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続編

21 熱

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「やっぱりな。コーディー、熱があるぞ」

 ドローエダ姉さんに指摘されて僕は「え?」と驚く。

「熱、ある?」

 僕は自分の頬や額を触っている。確かにいつもよりちょっと熱いような気もしなくもない。でも自分自身ではやっぱりわからない。

「気が付かなかったのか? 大分、熱いぞ」
「そうなの?」
「あらあら、熱なんて大変だわ。コーディー、大丈夫?」

 僕とドローエダ姉さんの会話の後にダブリン姉さんが心配げに尋ねてきた。

「んー、別に辛くはないけど」

 ……でも、言われてみれば頭がぽわぽわするような?

 そう考えているとドローエダ姉さんがおもむろに席を立った。

「とにかく、コーディーは部屋に行って休みなさい。解熱の薬草茶を持ってくるから」

 ドローエダ姉さんはそれだけを言うと早速自分の塔へと足早に戻っていき、僕は熱があると言われ、なんだか体が重くなってきた。

「じゃあ、僕は部屋に戻るね」

 僕が腰を上げて言えば、すぐにキラーニ姉さんが声を上げた。

「私も、部屋に行く!」
「じゃあ、私もコーディーを部屋まで」
「それなら俺もっ」

 キラーニ姉さんに続いて、ゴールウェイ姉さんやエニス姉さんまでも席を立って名乗り出る。でもそこを押しとどめてくれたのはダブリン姉さんだった。

「あらあら、ゴールウェイとエニスまで一緒に行くことはないわ。キラーニ、コーディーを部屋まで連れてってあげて」

 ダブリン姉さんが言えば、ゴールウェイ姉さんとエニス姉さんは不服そうな顔を見せたけど大人しく席に腰を下ろした。さすがダブリン姉さんだ。

「ダブリン姉さん、午後に頼まれてた薬草園の雑草抜き」
「それはいいのよ。先に休みなさい」

 ダブリン姉さんに優しく言われ、僕は大人しく「はい」と答える。そしてキラーニ姉さんは「コーディー、行こ」と僕の腕を取った。

「うん」

 そうして僕はキラーニ姉さんに連れられて下層にある自室へと久しぶりに戻った。
 ガチャッと扉を開ければ、ベッドと机、そして隅には小さな手洗い場があるだけの簡素な部屋。でも自分で空気の入れ替えや掃除を時々しているから綺麗なものだ。

「コーディー、寝るのが一番」

 キラーニ姉さんは心配げな瞳で僕を見る。なので僕は笑顔で返した。

「うん、すぐに寝るよ。それにドローエダ姉さんが薬草茶を作ってくれるみたいだし。キラーニ姉さん、ありがとう。もう食堂に戻って、まだ食事の途中だったでしょ?」

 僕はキラーニ姉さんに促すけれど、無言のまま心配げに見る。姉さん達の中ではキラーニ姉さんが一番心配性だからなぁ。

「キラーニ姉さん、僕は大丈夫だから。ね?」

 僕が再度言えば、キラーニ姉さんは頷いてようやく食堂へと戻って行った。そして見送った後、僕は扉を閉めて部屋の窓を開けるとローブを脱ぎ、ベッドに腰掛けてシャツの首元を緩める。

「ふぅ」

 額に手を当てれば、やはりじんわりと熱いかもしれない。

 ……昨日、雨の中を濡れて帰ったからだろうな。帰った後もちゃんと拭かなかったし。

 僕は考えながらぽすんっとベッドに横たわる。窓から入る初夏の風は温かく、ぼんやりとしながら昨日の事を思い出した。

 ……ドレイクの事、まだムカつくけど。やっぱり昨日はドレイクに言いすぎちゃったかな。頬、叩いちゃったし。

 ドレイクに吐いた暴言の数々を思い返して一人反省する。でも、された事を思い返せばやっぱり許せなくて。

 ……ドレイクのスケベ。本当は僕が相手じゃなくてもいいくせに。

 僕はムッと眉間に皺を寄せる。でもそこへドローエダ姉さんがやって来た。

「コーディー」
「ドローエダ姉さん」

 僕はむくりっと体を起こす。

「もしかして寝てたか? すまない」
「ううん、横になってただけだから。それより薬草茶、ありがとう」

 僕はドローエダ姉さんの持っているマグカップに視線を向けてお礼を言う。

「構わない。ほら、飲みなさい。熱いから気を付けるんだよ」

 ドローエダ姉さんはそう言うと僕にマグカップを渡した。中には緑色の液体が入っていて、言葉の通り熱そう。そして薬草の独特な匂いがした。

 ……うーん、熱そう。それに解熱の薬草茶って苦いんだよなぁ。

 そう思うけれどドローエダ姉さんが作ってくれた手前、飲まない訳にはいかない。それに熱を下げたいし。
 なので僕はふぅふぅっと息で冷まし、くぴぴっと飲む。
 そして全てを飲み終わったのを見て、ドローエダ姉さんは僕から空のマグカップを受け取った。

「少ししてから、熱が下がるだろう。だが、もう今日は寝ておきなさい。また夕方になったら様子を見に来るから」

 僕は「うん」と返事をして、いそいそとベッドの中に潜り込む。

「じゃあ私は行くから、もし何かあればこれで呼ぶんだよ?」

 ドローエダ姉さんはベッド横の棚に魔法の呼び鈴『リンベル』を置いた。
 一見何てことのない普通の呼び鈴だが、ベルの部分には魔法陣が描かれ、このベルを一振りすればどんなに離れていても指定した人物にベルの音が聞こえる仕組みになっている。
 呼ぶ人を指定するには柄の部分に本人に名前を書いてもらう必要があるが、もうすでにドローエダ姉さんの名があった。

「うん、ありがとう」

 ……普段は僕がリンベルで呼ばれる方だから、誰かを呼ぶって子供以来かも。

 僕は横になりながら、ベルの柄の部分に書かれた名前をじっとみる。
 名前を変えれば他の人も呼べる便利仕様なので、執事や従者を雇っている人達には重宝されている代物だ。その昔、大魔女様が作ったものらしい。

「じゃあ、ゆっくり寝るんだよ」

 ドローエダ姉さんはそう言うと、部屋を静かに出て行った。僕は目で見送り、ふぅっと息を吐いて天井を見上げる。

「熱を出すなんてなぁ」

 ……ダブリン姉さんに仕事頼まれてたのに。昨日はちゃんとお風呂に入ればよかった。けど、ドレイクにムカついててそれどころじゃなかったし。

 思い出しながら、僕はまたイラっとする。けど、自分が言ったことも思い出してモヤモヤ。

 ……やっぱり昨日は言い過ぎちゃったかなぁ。おたんこなすって言っちゃったし……。あー、言わなきゃよかった。ドレイクを傷つけていたら、どうしよう。いや、ドレイクなら大丈夫だよね? ……たぶん。

 僕は改めて後悔する。
 けれどドローエダ姉さんの薬草茶が効いてきたのか、眠たくなってきた。うとうとっと瞼が落ちてくる。

 ……ドレイクのした事は許せないけど、やっぱり、謝らなきゃ、な。今度、会ったら、い、おう……ごめん、って。

 そう思いながら僕は眠りについた。



 けれど、その眠りの先―――――――僕は悪夢を見た。


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