣祭までここで過ごしたいんだけどいいかな?」
「それは構わないけれど、ドレイクはいいの?」
『家で待ってるからな』と言ったドレイクの言葉が蘇る。でも僕は今のままでは帰れない。
「うん、いいんだ。ドレイクに手紙を書くから、それを渡してくれないかな?」
「それは構わないけれど。本当にそれでいいの?」
問いかけるダブリン姉さんに僕は「うん」と答えた。
そして、そんな僕にダブリン姉さんはぽんっと肩に手を置いた。
「コーディー、私はコーディーが今までいっぱい頑張って来た事を知っているわ。だから今回の事はあまり深く重い抱えないでね」
優しく励ましてくれるダブリン姉さん。その言葉が今の僕には少し痛い。
「うん……ありがとう。でも、もっと気を付けるよ。もう二度とこんな事にならないようにする」
僕はぐっと拳を握って、固く決意する。
……もう誰も傷つけない。
そう心に誓って。
でもそんな僕をダブリン姉さんは心配げに見つめるだけだった。
◇◇
――――その頃、ドレイクと言えば国営図書館に足を運び、ダブリンに言われた通り十七年前の事件を調べていた。
閉館時間が近いせいか、図書館に人の姿はほとんどない。
だが、その中でドレイクは新聞を手当たり次第に探し、ようやくある記事を見つけた。
それは『ドラゴン殺傷未解決事件!』と見出しに銘打って大々的に報じられている記事だった。その記事の内容はラヴィン街近くの村にドラゴン出没し、多くの死傷者を出しながらも何者かの手によってドラゴンが葬られた、というものだった。
剣も通さないドラゴンの死骸には大きな穴が開いており、魔塔の魔女であるダブリンとエニス、そして騎士団が着いた時にはドラゴンはすでに息絶え、その場には討伐したであろう者はいなかったというーーーー。
……コーディーがあんなに怯えていたのは昔、ドラゴンに村を襲われたから?
ドレイクはコーディーの怯えようを思い出し、納得する。しかし不思議なのは、ドラゴンを討伐した者が見つからなかったことだ。
ドラゴンは超重要級魔獣に指定されている。なので、もし村を襲ったドラゴンを退治したとなれば国から数年は遊んで暮らせるほどの報償が貰える。
実際、数十年前にドラゴンを倒した騎士が相当な報償を貰ったとドレイクは聞いたことがあった。
……なのに、誰も名乗り出ていない? それとも名乗り出る事ができなかった? もしかしたらコーディーはその者を見たのだろうか。
けれどドレイクは不意に、その年からコーディーが魔塔の魔女達に育てられた事を思い出し、ある考えが過った。
……いや、まさか。その時のコーディーはまだ五歳だ。……だが、誰も名乗り出ていない事。そしてコーディーが魔塔に預けられた事。そしてコーディーの階級が特級である事。その全てを考えれば……コーディーがドラゴンを倒した?
あり得ないことだとわかっていながらもドレイクはその考えが頭から離れなかった。けれど、また新たな疑問が頭に浮かぶ。
……けれどコーディーが魔法を使ったところを見た事がない。
ドラゴンを倒すほどの魔法使いならば、日常でも魔法を使うだろう。しかし今まで一度たりともコーディーが魔法を使う事はなかった。
ドレイクは考えながら、ますます疑問が多くなっていく。
……コーディー、お前の事を知りたいと思えば思うほどわからなくなるな。
そう思うが、だからと言って調べることを辞める気にはならなかった。むしろもっと知りたいと強く思う。
……コーディーが家に帰ってきたら、一応聞いてみるか。
――――だが、この一時間後。
ドレイクの元に届いたコーディーからの手紙には『しばらく家には帰りません』と書かれていたのだった。
「コーディー、入るわね」
ノックをした後、ダブリン姉さんは部屋の中に入ってきて、未だベッドの住人である僕の傍へと歩み寄った。そしてすぐに僕の顔を見て、心配顔になる。
僕の目元が赤くなっているからだろう。まるで僕の弱さを示すかのようで恥ずかしい。
「コーディー、大丈夫?」
「うん。……ドレイクは?」
「帰ったわ」
「そっか……。ダブリン姉さん、ドレイクの怪我も他の人の事もありがとう」
