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続編

42 ようこそ、僕のお家へ

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 ――――それから日がすっかり暮れた頃。

「ようこそ、僕のお家へ」

 ようやく家に着き、部屋の中に入って僕はドレイクに言った。そしてドレイクは、物珍しそうにキョロキョロと僕の部屋を見回している。
 その間に僕は荷物をソファに置いて、ふぅっと一息つく。

 ……これからドレイクと共同生活かぁ。服も靴も用意したし、まあ大丈夫だよね。今日は夕食も食べたし、あとはお風呂に入って、さっさと寝る事にするかな。

「ドレイク、お風呂に入って、今日は早く寝ようか」

 僕は声をかけながら、鞄から今日買ったばかりのドレイクの下着を取り出す。そこでハッと思い出す。

「あ、寝巻を忘れてた」

 服は僕のお古を持ってきたけれど、寝巻まで用意するのをすっかりと忘れていたことを思い出す。

「うーん、でも寝るだけだから僕のシャツでいいかな」

 僕はクローゼットに向かい、そこで大きめのシャツを一枚引っ張り出す。

 ……これならワンピース風に着れるな。サイズを間違えて買っちゃったものだったけど、取っといてよかった。

 僕はそのシャツと下着をドレイクに手渡す。

「じゃあドレイク、お風呂に入って……」

 おいで、と言いかけようとしたが、不意にドレイクが五歳児だと言う事を思い出す。

「……ドレイク、一人でお風呂に入れる?」

 僕が尋ねれば、ドレイクは「わかんない」と不安げに呟いた。

 ……だよねー。まだ五歳の子が一人では無理か。

 僕は心の中で呟きながら、そりゃそうだと思い、クローゼットから自分の下着と寝巻を引っ張り出す。

「じゃあ、一緒にお風呂に入ろうか」

 僕が告げるとドレイクはこくりと頷いた。

 ……ドレイクと一緒に入るってなんか不思議。でも、まあ子供だから仕方ないよね。一人で入らせて、何かあったら大変だし。

 僕はそう思いながら「お風呂場はこっちだよ」とドレイクを誘導して、お風呂に入ることにした。そして脱衣所で裸になって一緒に浴室に入ったのだけれど……。

 ……ドレイク、本当に小柄だなぁ。子供の頃の僕より小さいか、同じくらいかも? 一体、どうしたらあんな風に筋肉モリモリマッチョになったんだろ?

 僕はドレイクを見て、思う。そしていけないと思いつつもその視線は下へと向く。

 ……下も、何を食べたらあんなに凶暴になるのか。

 僕は大人ドレイクのドレイクを思い出して、少し頬が熱くなってくる。
 するとドレイクは僕を見上げて「コーディー?」と不思議そうな顔を見せた。

 ……いけない。いけない。

 僕は気持ちを切り替えてドレイクに声をかける。

「ごめん、ドレイク寒かった? すぐにお湯を出すね」

 僕はすぐにシャワーからお湯を出して、まずはお湯加減を確認。それからドレイクの体にそっとかける。

「お湯の加減はどう? 熱かったり、ぬるかったりしない?」

 ドレイクに尋ねれば「だいじょうぶ」と返事があった。

「なら、今度は頭にかけるね。目を閉じてて」
「ん」

 ドレイクは僕の言う事を聞いて、目を閉じた。僕はそっと頭からお湯をかけ、しっかりと髪を濡らす。

 ……まずは髪から洗ってあげなくちゃな。

 ドレイクの髪がしっかり濡れた事を確認して、僕は自分が使っている液体石鹸を手の平に出す。

「じゃあドレイク、まずは髪を洗うからそのまま目を閉じたままでいてね。僕がいいって言うまで目を開けちゃダメだよ」

 僕が頼むと「ん」と小さな返事が聞こえた。なので僕はドレイクの髪に手の平に出した液体石鹸を付けてしっかりと洗った。そして僕にわしわしっと髪を洗い、シャワーで泡を流す。

「もう目を開けていいよ」

 僕が告げるとドレイクは素直に目を開け、一仕事終えたように「ふぅ」と一息ついた。けど、もう一仕事ある。

「ドレイク、今度は体を洗うね。いい?」

 僕は愛用しているボディタオルに今度は体用の液体石鹸を付けて、もこもこの泡を作りながら聞く。すると「ん、いーよ」とドレイクの返事。

「じゃあ、背中から洗うから後ろ向いて」

 僕が言えばドレイクは素直にくるりっと背中を見せる。

 ……本当、素直だなぁ。人の言う事聞かずに、家に居座った人とは思えない。

 僕は思い返すとなんだか面白くって、ふふっと思わず笑ってしまう。その声を聞いてドレイクは僕に振り返った。

「コーディー、なに?」

 どうして僕が笑ったのかわからず、ドレイクは不思議そうな顔で聞いてきた。だから僕は正直に答える。

「ドレイクがあんまりに素直でいい子だなって思って笑顔になっちゃっただけだよ」

 僕が伝えればドレイクはきょとんっとした顔を見せた。

「いい子?」
「うん、いい子だよ」

 大人になったら、我儘になるけど、と思いながらも僕は今の小さなドレイクを見つめる。するとドレイクは照れ臭いのか「ふーん」と呟いて、また前を見た。

 ……照れてるのかな。まあ僕も姉さんに褒められると心の奥がくすぐったい気持ちに今でもなるもんな。けど、子供の頃のドレイクは孤児院で育ったって言ってたけど……こんなに可愛いのにどうして孤児院に? 何かお家の事情があったのかなぁ。まあ、姉さん達に育てられた僕も人の事は言えないんだけど。

