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続編
29 魔研からの帰りに 前編
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「あら、コーディーじゃない。久しぶりねぇ」
まるで久しぶり会った孫を見るような素振りで、その猫は言った。
でも、それもそのはず。ケットシー(妖精猫)である彼女は長寿で、僕の事を小さい頃から知っているのだ。それこそ僕が魔塔で住むようになった頃から。
そして僕は小さい頃、姉さん達が仕事で忙しくなると、この妖精猫・ルーシーに面倒を見てもらっていた。ある意味、もう一人のルーシー姉さんって感じ。
そしてそして、ルーシーは年を取ったと言う理由で今はこの魔研の受付係をしている。見た目は僕が初めて会った時と全然変わってないけど。
「久しぶりだね、ルーシー。元気にしてた?」
「元気も元気よぉ。コーディーも元気そう、近くにいてもなかなか顔を合わせないものねぇ」
「そうだね。僕は研究所の方にはほとんど来ないから」
「そうよぉ、たまには顔を出しにいらっしゃい」
「そうは言うけど、部外者の僕はなんだか入りづらくって」
「気にしなくていいのよぉ。でも今日、ここに来たって言う事は何か用があってきたのね?」
ほのぼのとした会話の後、ルーシーは僕に尋ねた。
「うん、ダブリン姉さんが新しい転移魔法のスクロールを描いたからゴドフリーさんに渡してきて欲しいって、頼まれてきたんだ」
「ゴドフリーにね。すぐ呼ぶわぁ」
ルーシーはそう言うと、受付に置いてある魔法の呼び鈴”リンベル”をチリリンッとひと鳴らしした。すると、すぐにある一人の人物が駆け足で現れる。
長い金髪に丸眼鏡、スラリとした長身の四十代くらいの男性。彼こそが、この魔法研究所の所長を務めている上級魔法使いのゴドフリーさん。
そして僕はゴドフリーさんがちょっとだけ苦手だった。
「やあやあっ、コーディー君っ! 久しぶりだネ!」
テンション高め、圧強めでゴドフリーさんは僕に話しかけてきた。
「あ、お久しぶりです。ゴドフリーさん」
僕はゴドフリーさんの圧に押されながらも返事をする。しかし、ゴドフリーさんのテンションは変わらない。
「コーディー君、もっと魔研へ来てくれてもいいんだよ? 私の助手になる話は忘れてないカナ?!」
眼鏡の奥からキラキラした目で見つめられ、僕は目を反らす。
「いえ、あの、僕は姉さん達の手伝いがあるので。それに僕は大した魔法も使えませんし」
「魔女様達の手伝いは大事だと思う。でも私の助手になりたくなったら、すぐに言ってくださいネ。私が魔女様達を説得しますからっ!」
ゴドフリーさんの勧誘に僕は困惑する。
……会いに来る度、これなんだもんなぁ。そんなに僕を助手にしたいのかな? 僕、本当に大した魔法、使えないんだけどなぁ。
僕はそう思いつつ、丁寧にお断りの言葉を告げておく。
「ありがとうございます。でも僕は姉さん達の手伝いで手一杯ですから。それと、ダブリン姉さんから預かってきました」
さっさと用を済ませようと僕は懐からスクロールを出して手渡す。するとゴドフリーさんはすぐに何かピンと来たようだ。
「ああ、新しい転移魔法のスクロールだね。ありがとう」
ゴドフリーさんはそう言うと僕からスクロールを受け取り、早速中を見る。
「んーっ! さすがダブリン様だ、相変わらず無駄のない綺麗な魔法陣っ!」
まるで美しい絵画を見るみたいにうっとりとした表情でゴドフリーさんは言った。確かに綺麗な魔法陣だけど、他とどう違うのか僕には全くわからない。
でも、そこを問いかけたらまた話が長くなりそうな予感がしたので僕は早々に切り上げることにした。
「では、お渡ししましたので僕は失礼しますね」
「え! いや、折角来たのだからお茶の一つでも飲んでいかないかい!?」
「いえ、戻って姉さん達の手伝いをしないといけませんから」
まあ、手伝いはまだ頼まれていないんだけど、たぶん戻ったら何かしら頼まれるはず……と思って僕は答える。けれどゴドフリーさんは食い下がってきた。
「でもでもっ、ちょーっとだけでも! ネッ!?」
ゴドフリーさんは僕の両肩を掴んで言い、僕はどう断ろうかと悩む。けど、そこはルーシーが助け舟を出してくれた。
「こらっ、ゴドフリー。そこまでにしなさい、コーディーが困ってるでしょう」
「で、でも師匠っ」
「コーディー、この子の事は気にしなくていいから魔塔に戻っていいわよ」
ルーシーはにこっと笑って言った。そしてこの魔研の元所長で、ゴドフリーさんの師匠でもあるルーシーの言葉にゴドフリーさんは逆らえず、がっくしと肩を落とした。が、それ以上は僕に何も言わなかった。
さすがルーシー……強い。
「じゃあ、僕は行きますね」
「ええ。コーディー、また今度遊びにいらっしゃいね。いえ、たまには私の方から遊びに行こうかしらね。その時、ゆっくりお茶でもしましょうねぇ」
ルーシーが尻尾をフリフリとしながら言うとゴドフリーさんは「師匠だけズルい!」と抗議していた。なかなか面白い師弟関係だと毎回見ていて思う。
