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続編

51 気持ちの証明

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 ――――それから僕達はなんだかんだと食事を終え、ドレイクは席を立った。

「ちょっとローレンツと話があるから待っててくれ」
「あ、うん」

 僕は返事をしてローレンツさんの元へと向かうドレイクを見送る。

 ……ローレンツさんに話って、なんだろ? まあ幼馴染だから何か話があるんだろうなぁ。……いいなぁ、男の幼馴染。

 僕は二人の切っても切れない友情が羨ましい。ドレイクはローレンツさんに対して素っ気ないけれど、心を許してるのがわかる。そしてそれはローレンツさんもだ。

 ……気の置けない友人ってのはああいうのを言うんだろうなぁ。

 なんて思いながら席から何か話し始めたドレイクとローレンツさんを遠くから見つめる。けれど、話が込み入り始めたのか奥の厨房へと行ってしまった。

 ……二人の話、長引くのかな?

 僕はコップに残っていた水をくぴくぴっと全て飲み干して思う。
 けれどそんな折、お店に新しいお客さんが入ってきて、僕はその人と目が合ってしまった。

 ……あ、あの人、この前の。

 そう思っている内にその人は僕の元へ歩み寄ってくる。

「こんばんわ、お兄さん」

 豊満な胸を揺らして僕に話しかけてきたのは、以前ドレイクに声をかけてきた色っぽいお姉さんだった。

「こ、こんばんは」
「今日もドレイクと一緒なのかしら?」

 お姉さんは二人分の空のお皿が並ぶ、僕達のテーブルを見て尋ねた。

「あ、ドレイクなら今、席を外してて」
「あら、そうなのね。……ところでお兄さんはドレイクのお友達?」

 お姉さんは僕を見て聞いてきた。でも僕は答えに困る。

 ……友達、じゃないよな? でも友達以外の関係って言ったらなんだろう? 同居人? いや、あれは勝手に人の家に住んでるだけだし。

「知り合い……ですかね?」

 答えが出なくて僕は曖昧に答える。するとお姉さんは驚いた顔を見せた。

「え、そうなの? この前、血相を変えて貴方を追いかけて行ったから大事なお友達かと思ったわ」

 お姉さんに言われて僕は思い出す。

 ……そう言えば、そんな事もあったな。でもあの時、ドレイクはどうして僕を追いかけてきたんだろ?
何か用があったっけ? と思い返すが思い出せない。ただ、僕がドレイクの態度にイラっとした事だけ覚えている。

「今日はお兄さん、ドレイクと何か用があるのかしら?」
「別に用はないですけど」

 ……一緒に帰るだけだし。

 そう思って答えればお姉さんは微笑みながら僕に頼んだ。

「じゃあ、この後ドレイクを誘ってもいいかしら?」
「え、それは」

 ……僕に聞かれても。ドレイクに聞けばいいのに。……でも、もしも僕がいいって言ったら、ドレイクはこのお姉さんと。

 そう思ったら、なんだか急に胸がもやっとした。なので僕は俯き、胸を抑える。

 ……食べすぎちゃったかな?

 なんて思う。でも、そこへ低い声が飛んできた。

「悪いが、もう誘いには乗れない」

 その声を聞いて顔を上げれば、そこにはいつの間にかドレイクが戻ってきていた。

「あ、ドレイク」
「待たせたな、コーディー。帰るぞ」

 ドレイクはそう僕に言った。けれどお姉さんはめげずにドレイクの腕に手を絡めて話しかける。

「ちょっとドレイク、もう誘いには乗れないってどういう事? 少しぐらい遊んでくれたっていいじゃない、今はフリーなんでしょ? それとも噂通り、想い人でもできたのかしら? まさか、このお兄さんだったりして~」

 お姉さんはくすくすっと笑って言った。だけどドレイクは真面目な顔をしてハッキリと答えた。

「その通りだ。俺はこいつが好きだ」

 公衆の面前で告白されて僕は恥ずかしくなる。

……ちょ、ちょっとー!? こんなところで何言っちゃってるの! お姉さんだって驚いて目を丸くしてるじゃん!!

