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続編
7 ドーナツ
しおりを挟む「うまそうなもの食べてるな」
一番聞きたくない声が聞こえてきて、僕は思わずゴキュッと喉に詰まらせた。
「ムグッ!……ご、ゴホゴホッ!」
胸をトントンっと叩き、慌てて水筒の水を飲んで喉を流した。
「はー、はぁーっ」
胸を抑えて息を整えると呆れた声が降ってきた。
「ひとりで何してんだ?」
その声に振り返ればヤツがいた。太陽の光で鮮やかに彩る赤髪に琥珀色の瞳をした騎士様が。
「ド、ドレイクさん」
「よぉ、昨日ぶりだな」
ドレイクは楽しげな顔をして僕を見た。でも僕は全然楽しくない、むしろあっちに行って欲しい。
そう思ったが、僕の気持ちとは裏腹にドレイクはドカッと僕の隣に座ってきた。
……なんでっ?!
「あの、ちょっと?!」
「昼飯美味そうだな。貰うぞ」
ドレイクはそう言うと僕が止める間もなく、僕のお弁当箱から最後のチキンカツサンドをひょいっと取ってぱくりっと食べた。
「あっ!!」
……ぼ、僕の最後のチキンカツサンドぉぉぉっ!!
そう思ったが、ドレイクは「ん、うまいな」と呟くとバクバクバクッと三口で全部食べてしまった。
……僕のお昼ご飯ッ!
僕は心の中で嘆くが、ドレイクは悪びれた風もなく僕な尋ねた。
「これ、どこで買ったんだ?」
……そんな事より先に言うことあるでしょ!!
と思いつつ、僕はムッとしながらも答えた。
「それは僕の手作りですぅ!」
「お前が? ……へぇ、意外だな」
ドレイクは驚いた顔で僕をマジマジと見つめた。
……意外ってどういう意味だよ! もう、人の勝手に食べるし、謝罪はないし、意外とか言うし! 食べたチキンカツサンドの分のお金、請求しちゃうぞッ!!
僕はプンプン怒りながら思う。でもこれ以上関わりたくないので、僕はお弁当箱を早々に閉じてすくっと立ち上がった。
「そうですか! では僕はこれで失礼します!」
しかし、ベンチから立ち上がった僕の腕をドレイクはすかさず捕まえた。
「ちょっと待て」
「いやです」
僕はそう答えて離れようとするが、昨日と同じようにドレイクの手を振りほどけなかった。
……ぐっ! 同じ男なのに、力強すぎぃっ!
僕はそれでもぐぎぎぎっと無駄な足掻きをするが、ビクともしない。
……もー! 離してよぉっ!!
僕は心の中で叫ぶが、そんな僕にドレイクは宥めるように声をかけた。
「まあ待て。昼飯の代わりにこれをやるから」
ドレイクはそう言うとポケットから小さな紙袋を僕に差し出した。その紙袋には王都で人気の喫茶店『パメラ』の名前が入っていた。
「これ!」
「甘いものは好きか?」
ドレイクに聞かれたが、僕は紙袋を受け取ってその中を見てみる。そこには美味しそうなドーナツが入っていた。そして、それは偶然にも僕が前々から食べてみたいな、と思っていたものだった。
「『パメラ』のドーナツ!」
「昼飯の駄賃代わりだ」
ドレイクはそう言った。本当なら僕のお昼ご飯を勝手に食べた人からなんて欲しくもないけど、ドーナツには罪がないから捨てられない。それに食べたいと思っていたものだから、本当言うとちょっぴり嬉しい。
「……ありがと」
お礼を口にするのは何となく癪だけれど、ドローエダ姉さんに『人に何かを貰ったり、して貰ったら、きちんとお礼を言うんだよ?』と小さい頃から教えられているので、僕はぽそっとお礼を言う。
でもドレイクはそれで満足のようで、何も言わなかった。
……なんで僕がお礼を言ってるんだろう。僕、お昼ご飯を食べられたのに。
僕はドーナツを手にしながら、ちょっとモヤモヤする。
けれどそんな僕にドレイクは宣告した。
「それよりコーディー、今日も家に遊びに行くからな」
「へっ!?」
「いいだろ? 俺達は昨日から友達なんだから」
……ちょいちょいちょいっ! 僕は友達になった覚えはないんですけどッ!?
「え、ちょ」
『駄目です! 無理です!! お断りです!!!』と僕は言おうとしたけれど、ドレイクは席を立つと僕の肩にぽんっと手を置いて言葉を遮った。
「何としてでも行くからな? だからちゃんと魔塔で待っているんだぞ?」
ドレイクはニッコリと笑って脅すように僕に言った。
どうやら昨日、僕がドレイクを置いてさっさと帰った事を根に持っているようだ。そして今日、また置いて帰ったとしてもドレイクは僕を追いかけてくるだろう。なにより僕の家を知っているし。
……これ、逃げられないやつ!
「じゃあ、また後でな」
ドレイクはそれだけを言い残して立ち去ろうとした。
けれど僕はハッとしてドレイクを呼び止めた。
「ちょ、ちょっと待って! 待ち合わせは城門前で!」
……ドローエダ姉さんにも問いかけられたばかりだというのに、会っている所を見られたら心配をかけちゃう!
僕はそう思って場所を指定した。すると意外にもドレイクは「わかった」と答えて、立ち去った。
なので僕はホッと息をつくが、結局ドレイクが家に来ることには変わりない。
「もぅ、なんだって言うのさぁー!」
僕はため息交じりに肩を落とした。そして僕はドレイクの後姿ばかり見つめて、気が付かなかった。まさかゴールウェイ姉さんに見られてるなんて……。
「あら~っ、面白いことになってるわね~っ!」
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