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続編

26 ドレイクの数日 後編

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 早くに仕事が終わったドレイクは久方ぶりにフォレッタ亭へ顔を出していた。
 何となく昼間のコーディーを思い出していたら、足がふらりとここへ向かったのだ。しかし、ドレイクの顔を見るなりローレンツはにやついた顔を見せた。
 お店は開店前で、気味の悪い笑顔でこちらを見てくる年上の幼馴染に悪態をつく。

「なんだよ? 開店前でも入っていいだろ?」
「それはいいけどよ。まだ例の病に困惑しているようだと思ってな~」
「何言ってんだ」

 ドレイクは鼻を鳴らして一蹴したが、ローレンツは鋭かった。

「そーいや、この前パメラにターニャと行ったんだけどよぉ。そこでマダムがお前に感謝してたぞ。あと、コーディー君にもな」

 ローレンツに言われてドレイクは内心ギクッとする。ローレンツもその昔ドレイクと共に若い頃働いていたからマダムとは仲が良いのだ。だからあの日曜の一件をマダムから聞いたのだろうと、すぐに悟った。
 けれどそれをおくびにも出さず、ドレイクは返事をした。

「たまたまだ」
「たまたまね。マダムが言うには仲良く来店したらしいじゃないか」
「別に仲良くは」

 そう否定しようとしたが、ローレンツは見透かした目でドレイクを見た。その目から思わず目をそらしてしまう。それがいけなかった。

「まさかお前の気になってる子がコーディー君とはなぁ。まあ、お前が手をこまねく相手なわけだ」
「そんなんじゃない。別に気になってはいない」

 再度否定するが、もうローレンツには通用しなかった。

「はいはい。そう言う事にしといてやるよ。今までパメラに付き合っていた女の子の誰一人連れていかなかったのに、コーディー君だけは連れて行ったとしてもな」

 ローレンツに言われてドレイクはとうとう口を噤む。そんなドレイクにローレンツは小さく息を吐き、友人として忠告をした。

「まあ、お前が本当のところ、どう思っているかは知らないけどよ。ドレイク、あの子はいい子なんだからつまみ食い程度に考えているなら手を引けよ? あの子はお前が今まで遊んできた子達とは違うんだ。それにお前だってわかってるよな? あの子に何かあれば魔女様達が黙っていないぞ。……友人が消し炭にされるのは、さすがに勘弁してほしいからな」

 ローレンツは真面目な顔で言った。だが、それは本気で心配しているからだ。そして長年、幼馴染をしてきたドレイクにもその想いは伝わり、「ああ」とドレイクは短いながらもきちんと返事をした。
 そしてその言葉を聞いたローレンツはいつもみたいにニカッと笑った。

「なら、いいんだ」
「じゃあ、席に座っていいか」

 ドレイクがいつものカウンター席に座ろうと椅子に手をかけると、それをローレンツは止めた。

「あ、悪い。今日はカウンター席は予約が入ってるんだ。だからテーブル席についてくれ。あと今日は混むと思うから、もしかしたら相席になるかもしれないがいいか?」
「……わかった」

 ドレイクはいつもの席に座れない事がちょっとショックだったが、自分の指定席でも何でもないので、ローレンツの言う通りに二人掛けのテーブル席にとりあえず座った。

 ……相席を頼まれたが、誰かが来たら席を立てばいいだろう。ああ、今日はなんだか飲みたい気分だ。

 ドレイクは席にどっしりと座りながら、そう思った。そして誰かと相席になっても、すぐに持ち帰れるようにフィッシュアンドチップスを頼んでおいたのだが。
 まさかコーディーがやってくるとは、さすがのドレイクも思ってもいなかった事だった。



 ―――――そして現在。


 コーディーは美味しそうに冷製パスタをちゅるちゅるっと食べている。

 ……俺に迫られたって言うのに、のんきなもんだな。大体、俺に酷いことを言ったからって謝りに来るなんて、いい子ちゃん過ぎるだろう。

 少々呆れながらも、パメラで一生懸命手伝っていたコーディーを思い出す。

 ……魔女に育てられたせいなのか、生来の質なのか。……まあ、これだけ能天気ないい子ちゃんだと魔女達が過保護になるのもわからなくもないな。中身も子供だし……、俺と三つしか違わないってホント何かの冗談じゃないのか?

 ドレイクはコーディーを見ながらそう思った。そしてその視線に気が付いたコーディーが首を傾げる。

「なに?」
「別に」

 問いかけに短く答えれば、コーディーはハッとした顔を見せた。

「あ、もしかしてやっぱりパスタ、まだ食べたい?!」

 明後日を向いた解答にドレイクはため息をつきそうになる。

「違う。いらないから、それはお前が食べろ」
「そう?」

 コーディーは返事をして、またパスタをもっもっと頬袋をいっぱいにして食べ始める。まるで小動物だ。

 ……ほんと、どうして俺はこんな奴に。

 そう思うけれど、体は今もコーディーを欲している。服の下を暴いて、触って、余すところなく見たいと呻いている。けれど休憩所で怒りながらも泣きそうな顔で言った顔を思い出せば、ドレイクは手が出せなかった。

 ……全く面倒だ。だが手を出さないって約束もしてしまったしな……今までこんな面倒はなかったってのに。

 これまで相手に不自由しなかったドレイクはコーディーを前にして、心の中で小さく呟く。でも、美味しそうに食べるコーディーを見ているとどこか心の奥がムズムズとした。

 そしてドレイクはその気持ちを押し流すようにビールを飲んだのだった。

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