だから僕はそんな二人に「ええ、また」と答えて、魔研の外へと歩み出した。
ゴドフリーさんは嫌いじゃないけど、長居は無用なのだ。
まるで久しぶり会った孫を見るような素振りで、その猫は言った。
でも、それもそのはず。ケットシー(妖精猫)である彼女は長寿で、僕の事を小さい頃から知っているのだ。それこそ僕が魔塔で住むようになった頃から。
そして僕は小さい頃、姉さん達が仕事で忙しくなると、この妖精猫・ルーシーに面倒を見てもらっていた。ある意味、もう一人のルーシー姉さんって感じ。
そしてそして、ルーシーは年を取ったと言う理由で今はこの魔研の受付係をしている。見た目は僕が初めて会った時と全然変わってないけど。
「久しぶりだね、ルーシー。元気にしてた?」
「元気も元気よぉ。コーディーも元気そう、近くにいてもなかなか顔を合わせないものねぇ」
「そうだね。僕は研究所の方にはほとんど来ないから」
「そうよぉ、たまには顔を出しにいらっしゃい」
「そうは言うけど、部外者の僕はなんだか入りづらくって」
「気にしなくていいのよぉ。でも今日、ここに来たって言う事は何か用があってきたのね?」
ほのぼのとした会話の後、ルーシーは僕に尋ねた。
「うん、ダブリン姉さんが新しい転移魔法のスクロールを描いたからゴドフリーさんに渡してきて欲しいって、頼まれてきたんだ」
「ゴドフリーにね。すぐ呼ぶわぁ」
ルーシーはそう言うと、受付に置いてある魔法の呼び鈴”リンベル”をチリリンッとひと鳴らしした。すると、すぐにある一人の人物が駆け足で現れる。
長い金髪に丸眼鏡、スラリとした長身の四十代くらいの男性。彼こそが、この魔法研究所の所長を務めている上級魔法使いのゴドフリーさん。
そして僕はゴドフリーさんがちょっとだけ苦手だった。
「やあやあっ、コーディー君っ! 久しぶりだネ!」
テンション高め、圧強めでゴドフリーさんは僕に話しかけてきた。
「あ、お久しぶりです。ゴドフリーさん」
僕はゴドフリーさんの圧に押されながらも返事をする。しかし、ゴドフリーさんのテンションは変わらない。
「コーディー君、もっと魔研へ来てくれてもいいんだよ? 私の助手になる話は忘れてないカナ?!」
眼鏡の奥からキラキラした目で見つめられ、僕は目を反らす。
「いえ、あの、僕は姉さん達の手伝いがあるので。それに僕は大した魔法も使えませんし」
「魔女様達の手伝いは大事だと思う。でも私の助手になりたくなったら、すぐに言ってくださいネ。私が魔女様達を説得しますからっ!」
ゴドフリーさんの勧誘に僕は困惑する。
……会いに来る度、これなんだもんなぁ。そんなに僕を助手にしたいのかな? 僕、本当に大した魔法、使えないんだけどなぁ。
僕はそう思いつつ、丁寧にお断りの言葉を告げておく。
「ありがとうございます。でも僕は姉さん達の手伝いで手一杯ですから。それと、ダブリン姉さんから預かってきました」
さっさと用を済ませようと僕は懐からスクロールを出して手渡す。するとゴドフリーさんはすぐに何かピンと来たようだ。
「ああ、新しい転移魔法のスクロールだね。ありがとう」
ゴドフリーさんはそう言うと僕からスクロールを受け取り、早速中を見る。
「んーっ! さすがダブリン様だ、相変わらず無駄のない綺麗な魔法陣っ!」
まるで美しい絵画を見るみたいにうっとりとした表情でゴドフリーさんは言った。確かに綺麗な魔法陣だけど、他とどう違うのか僕には全くわからない。
でも、そこを問いかけたらまた話が長くなりそうな予感がしたので僕は早々に切り上げることにした。
「では、お渡ししましたので僕は失礼しますね」
「え! いや、折角来たのだからお茶の一つでも飲んでいかないかい!?」
「いえ、戻って姉さん達の手伝いをしないといけませんから」
まあ、手伝いはまだ頼まれていないんだけど、たぶん戻ったら何かしら頼まれるはず……と思って僕は答える。けれどゴドフリーさんは食い下がってきた。
「でもでもっ、ちょーっとだけでも! ネッ!?」
ゴドフリーさんは僕の両肩を掴んで言い、僕はどう断ろうかと悩む。けど、そこはルーシーが助け舟を出してくれた。
「こらっ、ゴドフリー。そこまでにしなさい、コーディーが困ってるでしょう」
「で、でも師匠っ」
「コーディー、この子の事は気にしなくていいから魔塔に戻っていいわよ」
ルーシーはにこっと笑って言った。そしてこの魔研の元所長で、ゴドフリーさんの師匠でもあるルーシーの言葉にゴドフリーさんは逆らえず、がっくしと肩を落とした。が、それ以上は僕に何も言わなかった。
さすがルーシー……強い。
「じゃあ、僕は行きますね」
「ええ。コーディー、また今度遊びにいらっしゃいね。いえ、たまには私の方から遊びに行こうかしらね。その時、ゆっくりお茶でもしましょうねぇ」
ルーシーが尻尾をフリフリとしながら言うとゴドフリーさんは「師匠だけズルい!」と抗議していた。なかなか面白い師弟関係だと毎回見ていて思う。
だから僕はそんな二人に「ええ、また」と答えて、魔研の外へと歩み出した。
ゴドフリーさんは嫌いじゃないけど、長居は無用なのだ。
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