「いいのよ。ドレイクは私に治癒魔法をかけて欲しくないようだったけれどね」
ダブリン姉さんはふふっと笑って言った。なんだか、その様子が想像できる。でも傷がついて痛くないわけがない。
……ドレイクにはもう一度ちゃんと謝らなきゃ。……でも、しばらくは。
「ダブリン姉さん、お願いがあるんだ」
「あらあら、何かしら?」
「あのね。しばらく、いや、豊穣祭までここで過ごしたいんだけどいいかな?」
「それは構わないけれど、ドレイクはいいの?」
『家で待ってるからな』と言ったドレイクの言葉が蘇る。でも僕は今のままでは帰れない。
「うん、いいんだ。ドレイクに手紙を書くから、それを渡してくれないかな?」
「それは構わないけれど。本当にそれでいいの?」
問いかけるダブリン姉さんに僕は「うん」と答えた。
そして、そんな僕にダブリン姉さんはぽんっと肩に手を置いた。
「コーディー、私はコーディーが今までいっぱい頑張って来た事を知っているわ。だから今回の事はあまり深く重い抱えないでね」
優しく励ましてくれるダブリン姉さん。その言葉が今の僕には少し痛い。
「うん……ありがとう。でも、もっと気を付けるよ。もう二度とこんな事にならないようにする」
僕はぐっと拳を握って、固く決意する。
……もう誰も傷つけない。
そう心に誓って。
でもそんな僕をダブリン姉さんは心配げに見つめるだけだった。
◇◇
――――その頃、ドレイクと言えば国営図書館に足を運び、ダブリンに言われた通り十七年前の事件を調べていた。
閉館時間が近いせいか、図書館に人の姿はほとんどない。
だが、その中でドレイクは新聞を手当たり次第に探し、ようやくある記事を見つけた。
それは『ドラゴン殺傷未解決事件!』と見出しに銘打って大々的に報じられている記事だった。その記事の内容はラヴィン街近くの村にドラゴン出没し、多くの死傷者を出しながらも何者かの手によってドラゴンが葬られた、というものだった。
剣も通さないドラゴンの死骸には大きな穴が開いており、魔塔の魔女であるダブリンとエニス、そして騎士団が着いた時にはドラゴンはすでに息絶え、その場には討伐したであろう者はいなかったというーーーー。
……コーディーがあんなに怯えていたのは昔、ドラゴンに村を襲われたから?
ドレイクはコーディーの怯えようを思い出し、納得する。しかし不思議なのは、ドラゴンを討伐した者が見つからなかったことだ。
ドラゴンは超重要級魔獣に指定されている。なので、もし村を襲ったドラゴンを退治したとなれば国から数年は遊んで暮らせるほどの報償が貰える。
実際、数十年前にドラゴンを倒した騎士が相当な報償を貰ったとドレイクは聞いたことがあった。
……なのに、誰も名乗り出ていない? それとも名乗り出る事ができなかった? もしかしたらコーディーはその者を見たのだろうか。
けれどドレイクは不意に、その年からコーディーが魔塔の魔女達に育てられた事を思い出し、ある考えが過った。
……いや、まさか。その時のコーディーはまだ五歳だ。……だが、誰も名乗り出ていない事。そしてコーディーが魔塔に預けられた事。そしてコーディーの階級が特級である事。その全てを考えれば……コーディーがドラゴンを倒した?
あり得ないことだとわかっていながらもドレイクはその考えが頭から離れなかった。けれど、また新たな疑問が頭に浮かぶ。
……けれどコーディーが魔法を使ったところを見た事がない。
ドラゴンを倒すほどの魔法使いならば、日常でも魔法を使うだろう。しかし今まで一度たりともコーディーが魔法を使う事はなかった。
ドレイクは考えながら、ますます疑問が多くなっていく。
……コーディー、お前の事を知りたいと思えば思うほどわからなくなるな。
そう思うが、だからと言って調べることを辞める気にはならなかった。むしろもっと知りたいと強く思う。
……コーディーが家に帰ってきたら、一応聞いてみるか。
――――だが、この一時間後。
ドレイクの元に届いたコーディーからの手紙には『しばらく家には帰りません』と書かれていたのだった。
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