24 / 100
続編
21 熱
しおりを挟む「やっぱりな。コーディー、熱があるぞ」
ドローエダ姉さんに指摘されて僕は「え?」と驚く。
「熱、ある?」
僕は自分の頬や額を触っている。確かにいつもよりちょっと熱いような気もしなくもない。でも自分自身ではやっぱりわからない。
「気が付かなかったのか? 大分、熱いぞ」
「そうなの?」
「あらあら、熱なんて大変だわ。コーディー、大丈夫?」
僕とドローエダ姉さんの会話の後にダブリン姉さんが心配げに尋ねてきた。
「んー、別に辛くはないけど」
……でも、言われてみれば頭がぽわぽわするような?
そう考えているとドローエダ姉さんがおもむろに席を立った。
「とにかく、コーディーは部屋に行って休みなさい。解熱の薬草茶を持ってくるから」
ドローエダ姉さんはそれだけを言うと早速自分の塔へと足早に戻っていき、僕は熱があると言われ、なんだか体が重くなってきた。
「じゃあ、僕は部屋に戻るね」
僕が腰を上げて言えば、すぐにキラーニ姉さんが声を上げた。
「私も、部屋に行く!」
「じゃあ、私もコーディーを部屋まで」
「それなら俺もっ」
キラーニ姉さんに続いて、ゴールウェイ姉さんやエニス姉さんまでも席を立って名乗り出る。でもそこを押しとどめてくれたのはダブリン姉さんだった。
「あらあら、ゴールウェイとエニスまで一緒に行くことはないわ。キラーニ、コーディーを部屋まで連れてってあげて」
ダブリン姉さんが言えば、ゴールウェイ姉さんとエニス姉さんは不服そうな顔を見せたけど大人しく席に腰を下ろした。さすがダブリン姉さんだ。
「ダブリン姉さん、午後に頼まれてた薬草園の雑草抜き」
「それはいいのよ。先に休みなさい」
ダブリン姉さんに優しく言われ、僕は大人しく「はい」と答える。そしてキラーニ姉さんは「コーディー、行こ」と僕の腕を取った。
「うん」
そうして僕はキラーニ姉さんに連れられて下層にある自室へと久しぶりに戻った。
ガチャッと扉を開ければ、ベッドと机、そして隅には小さな手洗い場があるだけの簡素な部屋。でも自分で空気の入れ替えや掃除を時々しているから綺麗なものだ。
「コーディー、寝るのが一番」
キラーニ姉さんは心配げな瞳で僕を見る。なので僕は笑顔で返した。
「うん、すぐに寝るよ。それにドローエダ姉さんが薬草茶を作ってくれるみたいだし。キラーニ姉さん、ありがとう。もう食堂に戻って、まだ食事の途中だったでしょ?」
僕はキラーニ姉さんに促すけれど、無言のまま心配げに見る。姉さん達の中ではキラーニ姉さんが一番心配性だからなぁ。
「キラーニ姉さん、僕は大丈夫だから。ね?」
僕が再度言えば、キラーニ姉さんは頷いてようやく食堂へと戻って行った。そして見送った後、僕は扉を閉めて部屋の窓を開けるとローブを脱ぎ、ベッドに腰掛けてシャツの首元を緩める。
「ふぅ」
額に手を当てれば、やはりじんわりと熱いかもしれない。
……昨日、雨の中を濡れて帰ったからだろうな。帰った後もちゃんと拭かなかったし。
僕は考えながらぽすんっとベッドに横たわる。窓から入る初夏の風は温かく、ぼんやりとしながら昨日の事を思い出した。
……ドレイクの事、まだムカつくけど。やっぱり昨日はドレイクに言いすぎちゃったかな。頬、叩いちゃったし。
ドレイクに吐いた暴言の数々を思い返して一人反省する。でも、された事を思い返せばやっぱり許せなくて。
……ドレイクのスケベ。本当は僕が相手じゃなくてもいいくせに。
僕はムッと眉間に皺を寄せる。でもそこへドローエダ姉さんがやって来た。
「コーディー」
「ドローエダ姉さん」
僕はむくりっと体を起こす。
「もしかして寝てたか? すまない」
「ううん、横になってただけだから。それより薬草茶、ありがとう」
僕はドローエダ姉さんの持っているマグカップに視線を向けてお礼を言う。
「構わない。ほら、飲みなさい。熱いから気を付けるんだよ」
ドローエダ姉さんはそう言うと僕にマグカップを渡した。中には緑色の液体が入っていて、言葉の通り熱そう。そして薬草の独特な匂いがした。
……うーん、熱そう。それに解熱の薬草茶って苦いんだよなぁ。
そう思うけれどドローエダ姉さんが作ってくれた手前、飲まない訳にはいかない。それに熱を下げたいし。
なので僕はふぅふぅっと息で冷まし、くぴぴっと飲む。
そして全てを飲み終わったのを見て、ドローエダ姉さんは僕から空のマグカップを受け取った。
「少ししてから、熱が下がるだろう。だが、もう今日は寝ておきなさい。また夕方になったら様子を見に来るから」
僕は「うん」と返事をして、いそいそとベッドの中に潜り込む。
「じゃあ私は行くから、もし何かあればこれで呼ぶんだよ?」
ドローエダ姉さんはベッド横の棚に魔法の呼び鈴『リンベル』を置いた。
一見何てことのない普通の呼び鈴だが、ベルの部分には魔法陣が描かれ、このベルを一振りすればどんなに離れていても指定した人物にベルの音が聞こえる仕組みになっている。
呼ぶ人を指定するには柄の部分に本人に名前を書いてもらう必要があるが、もうすでにドローエダ姉さんの名があった。
「うん、ありがとう」
……普段は僕がリンベルで呼ばれる方だから、誰かを呼ぶって子供以来かも。
僕は横になりながら、ベルの柄の部分に書かれた名前をじっとみる。
名前を変えれば他の人も呼べる便利仕様なので、執事や従者を雇っている人達には重宝されている代物だ。その昔、大魔女様が作ったものらしい。
「じゃあ、ゆっくり寝るんだよ」
ドローエダ姉さんはそう言うと、部屋を静かに出て行った。僕は目で見送り、ふぅっと息を吐いて天井を見上げる。
「熱を出すなんてなぁ」
……ダブリン姉さんに仕事頼まれてたのに。昨日はちゃんとお風呂に入ればよかった。けど、ドレイクにムカついててそれどころじゃなかったし。
思い出しながら、僕はまたイラっとする。けど、自分が言ったことも思い出してモヤモヤ。
……やっぱり昨日は言い過ぎちゃったかなぁ。おたんこなすって言っちゃったし……。あー、言わなきゃよかった。ドレイクを傷つけていたら、どうしよう。いや、ドレイクなら大丈夫だよね? ……たぶん。
僕は改めて後悔する。
けれどドローエダ姉さんの薬草茶が効いてきたのか、眠たくなってきた。うとうとっと瞼が落ちてくる。
……ドレイクのした事は許せないけど、やっぱり、謝らなきゃ、な。今度、会ったら、い、おう……ごめん、って。
そう思いながら僕は眠りについた。
けれど、その眠りの先―――――――僕は悪夢を見た。
197
お気に入りに追加
357
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる