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39 ちびっこドレイク 後編

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 ――――その後、ヒューゲルさんはしきりにお礼を言った後、報告の為に王城へと向かい。僕は魔塔の中にある自室へ行って、クローゼットの中から仕舞っていた子供の頃の服を取り出していた。
 なぜならドレイクは突然子供になった為、大人のシャツを急拵えでワンピースのように着ていたからだ。それに数日預かることになるのなら何着かは必要だろう。

「……うん、このサイズの服なら合うかな」

 僕は服をドレイクに当ててサイズを確認する。

 ……子供の頃の服を取っておいて良かった。まさか、ドレイクに着てもらうことになるとは思わなかったけど。

 僕はそんな事を思い出しながら、子供服を何着か引っ張り出してベッドの上に並べてみた。

「うん、こんなもんかな。僕のお古で悪いけど、今よりはいいと思うから……これを着てみてくれる?」

 僕は猫の刺繍が入った丸襟のシャツと短パンを指差した。するとドレイクはこくっと頷くとその場で服を脱いで、いそいそと服を着た。

 ……服は一人で着れるみたい。問題は靴と下着だなぁ。

 僕はドレイクの足元を見る。靴は足の小さな女性騎士の物を借りているらしいが、それでもぶかぶかでドレイクの足に合っていない。
 下着も大人用を紐で縛ってなんとか履いている、という具合だ。

 ……今日はもう早く仕事を切り上げて、買い出しに行った方がよさそうだな。事情を説明すれば姉さん達もいいと言ってくれるだろうし……それにしても。

 僕はじっとドレイクを見る。前回会った時の事を思い出して。

 ……あれからどうやって会おうと思っていたのに、こんな風に会うなんてなぁ。しかも僕がドレイクの面倒を見るなんて。本当に大丈夫かな? 今まで小さな子と過ごした事ないけど。……ドレイクは本当に僕で良かったのかな?

 うーん、と僕が考え込んでいるとドレイクは服を着替え終え、ふと見れば不安そうな顔で立ち尽くしていた。

 ……僕よりドレイクの方が不安なんだ。しっかりしなきゃ!

「あ、ごめんごめん。やっぱりサイズはピッタリだね。着心地はどう?」

 僕はすぐに声をかけたが、ドレイクは何も言わない。

 ……サイズはピッタリでも、着心地が悪かったかな? 僕のお古だもんなぁ。

「やっぱり僕のお古は嫌だったかな? ごめんね。でも少しの間、それを着ていてくれる?」

 僕が頼むと、ドレイクは顔を横に振って小さく「だいじょうぶ。これ、好き」と小さく答えた。初めて聞くその声も随分と可愛らしい。
 なので、僕は思わず微笑んでしまった。

「そっか、よかった。……じゃあ服も用意できたことだし、今度は靴と下着を買いに街へ行こうか。その後、僕の家に行くことになるけど……いいかな? これから僕と一緒に住むことになるけど大丈夫?」

 僕は再確認するように尋ねた。するとドレイクはこくりっと頷き、僕はそっとドレイクの頭を撫でた。

「ありがとう」

 ……大丈夫そうで良かった。でもドレイクは記憶を失っているから僕の事はわからない筈なのに、どうしてか気に入られているような気がするのはなんでだろう? 姉さん達がさっき頭を撫でようとしたら、ササッと避けたのに僕に撫でられるのは嫌じゃないみたいだし。

 僕が撫でてもドレイクはされるがままだ。ちょっと可愛い。

 ……フフッ、ドレイクを可愛いって思うなんてな。

 そう思う僕をドレイクは撫でられながらじっと見上げた。何か言いたげだ。

「ん? どうしたの? あ、もしかして撫でられるの嫌だった!?」

 僕は慌てて手を離す。けれど、その手をドレイクの小さな両手が掴んだ。

「いや、じゃない。……でも、名前……しらない」

 もじっとしながらドレイクはそう言った。

「名前? ……あ、僕の名前! ごめん! そう言えば教えてなかったね」

 ……ドレイクは記憶を無くしてるから僕の名前も知らないんだった!

 僕はその事に今更気がつき、ドレイクの目の前にしゃがみこんだ。

「ドレイク、僕の名前はコーディー・ルルデン。コーディーって呼んでくれたらいいよ」
「……コーディー」

 ドレイクは小さな声で呼び、僕は「うん」と答える。するとドレイクの頬がほんのりと赤くなる。どうやら名前を呼んで照れているようだ。

 ……ドレイクのくせに、可愛いなぁ!

 僕は心の中でしれっと失礼なことを思う。けど、そんな僕にドレイクは尋ねた。

「コーディーは、ぼくのともだち?」

 突然尋ねられて僕は「え?」と驚く。するとドレイクの顔がすぐに不安そうになった。

「あのピンクの髪の人が、ぼくとコーディーはともだちだって」
「ピンクの髪の人ってゴールウェイ姉さん!?」

 ……もう、あの人は勝手に何を教えてるのーっ!?

 心の中でゴールウェイ姉さんに文句を言うけど、心の中のゴールウェイ姉さんは笑顔でピースサインを見せてくる。もぉ~っ!

「ともだち、じゃないの?」

 ドレイクは不安そうな顔で僕に尋ねた。もしここで『友達じゃないよ』と答えたら、泣いちゃいそうな雰囲気だ。

 ……ま、まあ僕とドレイクは知り合いっていうには親しいし。友達と言えば、友達……なのかもしれないし?

「う、うん、友達だよ! 僕とドレイクは友達!」

 結局僕はそう答えてしまった。けれど、その答えを聞いてドレイクの顔がどことなく嬉しそうにはにかんだ。

 ……噓ではないけど、本当でもないからちょっと胸が痛いな。けどドレイクが笑顔になったから、まいっか。
僕はそう思いつつ、ドレイクにそっと手を差し出した。

「ドレイク。とりあえず、そろそろ街へ行こうか」

 僕が誘えばドレイクはこくりと頷いて僕の手を掴んだ。


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