「ど、ドレイクっ」
「俺はこいつが好きだから、悪いがお前とはもう遊ばない。それだけだ」

 ドレイクはもう一度ハッキリとお姉さんに言った。でもお姉さんは信じられないのか、僕とドレイクを何度も見返す。まあ僕だって信じられないのだから、当然の反応だ。

「え、本気なの? ドレイクがこのお兄さんのこと?」
「そうだと言っているだろ」
「じゃあ、このお兄さんがドレイクの本命?」
「ああ、そうだ」

 ドレイクは真面目な顔をして言ったが、お姉さんはやっぱり信じられなかったみたい。

「冗談でしょう? どうして嘘を吐くの?」

 お姉さんはドレイクにそう尋ねたが、ドレイクはため息交じりに答えた。

「はぁ。冗談じゃないし、嘘でもない。俺はこいつが好きなんだ。だから、もうお前や他の女とは遊べない」
「でも……」

 お姉さんは困惑した顔で僕をじっと見た。その目には『こんな子がドレイクの?』という気持ちがありありと浮かび上がっている。

 ……まあ、そうなるよね。僕だって信じられないんだもん。でも……こんなにハッキリ、何度も言われると僕も本気だって思っちゃうよ。まあ、勘違いなのはわかってるけどぉ。

 僕は好き好き言われて、頬が熱くなってくる。ていうか、恥ずかしい。
 でもお姉さんは、どうしても信じられないのかドレイクにこう言った。

「嘘でしょ。じゃあ、本当だって証明してよ」
「証明だと?」
「そうよ。今まで女の子しか相手してこなかったのに。急にこのお兄さんが好きなんて信じられるわけないじゃない。アタシの相手が嫌ならそう言えばいいのに、こんな嘘まで吐くなんて」

 お姉さんはムッとした顔でドレイクに言った。どうやら断る口実に僕を好きだとドレイクが嘘を言っていると思ったようだ。
 そしてお姉さんの言葉に僕も思わず、うんうんっと頷いてしまう。

 ……そうだそうだ、今まで女の子を手当たり次第だったって話なのに、急に僕を好きって信じられないよ。

 僕は思わず共感してしまう。だが、それを見ていたドレイクは。

「コーディー、お前まで……。よし、なら証明してやる」

 ドレイクはそう言うと僕の顎を片手でぐいっと上げた。

「へっ?」

 何? と思った時にはもう遅かった。気が付けば、お姉さんの目の前でぶちゅぅぅうううっとドレイクにキスされていた。しかも濃厚なやつ。
 おかげでドレイクの唇からさっき食べてたステーキの味がする。

 ……ぎゃああああああーーっ!!

 僕は驚きのあまり目を大きく見開いてしまう。おかげで傍にいたお姉さんの驚き顔もバッチリ見えてしまった。ついでに他の席のお客さんの驚いた顔も。
 だから僕はすぐにドレイクを両手で押しのけた。

「ド、ドレイクッ!!」

 名前を呼ぶのと同時にキッと睨んだけど、ドレイクは僕に一瞥しただけで悪びれた様子もなく、お姉さんに視線を向けた。

「これでわかったか?」

 ドレイクは不機嫌そうな顔でお姉さんに言い、目の前で僕とドレイクのキスを目撃したお姉さんは言葉もなく頷いた。
 そして僕はお姉さんにも店のお客さんにも見られてすっごく恥ずかしい!!

 ……き、キスされたところを見られるなんて! 恥ずかしすぎるーッ!!

 ドレイクに文句の一つでも言ってやりたいが、それよりも恥ずかしさが上回って僕は何も言えなかった。顔がポッポッと熱くなり、僕は熱を冷まそうと近くにあった水の入ったコップを手に取る。
 そして、ぐいっと飲んだがそれを見たドレイクが声を上げた。

「あっ! バカ、それは俺の!!」

 ドレイクがそう言った時にはもう遅かった。僕はさっき自分で水を飲み干したばかりなのにその事をすっかり忘れて、ほとんど見かけが水と変わらないドレイクのお酒(ジントニック)を飲んでいた。

「ぅがっ!」

 コップを飲み干した後、強いアルコールの味と苦みで僕は思わず呻く。それからすぐに目が回って、体内の温度が一気に急上昇。頭もクラクラしてきた。

「ほわぁ~」
「おい、コーディー、大丈夫か?!」

 ドレイクはそう僕に聞いてきたけど、心配そうに尋ねるドレイクの顔でさえ揺らめいてる。

「どれいくぅー?」

 そう呟いたけれど、アルコールが体を駆け巡り、その後の記憶は。



 ―――――翌日、目が覚めるまですっぽりと抜け落ちてしまったのだった。

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