 洗い終えた小さな背中を見つめながら思いつつ、僕は声をかけた。

「ドレイク、こっちを向いて。前を洗うから」
「うん」

 ドレイクは俯きつつ僕の方を向き、僕は手早く体を洗った。
 そしてまたシャワーで泡をしっかりと洗い流し、さっぱりとしたドレイクの出来上がりだ。

「どう? さっぱりした?」

 僕が尋ねるとドレイクは頷いた。

「そう、よかった。じゃあ、お風呂に浸かろうか」

 僕はすぐに浴槽の縁にはめ込まれているオレンジ色の魔石に手を触れた。すると浴槽の中に描かれている魔法陣からすぐさまなみなみとお湯が沸き出てくる。
 これもまた数百年前にいた大魔女様が作った魔法風呂だ。全く便利で助かる。

 そして、僕は浴槽の半分くらいの湯量でお湯を止めた。いっぱいにしちゃうとドレイクが溺れちゃうからね。

「さ、ドレイク、お風呂に入ってあったまろうか」
「コーディーは?」
「僕も体を洗ってから入るよ。だから先に入ってて」

 僕が答えるとドレイクは「ん」と答えて、浴槽の中に入った。するとドレイクが座って、ちょうど肩下までお湯が浸かる程度だ。

「お湯加減はいかがですか?」
「ん、だいじょうぶ」
「良かった」

 ……さて、これからは僕が体を洗う番だな。さっさと洗っちゃおう。

 僕は手早く自分の髪を洗い、体を洗う。けれど、体を洗い終わったところで不意に視線を感じる。見ればドレイクがじぃっと僕を見ていた。

「ドレイク、なに?」

 僕が尋ねると「なんでもない」と答えて、ふいっと目を反らした。

 ……なんだろう? なんでもないって顔じゃなかったけど。

 そう思ったけれど僕はドレイクにもう一度聞くことはしなかった。




 ◇◇◇◇




 ――――それからお風呂に入って体も綺麗さっぱりに洗い、髪を乾かした後。
 ドレイクはソファに横になって、いつの間にか眠りについていた。

 ……連日知らない大人と一緒にいて、今日は僕と一緒に色々と回って疲れちゃったんだろうな。

 自分の髪を乾かしてからリビングに戻れば、ドレイクは僕が来るのを待てずに眠っていた。でもその寝顔はすやすやと気持ちよさそうだ。

 ……今日はこのまま寝かせてあげるのが一番だな。でもベッドに運ばないとな。そっと運べば大丈夫かな?

 僕はドレイクの体の下に両手をそっと入れて、起きないように持ち上げてそのまま僕のベッドに移動しようとする。けれど眠っている子供とは重いもので……。

 ……ぐっ、重い!! でも、ここで寝かせられない。ぐぅっ、ゆっくりゆっくりぃ~! よし、持ち上がった!! ここからそーっと、そぉーっと。

 心の中で呟きながら、なんとかドレイクの体を持ち上げてそーっと運んで、なんとか僕のベットに寝かせた。おかげでドレイクは起きずにまだ夢の中だ。

 ……小柄だけど、意外に重かったな。いや、僕の筋力がないせい?

 僕は自分の細っこい腕を見る。でも見たって細いだけなので、見るのを止めた。ふぅ。

 ……まあ、とにかくいいや。僕も早く寝よう。

 いつもよりも早いけれど、なんだか僕も眠くなってきて大きなあくびが出る。

 ……明日はドレイクを連れて出勤か~。まあ、なんとかなるかな。

 僕はそう思いながらもドレイクが眠る隣にそっと入り込む。そして気持ちよさそうに眠るドレイクを眺めた。

 ……ドレイクはいつ戻るのかな。戻ったら、どんな事を話せばいいんだろう。

 考えるけれど、やっぱり答えは出ない。

 ……とにかく、その時になって考えよう。今日はもう眠いや。

「ふわぁぁ~っ」

 僕はもう一度大きなあくびをして、ベッド横にあるスイッチで部屋の明かりを消した。そうすれば当然部屋の中は真っ暗になり、暗闇は更に僕を眠りに誘う。
 僕はベッドに横になり、月明かりでうっすらと見えるドレイクに小さく声をかけた。

「おやすみ、ドレイク」

 その一言を告げて、僕もあっさりと眠りに落ちたのだった。

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